性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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一旦ただの女子中学生として

「ごおべ、まろか、あぁさ、あさぁ………」

『ハイハイおはよう』

「あーい♪」

 

 グィと伸びをして尻尾でタツヤの頬を撫でてやるごんべえ。まどかも目を擦りながら起きた。

 

「おはよータツヤ、今日は早いね」

「まろか、おそいー!」

『だとよ』

「もう、ごんべえだって起きてなかったくせに」

 

 一人と一匹はベッドから降りるとごんべえが外に出る。着替えて出てきたまどかの肩に飛び乗るとタツヤと共にリビングに向かった。

 途中、鹿目姉弟で詢子を起こしごんべえはテレビの前のソファに寝転がる。

 

『政治家の汚職か。何時の時代も一定数現れるもんだ。しかし自殺とは……子供の事を考えねえ奴だ』

「まどか、ここに置いといた母さんの柿ピー知らない?」

「え、あ〜………」

『ん? 美国?』

 

 ポリポリと柿ピーを食べながらテレビを見ているごんべえを見て、まどかは苦笑する。

 

「ごめん、知らない」

「そうか……ここにおいたと思ったんだけどなあ」

(もう、ごんべえ……)

『どうせ食うのは夜だろ。金ならある、渡すから帰りに買ってくれ。明日の俺の分もな』

 

 ごんべえの背中がパカッと開く。拾った小銭がためてあるらしい。偶にお札も拾うらしく、何なら歴史的価値のある旧時代の貨幣も使い時を逃し取ってあるらしい。

 

 

 

 

 

「魔法少女狩り?」

『上から連絡があってな。と言っても、今の所人命被害は出てねえ。魔法少女相手に暴れてるってだけらしいが』

 

 昼休み。魔法少女と候補の二人と共に屋上にて弁当を広げ、ごんべえが切り出した言葉にマミがごんべえの背を撫でながら問い返した。

 

『見滝原からも近い。お前達がそうかんたんにやられるとは思わねえが、タイミングがな』

「タイミング?」

『この学校の魔法少女が契約したのと時期が合う』

「? この学校なら、ごんべえの契約相手じゃないの?」

『いいや、先輩だ』

「っ! キュゥべえが?」

 

 キュゥべえが学校に来たと聞き顔色を変えるほむら。マミも僅かに目を細める。

 

『メリットデメリットに関しては俺から伝えてはあったが……』

「その上で、その人は契約したのね……でも」

『何でわざわざ先輩が来たか、だな。特別優れた資質を持ってたわけでもねえ』

「鹿目さんなら解るけど……」

「え、わ、私?」

 

 突然の名指しにまどかが食べようとしていたタコウインナーをポロリと落としごんべえが床に落ちる前に額で弾き弁当箱に戻した。

 

『俺たちにノルマはあれどすぐに契約、ってのは基本はねえ。相手の同意もいるしな』

「だから契約数が少なくても、ごんべえの担当区域にキュゥべえが現れることは少ないわ」

「少しはあるんだ」

『魔女狩り率こそ高いものの本命のエネルギー回収方法も次点の願いを叶える回数が少ねえからな、俺。俺のノルマは先輩方のノルマ、先輩方のノルマは俺のノルマではあるんだが、場所に対して数を揃えようとするんだよアイツ等』

「それでもたまにしか来ないのだけどね。ただ、鹿目さんの魔法少女としての力が高くて、エネルギーが多いのは前に言ったでしょ?」

「アイツ等は効率を一番に考える。まどかとは、何としても契約したい筈よ………そいつは違うみたいだけど」

 

 マミに毛をすかれているごんべえを見ながら言うほむら。

 

「……ねえマミさん、ほむらちゃん」

「何?」

「どうかしたの?」

「………二人が隠してる、契約する気になったら教えてくれるエネルギーの回収方法、最後の一つって……ソウルジェムが穢れきった時?」

『正解』

「っ!!」

『俺を睨むな。てか、予想は出来たろ……』

「う、うん。ソウルジェムが濁りきったら、死んじゃうって………それに、ごんべえも効率って言ってたし。でも、その……戦わなきゃ死なないとしても、だからって戦い続けられるのかな、って……疲れて、もういいやってなる人もいるんじゃないかなって……」

 

 数多く契約していればそれも心配はないだろう。だけど、マミとほむらが隠そうとする程の、それを聞けば躊躇うほどの残酷な真実が何なのかと考え、その死すら利用されるのではと予想したのだが、あっていたらしい。

 

「………あんたらほんと、あたし等の命宇宙の電池にしか思ってないのね」

『それが嫌なら契約しなきゃいい。そうすりゃ一生命として見てやるよ』

 

 さやかの言葉に悪びれる様子のないごんべえ。

 まあ彼の説明を聞いて、それでも契約に踏み込むならそれは確かに自分で電池扱いしてくださいと言ってるようなものだ。

 

「あたし等としては助かるけどさ、そんな説明しちゃうから契約取れないんじゃないの? いや、取る気もないんだろうけど」

『別に違反してる訳じゃねえ。聞かれたら答えるが聞かれなかったら絶対言うなってわけでもねえしな』

 

 契約できないのはやり方の問題でルールを破っている訳ではない。そもそも騙すという事を理解出来ない。騙されたとしても認識に相違があった、嘘を吐かれても何故嘘をついてまで得を得ようとするのかがわからない、そういう存在なのだキュゥべえ達は。

 

『しかし自力でその答えにたどり着くとはな。褒めてやろう、40点だ』

「え、あ……ウェヒヒヒ」

『うわ気持ち悪』

「酷くない!?」

「100点じゃないの?」

 

 まどかの額を肉球でポニポニしてやっているとさやかが尋ねてくる。マミとほむらなら百点満点の答えを知っているのだろうかと見れば二人共答える気はないようだ。

 

(いっそ、正直に話した方がいいんじゃないかしら?)

《それはそれでまどかがこれ以上誰も魔女にならないようにって願う可能性があるからな。その場合、現在のシステムにどんな影響が出るかわからん。行き場を失った穢がガワは魔法少女のまま魂を魔女、なんてのになるかもな……てか、実際過去似たような事例あったし》

(初耳ね。どうなったの?)

《タルトとリズで倒した。ま、犠牲が出たがな》

 

 ほむらの言葉にごんべえがそう返すとマミの膝から降りる。深くは聞くな、そういう事だろう。

 

「何々黙り込んで、テレパシーで内緒話?」

「ええ、貴方達が知る必要のない事だもの」

『世の中には知らねえ事にキレるやつも居れば、知ってしまったそれ自体にキレるやつもいるからな。「こんな残酷な真実知りたくなかった」……ってな、自分から聞いといて』

 

 さやかの言葉にファサ、と髪をかきあげるほむらに尻尾を揺らすごんべえ。やっぱりこいつ等仲が良いのでは?

 

「それで、この学校から出た新しい魔法少女の名前と容姿、魔法は?」

『呉キリカ。願いは……あー………「誰よりも優れた魔法少女になりたい」、だな………この場合当然エネルギー回収向きの…………感情的な性格になる可能性が』

(基本的に前向きになるって事ね……でも、真実を知ってるのなら………)

《知ってても自分なら大丈夫と思って、そのぶん深く絶望する奴だって多いんだよ》

(美樹さやかがそのタイプね)

(暁美さん、美樹さんへの評価だけ低くない?)

 

 マミは呆れたように肩をすくめた。

 

『ま、そういう願いだから魔法は速度低下……相手を遅くする魔法だ。あくまで犯人候補だが、警戒はしておけ』

「ええ」

「解ったわ」

『と言う訳で俺は暫く別の仕事だ。感情を持つ者視点で探ってこいって上からのお達しでな。その間先輩が来る可能性もあるから、ほむらはまどかとさやかとなるべく一緒にいろ』

「え、私も? まどかだけじゃなくて?」

『お前魔法少女にするの簡単そうだからな』

「簡単に目先の人参に飛びつきそうってことよ、それが毒入りと聞かされていても自分なら上手くやれるって勘違いして、ね………」

 

 やっぱり絶対仲がいいだろ此奴等、とさやかは思った。

 

「丁度いい機会だし、魔法少女体験は一旦打ち切りましょう。どうせ最近は結界前までついてくるだけだし」

「あ、ならほむら、マミさん! 遊びに行きましょうよ!」

「え?」

「何故?」

「あたし等ってぶっちゃけ魔法少女と魔法少女候補としてしか繋がりないじゃないですか。んでほむらがあたしにあたりキツイのって魔法少女関係が理由っしょ?」

「…………魔法少女にならないと言うのなら私が貴方に思う事はないわ」

「だからさ、一旦ただの女子中学生として交流を深めようってと思いまして」

 

 さやかの言葉にまどかも「それ良い!」と賛同する。ほむらはマミを見るがマミはにっこり微笑んだ。止める気はないらしい。

 

「良い機会じゃない、貴方も私も友達いないし」

「貴方と一緒にしないで、私には親友がいるもの」

「私だってごんべえと親友だもん。最近鹿目さんに付きっきりだけど………」

 

 

 

 

 

 

「えー……なにこれ、夢じゃないよね……?」

 

 五郷工業跡地にて、親友の浅古小巻の妹である小糸から聞いた小巻が夜遊びしていると言う話の真相を探るべく小巻の現在地を調べやって来た行方晶(なめかたあきら)は壁に隠れながら、繰り広げられる非現実的な光景にそんな言葉を絞り出す。

 ポールアックスを振るう浅古小巻に黒い鉤爪を振るう黒髪の少女。どちらもまともな格好ではなく、強いて言うなら魔法少女のコスプレ。ただし響く金属音、破砕音がそれは決してただの偽物などではないと自覚させる。慌てて警察に連絡するつもりが小糸にかけてしまった。

 

「あー、もう! 何が願いは叶うだよ!? 全然駄目じゃん! 何でお前強いんだよ!」

「あら、強さでも求めたのかしら? だとしたらお笑いね、そんなもので手にした力に本物が宿るわけ無いでしょう!」

「とと! くそ、あの偽物め!」

 

 黒い少女は苛立ったように叫ぶ。今の所、小巻が優勢のようだ。黒い少女をドーム状のバリアーに閉じ込める。

 

「くそっ閉じ込められた!」

「動きは速くても頭は鈍いわね。アンタの爪じゃ盾は壊せない。(結界)ごと粉々にしてやるわ!」

 

 結界に閉じ込められた黒い少女に突っ込んでいく小巻。多分、彼女の勝ちだろう。

 

『晶さん? どうかしたんですか?』

「あ、と……いやいや何でもないよ。ほんと、何でも……」

 

 何でもあるがそれは後で小巻に聞くとして………

 

「きゃああああ!!」

 

 と、聞こえた悲鳴は小巻のもの。慌てて振り返ると地面から飛び出した爪の連なった鎖のようなもので肩を切られ地面に落ちる小巻が見えた。

 

(なんだよこれは! 超能力? 魔法? そんなアホな!)

 

 夢のような光景。だけど、夢だとしても小巻が傷付く姿など見ているだけで気分が悪い。彼女は自分を助けてくれたヒーローなのだ。

 

「キミ厄介だ。でも、私が勝った。勝った! 勝ったああ! そうだよ、そうだとも! 私の方が強い、私の方がすごい! 巴マミより! 鹿目まどかより! きっとあの人も認めてくれる! 褒めてくれる! また一緒にいてくれる!」

 

 狂愛。そんな言葉が浮かぶ。熱に浮かされたように頬を染め、目の前の小巻などもう微塵も興味ない。なのに突然冷静になり小巻を見据える。

 

「ま、それはそれとしてグリーフシードは貰ってくよ。暫く戦えないぐらいにも痛めつける。ソウルジェムが濁りきれば、お前なんかでもあの人の役に立てるからさ」

 

 ルンルンと陽気にステップを踏みながら小巻に近付く黒い少女。警戒しているのかある程度の距離を取ると再び爪を連ねた鎖を生み出す。

 

「元々足は遅いし、うざったい腕からだ!」

「───っ!!」

『晶さん? あき…』

 

 晶は携帯を放り投げ駆け出す。ずっと決めてた事がある。

 命を助けられたから、無茶ばかりするこの友人の為に、一回ぐらいは頑張ってみようと。

 

「小巻!」

「晶……?」

 

 駆け寄ると同時に鎖が振り下ろされる。人の身も鋼鉄すらも切り裂く一撃がただの少女に迫る。黒い少女が気付くも、遅く。

 

「うっ!?」

 

 と、不意に何かに突き飛ばされる。重くはないが、軽いとも言えない衝撃によろめき同時に脇腹に熱を感じる。体から力が抜け地面に倒れ、湿った感覚。

 

「晶! キュゥべえ!?」

 

 小巻の叫びが聞こえる。そんな叫ばなくても聞こえるって。

 

「な、あ……なん、なんで…………ちが、私そんなつもり………」

 

 今度は黒い少女の声。何やら慌てている。そんな声に続いて響く怒声。そこで晶の意識は沈んだ。

 

 

 

 

 

 ガチンガチンと鉄同士がぶつかるような重苦しい音。歯車が回る。

 巻き戻しのように両断された白い生き物が再生していく。

 

『やっぱキリカだったか。しかし動機の一端に俺があるとはいえ、極端な奴』

 

 白い生き物。ごんべえは体を伸ばし周囲を見る。腹から内臓をこぼす死にかけの少女に、頭が貫かれた少女。

 

『起きろ浅古小巻。魔法少女がその程度で死ぬかよ………死ぬと思えば、本当に死んじまうぞ』

 

 と、ごんべえは黒く染まっていくソウルジェムを見て舌打ちすると口からグリーフシードを吐き出す。

 

『起きろ。お前の友達、死ぬぞ?』

「───!!」

 

 その言葉に虚ろだった瞳に光がやどり、小巻が体を起こす。

 

「晶! キュゥべえ、晶が! どうすれば!」

『落ち着け。ソウルジェムを翳して治れと念じろ。マミや治癒を求めた魔法少女程じゃねえが、命を繋ぐぐらいは出来る』

「う、うん!」

 

 その言葉に小巻は変身を解除し元の形に戻ったソウルジェムを傷口に近づけ目を閉じる。ソウルジェムが淡く光る。

 

『………内臓は治った。あとは医者に見せりゃすぐ良くなるだろ』

「良かった………」

 

 と、小巻は胸を撫で下ろし携帯で救急車を呼ぶ。

 

『それとお前も頭の傷直しとけ』

「なんかキュゥべえ性格変わってない? ん、頭?」

『ほれ……』

 

 背中がパカッと開きコンパクトが飛び出す。受け取り、自分の顔を確認する小巻。

 

「なな、なんじゃこりゃー!?」

『傷だな』

「傷っていうかこれ! 頭貫通して……! ねえ何で私生きてんの!?」

『魔法少女だからな……』

「……魔法少女だからって! 魔法少女…………魔法少女って………何なの?」

 

 片目どころか顔に大きな穴を空けたままごんべえを真っ直ぐ見据える小巻。なかなか早い現状認識にごんべえはほう、と感心する。目を細めるその仕草は、小巻の中の常に表情が変わらないか貼り付けたかのような親しみを込めた笑みをするキュゥべえとは異なり、下に見ているかのような笑み。

 

「あんた、誰……」

『俺はごんべえ、人類の敵だ。まあ、今はその明らかな致命傷を治しな。ゾンビが出たって騒ぎになるぞ』




もしごんべえやキュゥべえ達が擬人化したら笑顔で人を宇宙の電池にする白髪赤目の可愛らしい人類の創造主ぶる少年達の中に一人だけ口が悪くてギザ歯(ごんべえは唯一牙を持ってる)ジト目の罵倒ドSの人類は愚か扱いしつつも個人個人を尊重する個体が交じる。何だ、ただの主人公(♀)達の仲間になるヒロイン(♂)か

しかし白髪赤目、ギザ歯、毒舌、見下し笑い、ジト目、子供には優しいって属性盛り過ぎだな。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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