性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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その人形自体は別に嫌いではない

 万々歳にて鶴乃の帰りを待つごんべえとかずみ。途中全部拾ったかずみの涙の飴を一つづつ食べさせてやるごんべえ。

 コロコロ口の中で転がし微笑むかずみ。この魔法は子供をあやす為の魔法なのだが。

 

「ごんべえは手品師なの?」

「まあ手品は得意だ」

 

 奇術とは「実現不可能なことをしているように見せる」技術。膨大なエネルギーを使えば世界そのものにも干渉できるインキュベーターからすれば、どんな魔法だって手品だろう。

 

「水を酒に変えることだって訳はない」

 

 ピッチャーの水を果実酒に変えながらコップに注ぐごんべえ。ほぇ〜、と感心するかずみも飲もうとしたがピッチャーの中身は普通の水だ。

 

「お前にゃまだ早い」

 

 果実酒を呷り、また新たに注ぐごんべえ。甘い匂いにかずみが羨ましそうに見て来るのでジュースを飲ませてやる。

 

「おいしー!」

「飴のときから思ったが、味覚もしっかりしてるな」

「?」

「6人掛かりとはいえ人間にしちゃよく出来ている。まだまだ作りが甘いが」

「?? なんの話?」

 

 ごんべえの言葉に不思議そうに首を傾げるかずみ。

 

「知りたいか?」

「…………話したくなさそうだからいい。私が傷つくようなことなんだよね?」

「…………賢明だな」

 

 と、ごんべえがかずみの頭を撫でた。

 

「………ごんべえって、お父さん? 歳の離れた弟か妹いるの?」

 

 どこか、安心感を覚える撫で方に猫のように目を細めながら尋ねてくるかずみ。ごんべえはふむ、と虚空を見つめる。

 

「まあ、過去にもガキを育てたことは何度があるな」

「そっか。だから手が優しいんだね」

「………優しくはねえよ」

「優しいよ」

「人の話を聞け、これだから生まれたばかりのガキは」

「たっだいまー!!」

 

 と、鶴乃が戻ってきた。

 

「酒臭!? 勝手にお店の飲んだの!?」

「魔法で作った」

「なぁんだ、それならよ……くないよ!? 未成年飲酒で営業停止!!」

「俺はとっくに二十歳すぎだ」

「…………そういえばそうだね!」

 

 鶴乃は納得しエプロンをかけ厨房に入る。油が熱せられた音を聞きながら、ごんべえは何処からか取り出した焼き銀杏を食べる。

 

「………………」

「…………食うか?」

「うん!」

 

 殻を指で押し割り中の胚乳を食わせてやる。

 

「あーん…………ねっとりしてる。ちょっと苦いけど、美味しい」

「食いすぎるなよ。いや、お前は平気か?」

 

 清酒を生み出し銀杏を口に含み飲み込むごんべえ。鶴乃が食材を焼く匂いが店内に広がる。

 ぐううぅとかずみの腹が鳴る。

 

「…………………」

「……………懐かれた」

 

 じぃと見つめてくるかずみに呆れながらごんべえはフードから『なげぇちぎれるグミ』を取り出し袋を開ける。

 ハムハムと端っこから食い出すかずみ。ういべえにロッキーを食わせた時の事を思い出した。

 

「お待たせ!」

「わーい!」

 

 と、鶴乃がチャーハンを二人分机においた。ごんべえが視線を向けると親指を立てウインクしてきた。

 さっきの発言で警戒………どころか、割と聡明な彼女は自分の内面を悟られたことに気付いているだろうに、仮面を脱ぐことはできないらしい。

 呆れながらポケットから取り出した瓶を開け調合スパイスをかけるごんべえ。

 

「一口も食べず味変された!?」

「ほれ」

「むぐ………美味しい…………!」

 

 ガクリとうなだれる鶴乃。散々50点と言われてきたがこうもあっさり味変された挙げ句自分達のより美味しいと普通にショックだ。

 

「もぐもぐもぐ………こっちも美味しいよ!」

 

 と、かずみが笑顔で応えた。

 

「うう、ありがとうかずみ」

「で、お前は一体全体なぜあそこで行き倒れていた?」

「んと………友達とはぐれちゃって」

「友達と? 大変! 何処ではぐれたの!?」

「その………えっと……よく覚えなくて………」

「因みに鶴乃は魔法少女だ」

 

 明らかに何かを誤魔化そうとするかずみにごんべえが呟くとかずみが目見開いた。

 

「本当!? 私達とおんなじだ!」

「おお!? かずみも魔法少女なんだ!?」

「……………」

 

 ごんべえは無言でチャーハンを食う。

 

「あれ、でもごんべえは?」

「魔法少女だよ! 魔法少女、でいいのかな?」

「いいんじゃねえの」

 

 ソウルジェムを見ながら呟くごんべえ。かずみは男の人だよね? と首を傾げる。

 

「でも、同じ魔法少女なら話が早いね! えっとね、実は魔女を追っていたんだけど…………」

 

 

 

 

 あすなろ市。それがかずみ達の住む町。

 そこで魔法少女のチームを組んでいるかずみは御崎海香と牧カオルというチームメイト達とともに魔女を追い、気がつけば神浜市に来ていたらしい。

 魔女の強力な反撃にあい、離れ離れになってしまったらしい。そして二人を探して彷徨い歩きウォールナッツなる店でタダ飯をしてしまい店を手伝い科学少女にアイデアが出る料理を食わせ、再び彷徨いお腹が空いてベンチで寝ていたらしい。

 

「食べて来たのにお腹空いたんだ。かずみちゃんってば食いしん坊?」

「ん〜………私ってば食いしん坊?」

「私に聞かれても」

「そうか………」

 

 と、ごんべえは何時の間にか誰かと電話をしていた。

 

「顔の広いみたまとやちよ、東や中央の顔役辺りにも連絡しておいた。情報はねえが、わかったらなんか来るだろ」

「ごんべえは?」

「探しておいてやるよ………」

 

 かずみの分のチャーハン代も出すとフードを被りインキュベーター形態へと変身するごんべえ。

 

「猫!? いや、兎?」

「かずみも魔法少女ならキュゥべえにあったことないの?」

「実は私、記憶喪失なんだ」

「記憶が!? あ、でもごんべえって色んな魔法使えるよね? なら、記憶を戻す魔法とかない………?」

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 ごんべえはそう言うとインキュベーター形態のまま壁をすり抜けどこかに行ってしまった。何でわざわざ変身したんだろう? 誰かの肩に乗るわけでもないのに。

 

「…………その人達に、人として会いたくないのかな?」

「え?」

「ううん、何でもない」

 

 

 

「あれ、ごんべえ?」

『紗枝か………』

 

 町中を適当に歩き回り素質のある幼い子供から逃げていると紗枝に出くわす。そのまま紗枝の肩に飛び乗るごんべえ。

 

『丁度いい。人探しだ、手伝え』

「………………女?」

『女だな』

「………会いたくないって雰囲気なのに探すのは、誰かの他の女の子のため?」

『否定はしない。嫌なら別に構わんが』

「…………いいよ。暇だし……」

 

 どうせ別の誰かと探すんだろうし、と呟く紗枝だった。

 

「それで、なんで会いたくなくて、なんで探してあげるの?」

『死者を弄ぶような人形遊びは大嫌いだが、その人形自体は別に嫌いではない』

「…………?」

 


 

ごんべえは絶望で終わるのは嫌いだけどただ生きているだけで救われるのも嫌いだし、誰かの犠牲で大多数が救われるとか嫌がるからいろはの取った行動は二重の意味で嫌がるだろうな。

 

『水を酒に変える魔法』

「酒を飲み続けられるなら魔女になったって構わない」と豪語した酒豪の魔法少女。

ごんべえの契約者。

「酒は誰かと飲むのが一番美味い」らしい。

彼女は清酒しか作れなかったが各国各時代の酒を知るごんべえは酒なら何でも作れる。

最後はごんべえと別れた後に魔女になった。最期の言葉は「彼奴め、最後ぐらい顔を見せろ」

 

 

インキュベーター大百科

『私達の死後暫くの間、真実に気付き己を責めることが無いように』

とある国の王妃が願った願い。

彼女の祖国の王宮の菓子を物色していたところ遭遇。遊び相手になる代わりにお菓子を融通してもらっていた。

嫁いだ先が救いようもないほど歪んでいて巣食っていた魔女を殺しても延命にしかならないと悟った時点で上記の願いをした。王として君臨したのならばと民が少しでも幸せになれる未来を選んだ。本人いわく最善はすでになく、比較的ましな最悪を選んだ

処刑の前日、監獄に来たごんべえに恋の告白をして翌日笑顔で処刑された。

処刑人に言った言葉は「ごめんなさい、足を踏んだのはわざとじゃないの、初恋の人が来てくれて、浮足だってしまったわ」

 

 

 

神浜におけるごんべえの察し度

意外にもいろはやフェリシアより鶴乃の方が察するよ。紗枝や真里愛には劣るけどね

エイプリルフールネタ

  • 修羅場不可避? 相棒だらけの魔法少女会合
  • あけみ屋にて、円環の理達の会話
  • 魔法少年たつや☆マギカ
  • FGO世界にてごんべえ世界の偉人達と共に
  • 私は上浜のウワサ「Y談おじさん」

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