『裏山で保護した野良犬がニホンオオカミだった。』   作:草原山木

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日常回です。


笹壁そこ変われ。


ニホンオオカミとの一夜。

『はァ、はァ、待ってくれ...俺ァ、あんた達の言った通りに絵かいたじゃねぇかよ…へへ、なぁ…頼む…この通りだ…一等のシマもそっちに譲るし…上納金ももっと…グァッ!!?』

 

『黙れ、チンピラ風情がいい気になって利口ぶるから、こんなことになる。絵を描いた? まずは、我々のシナリオに汚ぇアドリブ加える愚行をしたことを恥じて詫びるべきだろう?』

 

『…んな事してタダで済むと思ってんのか、俺たちァ、バサネラル・カル…っ………』

 

『…はぁ、てめぇらの親はもうあの世だっつぅのに…』

 

一発の銃声が響き渡る。

 

『もしもし…えぇ、始末はしました。やつが最後です。』

 

凶弾に倒れたグアトロを見下げる男は、電話越しに笑う声を聞きながら内心ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「外に出て大丈夫なんですか?」

 

「えぇ、あれから検査も無事進んで、笹壁さんがイギリスとアメリカに行ってた間に外に出られるよう色々な認可がおりましてね。今やカワウソくんも動物園内の屋外プールで元気に過ごしてますよ。あぁ…一般公開はされてませんからね?そこら辺は色々難しかったみたいです。」

 

「なるほど、いずれにせよ外に出れて良かったです。」

 

「私も同感です…ところでこれ初耳ですか?」

 

「えぇ…まぁ、色々と立て込んでて聞く時間もなく…」

 

「まぁ、色々災難もありましたし…でも今はこうしてゆっくり出来てるので、ほんと良かったですよ、ニュースを見た時不安で不安で」

 

心配をかけさせてしまったなと内心少し反省する。

傍らで寝転がるオオカミの背を撫でながら、談笑しつつ今回ここに来た理由を問うと、そうでしたと思い出したように花神教授は語った。

 

「実は外出許可が出たのは様々な理由もありますが、大きな理由としてこの子の同種を探すための調査の一環でして」

 

「へぇ、調査」

 

「えぇ、明日駐在所に裏山調査を行った際の調査隊が到着する予定で…ちなみに予めここに、この子を連れてきたのは環境に順応させ調査を円滑に進めるため…というのは建前で本心は笹壁さんと一日でもプライベートな時間を過ごしてもらいたくて…と思いまして。事務局の方に色々と根回ししてもらいましたよ」

 

「それは…ありがとうございます。」

 

「いえいえ、この子にとっても笹壁さんといる方が幸せでしょうから…今回はこの子だけですけど、今度はカワウソくんも連れてこれるように我々の方で頑張ってみます」

 

「何から何までありがとうございます」

 

すやすやと小さく息を立てながら眠るその姿は、王者の風格とは程遠い可愛らしさがあった。

 

「ほわぁぁ…かぁわいい…」

 

桃谷さんに至っては先程から目がハートになって、表情から尊い感情が溢れ出ている。恐ろしやニホンオオカミ、愛玩動物としての才能も兼ね備えているとは。

 

肉付きもすっかり良くなって、犬のくせに俺よりイケメンになっている。口に剣でも咥えたら、強キャラ感半端ないだろう。

 

「では遠慮なく失礼して」

 

生身で触れるのならこれをやらぬ手はないだろう。昔から大型犬にしてみたかった夢の行為。

 

横に寝そべり、体に手を回してそのままギュッと顔を毛に埋めた。背中の毛並みは少し硬いが、腹部は毛も細くふかふかだ。

 

「さ、笹壁さん…?気持ちはわかりますけど…」

 

「いいなぁ、私もそれやりたいです」

 

「桃谷くん!?自制して!」

 

肌越しに呼吸の音や心臓の鼓動が伝わってくる。生きている。という感覚が脳内を駆け巡る。

 

あぁ、ダメだ。これはダメだ。

極楽浄土はここにあったか。

 

暖かい日差しと、何にも変え難いふかふかの感触が眠気となって襲いかかる。

 

俺はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、いかんと目を覚ましたのは午後3時過ぎだった。

 

「あ、おはようございます」

 

「ンっ…すいません、寝ちゃいました」

 

「いえいえ、花神教授は私がお見送りして隣町のホテルに向かわれましたよ」

 

「ごめんなさい、何から何まで」

 

「いいんです、それに凄い熟睡してたので起こすのも悪いと思って」

 

欠伸をしながら、身体を伸ばす。パキパキと関節のなる音とともに立ち上がると、ちょうど同じタイミングで起きたオオカミを見下げた。

 

「お前も起きたんか」

 

「…」

 

ジト目でこちらを見つめてくるので何事かと思ったら、桃谷さんが笑いながら説明してくれた。

 

「実は30分前から起きてたんですよこの子。笹壁さんが自分を抱き枕代わりにしてるもんだから、じっと待ってたんです」

 

「あぁ、だからか」

 

スクッと立ち上がったニホンオオカミは、スタスタと浴室に向かうと桶を口に咥えて戻ってきた。

 

「ワヴッ…」

 

「シャワー浴びたいのか?」

 

「はは、物好きだな…おしっ」

 

一番最初にシャワーをしたように、その巨体を持ち上げ抱っこする。

 

「うぉっも…太ったんじゃないのか」

 

力む俺を構い無しに首をぺろぺろと舐めるニホンオオカミ。

浴室で下ろしてやり、ぬるま湯をかけてやる。嬉しそうにしっぽを振りながら泡だらけにしてよく揉みこんでやると、気持ちよさそうにゴロンと寝転がった。

 

水で泡を洗い流し、ドライヤーをしながらブラッシングを行う。これだけでもかなり毛が抜けて、大きな毛玉ができた。ふとゴミ箱に捨てようとしたところ、桃谷さんに止められた。

 

「あぁ、それは貴重な研究材料なので、袋に保管しといてください。」

 

「あそっか、毛一本まで超貴重なんだった」

 

目の前にいる動物は世界でたったの一頭だ。毛やらヨダレやら全部が希少な研究材料となる。オークションにでも出せば数千万の価値が付くだろう。某鑑定番組にでも出品してやろうか…というのは冗談で、歩く財宝そのものと言っても過言ではない。

 

「お前も世知辛いな」

 

「ワヴッ」

 

ボディソープの香りを纏う金色の毛並みを優しく撫でた。

 

 

お風呂上がり、夕食の準備を行う。今日の夕飯は蒸し豚バラとねぎ塩、グリーンサラダ、しめじとナスの味噌汁、お米は健康に気を使って一丁前に玄米ご飯を食べている。

 

料理は日による交代制で、今日のメニューは桃谷さんが考えたものだ。いつも美味しい料理をありがとうと言いたいところだが、桃谷さんも同様にお互い様ですと返されてしまうため、感謝してます感が出し切れてない。

 

お礼に納得出来ないことが、最近の悩みの種だ。

 

「そう言えばオオカミの食事は?」

 

「あぁ、それなら花神教授から預かってます。そこに置いてある大きい箱に入ってますよ」

 

そう言えばと目線を見やると、リビングの端を占領する巨大な箱がそこにあった。妙に近未来チックで、ヤバいものでも入ってるんじゃないかと恐る恐る開けてみたら、予想に反して普通の冷蔵庫だった。

 

「ニホンオオカミとニホンカワウソの食事に際して特注で作られた専用の冷蔵庫らしいですよ。24時間殺菌できる機能がついてて、大容量のバッテリーを交換すれば最大1週間は持つらしいです。コンセントも対応してますけど、電気代が馬鹿にならないので、予備用のバッテリーも複数本貰っときました」

 

「…開発費いくらしたんだろ」

 

「まぁ、数千から数億でしょうね…」

 

「…我々庶民との規模が違うな」

 

冷蔵庫からパック詰めされた食材を取り出し、同じく専用のお皿に盛り付ける。滅菌かつ使い捨ての器に肉や野菜を盛り付け、目の前に差し出すとゆっくりと食べ始めた。

 

「なんかガッツかない所が、ニホンオオカミの凛々しさを感じさせますよねぇ…」

 

「そうですか?」

 

やけに美味しそうに食べるので、見てるこっちまで腹が減ってきた。

 

 

 

夕飯後は歯を磨いて就寝。

翌朝10時には裏山の調査が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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