性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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今後とも宜しく

「さて、まず何から聞きたい?」

「そもそも何処まで話してくれるんだ?」

「そうだな。例えば彼処でいろはが抱きしめてるのが環うい、紗枝が話しているのが契約の結果知り合いじゃなくなった親友………いや、環うい以外についてはだいたい知ってるか。魔法少女の情報だものな」

 

 まあ目の前の存在が本当に自分なら、インキュベーターとして魔法少女の知識程度なら全部持っているだろう。だが環ういに関しては知らない。環いろはが何を願ったのかすら情報にない。

 

「モキュ! モキュキュウ! ………キュ?」

 

 と、ういべえがごんべえ達の下へやってきて、戸惑うように2人の間をウロウロする。

 

「モ、モキュ………キュ」

「こい」

「キュ!」

 

 ごんべえの言葉にごんべえの肩に飛び乗り頬に額を擦り付けるういべえ。その光景を見て自称ごんべえは無言で見つめる………見つめているのか? 顔は見えない。

 

「お前が俺だとして、何をどうやって俺を個にして契約したんだ?」

「今の俺には大概のことができるんだよ。お前を個にすることも、平行世界に干渉することも………ただまあ、概念として存在しているから深く関わりすぎるとこの世界を書き換えてある少女の存在を消しちまう」

「概念?」

「詳しく説明するのは長くなる。まあここ以外の幾つかの世界に存在する概念。法則そのものというか………神になったんだ、魔神とでも呼べ」

 

 魔神はそう言うと橋の堀に体重を預けた。

 

「神になる前の俺は、とある町の魔法少女達を救った。結果論であるがそれを見た神の先輩に自分達の世界もと頼まれた。だがさっきも言ったように、力を突っ込んだだけでも世界を書き換えちまう。それに、指の一つでも顕現させようものなら世界そのものを擦り潰す」

 

 魔神が変質した法則………概念と言っていた。

 距離も時間軸も関係なく存在する法則は、歴史にも当然影響を与えるだろう。その結果として誰かの存在が消えるのだろう。幾つかの世界を跨ぐほどの存在は、一つの世界にその身を容易く入れることは出来ないのだろう。

 

「だからこの世界の俺に小指の爪ほど力を与えてやった。『反転』………それが俺の司る権能にして固有魔法」

「………あれか。それで、この力を使って俺に何をしろと?」

「別に何も」

「…………は?」

 

 力を与えたくせに何もしなくていいという魔神に、ごんべえが訝しげな視線を向ける。

 

「ああ、違うな。何をするのも自由だ………俺は誰かの運命を操作する気はねえ。って、あった時も説明したはずだが」

「覚えてない」

「俺の力を入れた反動だな………記憶を暫く失った理由もそれだ。俺の記憶の一部も、お前に入り込んだし。まあ見れないようにはしてるがな」

 

 記憶喪失の理由はビルから落ちたからではなかったのか。まあ確かに落ちた程度で記憶を失うなら過去にも記憶を失っていた。いや、ちょっと前までは群体の一体だが。

 

「お前の行動を縛る気はない。折角の個になったんだから、好きなように生きろ。先輩とガキ共には俺の本体が文句言われてるかもだが」

「俺はその説明を聞いて契約したのか」

「俺がどんな概念になったかまで聞いてきたな。俺らしい」

 

 それは自分でも自分らしいと思う。

 

「まあ俺がそんな殊勝な奴なわけがねえし、教えたけど記憶を消したのか」

「ああ……因みに契約内容は『魔法少女と共にある』だ」

「……………酒でも飲んでいたのか俺は。いや、テンション上がってたな」

 

 願いの内容を自分らしくないと感じつつ、インキュベーターのネットワークから開放されてテンションが上がっていたのを思い出す。

 

「好きなように生きろ。その結果がどうなるか、神である俺にも解らなかったしな」

 

 と、その時だった。結界が震える。

 見れば梓みふゆのコピーをやちよが、誰だか知らないが紗枝や真里愛と同じ制服を着た女のコピーを顔色を悪くした紗枝が壊し、鶴乃がフェリシアを男女から離していた。

 

「放せ! 放せよ! とーちゃんとかーちゃんが!!」

「落ち着いてフェリシアぁ! 偽物、偽物だから!」

 

 あれはフェリシアの両親なのだろう。紗枝ややちよは再会したかった人物を偽物とはいえ己の手で破壊したからかソウルジェムが濁っている。

 

「ごんべえさん! その人は、貴方の知り合いではありません!」

 

 と、真里愛がごんべえの下へ走ってきた。魔神と話しているごんべえを口寄せ神社に飲まれたと思ったのだろう。

 

「その通り、俺は偽物。本物の欠片に僅かに宿った意思だ」

「……………え?」

「お前は飲まれなかったんだな」

「…………ジュン君は、本物ならもっと大きくなってるはずですから」

 

 所詮は記憶から作った偽物だと解ったのだろう。

 

「ごめんなさい由貴さん」

 

 と、紗枝もやってきた。顔色は悪い。彼女も由貴に目を覚ますよう言われたのだろう。

 

「………ねえ、桐野さん。彼女は、どうして私を知っていたの?」

「!!」

 

 真里愛の言葉に肩を震わせる紗枝。

 

「私と桐野さんが知り合いだから、それに合わせたって言うようにも見えなかったの。ねえ………ひょっとして、私達って」

「話はそこまでだな」

「…………え?」

 

 再びウワサ結界が震える。先程とは比べ物にならない振動。登ってくる、強大な魔力。

 

最愛ノ者トノ再会ヲ求メテ殺メル者ヨ

神ヲ謀ッタ其ノ罪、万死ニ値イスルデアロウ

 

 頭の中に直接響く声とともに現れたのは、カエルの足に車輪の付いた子供の玩具を組み合わせたかのような異形。手綱や鞍がついているが、馬には見えない。

 

『|鮟画碑億蝮騾蜘!!|』

 

 奇妙な鳴き声を上げ車輪を回転させるウワサ。ギャリギャリと音を鳴らし突っ込んでくる。

 

「どっせい!!」

 

 無防備に突っ込んでくるウワサにハンマーを叩きつけるフェリシア。特大の威力が乗った一撃は、しかし弾かれる。

 

『|参繰謖還混魅!!|』

「うわ!!」

「フェリシア!」

「世話の焼ける」

 

 ごんべえが白いリボンを伸ばし鳥居に巻き付け網を作る。湖に落ちることなく網の上に落ちたフェリシアに鶴乃が駆け寄った。

 

「大丈夫フェリシア!?」

「…………ってたよ」

「え?」

「解ってんだよ!!」 

 

 鶴乃の言葉を無視して立ち上がるフェリシア。その瞳に憎悪を宿してウワサを睨む。

 

「とーちゃんも、かーちゃんも………死んだんだ。そんなこと解ってる! 解ってたんだ! でも、でも……! こんなのないだろ! こんなのあんまりじゃねえか!!」

 

 再び突っ込みハンマーを叩きつけるフェリシア。一発で駄目なら2発、2発で駄目なら3発と何度も何度も殴りつけるがまるで堪えた様子はなく、ポワリとシャボン玉のように鼻提灯を飛ばす。

 

「ぐあ!?」

 

 パンと弾けフェリシアを吹き飛ばす鼻提灯。立ち上がろうとしたフェリシアは、しかし腕に力が入らないのか再び倒れる。

 

「な、なんだ……? 体に、力入んねぇ………気持ち悪い」

「まさか、毒!? 鶴乃!!」

「まっかせて!!」

 

 倒れたフェリシアを轢き殺そうと迫るウワサに炎を放つ。無傷で抜けてきたが炎が目隠しになっている間にフェリシアを抱えて跳ぶ。

 

「全然効いてないよ〜!?」

「願いに対して耐性があるな」

「願いに!? どういうこと、貴方は誰!?」

 

 鶴乃の言葉に呟く魔神。鶴乃が訪ね返すがウワサが再び迫り蛙の足を叩きつけてくる。

 

「待って待って! 私わかった、願われる神様と願って生まれる魔法少女! 魔力の質が似てるんでしょ!?」

「そういうことだ。頭の回転が速いな」

「えへへ〜、褒められちゃった」

「なら、どうするのよ!?」

 

 攻撃が効かない仕組みが解ったところで肝心の対応策がわからないのでは意味がない。紗枝が叫ぶ中、魔神はふむと考える。

 

「呪いや穢れだな」

「呪いや穢れって………私達にも、出来るの?」

 

 心当たりがある紗枝が問いかけるも魔神はさぁ? と首を傾げる。

 

『|曾駕神錙鹵驅刈藩露!!|』

 

 不愉快な遠吠えを上げるウワサ。と、絵馬のウワサの大群が現れる。逃がす気はないのだろう。

 

「吠えるな」

 

 逃げ場を無くした魔法少女達に突進してくるウワサに、魔神が呟き人差し指で弾く。パチンとシャボン玉が弾けるようにウワサの身体が破裂し車輪がカラカラと音を立て転がる。

 

「……………え」

「うん。やはり作り物のこの器じゃ無理だな」

『|彝蘇乘箭級詩殀背!!|』

 

 しかしすぐに復活して怒りに身を震わせ魔神……を呼び出したごんべえを睨む。ういべえが慌ててフードの中に隠れた。

 

『|跚座嘛宣御彌亜試耙絽幤炉!!|』

 

 群がる無数の絵馬のウワサ。影に沈もうとするも下から襲いかかってきた絵馬により橋が破壊され、潜れるだけの影が消える。

 

「ちっ」

『|■△●○▲/\!!|』

 

 集団で襲ってくる絵馬の群れに生まれた影から鎖を伸ばし迎撃する。

 

「『誤認』」

『|●○◇□■□▼▽!!|』

『|鶴盧張邊蘇墮齎!?|』

 

 鶴乃の扇子とは異なる通常サイズの扇子を振るうと絵馬がウワサの本体へと襲いかかる。

 が、仮にも神とされるウワサ。自身の配下程度では傷付かず、鼻提灯を飛ばしながら再び新たな絵馬を大量に召喚する。

 再び扇子を振るおうとするも弾けた鼻提灯の粘液が絡みつく。

 

『|▲□■◇△△○\!!|』

「ごんべえ!!」

 

 多少の被弾は覚悟したごんべえ。そのごんべえを突き飛ばす紗枝。咄嗟にソウルジェムは守ったが、高速で飛来した絵馬の群れに吹き飛ばされる。

 

「紗枝! 何してんだ、俺は死なねえの見てただろ!」

「つぅ………そういえば…………しくったなあ。つい」

「……………」

「だって、さ。私が貧乏なの知ってて一緒にしてくれるし…………悪役似合ってないって言ってくれたし。うん、怪我してほしくなかった」

 

 嘗て貧しい、たったそれだけの理由で盗みの濡れ衣を着せられ、誰にも信じて貰えなかった事があった。彼女が仮面を被る所以。

 今日に至っては本当に一時的に裏切った。なのに、似合わないと言ってくれた。

 

「嬉しかった……だから、えっと………お礼には、ならないか」

 

 あはは、と笑う紗枝を見て、ごんべえははぁ、と息を吐く。迫る絵馬達を鶴乃の扇子を取り出し焼き払う。

 

「おい魔神、お前は俺より力を使いこなせるのか?」

「この俺は彼奴が用意した器に入った記憶だ。本来なら力の量はお前の方が上なんだぜ? 使いこなせてないけどな」

「彼奴に対応できる力があれば勝てるか?」

「嗚呼」

「解った」

 

 ごんべえはそう言うとソウルジェムを取り出し、中の穢れを魔神に流す。

 

「…………これなら干渉できる。よく見てろ」

 

 魔神はそう言うと絵馬の間をすり抜けウワサの本体へと触れる。

 

「解析………侵食。反転………消えろ」

 

 ズッと魔神が触れた箇所から黒く変色していき、ボロボロと崩れていくウワサ。大本が消えたからか、魔神の身体も崩れていく。

 

「ほら……」

「………!」

 

 投げ渡されたウワサの核。魔法少女の魂の欠片。

 

「精々足掻けよ? 抗った先に居るのが()だ」

 

 良く解らない言葉を残し、魔神は消え去った。ウワサも完全に消え結界が崩れた。

 

「お、終わったの? あの人は?」

「あれは俺が絵馬に書いた人物だ。中に別のが憑いてたみたいだが」

「あー、とりあえずウワサは解決したんだね? やったー! ほら、フェリシアも!」

「ううん…」

 

 ピョンピョン跳ねる鶴乃がフェリシアとも喜びを分かち合おうとする。穢れが溜まって気分が悪そうなフェリシアは苦しそうに唸っていた。

 

「キュ?」

「あ、ういべえ!」

 

 ごんべえのフードから終わった? と出て来たういべえはそのままいろはの下にかけていく。

 

「ごんべえさん…………来てくれたんですね」

「ああ。悪いがすぐ帰るがな」

 

 と、紗枝を抱えて帰ろうとするごんべえ。と…………

 

「づっ………あああああああ!!?」

「!? フェリシア!?」

 

 フェリシアが苦しげに叫び禍々しい穢が溢れ出し鶴乃を吹き飛ばす。

 穢を纏い浮き上がるフェリシア。その腹を突き破り現れた影が穢れを吸い取り形を成す。

 

「なん、だ………おま…………ぁえ?」

 

 瞳を細め、気を失うフェリシア。そうしてそれは、完全に形をなした。

 

「なにこれ、魔女!?」

 

 腸のような長い身体。分銅の腕。コンクリートミキサーのような顔には空っぽの瞳が金の睫毛を瞬かせる。

 

「ドッペル?」

「貴方、なにか知って………」

 

 ごんべえの背で紗枝が呟きやちよが反応するが……

 

『■■■■■■■■■■!!』

「!?」

 

 ボトボトと泥の涙を溢しながら叫ぶドッペル。今はそれどころではない。

 地面に分銅の蹄を叩きつけると同時に無数の棘が生える。

 空中に逃げた魔法少女達に空洞の瞳を大きく見開く。ゴボッと泥が溢れ…………

 

『■■■■■■!?』

 

 銃弾の雨が降り注ぎドッペルの顔が明後日の方向に向けられる。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 極大の閃光がフェリシアから生えたドッペルを撃ち抜く。ドッペルが消えたフェリシアが落下し、慌てて鶴乃が滑り込む。

 

「セーフ!!」

「フェリシアは大丈夫なの!?」

 

 やちよも駆け寄り、フェリシアのソウルジェムを確認する。砕けていない。どころか、穢れが無くなっている?

 

「神浜には人に化ける魔女がいるのね」

 

 と、降り立った人影がフェリシアに銃を向ける。

 

「ひょっとして貴方が助けてくれたの? ありがとう! でも待って、フェリシアは魔女じゃないよ!」

「……………」

 

 銃口をフェリシアに向けた魔法少女に鶴乃が慌ててお礼を言いながらフェリシアを庇う。

 

「………何だお前、マギウスの翼とか言う奴等の仲間か?」

「…………!」

 

 ごんべえの言葉に魔法少女は視線を向け、目を見開く。

 

「…………そのマギウスの翼というのは、聞き覚えがないわね」

「そうか………」

「………………色々聞きたいことはあるけれど、そういった雰囲気でもなさそうですね」

 

 少女は銃を消しその場から立ち去った。

 

「…………はぁ〜…………戦いになるかと思った」

「そうなったら厄介だったな。彼奴は強いぞ」

「え、ごんべえさんお知り合いだったんですか?」

 

 と、真里愛が驚く。まるで初対面のように接していたのに。

 

「………………」

 

 ごんべえは一瞬だけ遠くを見る。

 

「少し調べて欲しい事があったからな。俺の知り合いと思われると困る」

「ああ……じゃあ、後で伝える時に謝ったほうがいいですよ?」

「伝えるも何も、俺は既に『マギウスの翼について調べろ』って言ったつもりだが」

「………………伝わってるんですか?」

「彼奴ならあれで伝わる」

 

 そう言うと紗枝を担ぎ直すごんべえ。

 

「あ、あのごんべえさん! グリーフシード、ありがとうございました」

 

 と、いろはがグリーフシードを持って走ってくる。穢れがだいぶ溜まったそれを、ごんべえは口に含み噛み砕いた。

 

「!?」

「うええ!? 何してんの!? お腹すいたなら私が万々歳で食べさせてあげるからペッしてペッ!」

 

 初めてその光景を見るやちよと鶴乃は驚いていた。

 

「穢れのエネルギーを宇宙に捨てただけだ」

「エネルギーの回収? それって………」

「記憶を思い出した。俺はインキュベーターのごんべえ………数多の名を持ち、お前等猿どもに言葉と知恵と文明を与えた物。今後とも宜しく」

 

 ベェ、と小馬鹿にしたように舌を突き出すごんべえ。そのまま何かを尋ねられる前に影に沈み姿を消した。

 

 


『魔法少女と共にある』

ごんべえが魔神に願った奇跡。本人曰くテンションが上った故の気の迷い。

願いの結果人の形を手にした。実は男女何方にもなれる。

他にも、実は魔法少女に巡り合いやすくこれまでの出会いは偶然ではあるが必然でもある。

 

 

『誤認』

認識を操作する魔法。

とある王国の姫が他国に嫁ぎ、その国が長く持たないと判断ししかし国民の心を操り支配するのを嫌い、殺される20年以上前に国民達が『私達の死後暫くの間、真実に気付き己を責めることが無いように』と願った。

ごんべえ曰く『未来を見据えていたくせに国を救わず家族を救わず自分を救わなかった最も愚かな女王』『頭の良い馬鹿』。

本人はその評価をむしろ喜んでいた。

『死後暫く』なのは自分の夫や子供達が何時までも悪人として記されぬため。なので名誉が回復しつつある。

エイプリルフールネタ

  • 修羅場不可避? 相棒だらけの魔法少女会合
  • あけみ屋にて、円環の理達の会話
  • 魔法少年たつや☆マギカ
  • FGO世界にてごんべえ世界の偉人達と共に
  • 私は上浜のウワサ「Y談おじさん」

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