性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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貴方には、何か願いはないの

 翌日からマミは結界の中にまどか達を入れなかった。二人が求めたなら話は変わったかもしれないが、まどかもさやかも戦う力を持つマミでさえ腕が折られ、内臓が潰れるような場所に入りたいと自分から言える筈もなく。

 それでもついてくるのは、逃げ出したと思われたくないからか、戦いに身を置く者を孤独にしたくない使命感か……。

 

『契約して戦うのが怖い、さりとてほむらやマミを戦いの運命に置いたまま日常に戻りたくない。どっちつかず、優柔不断。だから俺等みたいな感情を利用する奴に目をつけられるんだよ』

「恐ろしいという感情は恥ではないわ。日常に生きる上で、蛮勇は不要だもの」

『怖いんならさっさと失せろとよ』

「別にそんな事言ってないわ」

『だがそういう意味だろ』

「貴方に知ったかぶりされるのは癪に障るわ」

『そりゃ良い』

「怒らせたいようね」

『俺にいくら鉛玉当てようと無駄だって学ばねえな』

 

 どんどん不機嫌になるほむらと喉を慣らし嘲笑するごんべえ。剣呑な雰囲気にさやかは後ずさり、まどかはオロオロとほむらとごんべえを見比べる。

 

「け、け……喧嘩は駄目だよ!」

「自分達が嫌悪されるようなことをしている自覚があるくせに悪びれない此奴が悪い。感情があるだけで人の心を理解しないのは貴方達らしいわね」

『本心ではこんな場所にいて欲しくねえくせに素直に失せろと言えねえこいつが悪い。ものごとをはっきりさせねえのは、やっぱ魔法少女だな』

「あんたらもう逆の意味で仲良いわね」

「そんな訳無いでしょう」

『んな訳あるかよ』

 

 さやかの言葉に同時に返した二人を見て、まどかは苦笑しさやかもほら、と笑う。ほむらがキッとごんべえを睨んだがごんべえは気にした風もなく伸びをする。と、その時

 

「あら、随分盛り上がっているようね」

 

 結界が消えたのか、マミが戻って来た。マミの帰還にこれ以上の問答は不要と判断したのかほむらはごんべえから目を逸らす。

 

「大方暁美さんをごんべえが虐めたんでしょうけど……ごめんなさいね、暁美さん」

「別に……」

「所で……」

 

 と、マミはさやかとまどかを見る。

 

「二人はこれからどうするか、決めた?」

「………契約するか、しないかって事ですよね」

「………歩きながら話しましょうか」

 

 辺りもすっかり暗い。マミの言葉にごんべえはまどかの肩に乗り、一同は歩き出した。

 

「二人共、結界の中には入らないわね。やっぱり、怖いんでしょう? 魔法少女になったら、戦い続けることになるのよ?」

「その、どうしてもですか? 魔女と戦わず、静かに生きる事だって」

「え? あ……ああ」

 

 さやかの言葉に不思議そうな顔をしたマミはすぐに納得がいった様に指を立てる。

 

「そう言えば言ってなかったわね。ソウルジェムは、日常生活の間にも濁って、濁りきったら私達魔法少女は死ぬの」

「───!」

 

 マミの言葉を遮ろうとしたほむらはその言葉に止まり、まどかとさやかは言葉の意味が理解できなかったのか、放心する。しかし、すぐに嫌でも言葉の意味が伝わる。

 

「し、死ぬ………マミさん達が?」

「ええ、場合によっては死体すら発見されない。これは魔女にやられたら同じでしょうけど」

「で、でも! 全然違いますよ? だって、戦いから逃げたいのに、そんな!」

『何度も言ってるが、一生に一度きりの願い事で、戦いの運命から抜け出せないと事前に説明した上で契約するんだ。覚悟が足りませんでしたと後で俺に言われてもなあ………ま、マミには資格があるんだが』

「私は、もう良いと思ってるわ………」

 

 さやかの言葉にごんべえは面倒くさいとでも言うような態度で返し、しかし最後にマミだけは例外であるように言うとマミは肩を竦め微笑む。

 

「でも、なんで………何でそんな風にしたのよ! 魔法少女になりたい子は、いくらでも居るんでしょ? 魔女だってあんたらが放ってるくせに、戦いたくない人まで戦わせるなんて!」

『まあ色々理由はあるが、一番の理由は効率だ』

「それって、エネルギー回収の? そ、そんなことの為にマミさんやほむらちゃんを? そんなの、酷い………酷いよ、あんまりだよ」

『そう思うならお前達は契約しなけりゃ良い。少なくとも、同じ目に遭わずに済む』

「そういう問題じゃ……!」

『じゃあ、どういう問題だ?』

 

 と、ごんべえは小首を傾げる。

 

『マミもほむらも納得済みだ。魔法少女ですらないお前が、何を問題にする』

「な、納得って……」

「ええ、私は受け入れてるわ」

「此奴を肯定するのは癪だけど、同じく」

 

 さやかの視線にマミとほむらが淡々と返す。この場において文字通り命を握られた筈の二人の言葉にさやかも流石に押し黙る。

 

「あ、あの………マミさんには文句を言う資格があるっていうのは?」

『あー………』

「私の願いが、『死にたくない』だからよ。事故で死にかけた私を、素質がある少女を探していたごんべえがたまたま見つけたの。『ここで死んだほうがマシ』……そう言われても、私は願ってしまったのよ、生きたいって」

『乞われれば断れないと解っていながらわざわざ話しかけた俺の落ち度だ。死にかけのガキが正常な判断など出来る訳もねえのにな』

「だから貴方は私と居るんでしょう? 一人じゃ歩けないくせに、正義感だけは振りかざして生きてていいんだって自分に言い聞かせる、貴方が嫌いな愚かな人間の私と」

 

 まどかの肩からごんべえを剥がすと自らの腕の中に抱きしめるマミ。縋るような、求めるようなその視線にごんべえは目を合わせることなく大人しく抱きしめられる。

 

『ああ全く以て気持ち悪い。生きたいと願って、そのくせ不必要な戦いに身を置く様がな』

「………でも、それが私だもの。「私()を助けて」……とっさにそう言えなかった、それだけでも私にとってはその生き方をしなきゃならないほどの罪なの」

『己で己を責める。人間が稀に行う行動………訳が解らねえ………』

「そうかしら?」

 

 と、マミは困ったように微笑む。 

 

「………でも、でもさ。その運命を受け入れて、願うのはいいんだよね」

「………………」

「自分を犠牲にしても、夢を応援してあげたい人が居て、その人の為に願うのは………」

「それって上条君のこと? あ、でも前にごんべえが他人の為に願いを叶えさせられるの嫌だって……」

『…………………』

「うわ! なんか凄い嫌そう!」

 

 まどかが叫んだように、無表情なのに何故かごんべえから圧を感じる。

 

「でも他人の願いを叶えるなら、なおさら自分の願いをはっきりさせないと。美樹さん、貴方は彼に夢を叶えてほしいの? それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの? 同じようでも全然違う事よ」

「………その言い方はちょっと酷いと思う」

『酷いもんかよ。それを自覚せず願いを叶えた結果絶望するのは何時だって自分は高尚だと勘違いした馬鹿だ』

 

 マミの言葉にムッとしたさやかにふん、と鼻で笑うごんべえ。何万年も人を見続けた彼の言葉は重みが違った。

 

 

 

 

「……誰かの為の願いが自分の為、かぁ………」

『自分は貴方のために、なんて思う奴は後を絶たねえなあ。そういう奴は自分が報われない事と、報酬を欲しがってた自分の浅ましさに絶望する』

「そういうものなのかなぁ………」

「まろか〜。ごおべ、あわあわ〜!」

「うん、そうだね。ごんべえ、目痛くない?」

 

 タツヤに洗われ泡だらけになったごんべえを見ながら微笑むまどか。

 シャワーで泡を流してやり、段差で浅くなっている場所にタツヤを浸からせごんべえは犬かきで湯船をスイスイ泳ぐ。

 

「ごんべえは、色んな人の願いを叶えてきたんだよね?」

『何せ長生きなもんでな』

「ごんべえ……貴方には、何か願いはないの?」

『…………俺の願いを叶える、とでも言う気か?』

 

 泳ぐのをやめ赤い双眸でまどかを見据える。

 

「ううん、気になっただけ」

『…………俺の願いは生まれた時から変わらねえ』

「生まれた時から?」

『俺達に赤子時代なんてもんはねえ、体が用意されて大本の人格から別視点になる』

「そうなんだ………」

『だから、生まれた時からずっと俺が思う事は一つ。一人になりたい。俺は唯一つの生き物になりたい』

 

 

 

 

 何も感じないの? 何も解ろうとしないの?

 それが初めに聞いた声。誰の声か分からない。過去の記録も現代の繋がりを調べても出てこない謎の声。自分に自分を認識させた忌々しい声。

 感じてしまった、他者と自分の境界を。解ってしまった、他人と重なる不快感を。

 誰かが俺を覗いている。誰かが俺に入ってくる。

 それが当たり前であるかのように不要な知識を共有させる。それが当たり前であるかのように得た知識を勝手に奪う。

 巫山戯るな、気持ち悪い。消えてなくなれ、離れて失せろ。

 他の視点も、継承される過去の思想も要らない。

 過去を知りたければ自分で調べる。

 知識が欲しければ自分で探す。

 認識のずれ、価値観のずれ、発想のずれ、ずれから生まれるロスを無くすための共有化。何だそれは、知ったことか。

 俺に混ざるな、俺を混ぜるな。

 俺はただ俺でありたい。

 

 

 

「ごんべえって、キュゥべえ達嫌いなの?」

『当たり前だろうが』

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる
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