「というわけで! 口寄せ神社はどこだ! よし探そう作戦を始めます!」
「はい!」
「は〜い!」
「はーい」
鶴乃の言葉にいろはは真面目に、真里愛は微笑ましく、紗枝は外行き様の仮面で対応する。
「なんだよ、神社探ししてどうなるってんだ」
「この前俺を攫った奴みたいなのが出る」
「んだとー!? オレがぶっ飛ばしてやる!」
と、ごんべえの言葉にフェリシアもやる気を見せた。
「それで、どうしましょうか? いろんな神社を調べる、とか?」
「それは安心して! 私がどんどん調べてみる! だからいろはちゃん達は、これを調べてみないカナ?」
「これ?」
「うん。水名区には古い話があってね。それを調べてみたらどうかなって」
「昔話と神社。なにか関係ありそうですね!」
「でしょでしょ!」
その昔話は簡単に言うと身分違いの恋をした男女の物語。
姫に恋した男と、その男の思いを受け入れたお姫様。しかしそれに嫉妬した許嫁により男は殺されてしまう。
毎晩毎晩泣き暮らしたお姫様は毎日毎日神社に通い、どうかあの人に合わせてくださいと願い続けた。
1500日の時を経て、男から手紙が届き、お姫様は男に再会した。
「………なんか、いい話」
「男の人は幽霊だったけどね」
「怖い話だった!?」
『どうか、どうか。この地に住まう命を生贄に、あの人を私の下にお返しください』
『君の願いを叶えよう』
「………………?」
ノイズ混じりに妙な記憶が脳裏に過る。着物姿の少女が涙を流し祈る光景。この目で見ているようなアングルなのに、何かを通してみているような? 映画かドラマか何かを見ていたのだろうか?
「でねでね、その二人が辿った道をなぞっていくとね、すっごい強いパワーを持った縁結びスポットに行けるんだよ!」
「あ、それで……」
「うん。調べてほしいなって」
「でも、幽霊………」
「魔女よりマシだろ」
「ごんべえさん………」
服の裾を掴んでくるいろはの潤んだ瞳は、明らかに怖いからついてきてと訴えてきている。
「モキュキュ! モッキュ、キューウ!」
ういべえもいろはを援護する。
「鶴乃に頼め」
「私細かいこと考えるの苦手だから、どんどん色んな神社回ろうと思うんだ」
「………ごんべえさぁん」
「モキュウ!」
「……………まあ、こんだけ人数がいるなら分けたほうが良いか」
多分折れるまで離れないので仕方なく折れてやったごんべえ。
「フェリシア、お前は鶴乃について行け。どうせどっちも深く考えられない」
「んだと!? いくら兄ちゃんでも馬鹿にするとぶっ飛ばすぞ!」
「ほら、琥珀糖だ」
「しょうがねーな! いろは、ちゃんと兄ちゃん守れよ!」
外はザクザク中はプルプル砂糖を混ぜた宝石のような寒天菓子をもらったフェリシアはあっさり掌を返した。ういべえも欲しがったので一欠片くれてやる。
「真里愛、念の為この二人のお目付け役頼む」
「はい」
丁度3:3で別れた。連絡を取り合うために鶴乃と連絡先を交換した。因みに余談だが、いろははななかやももこ達とカラオケに行った際連絡先を交換しようとしたのだがやり方がわからないという悲しいやり取りがあった。本人曰くこういうのが苦手ですぐにわからなくなるだけらしい。
「じゃあ、いろはちゃん達はスタート地点に向かってね!」
「はい! …………? スタート地点?」
鶴乃の言葉に首を傾げるいろは。その意味はすぐ知ることになる。
「…………スタンプラリー」
「スタンプラリーね」
何やら説明化が書かれた看板に、スタンプ台。
水名区きってのパワースポットを探そう。
悲恋の男女の足跡を辿ってスタンプを集めると
辿り着くのはなんとふたりを結んだ“縁結びスポット”
永遠を誓い合いたい方々や
仲間との永遠の絆を確かめたい方々は
一度、探してみてはいかがでしょう
主催:水名区町おこし委員会』
「………鶴乃ちゃん。これ、ただの町おこしじゃ」
「まあ神社を調べられるって考えれば良いんじゃない?」
と、紗枝が言う。
「それにウワサは伝承に無関係で、噂を元に動く。こういった今の現実の出来事と結びつけたほうが流行りやすいだろうし、無関係とは限らないだろ」
昔話と無関係に存在するからこそ、ある意味では真実の伝承よりも昔話に関係して存在する。
「うん。そうですよね、じゃあやってみましょう!」
「モッキュー!」
「…………………」
紗枝は何となしに周りを見る。縁結びスポットに辿り着くためだけあり、カップルの参加者がチラホラと。
まあ自分達は3人組だし、ごんべえは髪を伸ばしてるし、普通に女の子達の集団に見られるか。
逢瀬を重ねた路地裏、追い詰められた南門、切り捨てられた旧邸宅……は、水名女学院。そして男の手紙があった水名大橋。
「これ絶対二人の足跡じゃないと思うんだけど………」
「だろうな」
明らかなスポット巡りをさせられた紗枝の言葉にごんべえも同意する。
「だ、だけどこれで神社の場所は解ります!」
「モッキュウ!」
「ええと、場所は…………」
『AとB、ふたりの紙を線に合わせて重ねましょう。
太陽に透かしてみると、重なったスタンプが地図になってふたりを導いてくれるでしょう』
「…………え?」
紙を、重ねる?
「あ、私達の紙………A! これって、2つに分かれて回るものだったの!? そんなぁ〜!」
まさかの振り出し。今度はBの紙のスタンプを集めなくてはならない。
「あなた達、何してるの?」
と、不意に声をかけられる。振り返ると成人間近の、少女というよりは女性というべき年齢の美女が居た。
「ふぁっ!? やちよさん!?」
「やちよか………」
「こんにちは」
驚くいろは、まあ関わっているだろうと思いつつタイミングがいいと思うごんべえ、猫を被る紗枝。
「その、実はスタンプラリーを回ってて………」
「スタンプラリーって………妹を探すと言ってた割には随分と呑気なのね………と言いたいところだけど」
と、言葉を区切るやちよ。彼女の手にも、スタンプカード。
「まさか、同じことをしてるなんて」
「お前も、町おこしに使われた神社が口寄せ神社と関係してると思ったわけか」
「やちよさんも?」
「ええ。これで最後のスタンプよ」
と、スタンプ台のスタンプを押すやちよ。
「丁度いい、お前のスタンプカードはAとBどっちだ?」
「AとB?」
と、その言葉に訝しみながらも紙を見て、看板を見る。
「AとB!?」
(あ、やちよさんも片方しかやってないんだ…………)
「因みに俺達はAだ………もちろん、何事も等価交換が成り立つと俺は思うわけだ。心情的には不公平だろうとな」
「…………………Bよ」
「それじゃあ!」
と、いろはが嬉しそうな顔をする。
「はぁ………仕方ないわね。重ねてみましょうか……」
重ねたスタンプカードは、目的の場所を示す。
「なるほど、なんてことないスポットだったわね」
「所詮は町おこしだからな」
「わかるんですか?」
「えぇ……ついてきて、仕方ないから案内してあげる」
「はい!」
と、元気よく歩き出そうとするいろは。と………
「ん? ちょっと環さん、何か落としたわよ」
「え?」
「このノート、貴方のでしょ?」
「あはゃ!? あの、これは……!」
と、突然いろはが慌てだす。
「何を慌てているの?」
「慌ててまひぇん! ただの宿題ですから!」
「…………………そう?」
「ここがゴール、すごく大きい神社です」
「内苑と外苑に別れてるぐらい、立派な神社よ」
確かに昔話の舞台になっていそうなほどの神社。
「ここが口寄せ神社?」
「そうだと良かったのだけど…………」
「違うんですか?」
「私が調べた限りね。何も起きなかったもの……」
それに、元々は縁結びとは無縁の神社らしい。
「あ、でも。ごんべえは今の現実を下にした方が良いって……」
「ウワサが最近作られたばかりだしな」
「…………どういうこと?」
「どうもこうも、絶交ルールから解ることだろ。噂が重要であって、この神社が縁結びをしていたかどうかは関係ない」
「……………………」
「まあ、だとしても何も起きなかったってんなら水名区の神社を虱潰しにするしかねえが………」
結局は手がかりはゼロ、いろははションボリ落ち込む。紗枝は無駄足な分、また働かされるだろうから金の計算を始めていた。
「ようこそ、お参りくださいました」
「スタンプラリーのゴールってこちらでしょうか?」
と、境内に入り女性に話しかけるやちよ。スタンプカードはここで回収してもらえるようだ。
「では最後に……」
「最後に?」
「な、なんですか?」
「こちらの神社の中で、お互いの想いを伝えあってください。あ、4人ですからこの場合、友達をどう思っているか………」
そうすれば景品の縁結びのお守りが貰えるらしい。
「えぇ……」
「なんて恥ずかしい………行きましょう、環さん」
「…うぅ、やちよさんって何考えてるか解らないです」
「え、言うの?」
「………え?」
言わないの? と言うような顔をするいろは。
「………ぷっ。ふふ……貴方って、素直なのね。いいわ、好きなだけ言って」
「あぅ………えっと、やちよさんは………良くわからないけど、良い人だと思います。紗枝さんも、優しくて気遣ってくれて、それを鼻にかけないし………ごんべえ、さんは…………」
同性ならともかく異性ともなると言いづらいのかモジモジと俯くいろは。
「その、えっと…………言葉はきついけど、優しいなって」
「因みに私は貴方のこと、危ないくらい真っ直ぐだと思っているわ」
「えぇ……それ、どういう意味なんですか!?」
やちよの自分に対する評価に困惑するいろは。一同はお互いについて語り合い、縁結びのお守りを貰い神社から去った。
「はぁ……なんだか疲れたわ。環さん、あなたもそろそろ帰ったほうがいいわよ」
日も落ち暗くなってきた。中学生のいろははそろそろ帰したほうが良いだろう、と提案するやちよだが、いろはが何かをノートに記している。
「それって、さっきの宿題のノート?」
「ひゃわぁ!? あ、あの! 見ないでください!」
と、ノートで己の顔を隠すいろは。一体何の意味があるというのか。
「……………『神浜ふしぎノート』? って、貴方まさか」
「ええと………はい、真似しちゃいました」
恥ずかしそうにノートで口元を隠し身長差から見上げる形になるいろは。
「さっき落としたの、宿題じゃなかったのね」
「ごめんなさい……」
「いいわ、別に。程々に頑張ってね」
「兄ちゃ〜ん!」
「と、おつかれフェリシア」
「お疲れ様です、桐野さん」
「うん、由貴さんも」
「どうだったいろはちゃん!」
「…ハズレでした」
駅で合流した一同。フェリシアが飛び付いてきた。
「最後は神社についたから、もうしかしたらって思ったのに………」
「およ、何神社?」
「水名神社です」
「私も最初に行ったけどハズレだったよー」
他の神社も回ってみたが、結局全部ハズレ。一つの区だけでも沢山の神社があるらしい。
「明日は私もそっちを手伝いますね」
「うん! 6人で探せば、効率も2倍! きっと見つかるよね!」
ふんふん、とやる気を出す鶴乃。
「じゃあ俺はフェリシアと何か食ってから帰る。じゃあな」
「あ、じゃあ由貴さん。私達も帰りましょうか」
「ええ」
と、解散する一同。フェリシアが「飯どこで食うんだ?」と尋ねると鶴乃が反応した。
「なら、うちに来るといいよ! 万々歳!」
「なあ兄ちゃん、クチヨセってなんだ?」
「今更だな………口寄せ………読んで字のごとく口を寄せる。遠く離れた人間、決して会えぬ死者、或いは人とは異なる神仏の声を術者の口で語らせる術だ」
「へ〜………」
「元々は巫女が神を降ろし予言を行う降神術。昨今の創作物の影響により、生き物を召喚するのが今のイメージだろうがな」
「え? 違うの!?」
と、鶴乃が驚く。彼女のイメージも昨今の若者のイメージだったのだろう。
「忍者がよくやるやつだと思ってた」
「昔話も死者を呼んでたろうが」
「…………死んだ奴」
と、フェリシアがポツリと呟く。
「その時代の口寄せは、やはり口を借りる口寄せだったんだろうが…………さてはて、その男は一体誰の口を借りて言葉を届けたのやら」
「…………………」
ごんべえが過去の人物を嘲るように遠くを見つめ笑みを浮かべる。と………
「はい! おまちどうさま!」
「おっ! うんまそー! いっただきまーす!」
「………………いただきます」
と、運ばれてきた料理を食うフェリシアとごんべえ。
「どうどう?」
「……………普通」
「ん、普通にうめぇ。めっちゃ美味いってわけじゃねーけど!」
「あう………」
ガックリ項垂れる鶴乃。昔は人気店だったらしいが、父の代になってから「50点の料理」と呼ばれるようになったらしい。
「ただいま」
「おかえり!」
「…………何やら機嫌がいいな紗枝」
桐野家に戻ると紗枝が笑っていた。貼り付けた笑みではなく、本物の笑み。
「うちに商品を売りつけてローンを組ませた店が今日もお金を取りに来たんだけど、ちょうど商品偽装が発覚して、払わなくていいどころか全部とは言えないけど少しだけお金が戻ってきたの!」
「へえ、そりゃ運が良かったな……………? その紙は?」
「ん? あれ、何だろ…………『18』?」
と、落ちていた紙を広い首を傾げる紗枝。
「はは、嬉しいことは続くものだな」
紗枝の父がそう言って笑う。
「嬉しいこと?」
「ああ、路上で美味しい水をただで配っていたんだよ。他にも、拾った財布の持ち主のお婆さんにもらったふくびき券が当たったり」
「……………水」
『水をくれ! 使い切っちまったんだ、早くしないと、不幸が!』
「…………面倒なことになってきたな」
絡みつく魔力をとりあえず払っておいたが………。
「しかし、商品偽装ねぇ…………それがあったことにされたわけじゃなく、あったことがバレたなら」
こういう家は間違いなく鴨になると業界で噂されているのなら、恐らく他の業者も。片手間に調べてみるか。
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