性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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私のぶんはこれでチャラ

「………う、あれ? 私、生きてる?」

『お、目を覚ましたか』

「うきゃう!?」

 

 晶が目を覚ますと猫の様な生き物が人語を話してドアップで映り込む。珍妙な悲鳴をあげ起き上がろうとして脇腹に痛みが走る。

 

『落ち着け。傷が開くぞ』

「な、なにこれ……幻覚? あれ、ここ………」

 

 自分の部屋ではない。ここは、病室?

 何故、と記憶を探り、思い出す。

 

「そうだ、小巻!」

「何?」

「…………へ?」

 

 親友が黒い少女に切り裂かれた事を思い出し名を叫ぶと、直ぐ側から返ってきた。振り向くと隣のベッドで患者衣を着た小巻が本を片手にこちらを見ていた。

 

「こ、小巻! 無事な……いた、いたた!?」

「ちょ、晶! 落ち着いて、傷が開いちゃう!」

 

 立ち上がろうとして脇腹の激痛に悶える晶に慌てて駆け寄る小巻。彼女の方はどうやら大した傷はないようだ。

 

「良かった………ほんとに、良かった………」

「………晶」

 

 涙を流し縋り付いてくる晶に困惑しながらも、小巻は抱き返す。

 

「ごめん、心配かけたわね」

「ほんとだよ、たく………何なのさ、昨日のあれ」

「……そうね、ちゃんと話さなきゃよね。でも、その前に少し頼みがあるの」

 

 

 

 

 

「では、何も覚えてないんですね?」

「はい、お役に立てず申し訳ないです」

 

 警察からの事情聴取。明らかに人為的な怪我をしたのだから当然と言えば当然。それに対して晶と小巻は真実を話さなかった。

 内容としては、数日前夜になると家の周りを怪しい何者かが彷徨いていたのを見てから夜見まわりをしていた小巻がその人物を発見。相手も明らかに狼狽えて逃げ出し、小巻が追いかけ、五郷工業跡地で揉み合いになり、気絶した。晶は小巻の妹である小糸に相談を受けており、小巻が五郷工業跡地に居るのをGPSで確認し夜遅くに何を、と不安に思い向かい、その後のことは良く覚えていない。と言う作り話だ。

 

「不審者に関しては警察に相談してほしかったですね」

「すいません、証拠も私の証言だけなので」

「顔は見てないんですね?」

「はい……」

「わかりました………近隣住民にも聞き込みしてみます。なにか思い出したら、どうぞ連絡を……」

 

 そういうと警察は帰っていった。気配がなくなるのを感じ、晶が話しかける。

 

「それで、昨日のアレなんだよ………小巻は何時から超能力者になったわけ」

「あれはどっちかと言うと魔法で……まあ詳しい話は……」

 

 と、小巻はリンゴを食ってる白い生き物を見る。

 

「それでキュゥべえ……じゃなかったわね、ごんべえ。色々聞かせてもらうわよ」

『ん? ああ、良いよ。そんで? 行方晶。お前は俺から何が聞きたい?』

 

 ごんべえと呼ばれた白い生き物はりんごの芯を捨てると向き直る。幻覚ではなさそうだ。

 

「えっと、じゃあ昨日の奴と小巻って何なの?」

『俺達と契約した魔法少女さ』

「達……って、小巻が言い間違えてたキュゥべえって奴?」

「ええ、本当にそっくりよ。まあ私達って動物の顔の違いなんてわからないしね」

 

 小巻の言葉に確かに、と脳内に猫を思い浮かべる晶。契約とか魔法少女とか、女児向けアニメのようだ。マスコットが全員同じ姿なんて苦情が来そうだが。

 

「てか小巻何時の間に魔法少女に………」

「うっさいわね! ていうかあんま連呼しないでよ!」

『恥ずかしがることはねえさ、神浜には大学生なのに魔法()()もいるし、何ならマタ・ハリなんか40代まで……いや、こいつあんま知られてねえか。ナイチンゲールなんざ人間の寿命生ききったしな』

「大学生で魔法少女……てか、え? ナイチンゲール?」

『ああ、前線の兵舎病院なんつー魔女に困らねえ位置にいたからな、全部ぶっ殺して貯蓄したグリーフシードで余生を過ごした』

「はいせんせー! 魔女とかグリーフシードとか全然分かりません!」

 

 と、初耳の単語に晶が挙手して質問してくる。ごんべえは仕方ない、というように肩をすくめた。

 

『魔女ってのは人の負の感情を栄養にしてる生きた災厄だ。人の負の感情を増長させ自殺させたり人殺しさせたり人を食ったりして溜め込んだエネルギーで使い魔を作ってその使い魔が魔女に成長すると孕む魔女の卵がグリーフシード。魔法少女ってのは魔法の力の源であるソウルジェムってのに穢を溜め込んで行ってな。その穢をグリーフシードに吸わせるんだ』

 

 ごんべえの説明はよく分からなかったけど、解ったことを纏めると魔法少女は魔女という人を襲う怪物と戦って、魔女の落とす卵で魔力を回復させるという事。

 

『だいたい解ってりゃいいさ。で、俺達は素質あるガキに願いが叶えられるぞって甘言で契約を求めて魔女と戦わせる宇宙人だ』

「宇宙人なんすか」

「宇宙人だったの!?」

 

 妖精じゃないんだ、と思ってたら契約者である筈の小巻まで驚いていた。

 

「……知らなかったんだ」

『小巻の担当である先輩方………てか、俺以外は全員キュゥべえなんだが、あいつ等ろくに説明しねえからな』

「? 2匹……ってわけでも無さそうな言い方ね」

『基本的に一つの意識が複数の体を操ってんだよ。んで、俺は数を増やしすぎた弊害で生まれたバグ。何者かの問いかけに自己問答しちまったばっかりに個を持ち心を持った欠落個体』

「普通は心持たないんすか?」

『俺達の種族は邪魔と判断して切り捨てた』

「はー………」

 

 思ったより宇宙人って感じだなぁ、と見た目だけは可愛らしいごんべえを見る。心を持った特別な個体って何か凄そう。

 

「まあその、魔法少女って言うには割とSFな存在になった小巻とあの黒いのは、何で争ってたの?」

『魔法少女が争う理由は主に2つ。縄張り争いとグリーフシードの取り合いだ。ほんの少し前なら戦争に紛れたりしたがな。ついでにジャンヌ・ダルクも魔法少女だ』

「マジですか」

 

 この宇宙人、結構昔から人類に関わっていたらしい。

 

「んー……でも、小巻が態々奪いに行ったりはしないと思うし、あの子が小巻に喧嘩売ったってこと?」

「まあ、そうね……」

「あんな危険な事、やってたんだ。願いってさ、林間学校の時だよね? 少しだけ、意識があったんだ。「私達を守って」、だっけ?」

「………覚えてたの」

「まあね」

 

 へへ、と笑う晶に気恥ずかしそうに目を逸らす小巻。よほど照れくさかったのか、話題を変える事にした。

 

「ところでごんべえ、魔法少女って何なの?」

「何なのって……え、だから魔女と戦うんじゃ……」

「昨日までならそう思えた。それだけだって………でも、頭貫かれても生きてられる体にされたなんて聞いてない」

『……………』

「………え?」

 

 その魔法少女というファンシーな単語からかけ離れた言葉に、晶は言葉を失う。対するごんべえは藍色の宝石、小巻のソウルジェムに触れる。

 

『今のお前はこっちだからな。人間の体は抜け殻に過ぎず、俺達と同じように思念を飛ばしてラグ無しで肉体を操ってる。なれりゃ魔法で作った分身を遠隔操作も出来る。マミはリボンで作るな。似せまくって意識も移すと流石に距離は減るが』

「は? え? そ、そっち? 小巻が………その宝石?」

「……………そう」

 

 混乱する晶とは異なり、小巻は落ち着いていた。その反応にごんべえは興味深そうに見つめる。

 

「他に理由は?」

『……魔力の運用効率を上げる。元より魔法は願いから、感情から発生する。感情生み出す魂を物質世界に無理やり持ってきて世界への干渉力を上げたのが魔法だ。願いによってある程度の形は定まれど、強くなりたい、傷を治したい、万人が持つイメージなら大体の魔法少女が使える』

「私が晶を治せたのはそれか………それにしても、これが私の魂かあ」

『昔の田舎娘は「神の御業」だの何だの言って俺を天使扱いしてたな』

「…………ねえごんべえ。グリーフシードって穢を吸い取り過ぎると魔女が生まれるよね」

『ああ………』

「魔女の栄養になる穢が私の魂を……貴方の言う、私の願い………意思を世界に反映させるソウルジェムを満たした時、私は()になる」

 

 問いかけるようで答えは既に出ている。

 確定だけしろと言わんばかりの態度にごんべえは楽しそうにくく、と喉を鳴らす。

 

()()()()()。満たされた呪いは世界を侵食するために、さらなる力を求めて、自分以外の幸福を妬んで、他者を苦しめ飲み込む人類の宿業の化身へと変ずる』

「……………そう」

 

 小巻はそう短く返しソウルジェムを握り締める。落ち着いた彼女と異なり、晶の顔からは血の気が引いていた。

 

「……晶?」

「あ………こ、小巻……あた、あたし……あたし達………」

「ちょっと、どうしたのよ……」

「ごめん! ごめんなさい! あたし達のせいで、あたし達を助けようとしたから!」

 

 浅古小巻は本来魔法少女になる様な少女ではなかった。素質がないわけではない。才能があり、感情的な部分も魔法少女として高い素質だ。だが、彼女は己の願いに他者を介入させない。自ら決めた事は自らの手でやる、そういう性格だ。

 だけど、願った。彼女は願い、魔法少女になった。

 自分ではなく他者を助けるために。ここにいる晶ともう一人。火に包まれたあの場所から助けるには、ただの少女では何も出来なかったから。

 助けるための力を求め、願い、助け、その対価がこれだ。石ころに変えられ、やがて世界を呪う魔女とかいう化け物にされる。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい………私達を助けなければ、私達のせいで………」

「……………ばーか」

「あう!?」

 

 その言葉に小巻は目を細め晶の額を指で弾いた。

 

「勘違いすんじゃないわよ。私はあの時、自分じゃ何も出来なかった。だから力を求めてキュゥべえの契約に応じた。助けると決めたから、助かると決めたから」

『ああ本当だ。こういう状況って基本的に『助けて』って願うのに』

「まだ全然生きてたしねあの時の私。そんでもし今の真実知ってやり直したとしても、私は同じ事を願う」

『他人の為に地獄へ飛び込むってか? どんな時代にも一定数は居るもんだ……訳が解らん。バックアップがある訳でもねえのに』

「なら覚えときなさい。人間はね、やると決めたからにはたとえそこが地獄だと解っていても飛び込むのよ。少なくとも、今の私はそう」

『今の、ね………』

 

 つまり将来は自分でもわからない、と。なかなかどうして、興味深い。

 

「で、あんた等はなんでわざわざ魔女作って魔法少女作るの?」

『ああ、それは………』

 

 

 

 

 エントロピー。感情のエネルギー。希望と絶望の相転移の際発生する莫大なエネルギー。ごんべえ以外に感情持ちの個体のいないインキュベーター。その全ての説明を目を閉じながら聞く小巻。

 

「そっか………宇宙を救うためなら、仕方ないか」

『…………』

「なんて言うわけあるかあああ!」

『きゅぷ!? ぷげ!』

 

 小巻の蹴りに吹き飛ばされ壁に激突するごんべえ。ズルズルと床に落ちるも、追撃は来なかった。

 

「……1つ聞きたいんだけど、あんた昨日の子の知り合いなのよね。あの子、随分知ってるみたいだけど」

『俺は後で文句言われるのが嫌だからな、契約しようとはしてたが、事前に全部話したら踏みとどまってた。ただ、先輩がなにかしたな』

「そう………まあ、良いわ。宇宙の事とか、正直私にはよくわかんないし。だから、私のぶんはこれでチャラ」

 

 小巻はそう言うとごんべえを抱え上げる。

 

「それはそれとして、あの子あんたが何とかしなさいよ。私も借りを返すついでに手伝ってやるから」

『……………ああ』

「それにしても、面倒くさいのに目をつけられたわねあんたも」

『…………あれはまだマシな部類だ』




ごんべえの、こいつぁやべえトップ3

3位「私を食べてください。桃の味がして美味しいはずですから」

2位「日本一の剣豪? 狭い狭い! 時代は世界! いややっぱりそれでも狭い! と言う訳でごんべえ、神とか悪鬼とか普通に住んでる世界に行く力頂戴」



1位「貴方を孕みたい」

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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