「ここは………」
「外?」
影に飲まれたと思えば、日も沈みかけた外に居た。困惑している杏子は虚ろな目のゆまに気付く。
「おいゆま! 平気か!?」
「へーき………ゆま、へーきだよ?」
全然そうは見えないゆまにごんべえが額に手を当てる。
「あの使い魔、依存性があるみたいだな」
そう言って真っ白なハンマーを取り出し、縮め白いピコピコハンマーに変えるごんべえ。
「ほい『忘却』」
「あう」
ピコンと軽快な音が響きゆまはフッと意識を失う。
「…………ゆまはどうなった?」
「今夜はこのまま寝かせて明日甘味屋でも巡ってやれ」
「おう………お前はこれからどうすんだ?」
「………………」
と、ごんべえの携帯が震える。地下で途切れていた電波が戻り、一気に連絡が来たのだろう。
「俺は別のウワサの方に向かう」
「キュゥべえの指示と関係あるのか?」
「馬鹿言うな。せっかく自由になれたのに誰が今更先輩の言うことなんざ聞くか。魔女が人を喰らおうと俺にゃ関係ねえが、あのゴキブリ共は別ってだけだ」
救われたい、そんな理由で魔法少女と全く無縁の命を消費しようとしているマギウスの翼。個人的に気に入らない。
「せっかく個になったんだ。個人的な感情で動かなきゃこれまでの鬱憤が晴らせねえ」
「個人的って、人を救おうとしてるのに?」
と、ごんべえの言葉に紗枝が首を傾げながら訪ねた。
「何を勘違いしてるか知らねえが、数が多いから正義じゃねえ」
そう言うとフードを被るごんべえ。ピョンと跳ね体をくるりと回転させると、体が縮んでいきインキュベーターの姿となり着地する。
『その理屈で言うなら俺達はこの宇宙の何よりも正義になっちまうからな。そんなの気に入らねえ』
ピョンピョン跳ねると紗枝の肩に飛び乗る。
『気に入らねえで行動している以上は個人的だ。俺も、そしてあのゴキブリ共も』
ただしそれを大衆のためだのと思っている姿がこの宇宙で何よりも嫌いな存在を思い出す。だから潰す。だから個人的。
「そういえばあんた、自分が間違ったこと言ったか聞いてきたけど、彼奴等が間違ってるとは言ってないね」
『さて、そうだったか? それより水名神社に向かえ』
「はいはい」
紗枝は呆れたように返すと魔法少女の身体能力で駆け出した。
「ねぇ………」
『あん?』
「魔法少女の契約に対する対価が魔女になるのって、なんで?」
移動中、無言なのは嫌だったのか紗枝が肩に乗るごんべえに問いかける。魔女になるという理屈は解ったが、理由が解らない。ただの愉悦ならば、ごんべえは協力などしていないだろうと、勝手に思う。
『宇宙の寿命を伸ばすためだ。この星でも計算してるらしいが、未発達な文明だけあって楽観的な数字だがな』
「私達、宇宙の薪なのね」
『やめたいか? 今の俺ならそれができるぞ』
「奇跡を無くして、でしょ? じゃあやめとく」
『そうかい』
ユラユラと尾を揺らすごんべえ。それがどんな感情なのか、紗枝には解らない。
「それにしても、魔女かぁ」
『道理を超えた願いだ。人の身では叶えられぬ願い、或いは叶えられるくせに何もせず得た奇跡………対価として高すぎるとは思わねえよ』
「…………本音?」
『…………ああ』
「じゃ、続き………」
『…………抗った先に絶望しかないのは、気に入らない。抗いもせず、他人の死骸で作った道で希望に向かうのはもっと気に入らないがな』
人は抗ったところで救われるわけじゃないんだよ、そんな言葉を飲み込む紗枝。そんなことはきっと彼もわかっているのだろう。
「ごんべえ、キュゥべえの仕事手伝うの向いてないよ」
『向く向かないの話じゃねえよ』
「契約してきたんだ」
『何万とな』
「なんま……!? ごんべえって幾つなの?」
『お前達が毛むくじゃらで棒を持ち始めた頃から生きてるのは確かだな』
想像の遥か上を行く年上だった。
というか超絶爺さんが人間形態だと中学生ぐらいに? いやそもそも爺さんなの? それとも婆さん?
「ごんべえってさ、やっぱ恨み言言われてきたの?」
『まああるな。俺は先輩と違って事前に全部説明するし願いだって相談受け付けてやってんのに、それでも噛み付いてくる奴は居た』
「事前説明に、相談? それって、私相手だとどうなってたの? あ、私の時はね」
『俺はつい最近まで先輩と繋がっていた。知ってんよ…………まあ、お前最初の時点で断ってたしそれまでじゃねえの?』
それはそれで困る。自分はキュゥべえがしつこかったからこそ契約できたのだし。
『まあ先に経済状況を何とか出来ると言うだろうし、そこはお前次第だが』
「………わざわざ言ってくれるの?」
キュゥべえはわざわざ言わないし提案もしないと言っていたのに。
『たった一度の奇跡に、後でどうこう言われんのは嫌なんでね』
ピョンと桐野の肩から跳ね、空中で回転するごんべえ。人型に戻りフードを脱ぐ。ついでに服や靴が戻っていた。
そのまま神社に発生していたウワサの結界に飛び込む。
「ついた」
「わぁ!?」
ザッ、と着地した鳥居の前で立っていた鶴乃がびくっと震える。
彼女以外にも真里愛もいた。さらに襲い掛かってくる空飛ぶ絵馬。
「邪魔」
琵琶を生み出し奏でると空中で爆発する絵馬。
「ごんべえ! 桐野ちゃん!」
「助かりました………ごんべえさん。ごんべえさんの武器は、リボンじゃなかったんですね」
「色々出せるぞ」
ほら、と鶴乃が持っていた巨大な扇子を生み出し、再び襲ってくる絵馬の大群を白い炎で焼き払うごんべえ。
「で、状況は?」
際限なく溢れてくる絵馬を見て、盾の付いたポールアックスを生み出し地面に突き立てるごんべえ。半透明の白い障壁が四人を守る。
「いろはさん、フェリシアさん、それと七海さんがウワサ通りに絵馬に名前を書いて入っていきました………」
「酷いよね! 私だけ置いてけぼり! でも真里愛さんが残ってくれたの。真里愛さんってなんか、お母さんみたいな雰囲気で安心するよね! ふんふん!」
「……………私、お母さん?」
あらあら、と困ったように頬に手を添え微笑む真里愛。ごんべえはお母さん、と呟きノイズのかかった桃色が浮かぶ。
「?」
自分に母親など居ないはずだが。
「でねでね、いろはちゃん達が絵馬に名前書いて参拝したら消えてたの!」
「じゃあ俺等も追うか」
「え、でも絵馬はあと一枚しかないよ?」
「『複製』」
鶴乃が真里愛が持っていた絵馬を見せつけてきたので地面を軽く蹴るごんべえ。地面が粘土のように形を変え3枚の絵馬になる。
「おお! よぉし、私はやちよししょーと同じだろうけど、みふゆ!」
「みふゆ?」
「うん!」
「私は…………じゃあ、転校しちゃったジュン君で。元気でやっていると良いんだけど」
と、鶴乃と真里愛も名前を書く。紗枝も無言で誰かの名を書いた。
「…………………」
ごんべえは『オレを魔法少女にした奴』と書いた。
名前を書き終え、障壁を伸ばし拝殿に向かう4人。
「あ、そうだ真里愛」
「はい?」
「お前、初めてあった時俺が子供好きとか言ってたな」
「え、ええ………」
「否定はしない。ガキを育てるのは、嫌いじゃない。むしろ好きだ」
「……………そうですか」
牙を見せ笑うごんべえに、真里愛は微笑んだ。
「こんど、学童保育のお手伝いでもしますか? みんな、また会えて喜ぶと思います」
「機会が合えばな」
「……………二人ってお父さんとお母さんみたいな雰囲気だね!」
「!?」
鶴乃の何気ない一言に真里愛の顔が歪む。
「無理よ。誰かと所帯を持つなんて、魔法少女の私には…………」
「いや、魔法少女でも子供作った例はあるぞ?」
「…………え?」
真里愛が困惑する中ごんべえはガランガランと本坪鈴を鳴らし手を合わさる。3人もそれに続く。
「黄昏時………誰そ彼ね」
気がつけば夕暮れの世界。結界の深奥か、或いは本来の結界がここなのか。
どこまでも続く水面に張り巡らされた橋。乱立する鳥居。幸せそうな顔のまま倒れた一般人。水も食料も与えられず痩せ細っている。
「……………それで、誰だ?」
ごんべえの立つ橋の先に立つ人影に問いかける。
着物姿の白髪の人物は、顔を円環が描かれた布で隠して性別もわからない。
「忘れてるか。そりゃそうだろうな………」
「………………」
「そもそも本物じゃねえ。お前に与えた力の残滓が、此処で作られた型に入り込んだだけ。だがまあ、こんな姿はしていたな」
「結局誰だよ」
「俺はお前だよ」
風が吹き、口元が露わになる。笑みを浮かべたその口は、人の物にしては鋭い牙が生え揃っていた。
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