『裏山で保護した野良犬がニホンオオカミだった。』   作:草原山木

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殺人

「どこ…ここ。」

 

朝起きたら船の上だった。

ゆらゆらと揺れる水面と、青空のコントラストがなんとも美しい。

 

手足に付けられた結束バンドもいい味出してる。

もう一度言おう。

 

「どこ…ここ。」

 

なぜベッドで就寝して、朝起きたら海の上にいるのだろうか。

ふと船の奥から数名の男がビール瓶片手にやってきた。

 

『…おい起きてるぞ』

 

『日本人は早起きなこって…どうする、もう1発ぶん殴って眠らせちまうか』

 

『いや、死なれちゃ困る。それにもう朝だ、人間誰でも普通に起きんだろ』

 

おそらく英語ではなかろう言語で話している数名の男たち。腰から覗くギラギラに輝いた(チャカ)。絶対に堅気ではない。

 

「(人相悪いなぁ…)」

 

いかにも日頃からドンパチしてそうな見た目で、かなり怖い。ここは逆らうのは凶だとし、静かに再び目を閉じた。

まぶたの裏で、船が動き出したことを感じる。頭に麻袋が被せられる感触も、船員の誰かが逐一どこかと連絡をしている声も鮮明に聞き取れる。

 

人間、ピンチになると火事場の馬鹿力が働くというのは本当だったのかと場違いに感心しながら、何をされるのかという想像はしないでおく。

先は不安だ。ただ俺を攫った理由はよからぬ事であることは確実…というか攫ってる時点でよからぬ事なので、何かに利用される可能性は往々にしてありうる。

 

 

死にたくはない。だけど死なないだろうという確信はどこかあった。

何かあったら、きっと誰かが助けてくれる、子供の頃から漠然とそう確信している。

 

自分は何かに守られている気がするのだ。だから本当に死にそうになったら、命からがら助け出してくれる存在がヒーローのように参上してくれる。

今はただ祈るばかり、誰でもいいこの状況をひっくり返せるほどの圧倒的な力を持つ何かよ、俺を助けてくれ。

 

心の中で繰り返すようにつぶやく。

 

 

思えば、俺が過去にピンチだった時、助けてくれたのは友達でも大人でも先生でもなかった。子供の頃、山にカブトムシを取りにいって迷子になった時、鹿みたいな生物に服を引っ張られて無事下山することが出来た。今思えば、あれは紛うことなき天然記念物のカモシカだった。

 

川で遊んでいた時、ふとした瞬間に岩から足を踏み外して激流に飲み込まれたことがある。その時も俺のことを何かが引っ張りあげてくれた。

人間、人生の中で死にそうになったことなんて一回や二回はあると思う。そんな時に命からがら今まで生きているのは、なにか不思議な力が働いているか、誰かに助けて貰ったからの二択に分かれるだろう。

 

自分の場合は後者のみだ。

子供の頃から山奥で過ごしていたこともあって動物という存在に対して並々ならぬ信頼を寄せている。山形から千葉の会社に行った時もその気持ちは変わらなかった。

 

社会人として働き始めた頃、当時付き合っていた彼女が小さなチワワを連れていた。警戒心が強くて、普通なら初対面の人を見ると吠えてどこかへ逃げてしまうのに、自分にだけは妙に懐いて仕方がなかった。

 

人生において動物園や水族館に行ったことは数回しかないが、大きな水槽の前に立っていると巨大なシャチ数匹がまるで、興味深そうに俺の周りによってきてじーっと凝視されたことがある。動物園内のサファリではライオンに餌をあげる時に、他の客を無視して自分のトングにのみ集まってくる。

 

小さいながら、その事が怖くて、子供の頃はあまり動物園には行きたがらなかった。動物に愛される体質…にしては異様すぎると一度病院に連れていかれたこともあったが、原因は未だ不明だ。

 

高校が山形の市街地にあり、一人暮らしをするようになってからしばらく実家に帰ることはなくなった。高校の休み時間中、ふと窓を開けて外を眺めていたら、肩にカラスが止まったことがあるし、校内で飼っているうさぎが脱走した時、見つかったのが俺の机の上だったこともある。

 

自分自身、そんな特性を持っていることを大変気味悪く思っていたけど、高校の頃の友人は凄い凄いと笑顔で接してくれたし、なにより、自分の中でこの特技とも言えるか分からない体質が誰かに認められるのが非常に嬉しかった。

 

社会人として生活し、彼女ともいつの間にか別れ、働いていた会社が不景気で倒産して山形に帰ってきたとき、自分の夢は潰えたと思っていた。田舎者特有の都会に対する強いあこがれ。本当は東京で生活したかった、でも両親が共に亡くなった影響で実家を管理する人間がいなくなってしまった。

 

初めてニホンオオカミと出会ったあの日、今思えばあれが自分の人生の転換期だったのかもしれないと、考えることがある。もしもニホンオオカミに出会わなかったら、自分はどうなっていただろうか。

 

貯金を崩しながらずっと田舎で生活していたに違いない。それもそれでアリだとは思うが…。

こうして世界中を飛びまわる仕事につけたことは幸運だ。自分の中で生物に対する趣向が変わったと確実にいえる。

 

今回の調査で、初めて経験した生物に対する本当の恐怖心、それまでギガントピテクス等、人間を簡単に死に至らしめることが出来る生物と対峙してきた自分でも、この個体だけはどうしても近寄りがたい。

 

だけど、果たして生物を見た目だけで判断していいのだろうか。

本当にその生物が人間を襲うような生態だったとしても、その要因は我々に無いとも限らない。相手は生きるために他種を殺し、そして明日の糧にしている。

 

皮肉にも無益な殺生をする生物なんて大半が人間だろう。

 

 

 

『おい、着いたぞ…起きろ』

 

麻袋を外され、太陽の眩しさに目を細める。目の前にいる小太りの男がこちらを品定めするかのように鋭い目線で睨みつけていた。

 

『確かに笹壁で間違いありません』

 

『おし、よくやった。早速こいつを使ってプレシオサウルスをおびき出すとするか。』

 

『アニキ、どうしますか。逃げれねぇようにアキレス腱でも切っておきますか』

 

『いんや、自分で歩いてもらわねぇとめんどくせぇからな。確かこの前、自白させる時に使った首輪型の爆弾があったよな、あれ着けれねぇか』

 

『試してみます』

 

『おうし、んじゃとっとと引き上げちまうぞ』

 

小太りの男は、船に横付けされた大きなヨットに乗り込んだ。おそらくあいつがこの中の親玉だろう。こいつらに不幸が訪れますようにと、心の中で最大限の罵声を浴びせる。

 

ふとその瞬間である。水面が大きく揺れ始めた。

 

 

『おい、何だこの揺れは』

 

『ひ、ひぃ…ッ!?』

 

『あ?どうした!』

 

『船の下に…尾っぽが…』

 

『な、撃て! 撃ちまくれ!』

 

水面に向かって銃弾を撃ちまくる男たち、その様相は先程までの楽観的な雰囲気とは一転し焦りが見えていた。

 

『クソッ、銃弾が効かねぇ!おいエンジンは!早く動かせ』

 

『も、モーターが食いちぎられてます。』

 

『クソが!ヨットの方は!!』

 

『ダメです、同じくエンジンがやられてます。』

 

埒が明かないと焦った男は、俺の首根っこを掴むと、銃口をこめかみに突きつけ。叫んだ。

 

『今すぐここから離れねぇと、こいつのど頭に風穴ぶち空けるぞゴラァ!』

 

瞬間。海面が大きくゆれ、現れた巨大な顎に男の体は持っていかれた。海面が深紅に染まる。再び鳴り始める銃声。

 

『クソ!3匹も居やがる!!』

 

『いや、違ぇ!周りにもいるぞ!8匹だ!』

 

『とにかく撃ちまくれ!』

 

船の下を泳ぐ3匹の巨大な影、そして船の周りを泳ぐ5匹の影。

やがて銃弾が尽き辺りが静寂に包まれた数秒後、隣に浮かんでいたボートが次々と食いちぎられて行った。男たちは叫びながら海の中に飛び込むものの、その末路は説明するまでもなかろう。

 

ならばと、男のうちの一人が俺の事を持ち上げて海の中に投げ捨てた。

全身を冷たい感覚が襲う。深い深い海の中に吸い込まれていくような感覚に意識が遠のきそうになる。しかしその体を押し上げるように背びれが結束バンドで繋がれた俺の両手の間にするりと収まった。

 

間近で見たがやはり大きい。自分の身長の4倍はあろうかというデカさ。しかも肌に触れる感触が並の生物とは異なる、まるで鋼鉄の甲冑を触っているようだ。海面に引き上げられると、そこに広がっていたのは黒煙を上げながら炎上する船と、海面に浮かぶ人だったもの。

 

思わず唾を飲み込む。

これを今自分が捕まっているこの巨大生物がやったと思うと、恐怖のあまり固まってしまう。失禁しなかったのは救いだ。

 

よく見れば8匹どころか10匹程度はいる巨大魚たちの群れ。

思わぬ形で遭遇してしまった、海の王者ダンクルオステウス。

 

屈強な見た目とは裏腹に彼らの巧みな連携プレーには思わず心の中で賛辞を送ってしまった。敵として遭遇したらどれだけ恐ろしいことか、しかし今は少なくとも自分の味方…だと思いたい。

 

群れは陸へ泳ぎを進めると俺を岸に下ろして海の底へと帰って行った。

 

生物に対して感謝の気持ちを述べたことはそうそうなかったが、今回ばかりは頭を深く下げてしまった。

 

 

 

 

 

やがて姿を現したイージス艦をみて安堵のため息を吐いた。

今回の事件の顛末は、明朝に自分の泊まっていたホテルに忍び込んだ密猟者の集団が、イギリスで発見されたプレシオサウルスを捕獲するために俺をわざわざ拉致し、飼い殺しにしようと画策したと聞いた。警備の目を掻い潜っての一瞬の犯行は目的が違えば殺されていた可能性もありうるため、今後は24時間体制でアメリカ合衆国側の手も借りながら警備を続けていくという。

 

さてダンクルオステウスによる密猟団惨殺事件はそう易々と収束に向かうはずもなかった。

 

今回の件でダンクルオステウスにより襲われ死亡した事例が実際に発生したこと、更に個体数が10匹もいることが明らかになった以上、政府側も看過することは出来ないとなった。

 

政治家の中には早急に駆除するべきだと血相を変えて叫ぶ者も居たが、結局議会で出た結論は駆除ではなく、早急な保護だった。これまで人間を襲ってこなかったこと、今回死亡した人間はダンクルオステウスにむけて危害を自ら加えたことが加味されて、すぐさま殺すべき危険生物ではないという結論に至った。

 

実はアメリカ国内の世論はダンクルオステウスの保護が圧倒的に支持されており、駆除は超少数派だった。その証拠に、ニューヨークでダンクルオステウスが既に人気になり始めている他、化石を展示している博物館や水族館の来場者数が3倍に膨れ上がっている。

 

アメリカのセレブもダンクルオステウスの保護を求めており、保護したら是非とも水族館で展示して欲しいという要望も多く挙がっている。

 

ダンクルオステウス自身にとって人間の保護は余計なお世話かもしれないが、はっきり言ってこれは人間のエゴで、保護=安全化を図るに等しい。実際、このまま野生に放置していたら両者にとって非常に危険な事態を招くことは明白だ。人間側はダンクルオステウスに襲われる可能性があるし、ダンクルオステウスは希少性から動物の死骸ばかり集めてる悪趣味なトロフィーハンターの餌食になるやもしれない。

 

死者数をゼロにするため、種の存続のため、一見すれ違っているようで利害は一致している。

 

そうと決まればありがた迷惑でも、こちらから保護させてもらうとしよう。その代わり、水族館での生活は最高のものにするとカレン博士が約束していた。

 

そのためにはまず8m以上の大きさを有する捕獲用の檻を10個作る必要がある。ただそこはアメリカの技術がいかんなく発揮され、わずか1週間足らずで分厚いアクリル製の檻が出来てしまった。言っちゃあなんだが、ほぼでかい水槽だ。

 

ただ、保護に際する法案が可決せず、保護施設の建設も若干遅れていた。米国内の水族館で体長が8m越えの生物10匹を管理保護できる施設は皆無だった。海上に半ば強引に保護用の区域を作る案も出たが、保護と並びに重視される、厳重な隔離に関して確実性に欠けるとされ、処遇は難航した。

 

そんな中、事件が発生した。

 

発見から1週間後、西海岸のとある街で、ダンクルオステウスに襲われ死亡した80代の男性の遺族が国に対する訴訟を起こしたのである。

 

もっと早く駆除していれば死ぬことはなかったと、国民の同情を買った。この裁判はアメリカ中で話題になった、なぜなら時のダンクルオステウスに関する裁判と言うだけでなく、訴訟された中には今回の調査の際に招聘された研究者も含まれていたからである。

 

専門家としての視点でダンクルオステウスの危険性を国に訴えていれば、確実に結果は変わっていたと主張する遺族。

 

つまるところ。

 

訴訟を起こされた研究者の中には、笹壁 亮吾も含まれている…ということだ。

 




実は今この小説を、一二三書房のWEB小説大賞に応募しています。文字数規定はなかったのですが、大体ライトノベル1巻分の約10万文字近く書いていた方が、選考にも有利だと推察し木曜日に怒涛の更新をしたという訳です。

あと嬉しいことに、有名な作家さんがこの小説を読んでくださっているらしく、暇な時に始めた趣味の範疇とも言えるこの小説が、随分と大層なものになったなと客観的視点から見て感じざるを得ません。

今現在、就活に勤しんでいる若輩者の私が将来的に食いっぱぐれることなく生きていくために、今後とも小説を更新していく予定ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。めざせチリツモ。
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