「ただいま」
「ごんべえ君! 紗枝を見てないかい!?」
「ここ」
だいぶ夜遅くなった。まだ帰ってこない娘を心配していたのだろう、帰るなり尋ねて来た紗枝の父に背負っていた紗枝を見せる。ここに来る途中完全に意識を失っていた。
「………良かった」
ホッと息を吐く桐野の父。彼の妻も笑みを浮かべ夫の方に手を置く。
「ごんべえ君が見つけてくれたんだね? ありがとう」
「見つけるも何も、俺の手伝いをしてもらったからな」
「…………それは、どういう」
「どうもこうも、そのままの意味だ。手伝ってほしいことがあったから金払って雇った」
その結果、帰るのが遅くなり………顔色も悪い。
「………その仕事を、私達がやることは出来ないかい?」
「…………………………」
その言葉にごんべえは目を細め、紗枝を部屋に持っていき、布団に寝かせる。
「お前達に頼むことなど何もない。大体、仕事あんだろ」
「っ………なら、紗枝と話させてくれないか?」
「無駄だと思うがね」
「どうして」
「俺が金払いのいい雇用主だから」
事実この家に泊まる、そちらの理由でも金を払っている。桐野家の収入はこれまでとは比べ物にならない。
「ごんべえ君、お金が全てじゃないんだ………」
「諭すように語るな。少なくともお前達の娘は、金のためにまた俺の手をとる」
「そんな事は………お金がなくなっても幸せになれる。紗枝も解ってくれる筈だ!」
「…………はっ」
耳触りの良いその言葉を、ごんべえは鼻で笑う。
「解るわけねえだろ。そんな訳がないと知ってんだから。何『私達がその証明だ』見たいな顔をしてやがる」
「!?」
「笑わせるな。何もしていないくせに、何とでもなると思い込んだお前らの代わりになんとかしているのが紗枝だろうが」
「何を…」
「金がなくとも家族がいれば幸せ? その家族を引き裂こうとしているのは何処のどいつだ。守るべきものを守ろうともせず、他人に善意とやらを振りまき娘の労力を無駄にしているのは他でもないお前らだろうが」
詐欺や勧誘に何度も引っ掛かり、困っていると聞けば金を出してしまう。人が良いと言えばまだ聞こえはいいかもしれないがその実ただ考えなしの楽観主義なだけ。
「お前達が家族はずっと一緒、支え合っていくもの、そんなくっそ下らねえ理念を持ってるもんだから、お前等のツケをこいつも払わなきゃならなくなってんだ」
切り揃えられた黒髪を撫でるごんべえは桐野夫妻を睨み付ける。
「個人的に気に入らねえ。自分のガキだろうと他者に己のツケを払わせるのも、払って当然だとかそれが大人だとか思い込むガキも。なあお前等、金がなくても幸せだと? そう思えねえガキがお前等のもとで育った事実を見ろ。自分達が一度も見なかったガキを見ろ」
「わ、私達は………」
「お前等が何も出来てねえから、こんなガキが誰にも甘えられねえんだろうが」
「「…………」」
無言が続く。
ごんべえははぁ、と息を吐き紗枝の頭から手を離し立ち上がると部屋から出る。
「ど、何処へ………」
「さあな」
『桐野さんが盗んだくせに! 嘘ばっかり!』
『人から物を盗るのも、暴力もいけないことなのよ? きちんと反省しなさい!』
『貧乏人は心も貧しいっていうのは本当だった………』
『悪いのは私達を騙そうとした貴方なのよ』
ああ、何時もそうだ。
何時も何時も、貧しいという理由だけで悪いと決めつけられる。
誰も味方をしない。両親も、仕方ないことだと困ったように笑った。
仕方ないって、何? 何で仕方ないの?
悪い事をしてなくても、悪い事をしているって思われることが当然なの?
それが当然なら。そんなものが当たり前なら、自分達は誰にも信じてもらえないじゃないか。
『下手くそな演技はやめろ。悪役なんざ向いてねえ』
ああ、でも。演技は見抜かれたけど、悪人なんかじゃないって、彼奴は信じてくれたな。
「…………んぅ」
目を覚ます。日は………登り切っている。
誰も起こしてくれなかったのだろうか? ああ、休みか。
目下を擦りながら起き上がった紗枝はリビングに向かいふと、話し声に気づく。
「ですからこれを買っていただければ──」
「!!」
またセールスか。完全にここをカモだと認識されている。だが今は自分が居る。
「ちょっと……」
「すいません、お引取りを」
「…………は?」
「………え?」
今のは自分の言葉ではない。父だ。
相手もここが騙しやすいと知っていたのか、明らかに困惑している。
「これ以上、娘に負担をかけるわけにはいかないんだ」
「い、いやですが………」
「お引取りを」
「…………チッ!」
ニコヤカな笑顔は何処へやら。舌打ちして去っていった。
「……………」
「紗枝、起きたのか?」
「あ、うん………」
紗枝に気付いた父が紗枝に近づき、頭を下げた。
「……すまなかった」
「え!?」
「私達は、ずっとお前に甘えていた」
申し訳無さそうに、父は言う。
「ムリに働かなくていいなんて、無責任に言っていた。なんの根拠もなく、安心してくれと言っていた………全部、紗枝が支えてくれていたのに」
「お父さん………?」
「すまなかった。本当は、私達の方こそお前が甘えられる大人になるべきだったのに」
「…………………」
「ってことがあって、しかもその後金融とかセールスとかが一気に摘発されたって聞いたんだけど、あんたの仕業?」
「そうだよ」
カラオケのパーティールームにて集まった魔法少女達。連絡を受け向かった紗枝はごんべえに問いただしごんべえはあっさり肯定した。
冷酒をグラスに並々入れて升の中にまで溢している。
「ただで雇う条件だからな…………ん、んん………ぷはぁ」
冷酒を飲み、烏賊の塩辛を食い、また冷酒。
「って、駄目ですよごんべえさん! それお酒!」
「別に良いだろ。俺もうとっくに二十歳過ぎてるし」
余りに自然に飲んでいるもんだから反応に遅れたいろはが思わず叫ぶがごんべえは気にした風もなく、壁の内線を使い新しい酒を追加する。未成年しかいないこの部屋に酒が持ってこられるあたり、認識操作系の魔法を使っているのだろうか。
「
「報酬貰ってるからネ」
「成人済み………見えないです」
「仮にも魔法に手を出したんだ、常識に囚われるなよ」
いろはの言葉にごんべえは酒を飲みながら返した。
「記憶が戻られたのですか?」
「ああ、やちよといろはと真里愛には言ったな。フェリシアには言ってなかったか………そういやあの後どうした?」
「
家賃が報酬の代わりというわけだろう。
「万々歳でも働くことにしたんだよ〜!」
「まかない飯ってのも出るんだぜ!」
「そうか」
へへん、と胸を張るフェリシアの頭を撫でてやるごんべえ。ういべえも膝に乗ってきたので撫でてやる。
「私もみかづき荘に住むことになったんです」
「そうか。騒がしくすると思うが、宜しく頼む」
「はい!」
ごんべえの言葉にいろは笑顔で返事した。
「………で? なぁんでアタシまで呼ばれたんだよ」
「ごめんね、都ちゃん。桐野さんが、『話すなら都さんも呼んで欲しい』って………」
知り合いが全然いない魔法少女都ひなのの愚痴に真里愛が応える。5年ほど魔法少女をやっているベテランらしく、やちよとも面識があるようだ。
「桐野さんの個人的な集まりはともかく、私は貴方がなんの目的で活動しているのかを知りたいのだけれど」
やちよは何処か敵意を滲ませながらごんべえを睨んでいた。
「記憶が戻って何よりです」
と、ななか。彼女もまた、ごんべえの記憶に興味がありそうだ。
「悪いなひなの、まずはこっちの話が先だ………」
「まあ、別にいいけど。ごんべえだっけ? 男みたいな名前だな」
「まあ男だしな」
「────」
ごんべえの言葉にひなのが固まる。男が苦手………というほどでもないが異性相手に緊張するようだ。
「貴方が本当にインキュベーターなら、性別なんて関係ないでしょ?」
「違いない。だがまあ、昔からどうにも父親として接される事が多くてな」
「インキュベーター?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる数名の魔法少女。
「キュゥべえといったほうが、お前達には馴染み深いか」
そう言ってフードを被るごんべえ。スルスルと縮んでいき、テーブルに乗る一匹の白い獣。
『つまりはこういう事だ』
「え、キュゥべえ!?」
「お前人間に化ける機能があったのか!?」
『ねえよんな無駄な機能。これは契約して得た力…………ん?』
「モキュ!」
ういべえも机の上に乗りごんべえの尻尾に飛びつこうとする。スルリと避けられ机の上を滑る。
「キュウ!」
『後にしろ』
再び迫ってきたういべえを前足で押さえつけそのまま体をのせ抑え込むごんべえ。出ようと藻掻くので、尻尾で顔を撫でてやる。ハムハムと甘噛し始めた。
「か、かわいい…………」
あきらがその光景に頬を染めていた。
「キュゥべえの仲間、というわけですか?」
『不本意なことにな』
ななかの言葉にごんべえは吐き捨てるように呟く。
「不本意?」
『俺達の本体は一つだけだ。端末を通して思考を分割されてるが、その事実は変わらない。だがその端末に極稀に異常が起こり、精神疾患を患うことがある』
「精神疾患?」
『お前たちの言葉で言う『感情』を持つことだよ。俺は感情を持っていた。だから勝手に頭の中を覗き見してくる先輩方が大嫌いだったのさ』
ういべえが噛んでいるので揺らすことはできず、僅かに震わせる尻尾。キュゥべえって感情ないの、と何人かが困惑した。
「『言葉と知恵と文明を与えた
『そのまんまの意味。俺はまだ猿だった頃のお前等に簡単な鳴き声による意思疎通、道具の作り方に芋の埋まってる場所、家の作り方を教えてやった』
その子孫が今の人類。他にも幾つかの類人猿を育てたが、生き残ったのは今の種族。結局、同じ存在を神として崇めながら何時しか自分達だけの神を持ち手を取り合うことはなかった。
『まあんな過去はどうでも良い』
机の上から飛び降り一回転。人の姿に戻り座り直す。ういべえが肩に飛び乗った。
「本来俺はあくまでもインキュベーターの一部。魂を持たぬ故に契約なんて出来ないんだが、ある存在が俺を奴等から切り離し魂を与え、契約した」
「ある奴?」
「詳しくは知らん。まあ自分と似た境遇の俺に同情して個を与えた奴が居るとでも思ってくれ」
疑念の目を向けるやちよやななかなどの視線、ごんべえは気にもとめない。
「………貴方の目的は何?」
「元々の目的は話し相手作り。人間はそのために育てたが………どこで間違えたのか欲深く浅ましく育っちまった。それでもまあ、種として見れば愚かでも個々で見れば面白い。だから人間に関わり続けた、簡単だろ?」
「人間は、貴方達の玩具なんかじゃないわ」
「お前は玩具と話すのか? 存外少女趣味だな」
「な!!」
敵意を向けてくるやちよに、やはり気にした様子もなく返すごんべえ。
「まあ俺が人類の敵なのは否定しねえよ。つい最近も契約してたからな……どういう訳か、全部教えてやったのにどっちも他人のため………片方に至っては猫の傷を治せなんて願いやがった」
サンドイッチに齧り付くごんべえ。肩のういべえが勝手にハムを引っ張る。一部をちぎって渡してやる。
「………全部教えた?」
何気なく呟かれた言葉にやちよは目を見開いた。
「俺の方針。全部教えた上で契約を持ちかける」
「……………何故、ですか?」
そう尋ねたのはななか。困惑している。インキュベーター……キュゥべえに疑念を持っていたからだろう。
「どんな奇跡でも叶う対価として不当だと叫ぶ奴が多いからな。双方の認識をあらためて契約した方がいいだろ? 少なくとも俺はそうする」
「……………そう、ですか」
「…………ごんべえさんは、寂しかったんですか?」
唐突に、なんの脈絡もなく尋ねるいろは。ごんべえはその言葉に目を細めた。
「あ、えっと………だから私達を育ててくれたし、良く解りませんけど、魔法少女の全部を話してくれるのかなぁって」
「…………まあ、数百万年生きてダチが出来たのは数十万年前だからな」
思っていた以上に長生きだった。本当に人類の誕生以前から見守っていたのか。
「とはいえ今はインキュベーターの繋がりから開放されたんだ。俺個人として動くさ………取り敢えずはマギウスの翼とか言う連中だな」
「ああ、マギウスの翼? それって黒い連中か?」
と、ひなのが反応した。
「黒くて沢山いるゴキブリみたいな連中だ。知ってんのか?」
「おう、誘われた。胡散臭いから断ったけどな」
「へー、そんな人が。フェリシアはないの? 傭兵なんでしょ?」
「んー、ねえな」
「まあ、フェリシアさんは仲間にすると暴れそうですからね」
「なんだと!?」
鶴乃の言葉にフェリシアが返すとななかはフェリシアが何処かの組織に所属した場合を考えて思わず呟いた。
「現状顔が分かってんのはこの三人だな」
と、ごんべえがスケッチブックを取り出し3枚千切り取り机に並べる。天音姉妹とみふゆが描かれていた。とても上手い。
「あー! みふゆ! ねえねえごんべえ、何処にイたの!?」
「落ち着け」
鶴乃がみふゆの絵を見てごんべえを掴み肩を揺らしてくる。まずは昨日の出来事から話すことになりそうだ。
ごんべえと魔法少女最後の別れの台詞幾つか抜粋
『さようなら、インク。愛しているわ、何時か地獄に私を見つけに来て』
『私はこれ以上救われようなどと思いません。リズが託してくれた、あなたが導いてくれた。この死が、そんな奇跡の対価だというのなら、私は幸せなんです』
『最期に………最期に一度だけ、お父様と呼ばせてくれませんか?』
『もうとっくに魔女みたいなものよ。少女なんてとうに過ぎて、沢山の人を働かせ殺してしまった。だからこれでおしまい。さようなら、私の天使様』
『私は今も国民を愛しているわ。子供も愛している。夫も優しい人だもの、初めてあったその日から誰よりも愛している。でもね、私が恋をしたのは一人だけなの』
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