「お二人とも、下がってください」
みふゆと呼ばれた魔法少女の言葉に後ろに下がる天音姉妹。他の黒羽根達も、新たにやってきた黒羽根に回収されていく。
「よくもやってくれましたね………とは言いません。ですが、ここで矛を収めていただけませんか?」
「お前等が魔女やウワサを消すならな」
「あれは、魔法少女の解放のために必要なんです!」
「魔法少女のカイホー?」
疑問符をつけ首を傾げるも、明らかに尋ねる気はないのが見て取れる。
「何を言い出すかと思えばくだらねぇ。さっきのそれが解放だってんなら、だぁれが賛同するかボケ。魔法も失わずリスクを廃してリターンだけ得ようって魂胆が気に入らねえし、消しきれないリスクを他人に背負わせる計画なんぞに加担するか」
んべぇ、と牙だらけの口から舌を出すごんべえ。ゆまも真似してべーっと舌を出したので杏子がやめさせた。
「てめぇ等は奇跡を願ったんだぞ? 道理を捻じ曲げ条理を覆し不平等に奇跡を手にした。それが魔法少女だ……」
ルビーのように炎のように赤い瞳は深海の水のような冷たさを宿しマギウスの翼達を睨む。
「ああ、ああ。対価を聞いてないと叫ぶのは良い、絶望から逃れたいと言うなら、俺も出来得る限りは手を貸してやるさ。だが、お前等は駄目だ」
「何故、ですか?」
「人を殺す魔女を狩るのに理由がいるのか?」
「っ!!」
魔法少女を魔女と呼ぶ。それは真実を知っている身からすれば、何よりの侮辱。
「取り消してください!」
「嫌だねバァカ!」
巨大なチャクラムと槍がぶつかり合う。重量はみふゆが上だが、ぶつかり合った瞬間に槍を傾け攻撃を流すごんべえ。
「っ!?」
その勢いを利用して石突でこめかみを狙うもギリギリで回避するみふゆ。巨大なチャクラムを放つ。
直線的な攻撃をかわし無手になったみふゆに槍を放つごんべえ。一切合切容赦無くソウルジェム狙い。
が、すり抜ける。
「幻覚………っ!」
バックスピンがかけられていたチャクラムが背後から襲いかかる。弾き飛ばすが、景色が歪み幻覚で隠れていたみふゆがチャクラムを掴み重力を利用した叩き落としを食らわせる。
槍ごと身体を切り裂かれた。
「ごんべえ! この!」
「!!」
追撃しようとするみふゆに紗枝が熱線を放つ。後に跳び避けたみふゆに仮面をつけた巨人が迫るが黒羽根達が巨人に襲いかかる。
「貴方は、何処まで知っているのですか?」
魔法少女を魔女と謗り、ソウルジェムを狙う。
みふゆのソウルジェムの位置を考えれば偶然の可能性もあるが………いや、明らかに魔法少女の結末について知っているのだろう。
「ああ、ぜぇんぶ知ってるぜ? 契約した覚えはねえけど、ソウルジェムがある以上俺の結末も同じだろうよ」
「ごんべえ! 怪我、ゆまが治すね!」
と、駆け寄ってきたゆまがごんべえの傷を癒やす。
「ごんべえ、無茶しないでよ………」
紗枝も泣きそうな顔で睨んでくる。
「…………そうだな。戦い方が悪かった」
槍を消し、トントン跳ねるごんべえ。何をする気かと警戒するみふゆ。
「後ろです、みふゆさん!!」
「!?」
背後から伸びてくる白い鎖。月咲の叫びでなんとか回避し、ごんべえに目を向け………
「居ない!?」
僅か一瞬で姿を消したごんべえを探そうでして足を何かに掴まれる。影から生えた、白い指。
「きゃあ!!」
力任せにぶん投げられ、幾つもの柱を破壊するみふゆ。影から生えたごんべえにチャクラムを放つもごんべえが影の中へと消える。
「影………っ!?」
ここは地下の貯水槽。影など幾らでもある。
「やはり見慣れた動きが一番だな」
「っ!!」
背後に現れたごんべえに向かいチャクラムを振るうみふゆ。柱の影から伸びてきた鎖が攻撃を弾く。
「影の魔法………それがあなたの魔法ですか。だとしても!!」
幻影を使い分身するみふゆ。数で翻弄するつもりだろう。ご丁寧に音まで。
「影の魔法? んな単純な魔法じゃねえよ」
「!?」
だが所詮は幻影。音を増やそうと、空気まで動かすわけじゃない。本物のみふゆは、姿を隠していたがそちらに視線を向けるごんべえ。
「カーゾ・フレッド」
放たれる氷の槍。先程の魔法とは異なる属性に驚愕し、回避が遅れ脇腹を貫かれる。
「みふゆ様!」
「よくも!!」
と、黒羽根達が向かってくる。ごんべえは興味なさそうにみふゆに向かって歩きながら、魔法名を唱える。
「プロドット・セコンダーリオ」
床や柱、瓦礫が粘土のようにグニョリと形を歪め複数のごんべえの形を取ると黒羽根達に襲いかかる。
「俺の魔法はそのまま魔法。感情エネルギーが魔力へと性質を変える過程、魔力が現実に及ぼす影響。それらを理解した魔法を再現できる」
「つまり、全ての魔法が使えるということですか?」
「理解出来る範囲ならな」
とんだチート魔法だ、と顔を歪めるみふゆ。
それが事実ならば、彼はどんな相手にも対応できる。魔法少女にも………魔女にすら。
「………それだけ強いから、貴方には聞こえないんです」
「あん?」
「魔女と戦えない、弱い魔法少女の声が、魔力が衰えていく魔法少女の苦悩が!」
「当たり前だろ、頭ん中繋げられてるわけでもねぇのに、他人の声なんざ聞こえるか」
みふゆの叫びを煩わしそうに切って捨てるごんべえ。ふと、何かを思いついたような顔をして、フードを被り顔を隠す。
「要はお前の言い分は、弱くて可愛そうな魔法少女を救ってあげた〜いって訳だ………」
「…………そうです。彼女達が、一方的に搾取されていい理由など」
「
フードを取り、現れた顔は見慣れぬ少女。何時の間にか身長も縮んでいる。
困惑するみふゆに少女は目を細める。
「覚えてない? でも、記憶にあるはずだよね? だって、お姉ちゃんは
「!!」
「瞼を閉じてくれたよね。あれって、どんな気持ちでやったの? ねぇねぇ、教えて。魔女を呼ぶお姉ちゃん」
無邪気な笑みで問いかける残酷な質問にみふゆは顔を青くして後退る。
「お姉ちゃんには魔法少女の声が聞こえるんだね。助けて、助けてって、お姉ちゃんを頼ってるんだね。すごいすごい! なのに、使い魔に手足を切られて、魔女にお腹を割かれた私の声は聞こえなかったんだね」
「それ、は………」
「私は魔法少女じゃないから、お姉ちゃんが守りたい人じゃないもんね」
「ちがっ………そん、な………間に、あえば私は………」
「魔女をこの町に呼んでるのに?」
必至に言い訳を探すみふゆに、しかし少女の言葉は止まらない。と………
「この!」
黒羽根がごんべえの分身を抜け襲いかかる。数はマギウスの翼の方が上なのだ。切り裂かれた少女は砂のように崩れ、黒羽根の四肢が槍で貫かれる。
崩れた砂はみふゆの後ろでスーツ姿の中年の男に形を変える。
「ちなみに、私は知っていますか?」
「っ………魔女の、被害者?」
「いいえ。絶交階段で餓死した者です」
「!!」
みふゆの手から武器が落ちる。
「色々調べてみたら、息子が探してくれていたらしくて。『もう絶交してやるなんて言わないから』と泣いてましたよ」
「────」
ヒュと過呼吸のように喉を鳴らすみふゆ。男性が白い布を頭から被るとパーカーに変わり、顔もごんべえに戻る。
「次は俺の質問だ。お前には聞こえないのか? 魔女に何の抵抗も出来ずに殺されるただの人間の悲鳴が。ウワサに奪われた大切な誰かを探し続ける者の苦悩が」
「わ、わた…………私は………私は……………!」
ソウルジェムが凄い勢いで濁っていく。何かを言わねばならぬのに、声が出ない。それでもなんとか言葉を探す。
「っ………より、多くの命を………救うため、に。もう、魔女に怯える事のない、世界を」
「馬鹿じゃん?」
絞り出された声に呆れた声を向けるごんべえ。
「何をいうかと思えばくだらねえ。グリーフシードが不要になった世界で誰が魔女と戦うってんだ」
「ゆま戦うよー!」
「あー………じゃ、アタシも」
「え? あ………わ、私も?」
「………………少なくともお前の言う魔女と戦えない魔法少女達は戦わねぇ。お前も衰えてくなら、戦わねぇよな? 残った魔女は誰が掃除すんだ? 使い魔は? 戦う魔法少女が減っても、魔女が増えることに違いはねえのに犠牲が出ねぇ? 笑わせんな」
崩れ落ちたみふゆの髪を掴み無理やり顔を挙げさせるごんべえ。その顔は、また魔女の結界で殺された少女のものになっていた。
「私は、でも………せお、背負って…………」
「背負ったら、私は報われるの?」
「!!」
「お姉ちゃんは私を覚えていても、さっきまで忘れていたのに?」
少女の言葉がなければ、死に顔を見たはずの少女の顔すら、思い出さなかっただろう。
「全部が全部終わって、魔法少女が開放された時、お姉ちゃんは私達を覚えたまま生きてくれるの? ああ、もうこれで魔法少女は救われたって、私達のこと忘れたりしない?」
「やめ………やめて…………お願いだから、もう…………」
蒼白を通り越し真っ白になった顔を苦痛に歪めるみふゆ。涙を流し、歯が噛み合わずカチカチと小さな音を立てる。
「目を背けるな。お前が殺した顔を忘れるな。これから殺す顔を、きちんと見ておきましょうよ…………
「────!!」
水名女学院の服を着た少女の顔は、よく知っている。自分と仲が良かった後輩だ。
「私が魔女に食われても、ウワサに飲まれても………魔法少女は救われるんですよね? じゃあ、他の人達と同じように忘れちゃうかな?」
「ぁ…………」
目を限界まで見開き固まるみふゆ。少女は興味を失ったかのように目を細め髪から手を放し立ち上がる。
ノイズが一瞬走り姿をごんべえへと変えた。
「………容赦ないわね」
「じゃあ聞くが、俺は間違ったことを言ってたか? 誰かを演じたって部分以外で」
紗枝の言葉に吐き捨てるように呟くごんべえ。紗枝はないけど、とため息を吐く。
「みふゆ様をよくも!」
と、話し過ぎたせいか分身がやられ黒羽根が蹴りを放って来た。影から伸びた鎖で雁字搦めにしたごんべえは頭を掴み地面に押し付ける。
「俺の話聞いてた? お前は誰かを殺してまで魔法少女の宿命から逃れたいのかよ。そうだって言ったところで知ったこっちゃないがな」
「! お前に、お前みたいに強い魔法少女にわかるもんか! こんな、こんなことならキュゥべえなんかに願わなかったのに!!」
「へえ? つまり、願いで得た魔法も、願いで叶えた奇跡も何一つ要らないと?」
「あたりまえだ! こんな、こんな運命………なんで私ばっかり!!」
「トッコ・デル・マーレ」
ズブっと服を透過しごんべえの腕が黒羽根を貫く。引き抜かれた腕には血はついておらず、代わりにソウルジェム。
「!? か、返せ! それは…………!」
「魔法少女をやめたいんだろ? 叶えてやるよ」
ソウルジェムを咥え込み、そのまま噛み砕く。破片を吐き捨て口元を拭った。
「……………あ、え…………あれ?」
「良かったな。これでお前は人間だ。魔法少女の運命から開放された」
ザワッと黒羽根達に動揺が走る。
「………ほ、本当に?」
「ああ。性質を『反転』させ…………なんだこれ、どういう理屈? どんな法則で不可逆を………」
自分でやっておきながら何故か困惑しているごんべえ。
「本当に私は、魔法少女の運命から開放されたの!?」
「ああ。でも、お前が気の迷いとやらでやった万引きは、無かったことになってねえから高校には合格してないことになってるだろうし両親との関係も最悪のままだろうし、その間の記憶がねえお前との差異に戸惑うだろうけど、まあ頑張れ」
「……………………え?」
少女に乗せていた足をどけ、ごんべえは黒羽根達に向き直る。
「さあ次は誰が開放してほしい? 誰でもいいぞ、大サービスだ。願ったことを無くすだけで、お前達は魔法少女の宿命から開放される」
戸惑うように互いを見渡し、誰も前に出てこないのを見てごんべえは目を細めた。疑問に思って? 違う、あれは思い切り見下している。
「どうしたほら? 妹が魔女に攫われたのを発見した事実を消すだけで、お前は開放されるぞ?」
その言葉に一人の黒羽根が震える。
「魔女に大人しく食われていたことになれば、ペットの死を受け入れれば、いじめられていた日々に戻れば、好きな幼馴染が別の女と付き合っていた事実を受け入れれば、部活チームの優勝を諦めれば、足の怪我を戻せば、大嫌いな先生が首になったことをなかったことにすれば、自慢のパパが昇格したことを消せば、コンクールの入賞を取消せば、魔法少女の運命から開放してやる」
黒羽根達は応えない。怯えるように一歩後退る。
「どうした? ほら、叶えた願いを捨てると約束するなら、俺はお前達の救済のために尽力してやるよ。ライター持った人間に、火打ち石を得意げに掲げる猿よりずっと現実的なことを言ってるぜ?」
その猿とは誰のことか。恐らくはマギウスの御三方なのだろうが、完全に見下していた。
「魔女になりたくないんだろう? 他人を不幸にしてまでそんな未来を避けたいんだろう? 知ってたら願わなかったと、そう言うんだろう? 先輩は隠すからな。後輩の俺が責任持って正してやろう。とは言え願ったのはお前達の意志だから、解約金はもらう。損はするが他人に迷惑かけるのは良くないからな」
願いで得た奇蹟も、奇跡が起きた後の生活も、魔法少女として誰かと育んだ絆も、全て捨てされば魔法少女の運命から開放される。
「どうした笑えよ。魔女になる未来から解放されるんだぜ? 笑えよほら」
「魔女に、なる………?」
「ああ、紗枝は知らなかったな。どうする? 学校の評判と引き換えに、今なら引返せるぜ?」
「……………………」
それは、ならば絆を失った友達との関係も?
「…………いい」
「…………」
「私には、魔法も奇跡も必要なんだ。それに………借りを返してない」
「まだ何もしてねえぞ?」
「でも、私がタダ働きすればしてくれるんでしょ?」
「そうだな」
じゃあいいよ、という紗枝を見て杏子はゆまを見る。彼女もまた、今を捨てたくないのだろう。
「あ、ただしそこのお前。てめーは駄目だ。人の心操ってやっぱり別れたから願いは無しでなんてのは道理が合わねえ」
そう言って一人の黒羽根を見るごんべえ。
「梓みふゆもな。お前はこの騒動の原因達の上層部だし」
「………………い」
「あん?」
「見ない…………私は何も!」
ソウルジェムの穢が溢れ、みふゆの身体を飲み込む。
カーテンや布を重ねたかのような外見に、一見角のような腕。天音姉妹と違い完全に一体化しているドッペルは影から無数の鳥を生み出す。
「ちょ!?」
「なんだこの数! ゆま!?」
「わぁ、あまぁい………」
鳥の体当たりを食らったゆまがぼんやりとした表情で笑う。明らかに食らったらやばい。
「…………退くぞ」
面倒臭そうに裏拳で叩き落としたごんべえはゆまの様子を見て影を広げる。全員を飲み込み、影は闇に溶けるように消えた。
ごんべえの魔法の補足。
『魔法』
簡単に説明するなら魔法を家電だとして、中の回路から動作プログラム、構成している物質全てを理解して漸くその魔法が使えるようになる。
なので理屈としては全ての魔法が使える。
普通の人間が持ったとしても使えない。
ごんべえの場合、魔法なら全部使える。
『回収』『具現』『変換』に関してはそもそも使える。
『反転』
理屈の上では魔女も『反転』させられるごんべえからして訳のわからない魔法。記憶喪失が関わっているようだが……。
エイプリルフールネタ
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修羅場不可避? 相棒だらけの魔法少女会合
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あけみ屋にて、円環の理達の会話
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魔法少年たつや☆マギカ
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FGO世界にてごんべえ世界の偉人達と共に
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私は上浜のウワサ「Y談おじさん」