「………なんか、悪いな」
「気にするな。ガキには何故か懐かれる」
ごんべえに引っ付いたまま離れない千歳ゆま。そして、そんなゆまの様子に謝罪する佐倉杏子。
「……微妙に違うな」
「ん?」
「あたしが知ってるごんべえなら、気にしろとか、ガキの面倒しっかり見てろ、とか言ってくる」
「……………そうなのか」
「まあ根はいい奴なんだけどな。人間じゃねえけど」
何者なんだそのごんべえ。
「人間じゃないからこそ、なのかもなぁ。彼奴が人間になったらこういう対応するのか?」
「何者なのよ、そのごんべえって………」
「あ〜………キュゥべえの同族。ただ、彼奴と違って色々教えてくれるし、願いの相談だってしてくれる」
その言葉に紗枝はなんとも言えない顔をする。切羽詰まった状態で、そういった相談もなく、後からこういう願いもあった、でも聞いてこなかったろう? とか言ってきたキュゥべえの顔を思い出したのだ。
「あなたはどうなの?」
「アタシもゆまもキュゥべえさ。もっと早く知り合ってたら、何かが変わったのかね」
尤も当時まだまだ子供だった自分は、父の言葉は正しいとムキになっていた可能性はあるが。ゆまも、自分がピンチになってしまうならきっと助けるために契約するのだろう。
「とはいえ願ったのは事実。その後奇跡ありきの生活には当然歪みが生まれるし、奇跡そのものの対価も何時かは払うってのは、仕方ねえ。そんな自業自得の魔法少女を救済なんて、胡散臭いし身勝手だと思うけどね」
案内役の少女にも聞こえるように言う杏子に紗枝はいい性格してる、と肩を竦める。
「………ボク達は」
「知らなかったって? だが、魔法少女と同じぐらい切な願いを持ちながら、素質がないだけで叶えられない者ばかり。お前達は叶えただろうが、不満を垂れるのは結構だが他者を巻き込むな」
「お前の視点って、魔法少女も人間も変わらねえよな」
「変か?」
「いいや、珍しいなって。魔法なんて手に入れりゃ、無意識にしろ自覚してるにしろ自分は特別だって思うもんだろ? アタシだって弱肉強食が〜、とか言って一般人見捨ててた時期があったし………ま、今はそんな姿こいつの前でするわけには行かねえけどな」
「ふみゅ?」
暗いからか、何時の間にか寝ていたゆまは杏子に撫でられクシクシと目元を擦る。
「ボク達魔法少女は、人より優れて………」
「何言ってんだお前? 人より劣っているから願いが生まれ、人より未熟な精神だから素質を持ってんだろ?」
魔法少女の一人が何やら呟くが、それに対してごんべえは眉を顰める。不快に思ってるでもなく、嘲笑っているでもなく、ただただ当然の事実を述べるように。
「アタシとゆまは人より生活が劣ってんなぁ、確かに。精神の未熟を置いといても、願いが叶えたい時点で今に満足してねえんだから、そりゃ劣ってるって言われても仕方ねえわな」
「だから狙われる」
「それって、その方が契約しやすいから?」
二人の会話にあまりついていけない紗枝だか、だからといってマギウスの翼達にも話しかける気にもなれず二人の会話に混ざる。
「それもあるが、感情の揺れ幅が大きいのが要因だ」
「?」
「おい、そこまで話すのかよ?」
「此奴ならその事実には問題ないだろ。その後どう動くかまでは、こいつ自身が決める…………」
と、ごんべえが言葉を続けようとして止まる。黒衣の魔法少女達が立ち止まり、跪く。
開けた場所に出た。外殻放水路のような地下空間。
地面に水が張り、
「はじめまして」
「マギウスの翼、白羽根。天音月夜と申します」
「マギウスの翼、白羽根。天音月咲だよ」
「羽根ねぇ………つまりボスじゃねえのか」
「その通りでございます」
「黒羽根よりは上だけどね」
瓜二つの少女達。しかしよくよく見るとポニーテールとツインテールだ。あと一部の成長度合いが違う。
「んなもんどうでもいいんだよ。ゆまが飲んだ幸運水だかを寄越せ。早くしねえと不幸がくんだろ?」
「あー、飲んじゃったの? うん、いいの。上げるね」
「こちらへどうぞ」
二人の案内の下奥へと進んでいく。
ゲラゲラと笑う人型が様々な楽器を鳴らし、人形劇を披露する。台座の上のフクロウの顔がついた器の側でエジプトの壁画の女のような格好をした人型が踊り、水が溢れていく。それを瓶に詰め人数分持ってくる。
「………昨日のいい事尽くしは、お父さんがこれを飲んだから?」
「だろうな」
「一度でも口にすりゃ、定期的に飲まないと不幸になる、ね。はは、大した麻薬じゃねえか」
ゆまに飲ませつつ水を捨てる杏子。ごんべえもその辺の人型を捕まえて口に押し込んでいた。
「マギウスに従ってさえくれれば、お水は毎日差し上げます」
「こおんな胡散臭い水で幸せだあ? 道理を歪めて奇跡を得れば対価はつきものだぜ? 飲み続ければ大丈夫、なんて信用出来ないね」
少なくともゆまの件がなければこんなもの求めもしなかっただろう。
「ところでお前らさっきからなんでマ●オとジ●マみてぇな格好してんだ?」
「ゆまも思った! ごんべえと、たっくんと見たんだよ!」
「そうか………」
ごんべえとやらは娯楽も楽しむインキュベーターなのか。
「……ん、んん! とにかく、ゆまちゃんのためにも、私達に協力しよう!」
「それが彼女の、ひいては魔法少女のためになるのです」
月夜と月咲の提案は変わらない。仲間になれ、そればかり。それが魔法少女にとって最善だと、心の底から信じている。
何より既にゆまが幸運水を飲んでる以上、自分達から離れることは出来ないという確信があるのだろう。
「ガキ人質にとって言う事聞いてくださいなんて言う奴らよりさ、あれぶっ壊したほうが早くない!?」
と、杏子が槍を生み出しウワサに向かい投げつける。突然の行動に固まる月夜達。黒羽根達も動けない。唯一動いたのは……
「…………あんた、どういうつもりさ」
「………………」
紗枝が槍を弾いた。同時に天音姉妹も臨戦態勢に入り、緑のキューブを投げる。
空中で巨大化したキューブから結界が広がり、大量の使い魔や魔女が現れた。
「助かりました………ですが、どういうつもりですか?」
「私達の味方になってくれるってことでいいの?」
「………ええ、まあねえ。悪いわね、ごんべえ。私も、幸運はほしいから」
仮面を被り、口元だけで笑みを浮かべる紗枝。ごんべえは目を細めた。
「さあ、行くよ!」
月咲が笛を奏でると同時に魔女達が襲いかかってくる。黒羽根達もそれに続く。
「チッ! ぶっ飛ばすぞ、ゆま!」
「うん!」
杏子とゆまも変身し、迎え撃つ。ごんべえもリボンを出して結界に浮かぶトルソーに絡め移動する。
向かってくる魔女を、黒羽根を投げ飛ばし、ぶつけ合い、地面に叩き付ける。
「ひゅう、マミみてぇだな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
鎌を取り出し回転しながら迫る魔法少女を回避しながら軽口を叩くごんべえ。リボンを武器にしているごんべえには相性が悪い敵だ。
「おとなしくして!」
「!!」
と、鎖が絡みつき凍り付いていく。ごんべえは斬りかかってきた魔法少女の腕にリボンを絡めると剣を奪い取り脚を切り落とす。
「え………」
「は?」
惚ける黒羽根のフードを掴み鎖使いの黒羽根に向かって投げ飛ばす。
「ふひぃ! じじ、自分の足を!?」
と、ローラーブレードの黒羽根が驚愕に震える中、足を再生させながら蹴りつけるごんべえ。
「びきゃく!!」
妙な悲鳴を上げながら吹き飛ぶ黒羽根。片足だけ素足になったごんべえはバランスが取りにくかったのか靴と靴下を捨てる。
「………………っ」
「……………」
再生したとはいえ、自身の足を平然と切り落としたごんべえに黒羽根達が怯えたように後退る。
「……………」
「ん?」
と、吹き飛ばされた魔法少女がごんべえに襲いかかる。不自然なほど殺気も敵意も感じない、機械的な動き。故に単調で読みやすく、速攻でリボンを巻き付け橋に括りつける。
「この程度なら問題ないな。問題があるとすれば………」
熱線がごんべえのリボンを焼く。放たれた方向を見れば宙に浮かぶ仮面と紗枝の姿。
「大人しくしてよごんべえ。私もあまり、傷つけたくはないんだよ?」
と、まるでテレビの悪役のような台詞を吐く紗枝。
「………………」
「何? その顔、私とあなたは、所詮お金の関係でしょ? でも、幸福はお金じゃ買えないんだよ?」
「………………」
「………何か言ったらどうなの?」
「責めてほしいのか? 面倒くせえ」
「なっ!?」
ごんべえの吐き捨てるような言葉に肩を震わせる紗枝。その顔は仮面で隠れ見ることは叶わない。
「その口調はなんだ? 妙なキャラを演じやがって………素のままじゃ裏切れなかったか?」
「! 私は、本当に裏切って…………!」
「ああ、あの水が欲しいのは本心だろうな。だが、そのくせ本音の部分はこんな奴等に加担したくない。板挟みになって、取るのが文字通り仮面を被る、か」
「……………!」
「下手くそな演技はやめろ。悪役なんざ向いてねえ、素直に私は楽に幸福が欲しいんだよとでも泣き喚け」
「…………さい」
「泣き方を忘れたガキはこれだから面倒くさいんだ」
「うるさい!」
無数の熱線がごんべえに向かう。しかしそのどれもがごんべえの周囲を焼くばかり。ごんべえには火傷一つ負わせない。
「うるさいうるさいうるさい! 私の、何が解るっていうの!? 知ったような口を聞かないでよ!」
「……………」
「私は、私達には幸運が必要なの! 少しでも楽をしたいと思って何が悪いの! ずっとずっと大変だったんだもん! 誰も味方してくれなくて、私がやるしかなかった! あの優しい家族を守るために!!」
「アホかお前。そう思わなきゃならねえのは、お前の両親だろうが」
「………っ!」
紗枝の叫びに淡々と返すごんべえ。
紗枝は子供だ。そして、両親は大人。だけど、家族を守るという行為において、あの二人はまるで役に立たない。
「だって、それでも………私が守らなきゃ……私にしか、守れないから」
「家族の優しさが消えることが怖いか? アホか、あれは優しいんじゃなくて馬鹿なだけ。まず一番に助けなきゃならねえモノに気付きもしねえ」
なまじ、紗枝が優秀だから。なんとかしてしまったから、なんとでもなると思っている。
「金がなくても家族がいれば、なんてのは家族の生活が保証されてる奴の戯言だ。お前がするべきは、お前に保証された生活で自覚のねえ馬鹿共の目を覚まさせることだろうが」
「…………………」
「家族のために無理をすると決めてんなら、好きにすりゃいいさ。俺は気に入らねえがな………だが、自分を殺すなよ」
一歩一歩近付くごんべえ。紗枝は何も言えずその場で立ち尽くす。
「やりたくないことはやりたくないと言えるようになれ。やめてほしいことはきちんとやめてといえ。頼られる前に、頼り方を覚えろ。大人になったと思い上がるな。ガキはガキらしく、我侭言ってから大人になれ」
バッ、と仮面を取られる。仮面の下には、悪役でもなんでもない、ただの少女の顔があった。
「……………返してよ」
「ほらよ」
「……………ごめん。本当は、やっぱりやりたくない」
「だろうな」
「……………私にやめさせたんだから、あんたがどうにかしてよ」
「バイト代出さなくていいならな」
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