『裏山で保護した野良犬がニホンオオカミだった。』 作:草原山木
5日目。はっきり言うが成果は皆無だ。これまでただ美味い飯を食って、寝るを繰り返してきただけ。早く見つけなければという焦りを感じつつも、相手は動物ゆえに気まぐれなので、思う通りにはいかないという事実を納得するしかない。
50メートルという巨体であるにも関わらず、発見することが難しいとは難儀なもので、研究者たちは四六時中頭を抱えていた。ちなみに余談だが、今回この巨大生物の発見及び保護に至った場合、政府が結構な金額を突っ込んで急遽誂えたハワイの保護施設へと移送する流れになっている。
一体全体、小学校の校庭ぐらいはあろうかという巨大生物をどうやって移送するのかは甚だ疑問だが、それ用のシステムもH・A・Dは作り上げたのだという。
ちなみにこのシステムは何気に凄くて、今まで飼育が不可能であった巨大なクジラをも容易に水族館へと運ぶことが可能だという。初めて説明された時はそんなことが可能なのかと疑問を抱いた。原理はシンプルで、対象の生物を麻酔で眠らせたあと、体表を薄い膜で覆うと同時にこの膜、つまるところフィルムを急速に硬化。対象の生物の体型ぴっちりに合わせたカプセルを即席で誂え、そのまま牽引する…という方法。
ちなみにカプセル内部には一定の圧力がかかっており、これを調整すれば深海生物すらも無傷で移送することが可能なのだという。1回の運用に際した費用は莫大だが、生物を安全に運ぶことが出来る技術は生物学史上、大きな可能性をもたらす大発明だと研究者らが興奮していたのを、今でも覚えている。
不安要素を取り除くために補足で説明するが、呼吸のために必要なエラ部分には専用の機械が取り付けられる。言わば水生生物版の酸素マスクのようなものだ。
ちなみにこのフィルム、硬化した時の硬度はかなりのもので、魚雷の直撃すらも傷一つなく防げるというのだから驚きだ。既に防弾ガラスへの応用もなされているようだが、生物の移送に利用するとは目からウロコである。
まだ少し、想像しにくい人のために簡単に説明すると、平成の名作アニメ"新世紀エヴァンゲリオン"に登場するプラグスーツのようなものだ。
そんな最新の装備を引っさげてはいるものの、見つけなければ話にならないわけで。
ただ、ユナイテッドステイツはかなり寛容で、捜索期間に対するタイムリミットが存在しないため、実質無限に探すことが出来る。一部ではこんなことに税金を使うなと言う声も挙がっているが、反対意見は今のところ0.1割程度で9.9割が期待の眼差しを向けている。
それでも、長引けば長引くほどその眼差しも手のひらをくるりと返して、反対意見になりかねないので、結構焦ってはいる。
巨大生物が、巨額損失の負の象徴にならないように、我々も必死になっているところだ。
さてそんな捜索開始から5日目の午後、日中の捜索を主だった今までとは違い、今後は朝、昼、夕の各時間帯事に特定のポイントを捜索する運びとなった。
「キレイダナー」
ハワイの夜空はめちゃくちゃ綺麗だ。池袋サンシャインシティのプラネタリウムみたいな光景が広がっている。流れ星とか来ないかなという子供みたいな思案を拭い捨て、船に乗り込むと夜間の捜索がスタートした。
「…」
一面に広がる真っ暗な海。飲み込まれそうな錯覚に陥るが、白波を立てながら進むイージス艦が実に頼もしい。
『無人潜水艇投下』
船の側面から投げ込まれる全長80cm程度の金属製の筒。これは小型の無人潜水艇で、海底調査などに使われる代物だ。一台3000万円。それを十数台海底に沈めて調査を行うというのだから、驚きだ。当然、一台もぶっ壊すことは出来ない。
それだけでは無い、一億もくだらない最新のドローンや生体反応を検知するために衛星も運用している。規模感が半端なさ過ぎて、特殊部隊の極秘任務に参加している気分になる。
捜索の開始が始まると同時に、俺はボートに乗り込んだ。後衛にいるのはどうにも性にあわない、やはり間近で捜索を行うことにこそ意義があると考える俺は、無茶を言って真夜中の太平洋に今こうして足を下ろしている。
当然、船に乗っているのは俺一人ではなく、とりわけ優秀な軍人数名を選抜した特別チームである。全員いずれも海難救助に置けるプロフェッショナルで、どうやら俺が海にドボンをしても万全に引き上げられるような人員となっているらしい。ちょっと過保護すぎやしないかと疑問に思うが『要人扱いですので』の一点張りで、わざわざ優秀な隊員をお借りする形になってしまった。
彼ら彼女らも本当はこの時間帯に夕食後のリラックスタイムを楽しみたかっただろうに、非常に申し訳ない。
小型ボートに乗り込み、人数が揃っていることを確認すると問題なくボートは進み始めた。
スピードを上げながら進むボート、時折飛ぶ水しぶきが最高に気持ちいい。夜の海上というのも乙なものだ。
叫びたくなるような爽快感を全身に受けながら、ポイントに到着するとこのまま踵を返すように船は旋回した。四方八方に散ったボートはこうしてイージス艦へとゆっくりと戻る。ジグザグと船を動かしながら広範囲を20隻のボートでリカバリーを行いつつ、漏れのないように探知機に映る気配を目を皿のようにして探していく。
「うん、なんにも居ない…」
探知機に生物の反応があるにはある、ただ巨大生物かと言われると、首を傾げる。一度大きな生体反応があって、急行してみたらただのザトウクジラだったことがある。ホエールウォッチングしに来てるなら大喜びできるが、あいにく我々が探しているのは未知の巨大生物だ。
『ほ、本当にいるのでしょうか…ミスターササカベ』
「いる…と思います」
調査チームの中でも既に巨大生物の存在自体に疑念を抱き始めている者も少なくは無い。SNS等では多くの人々が今回の計画に対して期待の眼差しを向けているが、現場は既にその熱が冷めつつあり、仕事はしてくれているが、チームの士気が下がっているのを肌で感じている。我々が来たのはおよそ5日前だが、彼らはそれよりもずっと前から調査を続けている訳だし、モチベーションが低下するのも無理はないだろう。
ただ実際に巨大生物の魚影が映像として残っているわけで、フェイク映像の可能性も解析した結果0%だった。居ないはずがないのだが、イギリスのプレシオサウルスぐらい隠密性能が高すぎる。あれはまだ湖だからよかったけれど、広大な太平洋となれば干し草の山から針を探しているようだ。
「…うーん」
頭を抱え、ため息を着く。
その時、探知機には巨大な生体反応が5つ映っていた。