無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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第1章 幼年期
プロローグ


 身体中が痛い――。四肢がひしゃげ、全身の骨という骨が砕けたかのような激痛が走る。

 

 実際のところ、俺の身体がどうなったかなんて分からない。

 首も動かせず、視界もぼやけている。

 かろうじて光の明暗を感じられる程度。

 

 どうしてここまで苦しまなきゃいけないんだ。訳が分からん。

 

 呼吸が出来ない。空気を吸えず、吐き出されるのは赤黒いであろう血液。

 

 もはや命を繋ぐことは不可能。

 三十四歳住所不定無職の足りない頭でも理解してしまう。

 

 今の俺の命は風前の灯火。

 もう残された時間はほんの僅か。

 こうなるに至った理由も経緯も知っている。

 

 学生時代のトラウマ、そいつから端を発する長年に渡る引きこもり生活。

 そのツケが今になって回ってきたんだ。

 

 自暴自棄になって外へ出ることを止めた。いや、ただ怖かっただけだ。

 

 1度の失敗で全てを投げ出し、両親や兄の説得にも耳を傾けず……。

 身勝手な言い訳ばかりを重ねて、自分の部屋に籠りきる。

 

 そんな生活を十数年過ごしている内に親は死んだ。

 死因すら知らない。家族に対して無関心だったのだ。

 

 そんな薄情者の俺は、親の葬式に出席せずにいた。

 部屋で兄の娘()の盗撮写真で自慰に耽っていると、兄貴達が乗り込んできたのだ。

 

 その後の事は思い出したくもない。

 喚き散らした俺は一方的にボコボコにされ、無一文のまま家から叩き出され……。

 

 行く当ても無く街をさ迷う。

 そんな俺は、既に潰えたも同然の将来を考えることも出来ずにいる。

 

 何も考えたくもないし、何も見たくないし、何も聴きたくない。

 この期に及んで我が儘を通そうとした矢先のこと。

 

 雨の中、口論をする若い男女たちの存在を認識する。

 おそらくは高校生。青春真っ只中であろう言い争う少年少女。

 

 間には喧嘩の仲裁に躍起になっている少年も居る。

 リア充共めっ! 忌々しいと思いながらも、自分には無関係だと意識から外そうとした。

 

 だけど視線を逸らせなかった。

 彼ら目掛けて一台の大型トラックが突っ込んで来ていたのだ。

 ドライバーはハンドルにもたれ掛かっている。見れば分かる、居眠り運転である。

 

 俺とは赤の他人。

 助ける義理なんて存在しない。だというのに、とっさに彼らを助けなければ。そんな心が俺を突き動かす。

 

 

「ぁ、ぁ、ぶ、危ねぇ、ぞぉ」

 

 

 言葉にもなってない注意喚起。

 たぶん、若者三人には聞こえてちゃいないだろう。

 ああ、駄目だ。声が出ない。

 

 ならば俺が体を張ってでも救わなきゃ。妙な正義感を原動力に走る。

 ろくに運動もしてこなかった十数年。

 やはりというべきか、足がもつれ転びかける。

 兄貴から受けた暴力による怪我で身体の至る箇所が痛む。

 

 それでも動かなければ後悔する。

 そんな想いで無理やり体を前へと進める。

 

 やがて仲裁役をしていた少年の首根っこを掴むことに成功。

 トラックの進路外へと放り投げる。

 

 だけど反作用で俺の身体はトラックの目の前へと押し込まれた。

 やばい、これじゃあ……もう二人は助けられそうにない。

 

 申し訳ない気持ちになりながらも、その瞬間、とてつもない衝撃に意識を押し潰される。

 最初の数秒は何ら苦痛を感じなかった。

 

 しかし、更に数秒ほど経過して路面へと叩きつけられると、この世のものとも思えぬ激痛が頭から爪先までを犯す。

 

 助けられなかった残り二人の男女のことなど頭から抜け落ちている。

 まともな思考など不可能だ。

 

 ただ永遠とも思える地獄に俺という人間は叩き落とされたのだ。

 

 そうして俺は――死にかけている――。

 

 

 病院へと搬送されたであろう俺の身は、手術室へと担ぎ込まれた。緊急手術ってやつか。

 でも手遅れだってことは明白だ。

 

 目も耳も機能していない。

 それどころか、つい先程まで俺を苦しめていた痛みという感覚も徐々に消失していった。

 

 ああ、これが死ぬ感覚か。死の間際になって新しい発見だ。全然、喜べないけどな。

 

 そして一秒毎に全ての感覚が薄れて行き……呆気なく俺の命はこの世から消え去った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほどの時が過ぎたのだろうか。

 長く眠っていた気がする。

 数時間じゃ利かない。

 それこそ数日間、数ヶ月。自分でも計れないほどの長さに思える。

 

 唐突に思考がクリアになる。痛みは無い。苦しむ要素は何一つ無い。

 

 ただ光を感じる。瞼を開けてみた。誰かがこちらの顔を覗き込んでいた。

 

 

 若い女性だ。金髪で端整な顔立ち。

 少々、童顔だが俺好み。

 年頃は十代後半から二十代前半くらいか。

 ヨーロッパ系の風貌だが、どこの国の人間だ? しかし、おっぱいがデケぇな。

 

 そしてもう一人、視界に映る人間。

 そいつは軽薄そうなDQN茶髪の男。俺の忌み嫌うタイプの人種だ。

 

 筋肉質で上背のありそうな野郎で、俺のコンプレックスを刺激しやがる。

 俺だって身長だけなら日本人の平均くらいはあったさ。

 

 もっとも、長い引きこもり生活で百キロもの巨漢へと肥えちまったが。デブでも筋トレくらいはすべきだったな。

 

 しかし、この二人は何者だろうか。

 つか、俺は生きているのか? 見たところ、この場所は病院って感じじゃない。

 木造戸建ての薄暗い一室といった具合だ。

 

 病院でないとすると目の前の二人は医療関係者ではないだろう。

 となると……ますます状況が読めない。お手上げである。

 

 まあいい、成り行きに任せる他無い。

 経過を観察するのだ。

 じきに身体が良くなることを祈る。

 なんか知らんけど身体を上手く動かせないしな。

 

 

 

 

 

 1ヶ月が過ぎた。ここまでの時間で把握したことがある。

 まずここは日本ではないということ。

 目覚めた当初から、会話に聞き耳を立てていたのだが、どうも若い男女の話していた言語は日本語ではないようだ。

 

 しかし、会話の中で二人の名前を何となくだが理解する。

 男の方はパウロ、女の方はゼニスだ。

 もう一人、メイド服を着た若い女性がいる。

 彼女はリーリャと言うらしい。

 

 次に理解したことは、どうやら俺は生まれ変わったらしいこと。

 それも赤子としてだ。ある日、抱き抱えられた際、視界に自分の手足が映った。

 

 見るからに小さな手足は、どう考えても赤子のそれ。

 否定しようがない。つまり、今の俺は無職中年(前世)の記憶を引き継いで転生したわけだ。

 

 となるとパウロとかいうアホそうな男が、今世における父親というわけか……。

 業腹ではあるが、覆しようがない。

 

 とはいえ、母ちゃん(ゼニス)の方は美人だ。

 童顔ゆえに実年齢よりも幼く見える愛しのママン。

 こんな母親ならマザコンになっても文句は言われまい。

 

 

 

 

 もう1ヶ月が経過した。

 この頃は、両親や侍女の会話を盗み聞きして語学習得に励んでいる。

 幼児を通り越して乳幼児である今の俺の脳は、極めて学習能力が高いらしい。

 

 なにせ未知の言語であるにも関わらず、少しずつではあるが理解出来るようになってきた。

 日本語とは皆無の環境というのも要因としては大きいだろう。

 

 今や思考の半分程度は、この土地の言葉でこなしている。

 もう数ヶ月もすれば母国語相当に達するだろうな。

 

 

 

 

 

 更に1ヶ月が経った。人生をやり直してみようかと本格的に考えるようになった。

 前世じゃ、悲惨な最期だっただけに、人並みの人生を今度こそ歩みたいと思ったのだ。

 

 それだけじゃない。この手のシチュエーションは、生前、ネット小説を熱心に読んでいた俺には馴染みが深い。

 

 まさか現実に起こり得るとは思わなかったが、多くの作品では、主人公は転生後の人生を才能の有無や努力の程度に差こそあれど、幸せになっている。

 

 ならば自分もそんな期待を寄せてしまう。

 

 引きこもりの無職の中年のクズ人間だったかつての自分。

 だからこそ、運良く生まれ変わったこの好機を逃すのは勿体ない。

 

心機一転、この世界で今度こそ全うな人生を送ってやろうじゃないか。

 

 そう考えた矢先のことだ。思いがけぬ事実が判明する。

 

 パウロとゼニス、それにリーリャの会話の中で俺は思い知らされた。

 

 

 俺の性別は――女の子だったのだ――。

 

 最初は気が動転したよ。

 混乱して年甲斐もなく泣きもした。

 股に息子(男性器)が居ないんだぜ? これじゃあ、ムラムラしても抜くことすら出来ん。

 

 

 

 過去に読んだネット小説あるいは商業ノベルの中には、転生した上にTS要素も加わった作品は無数に存在していた。

 

 性自認は男、しかし身体は女の子。

 成長するにつれて表れる、心身の違いによるギャップに葛藤する主人公。

 それを楽しむ読者。

 

 でも考えてもみろ? 読み物として楽しめる立場にあるのは、作者か読者だけだ。

 そこに当事者は含まれない。

 安全圏で第三者視点であるからこそ、妄想を膨らませ、ほくそ笑むことが出来るんだ。

 

 しかし、俺は笑えない現実を直視するほかあるまい。

 現実は重くのし掛かり、いつだって付きまとってくるものだ。

 

 諦めの境地で、せめて人並みの人生を目標に頑張ろうかと決意する。

 十中八九、結婚とかはしないだろうけどな。

 心は男なのに、女の体だからって子作りなんて吐き気がする。

 

 前置きが長くなった。さて身の上を詳しく説明しよう。まずは俺の今生での名前から。

 

 

『ルーディア・グレイラット』

 

 

 正直、西欧だか東欧だか区別はつかんが、ヨーロッパ風な名前だ。

 両親のグレイラット夫妻は愛称としてルディだとか呼んでいる。

 

 そしてルディちゃんは、グレイラット家の第1子で長女。

 若い夫婦の最初の子どもとあってか、溺愛されている。

 

 顔面偏差値の高い両親の娘だ。

 生前のデブス男だった俺から、美少女ルディちゃんへのランクアップを大いに期待出来る。

 

 他に語るとすれば、この世界についてだ。

 どうやらこの世界は地球ではないらしい。

 

 ふとした事がキッカケで、頭を強かに打ち付けた俺に、ゼニスが中二病っぽい呪文を唱えて治療した事で知ったのだ。

 

 痛みがスーッと消え、淡い光が俺を包んでいたことから、魔法に準じた物の存在する異世界だという認識に間違いはあるまい。

 

 この世界には幾つかの大陸が存在する。俺の暮らす牧歌的な雰囲気のこの村。

 中央大陸の西部に位置するアスラ王国、その中でもフィットア領にあるのだとか。

 ブエナ村とかいう名の長閑な村だ。

 

 そしてグレイラット家は、そんなブエナ村の駐在騎士の家で、パウロは下級騎士あるいは下級貴族に分類される。

 

 ほほう、俺は貴族の令嬢ってわけですかい?

 とはいえ、絵に描いたような貴族とは違い、そこまで裕福ではない。

 衣食住には困らない程度、質素なものだ。

 

 他の村民よりは幾分かマシな生活、そのくらいのレベル。

 ゼニスとリーリャが家計簿とにらめっこしながら、そう漏らしていた。

 

 なあに、俺も贅沢な生活は求めない。

 食うに困らなきゃ文句は言わんよ。

 しかし、パソコンもインターネットも無い生活は、非常に退屈なものだ。

 

 無修正エロ動画やエロゲーともおさらばってことか。

 

 どのみち赤ちゃんの俺じゃ、身の回り生活すらままならないが。

 

 なんにせよ、もう少し成長するまでは何も行動を起こせない。

 少しばかり赤ちゃんライフを我慢しよう。

 

 

 

 

 

 さて、その赤ちゃんライフについての出来事を数点ほど話そう。

 

 まずは母親(ゼニス)のおっぱいについてだ。

 赤子の食事と言えば当然のことだが、母乳である。

 聞けばまだ十代後半、少女とも呼べる年齢の母ちゃんのおっぱいを吸う行為が、俺の食事となる。

 

 へへ、親子だから合法的におっぱいをチューチュー吸えるのだ。

 これには俺も興奮しそうなものだが……。

 

 意外にも、邪な感情は湧き上がらなかった。

 推測になるが原因については心当たりがある。

 まず前提として俺の体は赤子である上に女の子だ。

 

 精神は男でも脳ミソ自体は女性のそれであるため、同性に対して欲情しなくなったのだろう。

 後はゼニスが実の母親という事実が、俺の男としての本能を抑えつけた。まあ、そんな感じだろう。

 

 正確な事は解らないが、深く追究しても意味のない話だ。

 

 とはいえゼニスの乳はマジでデカイ。

 細身の体に爆乳が付いているのだ。カップ数で言うならG以上は確実か。

 

 そして染み一つ存在せず、張りや弾力もあるし、揉み心地は最高の一言。

 興奮はしないが揉んだ感触自体は病み付きになってしまう。

 

 あまりに夢中になって揉みしだくもんだから、そばに控えていたリーリャには不審な目で見られた。

 これはマズイか?

 

 言い訳は出来る。

 無知な赤子が、母のおっぱいを玩具に見立てて遊んでるとかそんな感じで。

 

 ああ、後はゼニスのおっぱいの先端の咥えた感覚も至高である。

 赤ちゃんのちいさな口でも、授乳に適した大きさと舌触り。

 

 興奮しない筈なのに、前世の意識が無意識に乳を求めて舌で舐め回してしまう。

 全くもって不毛なことだ。

 

 行為の後、虚無感に苛まれて金輪際、舐め回す事はしないと固く心に誓った。

 

 次の話題だ。

 生まれて間もない頃は、ろくに身動きの取れないボディ。

 けれどしばらくしてハイハイくらいは可能となった。

 

 隙を見ては家中をハイハイで探検する。

 二階建てで部屋数もそれなり。探検のし甲斐がある。

 

 だが、決して家の外に出ない。

 前世はヒキニートだったのだ。

 外の世界には怖いものが沢山ある。

 とてもではないが、足を踏み出す気にもなれない。

 

 それは置いておくとし、ある日のことである。洗濯前の女物の下着を発見した。

 

 これは母親(ゼニス)か、侍女(リーリャ)のどちらの下着か……。

 性的欲求こそ湧かないが、興味はある。

 しかしゼニスの下着──パンツとブラジャーだった場合は若干の罪悪感が脳内に充満する。

 

 ここは危険を避けて我慢すべきか?

 

 いや、リーリャの下着という可能性も捨てられない。悶々とする。

 意を決してパンツを被ることにした。考えるだけ無駄。

 

 思考を停止させてパンツのクロッチ部分の香りを堪能する。

 この匂いは……ああ、うん。ゼニスのだった。

 自分の母親の香りくらい、すぐに判別がつく。

 

 しかも、すぐ側には唖然とした表情のリーリャが立ってるし、俺の黒歴史が深く刻まれる。

 

 その後、後からやって来たゼニスにパンツを没収され注意を受ける。

 ごめんなさい、もうしません。

 

  あー、うーとか、言葉になってない声で反省の色を示す。

 まあ、ゼニスもあまり怒ってはいないようだが。悪戯というよりは、赤子が意味も分からずパンツを被ったという風にしか捉えていないのだろう。

 

 

 

 

 

 次の話に移ろう。

 最近は、家の中から窓越し庭先を眺める事が多い。

 視線の先には剣術の鍛練に励む上半身裸のパウロの姿。

 

 ゴリマッチョという程ではないが、筋肉質な体つき。盛り上がった筋肉が、剣を振るう動作に連動して振動する。

 

 ああいうのが肉体美と称されるのだろう。

 あいにく、野郎の筋肉に異性として惹かれはしない。

 意識としては同性だし、肉体的に親子という事情もあるからな。

 

 しかし、もしも今世の俺が男だったならば、ああいった筋肉質な体に憧れただろう。

 単純にカッコいいからな。

 

 現実は女の子なルディ()ちゃんだから、実際には羨むことはないが。

 

 そんな俺とは裏腹に、ゼニスは爛々とした目で愛しの旦那様(パウロ)を見つめている。

 まあ、お互いに惹かれ合って夫婦になったんだから、強く魅力を感じても不思議ではない。

 

 まだ結婚して年数も経ってなさそうだし、ラブラブそうで何よりだ。

 ちっ……リア充共め。

 

 小一時間ほど過ぎて、パウロは鍛練を終えた。

 リーリャから濡れたタオルを手渡され、汗を拭っている。

 うっとりとした目のゼニス。

 

 パパン! ()から巨乳ママンを奪わないで!

 

 

「ルディ。お父さんに抱っこしてもらいましょうか。貴女、私にはばかり抱っこして欲しがるもの。たまにはお父さんにもね?」

 

「うー……」

 

 

 断固拒否する。誰が好き好んで野郎の胸に抱かれるってんだ。

 

 

「よーし、ルディ! 父さんが抱っこしてやろう」

 

 

 張り切った様子のパウロ。

 こっちは嫌がっているのに、ゼニスは問答無用に旦那に俺を渡す。

 悔しいが抗えない。これが赤子ゆえの無力感。

 

 ここは潔く受け入れよう。

 俺も精神年齢的にはパウロより年上だからな。

 若造の要求のひとつくらい応えてやるさ。

 

 

「お、少し重くなったな!」

 

「ちょっとあなた! 女の子に重いってなによ!」

 

「いやでもなあ、子どもの成長を喜んでんだぞ。文句はよせよ」

 

「それもそうね。ルディが順調に育ってる証拠よね」

 

 

 重いうんぬんは気にしない。

 てか、前世の俺は百キロ超えのナイスミドルだったしな。

 そいつに比べれば、今のルディア()は羽毛みたいなもんだ。

 

 

「それにしてもオレたちの娘は可愛いなあ。母さんに似て将来は美人になるぞー!」

 

「もう! あなたってば美人だなんて!」

 

 

 惚気やがって……。

 だがゼニスが美人なのは同意する。

 少なくとも俺の知る芸能人の誰よりもゼニスは綺麗だ。

 月並みな感想しか言えないが、俺基準なら世界一の美女である。

 

 

「きっとおっぱいも大きくなるな!」

 

「ちょっと! 娘に対してセクハラはやめてよ!」

 

 ゼニスに叱られるパウロ。しかし反省しているようには見えん。ヘラヘラとしてやがる。

 

 

「おっとスマン。ごめんな、ルディ?」

 

「うー、あー!」

 

 

 それらしく不満を表明しておく。

 しかし、もしかしなくとも将来的に本当に巨乳美少女にでもなるのか?

 

 遺伝子的には美少女は確定したも同然だが、女性の象徴たるおっぱいまでも豊かに育つかもしれないのか……。

 複雑な気分だ。

 

 以前は股に居た筈の息子を失った今の肉体。

 今さら男には戻れないのは百も承知。

 だが心までは屈したつもりはない。

 

 男としての矜持の全てを手放したつもりはないのだ。

 まあ、どっちつかずの半端者というのが表現としては的確か。

 

 

 

 

 とまあ、赤ちゃんライフは可も無く不可も無く。

 これといった騒動もなく平凡な日常を送る。

 書斎のような部屋で本を読んで文字を覚えたり、夜中に両親のギシアン音声に聞き耳を立てたり。

 

 お盛んなことだ。

 こちとら女の体に悩んでるってのに。自分たちだけ子作りか?

 

 こりゃ、近い内に弟か妹が生まれそうだ。

 個人的な希望としては妹が良い。

 弟はダメだ。兄貴の大事なパソコンをバットで破壊するような輩だからな。

 

 仮に希望通りに妹が生まれたとしよう。

 おそらくはゼニス似の女の子。

 可愛くて小さい妹。憎たらしい弟と違って、妹なら俺でも愛情を注げるだろう。

 

 失望されないように、誰に対しても誇れる兄貴(姉ちゃん)を今からでも目指そう。

 前世の俺はたぶん、弟から侮蔑的な目で見られてだろうしな。

 もうこりごりである。

 

 前途多難だろうし、やることもきっと多い。

 挫折だって避けては通れまい。

 でも、だからこそなのだ。

 前世で何事も中途半端に取り組んでは放り投げてきた。

 

 成果が出る前に捨てたんじゃ、得るものだって無い。

 最後まで、満足のゆくまで――。

 やり遂げなければ意味も価値も生まれない。

 

 決めたぞ、俺。今度こそ本気だす――。

 

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