家庭教師ヒットマンREBORN! ~Secret BulletⅩ~ 作:鵜飼 ひよこ。
指定された場所はそんなに遠くはなかった。
木々が整然と並び立つ、町外れのジョギングコースになっている通り。
その一角の開けた場所にある屋根のある休憩スペース。
そのに人影が見える。
「お?あれってファーじゃねぇの?」 「みたいだな。」
すぐさま視力が良い二人(山本と了平)が、休憩スペースにうずくまっている人影を見つける。
全体像は何処から持ち出して来たのかわからない布を被っているせいで良くわからないが、そこから零れ落ちる髪や覗かせている表情は、確かにファーのように見える。
「アイツ!」
突然、獄寺が走り出した。
最初、ツナは獄寺が怒っているのではないだろうかと心配したが、どうやらそうではないようだ。
「オマエ!みんながどんだけ心配したかわかってんのか?!」
何だかんだ言って、一番心配していたのは獄寺だったという話。
走り出してまですぐさまファーの状態を見に行くくらいに。
(意外とランボとかの相手もしてるもんなぁ。)
そういう獄寺の律儀さや見え隠れする不器用な優しさをツナは知っている。
いや、それはツナだけでなく周りの皆もなのだろうけれど。
その証拠に(一般的に)外見や態度がガラの悪く周りに敬遠されがちな獄寺も、一度話しかけてみれば相当話し易くてイイヤツだとわかる。
「どっか怪我とかしてねぇだろうな?」
獄寺がファーの顔を覗き込もうとした時だ。
「獄寺離れろ!」
ツナが頭に浮かんだ事を説明も理由を思考する事もなく、叫ぶ。
日頃からボスであるツナに忠誠を誓う右腕として、自覚ある獄寺だから出来る反射行動。
脊髄反射ともとれる行動で、その場から飛びずさる。
「ちぇ、一人くらい殺(ヤ)れると思ったんだけどなぁ。」
ゆっくりと立ち上がる人物。
先程、獄寺が立っていた場所は、ボコリと半円状に陥没している。
「オマエは誰だ?ファーを何処にやった?」
ファーとそっくりの顔を睨みつけるツナ。
立ち上がった人物を見れば、ファーより2回りは身長が大きい事がわかる。
「ファートならここにいる。」
「ファート?」
身体に巻きついていた布を払うと、そこにファーがいた。
だが、そう考えても彼等の身体を覆っていた布に二人の人間が身体を隠す事は出来ない。
一体、どういう理屈なのだろう?
そう思い、ツナは更に警戒を深める。
「あぁ、知らなかったか?コイツの名前はファート。ファート・オルテンシア。そして、オレがミストゥ・オルテンシア。この出来損ないの兄貴さ。」
「兄?」 「兄貴だと?」
ツナの反応の後に獄寺が身体についた埃を叩きながら、自分を不意打ちしてきたミストゥを睨む。
「あぁ、正真正銘のね。」
彼の腕の中でぐったりとしているファー。
意識もないように見える。
「ファーに何をした!」
「あぁ、ちょっと薬を打ったから、ぐったりしてるように見えるだけさ。」
「薬だと!オマエ、弟を何だと思ってるんだ!兄というものはな、下の者を極限に護るものだ!!」
妹のいる了平には、このミストゥの言動が許せない。
少なくとも、兄というものの存在は、そうだとあるべきだと信じている。
何より頼りに思われる事を誇りに思っているし、そういう存在で居続ける為に日々鍛錬という形で努力しているのだから。
「出来損ないに兄が何をしたって同じさ。寧ろ、こうして囮の役に立つのを感謝して欲しいね。しかし、おかしいと思わなかったか?コイツの思考・言語の能力の低さを。」
言語に関しては確かに獄寺も指摘していた。
ツナは、外国人だから日本語に不自由していると感じただけだったが、どうやらそうでは無かったらしい。
「コイツは"杭(パロ)打ち"って言ってな、オレ達みたいな存在の行動を思考能力を消し去る事によって抑制するものなのさ。」
つまり、この罠には何らファーの思惑は介在していないという事だ。
それだけでも、ツナは良かったと思った。
けれど・・・。
「どうしてそんな事を・・・。」
今までのファーの言動は、薬によって抑え込まれた中で必死に紡いでいたモノだったという事になる。
「どうして?それはオレ達が、こういう事が出来るからさ!」
ミストゥが地面を足で踏み下ろすと、ツナ達へ向かって直線上に陥没していく。
「みんな離れて!」 「時雨蒼燕流(しぐれそうえんりゅう)、 時雨之化(じうのか)!」 「極限太陽(マキシマムキャノン)ッ!」
ツナが叫び離れるように皆を促した瞬間、彼の前に山本と了平の二人が躍り出る。
山本が地面に突き立てられた一振りの刀から、おびただしい程の蒼き炎が噴き出し辺りを包む。
その後、その地面をめがけて黄金色に輝かせた拳を了平が地面へ叩き込み、三人の眼前の地表を砕いていく。
「火遊びはよそでしろよ。」 「その根性、この拳で叩き直してやる。」
二人の対照的な怒りをよそに、ミストゥの身体はファーごとフワリと宙に舞う。
「ま、こんなのでヤラレるワケないか。」
「ロケットボムッ!」
真上から急降下してくるダイナマイトをヒラリという効果音付きでかわし、ミストゥの背後で爆音が轟く。
「今から3倍返しでボコボコにしてやる。」
獄寺も既に臨戦態勢だ。
三人の様子を楽しそうに空から一瞥し、余裕の笑みを浮かべるミストゥ。
だが、その表情が一瞬にして緊迫した顔に変わる。
「クフフ、お痛が過ぎますよ?」
宙に浮くミストゥの前に突然、人影、骸が現れたからだ。
そして、容赦も躊躇いもなく手にした槍をミストゥの額に向けて。
「くっ!」
「ほら、腕が留守です。」
ファーを抱えたまま上体を逸らして槍を回避しようとするミストゥだが、目の前で槍が消失する。
刹那、腕に痛みが。
何の事はない、最初の一撃は幻覚で、槍での本当の攻撃は最初からファーを抱く腕に向けられていたのだ。
「ファー!」
落下するファーに向かって、ツナが叫んだ瞬間、視界の隅から黒い影が走り出る。
「何をやってるんだい?」
ファーをがっしりと受け止めた黒い影。
「ひば・・・。」
うっすらと瞼を開き呟くファーの表情をじっと見つめた後、受け止めたファーを腫れ物にでも触るかのように慎重に地面に下ろす雲雀。
そして、彼の声に応えるように頷くとチラリと骸を見た後、全く興味を無さそうに視線を逸らしてミストゥを睨む。
「"ウチの生徒"に何してんの?咬み殺すよ。」
きゅっと両手のトンファーを握って構える雲雀。
なんだかんだ言って、雲雀なりにファーを心配しているらしい。
それこそ、"骸と戦う事よりも優先する"くらいに。
「まぁ、いいさ。そんなヤツに用なんてないしね。」
ニヤリと笑うミストゥの右手から緑の炎が二人に向かって溢れ出す。
「雷属性・硬化の炎ですか・・・。」
なんなく回避する二人。
「ちゃんと君達、全員の相手は用意してあるよ。元々、守護者全員、潰す気だしね。」
「クフフ、舐められたモノです。」 「興味ないね。」
ミストゥの合図でわらわらと黒服やライダースーツを着た男達が現れ、立ちはだかる。
一体、何処に隠れていたというのかという人数。
「ここにいる全員、皆、属性の炎を持っているよ。どれだけ倒せるかな?」
「相手にとって不足なし!」 「ま、なんとかなるだろ。」 「全員、オレがブッ飛ばす!」
三者三様の応対だが、三人とも受けて立つ気は満点だ。
「そうだ。皆、守護者にトドメを刺したヤツが新しい守護者だ。俺達はその為に産まれたんだしな。そこのファーも。」
「ファーが?!」
皆、一様にファーを見る。
その視線に意識を取り戻したファーが小刻みに震える。
「もっとも、ソイツはクソみたいな炎すらマトモに使えなくて、思考も能力(チカラ)も封印された杭(パロ)打ちだけどね。」
とても無邪気に笑う様は、ファーにそっくりだが、ツナには全体的に歪に感じられた。
「俺達は、とある組織がボンゴレの守護者共にとって代われるように造られた人間さ。そういうワケで全員・・・。」
親指を立て首を掻っ切る真似をして・・・。
「死んでもらうよ!」
一瞬にしてミストゥがツナに間を詰めると、その場にいた全員が動き出す。
「ツナ、ファーは任せろ。」
珍しく自分からリボーンがそう言って、ファーを前に立つ。
特殊弾はミストゥが間合いを詰める前に既にツナに向けて放った後だ。
「任せた。」
ミストゥの拳を紙一重でよけるツナ。
「フッ!」
二撃目の緑の炎を溢れさせた拳は、肘を下から殴る事によって逸らす。
逸らされたそのまま勢いで、ミストゥの右足がツナの左腕を掠めた。
「ぐぁっ。」
ただ掠っただけで、ツナの左腕に強い痛みが走り、思わず叫び声を上げる。
何故?
ツナがそんな疑問を感じる前に再び緑の炎が襲い掛かってくるのを、なんとか距離を取る事でかわす。
「うぐっ・・・。」
また左腕に痛み。
見ると袖の部分が、刃物で切られたかのように消失して覗いた肌から血が滲んでいた。
「斬られた?いや、消えたのか・・・となると・・・。」
斬られたのではなくて、消えたというのならば答えは簡単。
"分解"されたのだ。
目を凝らしてミストゥの身体を見ると、緑の炎を纏った手とは反対の手。
その爪先に細い線状の赤い炎が微かに揺れている。
「二つの炎が使えるのか?」
「よく見てるね。まだ二回目なのに。」
嘲笑うかのようにくすくすと笑う。
「でも、まだまだだよ!」
再び間合いを詰めるミストゥ。
さっきの二回の攻撃、特に分解の方は手と足の両方から放出されていた。
というコトは、今度はそれに注意しなければならない。
ツナは、相手の攻撃を全て炎を纏った拳で受けるか流す事を肝に命じる。
「来い!」
右手の一撃、揺らめく炎の色は相変わらずの緑。
これをかわすと、左手の微かな赤の炎。
左拳をぶつけて、弾き飛ばすと右のストレートをミストゥへ。
「くっ・・・。」
再び左腕に激痛を感じて溜まらずツナは間合いを取る。
「今度は・・・何だ?」
左の二の腕の一部が紫に変色して盛り上がっているのが見て取れた。
「知ってる?癌って、異常に増殖を繰り返す細胞の事なんだよ?」
触れたツナの細胞を以上に増幅する事で、正常な細胞の数を犯す。
「まさか・・・雲属性・・・。」
ミストゥは2属性ではなく、3属性の使い手?
それも戦闘に使えるレベルの。
ツナの頬に一筋の汗が流れ落ちる。
「だから、言っただろ?俺達は守護者を潰してとって代わる為の存在って。アンタが勝てるワケがないんだよ。」
次の瞬間、ミストゥの姿が完全に消える。
「3属性だと思ったのなら、ハ・ズ・レ。」 「幻覚?!」
見破れなかった。
目の前のミストゥが幻覚で、すぐ傍にミストゥが現れるまで。
緑と赤の炎が燈った両腕がツナに向かって伸ばされる。
慌てて、その腕をかわそうと反応するツナ。
そしてスローモーションのように感じる感覚の中で、ミストゥの緑の炎がツナの左腕に突き刺さるように振り下ろされる。
鈍い音がツナの耳に聞こえた瞬間、スローモーションが急に解けたようになり、ツナは地面に転がる。
「ちぇ、分解の方だったら、腕の一本くらいもげたのに。」
完全に3属性しか扱えないと侮った結果、ツナは左腕が自力で上げられないダメージを追ってしまった。
嵐・雲・雷・霧の4属性。
最低でもミストゥはそれを扱える。
もしかしたら、他の属性も使えるかも知れないと、ツナは認識を改めた。
「でもま、これでなんだっけ?あの変な炎の技、使えないね?」
きっとミストゥが言っているのは、Ⅹ-BURNERの事だ。
確かにあの技は、両腕が使えなければ放つ事は出来ない。
その為にしつこく片腕だけを狙っていたのだろう。
相手は完全に戦う相手の自分を研究して来ている。
多種多様な炎が使えるという戦術の幅に、研究を経て積まれた相当な訓練。
「何で・・・こんな事を・・・。」
だからこそ、ツナは疑問に思う。
これだけの力があるのならば、と。
「なんで?なんでだって?そうやって俺達は造られたからだよ。」
「もっと違う力の使い方だってあったはずだ。」
「違う力の使い方?力なんて相手より優位になる為、上に立つ為のモノじゃないか。」
違う。
それだけが全てじゃない。
少なくとも、ツナが知っているボスと呼ばれる人物達。
ディーノだって、ボンゴレ9代目だって、力だけで皆を従えているワケではない。
二人ともツナにとって、強さ以外でも尊敬出来る存在だ。
「それは間違ってる・・・。」
「間違ってる?どう間違ってるのさ?結果、アンタは今、大ピンチじゃないか。」
そう言うとミストゥの両手に赤い炎が吹き上がる。
「次は・・・足かな?」
そんな戦いが繰り広げられる中、震えるファーを背にリボーンは皆の戦いを静かに見守っていた。
護る側の人間の方が背の低いというのは、非常にアンバランスに見えるが。
リボーンはツナ達が戦うと覚悟したら、絶対に自分は手を出さないというルールを常に自分に課している。
課しているからこそ、こういう構図なのだが。
「オマエの中のファミリーって何だ?」
視線を固定したまま一言、呟く。
誰に?
「オマエが見て来た、感じたファミリーはどうだったんだ?」
もう一度、力を込めて呟く。
それは背中にいる存在に。
「リボ・・・。」
ファーは震えながら自分の拳見つめ、握り込む。
そして意を決したようにリボーンのスーツの袖を掴んだ。
「ボクに・・・。」
「それで・・・いいんだな?」
力強く頷くファーに、リボーンはレオンが変化した緑の拳銃の銃口を向ける。
「行ってこい。」
銃声と共に吐き出されるは一発の弾丸。
「ツナさん伏せて!」
その日。
ファーは初めて自分が思った、考えた事の100%を声に出して叫んだ。
振るう拳が、ツナとミストゥの間を引き裂く。
「ファー?!」
自分に走り寄るファーのその様子にツナは驚いた。
その変化にだ。
額に、彼の額に炎が燈っている。
それは微かな、ほんの小さなモノだったが。
「止めて!兄さん!」
宙に浮く兄に叫ぶファー。
「出来損ないの割りには、いい炎だな。」
クスクスと笑うミストゥ。
嘲笑と侮蔑しかない笑み。
「今はそんなの関係ない!もう皆を傷つけるのは止めて!!」
常に考えたり喋ったりするのも億劫だった自分はもういない。
今は、身体も軽くしっかりと喋る事が出来る。
ファーは自分の枷が、全部取り払われているのを感じていた。
いや、ずっと前からそんな枷は無かったのだろう。
自分がボンゴレの皆と出会った時に。
「フン。杭(パロ)が解けたと思ったら、そんな生意気になりやがって。何時からそんなに偉くなったんだ?」
「解ったからだよ。ここにいる皆の代わりなんて何処にもいない。誰にもなれない。それが解ったから。」
「ファー・・・。」
誰も代わりなどいない大切な
その言葉にツナは感動する反面、何故だか理由(ワケ)もなく胸騒ぎを覚える。
「へぇ、じゃあ何者にもなれない俺達もオマエも、世界には要らないってワケだ!」 「そうじゃない!」
どうして解ってくれないのだろう・・・。
どうして世界の何もかもを憎むのだろう。
どうして何の罪もない皆に向けられるのだろう。
ファーは悔しくて、悲しくて仕方が無い。
兄だって、ツナや皆と話せばきっと解るはずなのに。
「出来損ないは黙っていろ!」
ミストゥの両手が赤く燃え盛り、放たれる。
嵐の属性、分解の炎だ。
「《Il cielo della trisetezza!》」
ファーの額に燈った炎の真ん中に一筋の沈静の蒼い炎が揺らめくと彼はその手を高々と掲げる。
天にかざした手が、ミストゥの分解の炎を消し去っていく。
「ボクは兄さんの劣化品だよ?炎の特質だってほぼ同じだ。」
劣化品、出来損ない。
その自覚はファーにはある。
だから、杭(パロ)も受け入れた。
「出来損ないで、炎の能力(チカラ)も弱いボクだけど・・・皆と違って唯一、"大空の属性"を持ってる。」
ファーの額には、確かにツナに比べたら遥かに弱く小さいが、オレンジ色の炎が燈っている。
「けど、所詮は劣化品だな。」
「違う!例え兄でもファーを物扱いするのは許さない!」
二人に割って入る声。
人が人を評価する事は社会に出れば少なからずある事だろう。
でも、人をこうだと決めつけ枠に嵌めて、雁字搦めにする権利は誰にもない。
ツナはいい加減、その態度が許せなくなっていた。
「で?そんな身体で何が出来るっていうのさ?」
表情も変えず、そして侮蔑と嘲笑を込めたままの声でミストゥは見下ろし続ける。
ツナの左腕は依然、力なく垂れ下がったままだ。
恐らく骨までヤラれているのは確実だろう。
「一人じゃ何も出来ないかもな・・・でも、オレは一人じゃない。」
ツナはファーを見る。
幼いと思っていたファーが今は見違えたように見えた。
喋り方が変わったから、杭が取り除かれたからじゃない。
そこには確固たる想いを持った"人間"がいたから。
「ファー、悪いけれど、オレは君の兄さんをブッ飛ばすよ。」
「・・・ツナさん・・・兄さんを止めて・・・下さい・・・。」
もう迷わない。
目の前にいる人間を可哀想だと思わない。
あれはただの我が儘な分からず屋だ。
「背中は任せるぞファー・・・いや、ファート・オルテンシア。」
ツナはそう言って、残った右手をミストゥに向ける。
防御は考えない。
この一撃が決まれば、必要がないから。
「うん。」
ファーはすぐにツナが何を自分に任せたのか判った。
それを解る事が出来たのが嬉しくて、ツナに自分の背中を合わせる。
昔、自分に優しかった兄の背も同じように温かくて広かったのをファーは思い出す。
(温かい・・・。)
誰かを温かいと感じたのは久し振りだった。
あの学校に"導かれて"、自分に触れてくれた人、皆温かかった。
皆が持っていてる温かい炎を自分に少しずつ分けてくれたみたいで。
「踏ん張れよ。」 「はい!」
ツナは後ろのファーは気にしない。
自分の炎を受け止め切れないなどという疑いも微塵もない。
信じてツナは、自身の右手に集中する。
きっと出来ると。
力強い想いは炎へと変化し、ツナの拳に宿る。
「
本来、柔剛左右の腕の炎で放つ技を右手だけでツナは放つ。
当然、自分の身体が放射される炎と反対側に押し込まれていく。
それを両手を眼前に突き出したファーが背中合わせの体勢で全力で押し戻す。
久し振りのコンタクトディスプレイを使わない変則的なイクスバーナーだ。
「うおぉぉぉぉーッ!」 「あぁぁぁぁぁーッ!」
二人の雄叫びが重なる。
ツナとファーの足が少しずつ地面にめり込んでいく。
それでも二人は、炎を噴出し続ける事を止めない。
「こんなもの!」
轟音を立てながら高速で迫り来る炎をミストゥは、赤と蒼の炎を纏った両手で受け止める。
分解と沈静を繰り返し続ける事で、ツナの炎を削り始めたのだ。
冷静に考えれば気づけたはずだ、いくら二つの炎を同時に生み出せたとしても。
いや、二つだけじゃない。
三つだろうと四つだろうと、所詮は一人が生み出す炎。
だが、相手は一つは一つでも"二人が生み出す一つの炎"には勝てないのだという事に。
そして、やがて終わりが来る。
分解・沈静し切れなかった炎がミストゥの両手から溢れ始めた。
やがて、その量が完全に彼の炎を圧倒する頃、ミストゥはオレンジ色の炎に包まれたまま地面に落下していった・・・。
「やった・・・。」 「ごめんね・・・兄さん。」
いくら兄が間違っていたとしても、それでもファーにとってミストゥは血の繋がった兄なのだ。
どんなに拒絶されても、たった一人の家族。
「ツナさん、ありがと・・・ぅ・・・。」
グラリと傾くファー。
それを受け止めようとしたツナは、自分が左腕を使えないのを忘れて、勢いを殺せずにファーの身体ごと倒れる。
「大丈夫か?!」
額の炎が消え、心配そうに普段のツナが覗き込む。
「だいじょぶ・・・。」
震える手をツナに向かって伸ばしてくるファーの顔色は酷く悪い。
小刻みカタカタと震え、額の炎も今にも消えそうに不規則に揺らいでいる。
その状態の何が大丈夫だというのだろう。
「ツナ、ファーはこうなるのを解ってたみたいだナ。」
「リボーン!」
冷静に見下ろすリボーンは、ただファーを見つめる。
「解ってるって何が!」
ツナの叫び声にそれぞれの戦いを終えた皆が駆け寄る。
どうやら、誰も大きな怪我などなくほぼ圧勝に終わったようだ。
「杭(パロ)ってのは、ファーの感情・能力を封じると同時に安全装置だったってコトだ。」
複数の炎を操るのは至難の業だ。
危険も反動も大きい。
「そんな・・・じゃ、どうして・・・。」
どうしてファーは戦う事を、力を使う事を望んだのだろう?
「それを、オマエは聞くのか?」
キッとツナを睨むリボーン。
その強い眼差しに、答えられず唇を噛む。
「やま・・・やきゅぅ・・・。」 「おぅ、またやろーぜ。」
見る間にファーの額の炎が小さくなっていく・・・。
「野球だと?!ファーはオレとボクシングをやるのだ!」 「ん・・・もっとたくさん・・・。」
小さくなった炎が、不規則にノッキングし始めて。
「ひばぁ・・・。」 「ん。」
一言。
雲雀は、ただ返事だけを返す。
「ごく・・・。」 「まぁ・・・たまに遊ぶのくらい許してやらぁ。」
遊ぶのは楽しかった・・・ランボさんとも・・・。
皆に会わせてくれた"彼"にも感謝している。
そう考えながら・・・。
(あぁ、なんて温かいんだろう・・・。)
こんな温かさに包まれて眠れる日が来るなんて、ファーは想像した事がなかった。
「つ・・・な・・・。」
ただ一つ。
最後に彼を、自分の事を涙を流しながら見ている彼を・・・一度だけでいい。
傍にいるだけで温かくて優しい彼を、ファーは"ボス"と呼んでみたかった。
(でも・・・もう・・・
身体の何処にも力が入らなくなって、声を出す事も口を動かす事ももう出来ない。
感覚が鈍くなって、全部がどんどん暗くなっていくのを冷静にファーは感じる。
だが、感情的には不思議と怖くなかった。
理由はとても簡単な事。
"心の中にみんながいるから。"
「なんだよソレ!」
自分の腕の中で、少しずつ力が抜けていくファーをツナは呆然と見つめる。
「そうじゃないだろう・・・これからもっと・・・皆で楽しく・・・さ・・・。」
言葉が出て来ない。
こんな理不尽な事があってたまるか・・・心はそう自分に激しく訴えかけ、怒りと悲しみがツナの心を蹂躙する。
「そんなの・・・オレは認めないよ・・・。」
再びツナの額に大きく燈るオレンジ色の炎。
それこそが絶対に諦めない、ボンゴレの
ツナは想う。
ここでソレを、彼の死を受け入れてしまったら、自分は・・・"
ツナの両手に装備されたグローブの甲が
「死ぬ気の零地点突破・
優しい炎が、ファーの瞼に下ろされる。
「だから、何年かかるか解らないけれど待っていて。」
確かに"今は"ファーは助からない。
哀しいかな、超直感を持つツナには断言出来てしまう。
けれど、10年先・・・いや、20年先なら・・・。
ファーの全身をゆっくりと
「必ず、オレ達は君を
ここに来る時に願った事をもう一度強く願う。
ファーもこの輪の中に・・・自分達のファミリーの中に・・・。
「だから、それまで・・・おやすみ、ファー。」
とめどなく溢れる涙で視界が歪んでも、ツナはファーから一時も視線を外さない。
見届けないければいけないから。
涙を拭う事などしない。
「・・・ボス。」
ツナのその背を見て、クロームは自分が何かをしたいと考える。
でも、何をしたらいいのかが解らない。
そのもどかしさが哀しい。
<行きますよ、クローム。>
唐突に。
唐突で無かった事など一度もなかったのだが、クロームの脳裏に骸の声が響く。
(骸様・・・。)
<この"責任を取ってもらいに"行きましょう。>
責任(せいさい)。
彼はこう言っているのだ。
こんな歪な存在達を造り出した組織に裁きを。
骸の声の微妙な変化にクロームは反応し、理解する。
今、骸様は怒っているのだと。
<沢田綱吉は、アレですからね。>
「はい。」
怒って当然である。
彼(ファー)もマフィアに散々身体を弄られて、挙句失敗作として捨てられたのだから。
ふと、だから骸様は彼をあそこに"導いた"のではないだろうか?
目の前の儚く消えそうな命は、昔の自分と変わらない。
だから・・・。
<クローム。>
もう一度、ツナに抱かれ
今度また、京子やハル達とおにぎりを握って皆で食べたら、ツナは喜んでくれるだろうか?
ふと、そんな事を思って・・・。
そして、クロームはその場を後にした。
「リボーン・・・ファーを安全な所に移せる?」
完全に結晶に包まれ、仮死状態になったファーは氷の華に抱かれているようにも見える。
「任せておけ。オマエが判断した事だ、徹底させるゾ。」
そう述べると、リボーンは自分の帽子を深々と被り直し、皆から自分の視線を隠す。
(ファー、オマエも今日からツナのファミリーだ。良くやったナ。)
その口元は微笑んでいるようにも見えた。
「・・・良かった。」
フッと額の炎が消え、そのままぺたんと尻餅を着くツナ。
するとすぐさま左腕の痛みがツナの身体を支配する。
悲鳴を上げて転げまわりたいくらいだったが、そんなツナをぐっと引き寄せて立たせようとする腕が・・・。
「お疲れ、カッコ良かったぜ。」
「山本・・・オレ・・・オレ・・・。」
「何も言うな、沢田!オマエは極限によくやった!」
「お兄さん・・・。」
了平がガッシリと力強く肩を掴む。
「10代目!肩お貸しします。」
「怪我人なんだからな?そっとだぞ、タコヘッド!」 「んなコト、芝生頭に言われなくてもわかってら!」
そう言う獄寺がツナの脇の下から頭を出した時、相当傷に響いたのだが、それを言わないようにぐっと堪える。
雲雀の姿はもうどこにもなかった。
そういえば、クロームと骸の姿も何時の間にか見えない。
そして、ツナを中心に皆、一様に眠っているファーを見下ろす。
「何時か・・・皆でファーに言ってやろう・・・。」
そうみんな。
ファーに出会ったみんなで。
-おはよう そして おかえり-
家庭教師ヒットマンREBORN!
~Secret BulletⅩ~
【La Fine】