『裏山で保護した野良犬がニホンオオカミだった。』   作:草原山木

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大富豪

『信じられません、この巨大な影は依然としてゆったりとホノルル沖を回遊しています。この映像は現地の海上を飛行していた追跡用の警察ヘリのカメラがたまたま捕らえたもので、現在この巨大生物の消息は分かっていません。沿岸警備隊による周辺の警備が行われる中、いよいよ明日午後、日本からミスターササカベが調査のために、オアフ島へとやってくる予定です、我がアメリカ合衆国において史上2種目の絶滅動物発見となるか、私含め注目が集まっています。』

 

アメリカのニュース番組では女性キャスターによる紹介でほぼ全土の家庭に今回、ハワイで起きた巨大生物の発見に関する報道が流れた。

特に盛り上がりを見せたのはSNSで、しばしばトレンドを占領するほどの勢いだった。

 

インフルエンサーやセレブなども今回の出来事に関して前回のダンクルオステウス同様の反応が飛び交い、Twitchやポッドキャストでは度々注目の的としてトークの話題に挙がっていた。

 

そんな中、笹壁がハワイへと飛び立つ12時間前、とある人物が声明を発表したことにより事態は急速に転換した。

 

シリコンバレーに本社を置くテクノロジーコングロマリット『H・A・D』の創設者にして、世界長者番付第2位に名を連ねる大富豪 ケヴィン・ロスウェルド氏が、自身の所有する動物保護法人とアメリカ政府との共同研究及び生物保護を行うことが決定した…という声明を出したのである。

 

今まで、絶滅動物の保護や研究に関しては政府が主体となって行われてきたが、今回初めて民間の団体が介入したことにより、世論は不安と期待が入り交じる結果となった。

 

というのもアメリカ政府は前回のダンクルオステウス保護に失敗した影響で、その信用は低迷し、批判の声が殺到している渦中の最中だった。一方、ケヴィン・ロスウェルド氏が所有する法人は違法な密猟の摘発や絶滅危惧種の保護及び繁殖に多大なる貢献をしており、その功績はノーベル賞ものと言われているほどだった。

 

実の所、前回の調査でケヴィン氏は、いの一番に調査協力の名乗りを挙げていたにも関わらず、政府はこれを却下していた。当初は当然の判断だという声が多かったものの、保護失敗を皮切りに、あの時法人の協力があれば…という掌返しという名の後悔の念が後を絶たなかった。

 

そして今回、満を持しての参加協力。

『H・A・D』と言えば、世界有数の大企業、クリーンエネルギーの開発や宇宙関連事業、インターネットサービス、オンラインゲーム、OS並びにスマートデバイスの開発、他にも音楽、映画、自動車産業など様々な分野に裾野をのばしそのいずれもが業界内売上でもトップクラスを誇り、当然ながら慈善事業に関しても非常に積極的である。

 

最新の科学技術及びテクノロジーを使用した調査がどのような影響を与えるのか、超巨大絶滅生物発見の中で、注目を集めているひとつと言えた。

 

 

さて一方で、成田空港国際ターミナル。いわゆる北ウイングと呼ばれるこの場所に、複数の専門家や官僚、警備を伴って、笹壁亮吾は日本を出国せんとしていた。

 

「…アロハシャツ着たかったな」

 

笹壁は同じ便に乗るであろう一般の観光客を遠目に羨望の眼差しを向けていた。子供連れの一家が転がす巨大なキャリーケースを見て、一体何泊するんだろう、どこのホテルに泊まるんだろう、予算はいくらだろう…という要らぬ妄想及び詮索を脳内にめぐらせる。想像する度に、仕事でハワイに向かうことに内心ため息ばかりつくのだが、なぜかやめることが出来ない。

 

心底羨ましいと思う他なかった。

 

これは公務だ、当然入国審査の時に審査官に向かって「さいとしーんぐ」と言い放つことは出来ない。空き時間で街を練り歩き多少の買い物をすることは可能だろう、ただあまりにはっちゃけすぎると国民からの心象は最悪になる。海に膝丈の水着を着て入ることも、アクティビティを楽しむことも、ウルフギャングステーキやパンケーキを食べることも、自重しなければならない…ということは笹壁も十分自覚していた。

 

なにより、ハワイを楽しむことを最低限に…と政府側の人間から口酸っぱく言われているため人生初ハワイに興奮する感情を叩き殺すしかなかった。

 

緑色のパスポートを見せた後、水平エスカレーターに乗って搭乗口へと向かう。せめて飛行機の中では好きに満喫しようと、免税店で抹茶味のお菓子を買いまくる。外国人向けにやたらと揃いまくっている、和を前面に押し出した菓子をあらかた買うとパンパンになったビニール袋を両手に引っさげていよいよ飛行機に乗り込んだ。

 

綺麗なCAさんに案内されたのは、機内の後部にある座席だった。混乱を避ける目的で一部の座席を貸切状態にしてくれたため、人っ子一人居ない。なんか不思議な気分になる。

 

その後はいつも通り単調で、何らハプニングもなく飛行機は飛び立った。

食事を取り、お菓子を食べ、歯を磨いて寝て起きたら、もうハワイに着く頃合になっていた。

 

まぁとにかく、いつも通りのフライト、平凡。特にこれといって特筆するべきことは無い。

 

飛行機をおりて入国手続きをする。公務のため特段こじれるような質疑応答もなくすんなりとゲートをくぐると、そのままコックピットへと逆戻りするように案内された。一体何事かと疑問を抱きながら歩みを進めると、そこには大層でかいヘリコプターが鎮座していた。

 

「へ?」

 

『ミスターササカベ!待っておりました!!』

 

ヘリコプターの傍らには高身長のナイスガイが、ティアドロップのサングラスと胸元まではだけたシャツという出で立ちで迎えてくれた。

 

「見たことある…」

 

テレビやニュースでよく目にする話題の人物…瓜二つというか恐らく同一人物。世界有数の大富豪ケヴィン・ロスウェルドといえば、日本人でも名前や写真くらいは見たことがある超有名人だ。

 

そんな超が恐らく10個つくほどの大金持ちから握手を求められ、動揺しながらも握り返すと嬉しそうにヘリコプターへと案内してくれた。

 

というか、このバカでかいヘリコプターの持ち主こそがケヴィン・ロスウェルドだとは思いもしなかった。ゆっくりとホバリングをしながらみるみるうちに小さくなる空港。上空から見るハワイの綺麗な海をひたすらに眺めていると、ケヴィンが嬉しそうに話しかけてきた。

 

『僕はミスターササカベのファンなんだよ!!僕のガールフレンドも君のことはとってもクールだって言ってるぜ』

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

彼が話すと同時に、流暢な日本語が音声として流れる。ケヴィン氏の声質そのものの滑らかな音声は、まるで映画の吹き替えがなされているようだった。

彼の会社がつくりあげた最新の技術、日本でも度々ニュースに採り上げられた話題の技術。超高性能自動通訳エンジンは、IT業界に革命を起こした。

 

未だに実用化はされていないものの、その名称を聞けば如何様なものかは想像も容易いだろう。

 

今まで翻訳アプリというものは存在していたがH・A・Dが開発したこの技術は使用者本人の声質に似た音声を流暢に、かつ細かいニュアンスまでを完全に補完するほどの性能を誇り、彼の会社が作っているOSを搭載したスマートフォンに近々に実装予定とされている。

 

このシステムを使用すれば、海外旅行の難易度が格段に下がると言われており、下手すれば通訳の仕事が皆無になる可能性もありうる。

H・A・Dの発表会では、その実用性はあくまで字面やプレゼンテーション、広告用のイメージビデオでのみ世間に知られていたが、実際に目の前で体感すると、本当に吹き替えられているようにしか聞こえなかった。

 

しかしこんなものがまだまだ序の口であるとは、この時ばかりは思いもしなかった。

 

 

 

 

ヘリコプターで飛ぶこと数十分、やがて見えてきたのは石油や海底鉱山の掘削などに使われる人工建築物、洋上リグだった。しかしこれまで見てきたものとは一味どころかかなり違う。まずその見た目、普通であれば鉄骨と支柱のコンクリートで構成された無骨なものだが、非常にスタイリッシュで、よく見れば建物全体がカーボンファイバーのようなプラスチックでできていた。

 

ヘリポートに着陸すると、身長130cm程度の人型のロボットが、案内してくれた。

 

ロボット自体は大して珍しくもない、特に日本においては人型ロボットの開発はかなり前進していると言えるが、このロボットのすごいところは受け答えがまるで人間のようで。二足歩行かつ歩き方がロボット特有のぎこちなさを一切感じない。ロボット状の着ぐるみに人間が入っていると考えた方がまだ頷けるほどだ。

 

我々は世界最新の技術を目の当たりにしながらも、調査を行うためリグの中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

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