性格の悪いインキュベーター   作:超高校級の切望

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それじゃあ私達、今から仲間ね

「それで、これからどうすんの?」

『俺が聞きてえよ、いきなり攫いやがって』

 

 ごんべえを肩に乗せた小巻は工業跡地の建物の上から何か手がかりがないかと捜査している大人達を見ながらごんべえに尋ねる。あれでは近づく事は不可能だ。

 

『だいたい魔女の気配ならともかく魔法少女同士を探すなんざ出来るものか。感覚になれれば魔法少女だと見て分かるし素質を見抜く奴もいるがお前はまだまだ駆け出しだ』

「うぐぅ……だいたい、あんた魔法し……しょ……魔法少女達の管理人みたいなもんなんでしょう? 居場所とか把握してないの?」

『してたらしてたでプライバシーだのストーカーだの言うだろ』

「え、当たり前じゃない」

『…………………』

 

 ごんべえははぁ、と溜め息を吐いた。

 

「そうじゃないにしても一匹くらいあんたの先輩がついてないの?」

『基本的にゃ契約してさよならだ。たまに様子を見に行くし話し相手にもなったりはしてやるが』

「? でもあんた巴マミって魔法少女の家にいるのよね?」

『俺は特別。人類の発展による精神の成熟、繁殖に貢献してたから上からも契約契約言われねえのさ。たまに現れる候補者に業務上持ちかけはするが、まあ割に合わねえだろ』

「何言ってんのよ、一生に一度の願いよ? それがどんな願いであるにすれ、一生の戦いが割に合わないと感じるのならそいつが悪い。少なくとも私は、あの時守ってって願い叶った事を割に合わないとは思わない」

 

 その言葉にごんべえはへぇ、と小巻の顔を見る。

 

『高尚な戯言は結構だが何せ人間は驚くほど腐りやすいナマモノだからなあ』

「ほんと口が悪いわね。私だってこんな綺麗事ずっと言い切れるとは思ってないわよ。でも言い切ってやるとは思ってんの」

『そうかい。ま、いいさ。それでキリカを探してどうすんだ? 殺すのか?』

「………今の所、殺す気はないわ。あんたの言葉で辞めるかもしれないしね」

『昨日の反応見る限り、直接手を下すのは無理っぽいなあ。あくまで間接的に、その死を見なけりゃ大丈夫………だったんだろうが、昨日ので吹っ切れた可能性もある』

 

 認めてもらいたい相手だったごんべえや、一目だと死んだと思うような怪我をしていた晶。魔法少女がソウルジェム砕かれない限り死なないとしても頭を貫かれた小巻。

 その光景を前に、人を殺せるようになったかもしれない。

 

「私が負けたせいか………」

『気負うな。遅かれ早かれなっていた可能性はある』

 

 ごんべえの言葉に目を閉じる小巻。

 

「………ありがと」

『気の強い女の礼って何でか気持ち悪……ぎゅぷ!』

「あんたは余計な一言言わないと会話できんのか!」

 

 ごんべえの顔面を掴みブンブン振り回す小巻。キュゥべえは言葉が足らず、ごんべえは言葉が多い。マイナスかプラスしかこの種族にはいないようだ。

 

『お前はフロー……ナイチンゲールに似てるな』

「ナイチンゲール?」

『まあアイツは良く笑うしもっとお淑やかだったが……怪我人が関わらなければ』

「お淑やかじゃなくて悪かったわね。ごきげんよう、なんて私のキャラじゃないの」

 

 ふん、と鼻を鳴らす小巻は建物から飛び降りると夜の街へと歩き出した。

 

「行くわよごんべえ、今日中にだって見つけてやるんだから」

 

 

 

 

 

『今日中ねえ………もうそろそろ戻らねえとバレるな』

「くっ………仕方ないじゃない、警察から隠れながら探してるんだもん」

 

 結局見つけられなかった。

 当然と言えば当然だが、徘徊している警察から隠れながら見回っていてはろくに探すことも出来ない。

 魔女結界なら遭遇するかもと思っていたが、そんな事はなくグリーフシードを手に入れただけが今夜の収穫。

 

『先輩方も家を調べたそうだが帰ってねえみたいだな。誰かに匿われてるのかねえ』

「誰が匿うってのよ。名門女子中学校の生徒が二人も刃物で斬りつけられてんのよ? 被害者の一人だと思うにせよ、警察に連絡する筈だしそしたら私達の知り合いかどうか聞いてくるでしょ」

『つまり警察には言ってねえってことだ。まあキリカ見た目良いし』

「それ新しい犠牲者出るだけじゃ………やっぱりもう少し見回りを……」

『良いんじゃねえの? 警察の数が増えるだけだろうが………事が起きてんならもう終わってる。ニュースに人の死が流れたとしても、お前が間に合わなかったからじゃねえ』

「…………でも」

『晶や妹に心配かけてえなら止めはしねえよ。俺はまどかんとこ帰るだけだ』

「…………戻るわよ」

 

 ごめんなさいと小糸に泣き付かれたのを思い出す。

 あの子は小巻が夜家を抜けているのを知っていた。だが何も言わなかった。そのせいで怪我をさせてしまったのだと己を責めている。これ以上不安にさせたくない。

 

「ちなみに、匿ってるのがその手の目的じゃないとしたら」

『非日常のヒーローになれると勘違いした馬鹿か……利用出来ると思った魔法少女かね』

 

 

 

 

 

「失礼するわ。気分は落ち着いたかしら?」

 

 美しい女だった。

 白銀の長髪を束ねたサイドテール。背が高いのもあるが、それ以上に大人びた雰囲気を持つ彼女は少女でありながら、女と呼ぶに相応しい。名を美国織莉子。

 

「………………」

 

 そんな彼女が話しかけるのは黒髪の少女。虚ろな目で、虚空を眺める。

 二人は魔法少女だ。織莉子はとある目的の為に魔力消費の激しい自分をサポートしてくれる魔法少女を探していた。候補は居たが、彼女は自分の考えに賛同してくれないだろう。そんなおり、見つけたのがこの娘。

 

「ねえ、お粥作ったの。お願いだから食べて?」

 

 優しく、優しく。かつて母がそうしてくれたように語りかける。手をそっと向け、しかし触れない。ビクリと震えた彼女は恐る恐る織莉子を見る。

 警戒している。怖がっている。でも、期待している。何に?

 赦しにだ。

 学校からあった連絡。2名の生徒が何者かに襲われたという。理由は不明だが、犯人は彼女。狙ってやったかそうでないかにしろ、やりすぎてしまったのだろう。

 罪と意識に苛まれ、赦しを欲している。

 

「何があったの? 私じゃ力になれないかもしれないけど、同じ魔法少女同士、お話を聞かせて」

「…………殺しちゃった」

「それは……ニュースになってた二人?」

 

 別に死んでは居ないが、そこをあえて言う必要はない。

 

「違う! 違うよ! 殺す気なんてなかった! 本当に殺す気は! 私はただ、ごんべえに戻ってきてほしくて、見て欲しくて……」

「ごんべえ?」

 

 何とも古風な名前だ。しかし何かに似ている名前。

 

「しろまるが言ってた。ごんべえは特別なんだって、しろまる達の中で唯一、人間に関わる回数が多いって」

「………しろまる。キュゥべえの事?」

 

 そしてその特別個体、ごんべえ。

 キュゥべえの同種? ごんべえ……。兄弟で、五男と九男だったり?

 いや、確かキュゥべえは同族と呼べるのは一人だけと言っていた記憶がある。

 

「しろまるだったら、代わりが利くって。でもごんべえは次の身体に移れないって! なのに、なのに私!」

 

 次の体。これも知らない情報。

 どうやらキュゥべえは殺しても意味がないらしい。こちらは予想していた事だ。あるいは予知していた事。何度見直しても変わらない未来、それはキュゥべえを殺すだけでは解決しないということなのだから。

 そして、何故かごんべえは復活しない。その秘密がわかれば、キュゥべえを殺せるのだろうか?

 

「そのごんべえさんは、どんな人なの?」

「優しいんだ、すごく………しろまるも言ってた。「無償の奉仕が愛だというのなら、彼程人類を愛した存在は居ない」って……火の使い方を教えて、石器の作り方を教えて、切った木で家の作り方を教えて……薬学や科学の原型も与えたって………今の私達の文明は全部全部ごんべえのおかげなんだ。世界はごんべえの愛に満ちてる! なのに!」

 

 と、少女は自らの頭を抱え蹲る。

 

「殺しちゃった、私が! 私がごんべえを!」

「………その人は、この世界を愛していたのね」

「………うん」

「そう。でもね、もうすぐこの世界を滅ぼす存在が産まれてしまうの。世界を、人類を完膚なきまでに滅ぼす存在が」

「……………え?」

 

 その言葉にキョトンと顔を上げる少女。当たり前だ、どこにいきなり世界の終わりを話され理解を示す者がいるのか。

 

「そのごんべえさんが愛し、育んだ世界を壊そうとする者が産まれるの」

「そ、そんなのは駄目だ! 許されない、そんなこと!」

「ええ、そうよね。でも、私一人じゃこの世界を守れないの」

「な、なら私も手伝う! どうすれば良い!? どうすれば、ごんべえの愛した世界を守れるの………?」

 

 ああ、本当に彼女はそのごんべえが好きなのだろう。世界を守るのは、そのごんべえが守ろうとしたから、ただそれだけ。

 実に良い。丁度良い。そんな相手なら、切り捨てるのに良心の呵責もない。

 

「手伝ってくれるの? ありがとう。それじゃあ私達、今から仲間ね。私は織莉子……美国織莉子よ」

「呉キリカ………よろしく、織莉子」

 

 

 

 その頃のごんべえ。

 

「ご、ごんべえ、晶! がが、画面が止まっちゃった! これ、壊しちゃった!? ごめんなさい!」

「大丈夫大丈夫。落ち着いて小巻。ポーズになってるだけ」

 

 病室にて二人と一匹はテレビゲームをやっていた。その際小巻が間違えてポーズしてしまい画面が固まる。

 

『最初に教えた電気から発展してここまで。やっぱ人間育ててよかったなあ。面白いもんも見れる』

「全部教えたわけじゃないんすね」

『そもそもきっかけを与えただけだ。ヒントから気づき、発展させたのは人間。槍の作り方は教えたし鉄の作り方も教えたが、剣を作ったのは人類だしな。あん時ゃ「ああ、そういう道を選ぶか」って思ったね』

「へー……でも剣なんて大した発明でもない気が」

『槍は獣の爪や牙の外から攻撃できる。斧は力を伝え木を切れる。剣は獣と戦うには短すぎて、木を切るには重心が手元に向きすぎだ。だが、人を殺すにはもってこいだ。近づければ槍も怖くない』

「…………うちらの先祖って」

「晶、ごんべえ、今度は画面が暗くなっちゃったけど大丈夫よね?」

「いやこれ電源切ってる」

『なんで本体のスイッチ押すんだよ』




「私を食べてください。桃の味がして美味しいはずですから」

感想欄でもあったように桃娘。
ある日現れたごんべえ(当時はふらんと名乗っていた)にどちらの地獄を選ぶか問われ契約した。願の内容は「ここから逃げたい」。姿を消す、物体をすり抜けるなどの逃走に秀でた魔法に目覚めごんべえに付いていく。
ごんべえが他の魔法少女と契約したり昔馴染みと話しているのを見て自分だけが出来る事を探すも教養もなく、結局行き着いた結論は恐れていた筈の食われるという桃娘のあり方。肉食ってたごんべえの眼の前で指を千切って渡して来た


「貴方を孕みたい」

とある時代の貴族令嬢。兄は死産。本人は難産で母が死亡。お前のせいで死んだんだと父に蔑まれ次の当主を産む為の持たせとて最低限の健康を保ったまま育てられ、婿をあてがわれた。第一子は母同様死産。また次も女を産み死ぬのだろうと父から折檻を受け、第二子は難産だったものの男児を産み生存。ただし子を作れない体に。
 子を抱くことも許されず、子に忘れられ、子が死んだと聞かされ子を産めぬ身で何としても作れと、この家の血さえ引いていればこの際相手は誰でもいいと多くの男を相手にさせられていたところにごんべえ(当時の名はインク、「魔女を孕ませる者(インキュバス)」から)に死ぬか地獄か選ばされる。
 願いは「子を産みたい」。
 願いは叶ったものの、やはり子は取り上げられる。次の為に生かされる日々、与えられるものは何も無く、子にも忘れられ、嘲られ、子を孕んでいる間だけ、その子が自分のものだと認識するようになる。
 自己肯定感が無く、常に他人に怯える中自分も家の者も等しく嘲るごんべえと話す時だけ人間でいられると思うようになり、ごんべえを欲して言った台詞がこれである。魔女化しても執着され捕まるも倒され抜け出す


ごんべえもインキュベーターであり、契約者は探すが基本的に奇跡に縋らねば生きれぬ者にしか奇跡を与えに行かない。奇跡に縋っても別の地獄が待っていると伝え、魔法少女なら痛みなく死ねる事も教える。
契約後しばらくは様子を見に来てくれる。地獄から救ってくれた奴が親身になってくれりゃ、ねえ?
 他にも街をぶらつく自分を見つけ声をかけてきた者に魔法少女の説明をして、契約は持ちかけないが出来る事は伝える。


ナイチンゲールはエネルギー回収に向いた時期にこそ出会っているものの友人関係だった。時期こそ過ぎたが因果的に何時でも十分とキュゥべえに言われたのを思い出し会いに行ったら契約を頼まれた。
契約内容は「両親の説得」。
固有魔法は「洗脳」だが了承の言葉を言わせて解除。以来人には使っていない。使えばマシになるというごんべえに「私が居なくなれば成り立たない方法を取っては意味がありません」と返した。両親に使ったのは一日遅れれば十人が死ぬかもしれないという考えから。本当はとっとと飛び出したかったが育ててもらった恩もある。説得も洗脳ではなく「理解」をしてもらいたかった。
ごんべえと最も長くともにいた魔法少女。
ごんべえが飲み込んで持ち歩いている未使用のグリーフシードは彼女の遺品。

本編後

  • マギレコでも魔法少女を誑かす
  • たるマギで家族3人でフランスを救う
  • たむらの旅につきあわされる

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