「お前は幸運が欲しいか?」
「何、急に?」
次の日。集合場所に向かいながら歩く途中、ごんべえは紗枝に唐突に質問した。
紗枝は昨日のことを思い出し、考え込む。時間にして一秒もなかった。
「欲しいわ。当然でしょう? それとも、幸運には不幸がついて回るとでもいうの?」
「いいや。不幸な奴は何処まで行っても不幸だし、幸運な奴は幸運のまま。人生プラマイゼロなんて考えは、幸福な人間しか言わない言葉だ」
「記憶喪失のくせに、長生きしたお爺さんみたい」
「ま、逆にどんな状況でも幸せだって言える奴もいるが」
「…………あの二人みたいに?」
「お前の両親は現実が見えてねえだけだろうが」
現実を見た上で、私は幸せだったと言い切った人間をごんべえは知っている……………知っている? いや、知らない。記憶にない。だけど、そういった人間が存在したということは知っている。
「酷いこと言うね」
「泣きたくなったか?」
「別に?」
両親を馬鹿にされた意趣返しか、泣き顔とは別の満面の笑みを浮かべてやる紗枝。ごんべえは鼻で笑う。
「ああ、そうだ。幸福と不幸はプラマイ0じゃねえが、道理を歪めて幸福を得ようとすればその分反動がある」
(どうしたものかね、あっちのウワサ…………)
調べた限りでは、フクロウ幸運水。ちょっと前まではただ不幸を届けるだけのミザリーウォーターという類似の噂が広まっていたが、切り替えられたらしい。より多くの犠牲者を出すためだろう。
(取りあえず解除したが……)
幸福も不幸もとりあえずは起こらないだろう。巻き込まれるのはゴメンだし。
「……まあ、どのみちウワサなら調べるか」
「…………?」
「ちょっと待ってろ」
と、スマホを取り出すごんべえ。
『あ、わ、は、はひ! もひもひ!?』
「…………いろは、少し良いか」
電話に出慣れていないのか滅茶苦茶狼狽えているいろは。ごんべえは気にせず続ける。
「悪いが所用で別のウワサを調べる。鶴乃とフェリシア、真里愛にも言っておいてくれ」
『え、ごんべえさん来ないんですか!?』
「ああ、悪いな」
『うぅ、解りました…………』
通話を切り、スマホをしまうごんべえ。紗枝はなんのつもり、と言いたげな目を向ける。
「お前の親父がウワサに巻き込まれた」
「…………え?」
「取り敢えず影響から解いたが、元凶を排除しない限り安心出来ねえだろ?」
「それは………そうね。でも、解いたって………貴方の固有魔法って、結局なんなの?」
「知らん」
リボンの創造………はまあ固有武器だとしても、魔法らしきものと言えば四●元ポケットの如き『収納』に、穢の溜まったグリーフシードを魔女を孵さず破壊……本人曰く『変換』。初対面の相手の固有魔法を『看破』したり、スクラッチを全部当てたり『幸運』か『発見』?
そして今回、ウワサの影響の解除。万能が過ぎる。
「ま、私としては頼りがいがあるけど」
「戦力として期待されてもな」
未だ変身の仕方を思い出せないごんべえは、基本的に戦い方は相手を利用する。相手によっては負けなくても勝てない状況になるかもしれない。
『いやぁ、ご覧あれ。フクロウ印の幸運水。
「…………ねえ、私のお父さんあの怪しさしかない水を飲んだの?」
「そうなるな………」
まあ明らかに虚ろな目をしている客もいるし、催眠効果でもあるのだろう。
『さあさ、さあさ、一人一日一度きりの幸運水を、貴方も一口』
「この前見たのはこれの被害者か………」
「水を欲しがってた不幸な男の事?」
「不幸が積み重なり死んだ男の事だ」
「っ!!」
死んだと聞き目を見開く紗枝。そんなものを、父が飲んでいたというのか。
そんな紗枝を置いてごんべえは幸運水を受け取り飲み込む。
「え、ちょ!?」
「俺は無効化できるつったろ」
「そ、そうだけど………」
『さあさあ貴方も』『どうぞどうぞ』『一口飲めば気分爽快』
困惑している紗枝によってくる水売り達。ごんべえがリボンを絡め締めつける。
人の形をもした額縁を持ったウワサ達が引き千切られる。
『感謝が足らぬ、感謝が足らぬ』
『心根まずい悪い子は、幸運尽きても仕方なし』
「…………消えたの?」
「ここのはな。また別の場所で売るかもしれん…………行くぞ」
幸運水を通して干渉してくるウワサの魔力。干渉されているなら感知できる。感知できるなら対応できる。
「いくぞ、こっち……………ふむ」
「え……」
と、何時の間にか黒いフードを被った少女達が取り囲んでいた。魔力から解る。臨戦態勢の魔法少女達だ。
「………蚕? 野生に還ることが完全に不可能になった家畜を象るとは中々皮肉が効いてやがる」
ごんべえはフードに描かれた蚕の目や触覚を象った模様にどこか呆れたように言う。
「あんたらが、ウワサの元凶?」
「いいや、元凶の仲間だろうな。大して強くもねえし、ユニフォームを統一して家畜アピールしてることから部下ってとこだろ」
「……………その通り、我々はマギウスの翼。マギウスの御三方にお使えし、救済の手助けとなる翼」
「ウワサに手を出すな」
「あれは私達魔法少女が救われるために必要なもの」
ごんべえは矢継ぎ早に話す魔法少女達に目を細める。道端に落ちている小石を見る目の方がまだ優しいかもしれない。
「で? だから? 魔法少女を救うから、一般人への被害を見逃せと?」
「そうだ………」
「そこに俺のなんの得が?」
「魔法少女の救済が………」
「知らん。どうでもいい」
「!?」
逡巡はもちろん質問一つしない即答にマギウスの翼達は戸惑う。
「魔法少女? 救済? アホかお前等。既に一度道理を歪めておきながら、救済? それはお前等が相応の努力して初めて手にしていいものだ。なんの関係もない他者を食い物にして得た救済なんぞ認めるものか」
嫌悪……とは違う。だが明らかに気に入らないと全身で物語るごんべえにマギウスの翼達は一歩後ずさる。と…………
「あれ、キョーコ。昨日の御水屋さん居ないよ!?」
「あー、そうか。残念だったなゆま」
「う〜ん。ゆま、我慢できる!」
幼女と少女がやってきた。発言からして、彼女達もフクロウ印の幸運水が目当てのようだ。と、ごんべえの足元に『9』の紙が落ちてくる。
「あん? なんだ、魔法少女の縄張り争い?」
「っ! 魔法少女!!」
「魔法少女?」
「あ、ごんべえ!」
赤い髪の少女の言葉にマギウスの翼達が思わず叫び紗枝が目を細め………幼女がごんべえに向かって飛び付いてきた。
「え、は? ご、ごんべえ?」
「ゆま解かるもん。ごんべえでしょ? 何で男の人になってるの?」
「……………誰だお前?」
「…………え」
ごんべえの言葉に固まるゆま。
「ほら見ろ。確かに髪の色や目の色は似てるけど、どう見ても種族からして違うだろ」
種族からして違うとはそのごんべえとやらは何者なのだろう。うさぎ?
「………お前達、水を求めてきたのだな?」
「ならば我々に手を貸してほしい」
「魔法少女としても益のある話だ」
「あん? 何だ急に。つーかなんだその喋り方。皆で決めたの?」
「あの、止めてくださいそういうの」
「…………ごめん」
素の声で懇願してきた少女に、キョーコと呼ばれた魔法少女は謝った。
「ほらゆま、とりあえず離れろ」
「ごんべえだもん。たっくんと一緒に何度も遊んだもん」
キョーコが引き剥がそうとするがゆまは離れない。ごんべえはどうすりゃいい、と紗枝に目を向けると紗枝は知るかと視線で返した。
「たっくん………?」
「そう! 覚えてない、たっくん!」
「……………………………いや」
記憶を探るが、やはり覚えていない。
ゆまはションボリ落ち込む。
「で、これはどういう状況なんだよ」
「…………こいつらが、飲めば24回の幸運のかわりに幸運を使い切れば不幸になる水を配ってたから、止めに来たのよ」
「ふーん………っておいまさか!?」
「水ならばある。欲しくば、我々について来い」
「………どうする、ごんべえ?」
「え、こいつもごんべえってのか?」
と、キョーコは驚いたようにごんべえを見る。人間ではないごんべえと同じ名前で驚いたのだろう。
「水ならあげる」
「協力」
「悪い話じゃない」
「…………まあ、少なくとも二人分の水は必要か」
足に引っ付いて離れないゆまを抱っこしてやるごんべえ。
「お前等の救済は、まあウワサなんざ使ってる時点で自分達だけじゃ何もできねえガキの考えたお遊びなんだろうが、まあ話ぐらい聞いてから拒否してやるよ」
「拒否する前提なのかよ」
「この水の幸運使い切って死んだ奴も見たからな。そんなの守ってる奴等の掲げる救済がまともだと思うのかよ?」
「………………」
「見てみろ、そんなの知らないって反応だ」
杏子が黙り込む中、ごんべえは死んだ奴を見たという言葉に戸惑っているマギウスの翼達を見て目を細めた。
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