家庭教師ヒットマンREBORN! ~Secret BulletⅩ~ 作:鵜飼 ひよこ。
昼食を食べて、山本とファーがいる場所に行っても既に誰もいなかった。
ファーだけでなく山本もいないのだから、きっと彼が校内を連れまわしてるのだろう。
そう結論づける事にツナはした。
山本は自分で面倒を見ていてくれると言ったから。
普段、どんなにボケてても超山本理論を展開しても、言った事はきちんと守る人間だ。
そういう意味では安心なのだが、ある意味で不安になる。
額の上部を腫らしたファーを見た後では・・・。
(突っ込みどころが多過ぎて、逆に突っ込めない時があるんだよな・・・。)
がっくりと項垂れたまま、午後の授業に突入してしまい。
結局、気もそぞろのまま、放課後を迎える事になって、大慌てで山本を問い詰めるハメになった。
『あ?何か眠そうだったから、保健室に寝かせてきたぜ。』
悪びれもなく、至極まっとうな返答だったのが、余計に突っ込みを考えた。
(何か、今日はずっと走ってる気がする。)
それでも、一度出会って縁を作ってしまったからには、心配で走る速度を緩める事が出来ない。
時々、ツナは自分のこういう端から見て要領の悪い所を好きになれなかった。
好きにはなれなかったのだが・・・やはり心配なものは心配なのである。
そこに理由は何時も無かった。
「っぷはぁっ、ファー、いる?!」
ゼェゼェと息を切らせ保健室に駆け込むツナ。
「おぅ、沢田。」
「え゛?」
目の前にいたのは、およそ"病気"という単語が頭にあるハズのない人物。
「な、何やってるんですか?」
「コイツに、拳の握り方を教えていたところだ!」
保健室で出すべき声量ではない大きな声で、胸を張られる。
ベッドで横になっているファーの手を握って、拳を丸めさせている了平。
その姿は、確かにそう見えなくもないが・・・。
「じゃ、な、何で京子ちゃんまで・・・。」
そんな了平の横でにこにこと微笑んでいる少女がいた。
しかも、その膝にはファーの頭が乗せられている。
「え?山本君が、この子を寝かせたいから保健室に連れて行きたいって言ってたし・・・それに・・・。」
(山本~。)
どうせなら最後まで責任を持って欲しかったと思うツナ。
いや、確かに目の前の京子ならば必ず保健室に送り届けてくれるだろう。
人選的には間違ってはいない。
寧ろ、正しい。
が。
(・・・。)
思わず、京子の太腿を見てしまう。
(羨ましい・・・。)
そこはツナも思春期のオトコノコだ。
しかも、膝枕をしている相手が自分の好きな少女なら尚更。
ちょっぴりあれが自分だったら・・・と、想像してしまう。
(じゃなくて!)
妄想しそうになる自分を必死に振り切って、二人に向き合う。
「打ち出す時は、魂を込めてロケットのように一直線!これがストレートの極意だ!」
その間にも了平のストレートの極意(?)の伝授は続いている。
「ファー、大丈夫?具合悪いの?」
ファー目線に合うように屈んで語りかける。
具合いが悪いのに気づかなかったとしたら、自分の責任だ。
少なくとも、山本は眠そうだという変調に気づけたのだから。
胸がチクリと痛い。
「だいじょぶ。」
微笑むファーの表情が、どうしても弱々しく感じてしまう。
一つの罪悪感のせいかも知れない。
「りょーもきょこも優しいから。」
了平と京子を指しているというのは容易にわかる。
見た目10歳ぐらいの割りにはきちんと発音が出来ていない。
やはり、日本語で喋るのは難しいのだろうか?
そんなファーが、ツナの手を握る。
「ツナも優しい。」
(オレは・・・優しいんだろうか?)
心の中で、この子の世話をするのが面倒になっていなかっただろうか?
疎ましく思ったりしなかっただろか?
この子は、こんなにも真っ直ぐに頼ってくれているのに。
次々と湧き出る、疑問と想い。
「ありがとう、ファー君。」
「おぅ、遠慮はいらん!ついでにボクシング部にも入るか?!」
「いや、それはやめておいてあげてクダサイ・・・。」
流石に、こんな弱々しい小さい子にボクシングなんてやらせられない。
入部したその日のうちに、ボロボロになってしまう。
というか、絶対勢いだけで言っているとツナは確信していた。
「む。そうか。なんなら沢田でも構わんぞ?!」
「いや、それは前と同じで遠慮しておきます。」
ぐったりだ。
何時もだったら、もう下校出来ている時間のハズなのに。
「あ。」
ツナはそこではたと思い出した。
「そう言えば、登校してから一度もリボーンと会ってないな。」
下校するにしても、リボーンを探さなければいけない。
外見が赤ん坊なだけで、中身はそうではないから一人で帰宅は可能だから特にこれといって問題があるわけではないが。
「リボーンちゃん?リボーンちゃんなら、そこに。」
「へ?」
京子の指先を見つめる。
白くてほっそりしていて・・・ではなく、どうにも妄想気味になった自分の思考を振り払うという作業をもう一度して、その先を確認。
「リボーン・・・。」
困ったように眉間に皺を寄せてツナは、隣のベッドに座っているリボーンの姿を見つけた。
その鼻からは、見事な鼻ちょうちんが規則正しく膨らんだり萎んだり。
時折、ぴくっと動いて・・・ちょっとヨダレらしき液体も見えたり、見えなかったり。
「あぁ~、もぅ・・・。」
ちょっぴりその場で地団駄を踏みたくなったツナだったが、その体力と気力すらも勿体ない事に気づいて思い止まる。
「リボーン・・・帰るよ。あ・・・ファーは?帰り道わかる?」
「?」
起き上がって首を傾げるファー。
「もしかして・・・完全に・・・迷子?」
ツナのその言葉に何の返答も返ってこない。
「意味がわからないのかな?おウチ?わかる?」
それでも返答が返ってこない。
「うぅ・・・弱ったな。」
「とりあえず、連れて帰るしかねぇナ。」
先ほどまで寝ていた、リボーンが目覚めていた。
ヨダレの跡はそのままだったが。
「リボーン!で、でも。」
「でもも何もねぇだろ?それともツナはコイツを置いていけるのか?」
「うぐっ・・・。」
その通りである。
彼と関わって、更に罪悪感まで感じてしまったのだ。
ここに置いていく事は、ツナの良心がかなりエグられる。
「はぁ・・・じゃ、あとで母さんに迷子届け出してもらわないと・・・。」
良心もエグられるし、何より口答えしたらリボーンに何をされるかわかったものじゃなかった。
「・・・そういう事だから、ファーはオレの家に行くよ?」
返事は無かった。
ただ、きゅっとツナの手を握る力だけがその言葉に応えていた。
「何か、兄弟みたいだね?」
「兄弟?」
京子の言葉にきょとんとしてツナとファーは見詰め合う。
「つな・・・きょうだい・・・?」
「うん。そんな風に見える。」
ファーの疑問らしき声に答える京子。
「私もお兄ちゃんいるのよ?」
笑いならが、目線を隣にいる了平に向ける。
それにつられてファーも。
ね?と、微笑む京子をツナは心の底から可愛いなぁと、思わず赤面してしまう。
「あ、じゃ、行こうか。」
赤面した顔を指摘されるのを避ける為、足早にファーを促す。
端から見れば、微笑ましい光景。
リボーンも端から見ている。
しかし、その視線はある一点に向かっていた。
微笑ましい光景ではなく、了平の胸、そのシャツの下から発せられていた仄かな黄色い光に・・・。