『裏山で保護した野良犬がニホンオオカミだった。』   作:草原山木

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ネス湖

スコットランドののどかな田舎、木々の生い茂る道を車で進み、街道のすぐ側を揺れる水面の光を浴びながら、我々はスコットランドはネス湖に到着した。1933年以降、周辺の道路整備が成されたことをきっかけに、人通りが激しくなったここネス湖では、度々ネス湖の怪物と呼ばれるネッシーの目撃談が後を絶たない。その中には当然、根拠の無いガセネタも含まれるが、火のないところに煙は立たないと言ったように、未だネッシーの存在を疑う人々は多い。

 

2019年、オタゴ大学の調査によってネス湖からウナギのDNAが多数検出され、その存在を否定的な目で見るものも多いが、ネス湖の湖底にクレバスがあることが判明していることもまた事実で、本格的な調査をしない限りは居るとも居ないとも断定できないという結論に至った。

 

ネッシーを写した写真は世界的に有名なものであるが、写真を撮影したロンドンの外科医 ロバート・ケネス・ウィルソンは、潜水艦のおもちゃにネッシーの首をつけただけの偽物であると晩年否定している。

 

世論的にはネッシーの存在を否定する声が大きいものの、近年、またネス湖においてネッシーと思わしき目撃談が多数散見されたことは、一般的に知られてないことである。

 

ウナギのDNAが検出された翌月、ネス湖で運営される遊覧船に乗っていた数名の観光客が、灰色の巨大な何かを見たという証言があがっている他、2021年10月、湖岸に打ち上がった10センチの脱皮殻と思わし物体を検査した結果、蛇やワニといった巨大な爬虫類のいずれとも類似しないことが明らかになった。

 

極めつけに、2021年12月29日、専門のチームによる潜水カメラとソナーを利用した調査において、全長7メートルに及ぶ巨大な生物の影をソナーによって捉えた。

 

にわかには信じ難い話だが全て事実である。

急遽イギリスは周辺地域に規制線を張り、観光客の立ち入りを禁止した。調査依頼のために外務省を通じて事務局に笹壁亮吾の招聘を依頼した。

 

イギリスからの要請を受けて笹壁が到着したのは翌日の事だった。

 

 

「うわ、すごい人」

 

「観光客は規制されてますけど、周辺住民の見物が連日のように続いているらしいです。調査チームは湖の近くにある仮設の拠点で24時間体制で調査を続けている他、セントアンドリュース大学との合同研究も同時に進行しているようです」

 

「毎度ながら大掛かりですね」

 

「まぁ、国レベルの事案ですからね」

 

プレハブで建てられた建物の前に到着すると、スーツを着た、いかにもお偉い地位に着いているであろう英国紳士に案内され、我々は研究室に入った。

 

『Hello』

 

「あ、ハロー」

 

『よく来てくれましたねミスター笹壁、到着早々見てもらいたいものがあります、こちらへ』

 

「あ、はい...」

 

桃谷さんの通訳を通しながら、研究室の真ん中に置かれた巨大なボードを見上げる。犯罪組織を追っている刑事の寝室のような、赤い紐と資料で埋め尽くされたボードには、一際目立った大きな写真が貼られていた。

 

『今現在、我々の見立てでは俗に言うネッシーの正体をプレシオサウルスに類似した生物、またはプレシオサウルスの生き残り...と考えています。当初は蛇やうなぎ、ワニ、イルカなど様々なものの想定がされていましたが、1ヶ月前、プレシオサウルスの化石からDNAを採取し、今回の脱皮殻と比較した結果、配置にかなり似た要素が見られ、断定に至りました』

 

「プレシオサウルス...復元画を見る限りほぼネッシーですね」

 

『実の所、1934年に撮影されたネス湖の怪物の写真以前に、ネッシーと思わしき生物を見たという目撃例が多数あることが、調査の結果判明し...それ以前にも同様の目撃例が長い歴史の中で多数挙がっています』

 

「仮にプレシオサウルスがネッシーの正体だったとすると、姿形をほぼ変えずに生き残ることなんて可能なんですか」

 

『仮説ですが、プレシオサウルスが生息していたのは約1億4000万年前、生きた化石と呼ばれるシーラカンスは3億年前から姿を変えていませんから...有りうる話ではあると思います。生きた化石と呼ばれる生物は大半が深海生物なので...種の存続のために深海に生息域を移したとなれば、信憑性は増します』

 

「なるほど...でもよりによって深海から湖に生息域が変わりますかね...」

 

『それに関しては疑問も多いです。ネス湖は海につながっていますからそこから侵入したことも考えられますし、人間が文献も残っていないほどはるか昔にプレシオサウルスの卵をネス湖に持ち込んだということも考えられます。当然憶測の域を出ませんが...』

 

「人間が持ち込んだ...」

 

『いずれにせよ、UMAの正体が明確に化石として残っている生物だったというだけでも、存在の信憑性は高くなると思います』

 

「見つかりますかね」

 

『見つけますよ。それに我々には笹壁さんがいます、アナタがいてくれれば百人力ですよ』

 

「はは...荷が重いなぁァ」

 

プレッシャーのあまり下手くそな愛想笑いしか浮かべられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

メキシコ プエルト・エスコンディト

 

 

『まぁ...予定外に1人殺しちまったのはいただけねぇが、目撃者だし...後始末はつけたんだろ』

 

『えぇ。口止めもしてあります』

 

『...しくじるなよ』

 

『Yes my セニョール グアトロ』

 

執務室から出ていくスーツ姿の男を、口髭を生やしたポロシャツの中年が見送る。

 

『...アイツには監視をつけとけ、賄賂の時点でチンコロしたことが分かったら、肝臓でもなんでも売って後は鮫に食わせりゃいい』

 

『はい』

 

『...倉庫に行ってくる、車回せ』

 

『はい』

 

席から立ち上がった男、グアトロはサングラスにスーツを着込むと、懐にべレッタを差し込み、分厚い防弾ガラスや内包する機関銃で武装された車に乗り込んだ。

 

街から車を走らせること20分、干からびた丘にひっそりと立つ倉庫に到着すると、中で椅子に縛りつけられた男性を見ながら大笑いをうかべ、部下に指示を出した。

 

水をかけられた男性は猿轡越しに叫びながら、グアトロに何かを叫んでいる。

 

『俺は優しいからな...別に殺す時は苦しめながらっつうマネはしねぇんだがよ...あんたが頑なに拒否するってんなら、話は別だ...んで、誰の差し金だ』

 

『...くたばりやがれゲス野郎』

 

『...ふふふ。この期に及んでバックれるのはアメリカ人の常套句だもんなァ...おい、指でも刻むか...?』

 

『...地獄に落ちろッ...!』

 

「ッ...この阿呆、舌噛みやがった...」

 

舌を噛んで死んだ男を他所にグアトロは部下から渡された書類に目を通す。

 

『あらかた薬で自白させたんだろ』

 

『えぇ、あとは殺すだけでした』

 

『そうか...まぁ情報が取れたならいい。で、差し金は...FBI?メキシコ政府じゃなくてか』

 

『えぇ、どうにも最近本元じゃなく、うちの別組織がマークされているようでして』

 

『FBIはコカイン関係だろ』

 

『おおかた、インターポールと手を組んだのかと』

 

『んでこの男に指令が来たと...あぁ、クソがめんどくせぇなマジで』

 

『どうします、身を隠しますか』

 

『いや、必要ねぇ。その前にアレはどうなってる、日本人の』

 

『監視はしてますが、如何せん近づけない状態でして……近いうちにアメリカから要請があった時に攫う計画は立ててますが、まだ実行段階には移ってません。情報ではスコットランドに飛んだとか』

 

『よりによってイギリスかよ...監視してる奴には揉めないように釘刺しとけよ』

 

『はい...』

 

 

男の名はバルロ・エル・グアトロ、麻薬カルテル 『バサネラル・カルテル』の主要幹部にして、密猟組織 『No.91』のトップである。

 

 




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