家庭教師ヒットマンREBORN! ~Secret BulletⅩ~ 作:鵜飼 ひよこ。
序.
ゆらりゆらりと・・・。
月夜の風に揺られる華のように、その人影は歩を進める。
霧の出た夜に人影と共にあるのは、月一つ。
それはまるで、地獄の釜の底に独りでいるような錯覚さえ起こしそうで。
ゆらりゆらりと・・・。
歩を進める人影は、夢遊病者のように町を徘徊する。
何処にも行くあてがないかのように。
何処かに行くあてがあるかのように。
誰かに導かれるように・・・歩を進め、そして人影は倒れた。
「・・・。」
倒れた人影の上から挿す新たな人影。
「粗大ゴミ?」
疑問を反映するかのように人影も首を傾げる。
そして、月は霧で隠された・・・。
Ⅰ.
朝。
平穏な何時もの日常。
「うわぁぁーっ!遅刻だーっ!」
の、ハズ。
「母さん、どうして起こしてくれなかったんだよっ!」
少し甲高い声が響き渡る、閑静な住宅街。
「ママンに甘えるナ。自分のケツくらい自分で拭け。」
の、ハズ。
次に響き渡ったのは、何かを潰すような爆発音だったが。
「朝から・・・酷いよ、リボーン・・・。」
身体中に包帯を巻いた少年、沢田 綱吉(ツナ)がほうほうの体で一軒の家から出てくる。
「こっちに帰って来て、ちっとはマシになったと思ったらもうソレか?」
呆れたようにツナを見上げる黒服の赤ん坊、リボーンは溜め息をつく。
ようやく10年後の未来での熾烈な戦いが終わったというのに。
ツナはツナでリボーンの態度に溜め息をつく。
「こいつはイチから鍛え直しだナ。」
「ま、まさか、学校までついて来るの?」
恐る恐る問い返すツナ。
折角もう痛い思いをしなくて済む、学校は唯一の安息の場だと考えていた矢先に訪れた不幸。
そう、これは不幸としかいいようがない。
少なくともツナはそう思っていた。
「ま、それも家庭教師(かてきょー)の勤めだ・・・。」
何やら含みのある言い方。
ツナはそういう時は、確実に自分が巻き込まれるのを知っている。
リボーンが来てから、どれだけ酷いメにあっただろうか?
流石にダメツナだって学習くらいする。
「ぉ?ツナじゃねーか。」
「や、山本?随分と余裕だね・・・。」
既に遅刻確定なので、走る気力も失せていた自分の目の前をゆうゆうと歩いている山本にツナは軽く驚いた。
(何というか・・・凄い強気のマイペース・・・。)
「そういうツナだって、遅刻なのに余裕じゃないか?」
「いや、山本ほどじゃ・・・。」
「そうなのな。」
あはは。
と、満面の笑みを浮かべる山本だが、ツナには何が"そうなのか"よく意味が掴めなかった。
というか、一度だって山本の言動をうまく掴めた事はない気もするが。
(なんだかなぁ・・・。)
朝から気力を完全に削がれたツナはがっくりと身体ごと肩を落とす。
「あれ?校門のトコにいんの、獄寺じゃね?」
「へ?」
ツナが山本の声に顔を上げた瞬間。
「10代目~!おはようございますーッ!!」
まだ距離があるというのに獄寺の大声がツナに届く。
こっちに向かって身体全体で手を振っている獄寺。
(うあぁ~、目立ってる~。)
思わず自分の顔を覆ってしまう。
他人のフリをして通り過ぎたいところだが、目的地の第一関門である校門がそこにあるのだから、それは無理だ。
「よぉ。」
へらっと笑いながら、校門の横にいる獄寺に挨拶をする山本。
本当に至ってマイペースである。
「あ゛ぁ゛?!なんで、デメェが10代目と一緒に登校してんだよ!」
(始まった・・・。)
ツナは毎度毎度お馴染みの展開に、心の中で泣いていた。
いや、泣いてるだけじゃダメだ、これを仲裁しなければならないのだから。
ぐっとくいしばる。
「あ、あの、そのね・・・。」
「途中で会ったからな、目的地が一緒なのは仕方ないだろ?」
勝ち誇ったような笑み。
少なくとも獄寺ヴィジョンでは、そうとしか山本の表情は見えなかった。
「テメェ!まさか10代目の右腕を狙ってるんじゃねぇだろうなァッ!」
更に爆発して喰ってかかる獄寺。
「右腕?ツナの右腕なんか貰ってどうすんだ?」
「な・ん・か・だとぉっ!」
全くもって噛み合わない二人。
というか、もはや日本語ですら噛み合っていない。
"右腕の座"と言えば日本語だけは噛み合ったのではないだろうか?
そんな風にツナはぼんやりと考えながら・・・。
「いっぺん、フッ飛んでみるかぁっ?!」
「いっ?!」
ぼんやりと考える暇なんかなく、慌てて二人の間に・・・というか、獄寺を止めに後から羽交い絞めにしようとする。
「離して下さい10代目ェ!コイツはいっぺんシメとかねぇと!」
「いやいやいや、ダメだって!!」
ここで離したら、この後の展開がロクな事にならない。
必死で抑えにかかるのだが・・・困った事に体格も力も獄寺の方が上。
思わず力の入った腕にツナの身体は突き飛ばされた形になって、後ろに・・・。
「おっと。皆さん、校門で暴れるのは他の生徒の迷惑ですぜ。」
後ろに突き飛ばされてよろけたツナの身体をしっかりと受け止めた人物。
「草壁さん・・・あ、おはようございます。」
何とも間の抜けた挨拶だ。
「おはようございます。」
そう言うと、草壁は今日もぴっちりと決まっているトサカを揺らしながら、ツナに素早く耳打ちする。
「恭さんが呼んでます。お手数ですが、風紀委員室へ。」
イカつい体格をしている割には、本当に礼儀正しい男だ。
きっと、これも目の前の約1名に聞かれるとまた騒動になると見越してだ。
この繊細さがあるからこそ、気難しい雲雀とやっていけるんだろうとツナは、何時も感心している。
「し、し、失礼しまぁ~す。」
どうしてもこの部屋に入ると緊張してしまうツナ。
正確には、この部屋に何時もいるだろう人物になのだが。
何というか、捕食動物に目をつけられた草食動物の気分。
応接室と見まごうばかりの調度品、真ん中にでんっとあるソファーに・・・。
「はひっ、ツナさんですぅ!ハルを救いに来てくれたんですかぁ?」
(何で、ハルがこんな所に・・・。)
黒革張りのソファーに座っているポニテールの女の子と・・・。
(男の子?)
見慣れない男の子が、ハルの横で一緒に紙を机に広げている。
何やら、紙に一心不乱に書き込んでいるようだった。
「遅いよ。」
「ひぃっ、ひ、雲雀さん!」
部屋の置く、馬鹿みたくデカい長机に寄りかかって腕を組んだ姿勢のまま雲雀が佇んでいた。
勿論、鋭い目線つきで。
「この二人は、今、反省文を書かせている。」
(は、反省文・・・一体何をしたんだぁ・・・。)
ハルは天真爛漫で直情傾向があるから、意外と他人が迷惑を被る事が多い。
それはツナも理解しているのだが、とりあえずそぉっと二人の後ろに移動して覗き込む。
(って、校歌?)
「罰として、校歌の書写1万回。」
(・・・てか、何処まで学校好き?)
あはは。と渇いた笑いを浮かべながら、冷や汗をかくツナ。
「ひばぁ。」
男の子がぽつりと声を漏らす。
(ひ・・・ば?)
ツナではよく意味が掴めない言葉。
男の子は、外見はツナ達よりも年下・・・小学生であろうか。
あどけない表情と、綺麗な灰褐色の目をしている。
同世代の中でも小さい方のツナよりもなお小さい。
「ん。」
男の子が持っていた紙を雲雀に突き出すと、雲雀は目線を下げその紙を受け取る。
(ひ、ひばぁって・・・雲雀さんのコト?!)
何という勇者!
この一言に尽きる。
今にも殴り飛ばされて、泡吹いて白目を剥かされるんじゃないかと冷や冷やする。
触らぬ神に祟り無しではなく、"触らなくても噛み殺し"
それが雲雀 恭也なのだ。
「覚えた?」
「うん♪」
何を覚えたのだろうかと不思議に首を傾げると、すぐさま男の子が歌を唄い始める。
それは、ツナも聴いた事があるもので・・・。
「雲雀さん、その子お知り合いですか?」
「ん?」
「ひぃっ!」
恐る恐る聞いても睨まれ、思わず身を竦める。
「・・・知らない。」
(見知らぬ子に校歌覚え込ませてるっ?!)
唄っている曲は、【並盛中学校校歌】だ。
雲雀の愛校精神は、もはや既に魂のレベルにまで刷り込まれているのだろう。
「君は、もういいよ。」
ひらひらと手を振って男の子とツナを追いやろうとする雲雀。
「はひっ、私も書きましたっ!」
置いていかれては敵わないとばかりに、慌ててハルも紙を出す。
が。
「漢字、間違ってる。やり直し。」
「はひっ。」
当分、解放される雰囲気は無さそうだ。
もっとも、一緒にいた男の子のように全部ひらがなで書いて提出するという方向に頭が回らない。
それがある意味でハルらしく、彼女の可愛いトコロではあるのだが。
「あ、あの雲雀さん?」
はたと、そういえば雲雀に呼ばれてここに来たんだとツナはようやく思い出した。
とりあえず、用件を聞いてさっさと退散したい。
寧ろ、聞かないで退散したいと思っているツナである。
「何?用がないなら消えて。でないと噛み殺すよ?」
(自分で呼んだんじゃんっ!)
「赤ん坊の前にまず君を噛み殺しとく?」
「し、失礼しましたー!」
よくわからないが、帰れと言われたらさっさと退散。
後の方で、ハルがツナを必死に呼ぶ声が聞こえたが、ツナは心の中で謝る事で黙殺するしかなかった。
「けど・・・じゃあ、一体何でオレを呼んだんだろ?」
一人で首を傾げても答えが出ない事を、とりあえず考えてしまうのがツナの心配性なところだ。
それは優しさかも知れないが、臆病ともいえる。
「とりあえず、教室に行くんが・・・っ?!」
そう思って再び歩き出したツナの身体が後ろに引っ張られた。
「へ?」
何処から出たかもわからない声。
空気が漏れているみたいだった。
引っ張られた方へ振り向く・・・。
(?)
・・・何もいない。
が、引っ張られる。
ミステリー。
「って、君っ?!」
そんなミステリーはあるワケもなく、ツナの視線の下にその答えはあった。
さっきの男の子が、しゃがみ込んで自分の袖を引っ張っている。
「えぇと・・・どうしよう・・・。」
今更、雲雀の所に連れて帰る?
驚いて、ツナは思わず首を振った。
それは草食動物特有の生存本能というのだろうか。
今、戻っても、フルボッコ・・・。
「困ったなぁ。」
「ファー。」
「な、何?」
唐突に声を上げる男の子。
「ファー。」
「あ、もしかして名前?」
コクリと頷く。
どうやら、こちらの日本語は通じているけれど、喋るのは苦手のようだ。
と、そこでようやくはたと気づいた。
「あぁ、この子"も"日本の人じゃないんだ・・・。」
正直、ツナは嫌な予感がした。
最近、ツナの所に来る外国人(国籍不明者を含む。)は、厄介事しか持ち込まない。
騒動が騒動を呼び、それを収拾するのにてんてこまいになるのだ。
(でも・・・。)
かといって、校内で右も左もわからないであろう男の子を見捨てるワケにはいかないと思ってしまう。
それは確実にツナの優しさといえるもので・・・。
ツナは、自分の嫌な予感というのが、ボンゴレの血から起こる超直感じゃなければいいな、と切に願うのだった。