無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~ 作:三毛猫丸
時間帯は夜だろうか?
月明かりが瞼を照らし、眩しさに目を覚ました。
打たれた頭部には既に痛みなどは残っていない。
身体が動かない。
簀巻きにされているのだ。
俺が魔術師だってことは先の戦闘で割れているからか警戒され、ガッチガチにされたのだろう。
簀巻きの中では、両腕を胸の辺りで組むように縛られている。
このまま攻撃魔術などを放てば、心臓を破壊する羽目になる。
心臓まで傷がついちゃ、
効果範囲はせいぜい骨折までに留まるのだ。
上級治癒術では心臓損傷はちっと厳しい。
ていうか、人族は心臓の機能に支障をきたした時点で死ぬ。
つまり自力じゃ拘束を解けん。
エリスはどこだ?
あぁ、そばで寝ていた。
口を半開きにして涎を垂らしている。
呑気なもんだよ、お嬢様は。
しかし、俺と違って彼女の拘束はそれほど厳重ではない。
エリスならば力任せで拘束を解けそうな杜撰なやり方だった。
ひとまず目覚めるのを待つか。
そういや、ここはどこだ?
薄暗いホコリっぽい倉庫のような部屋だ。
窓には鉄格子、鍵が掛けられていそうな扉。
幸い、監視の目は無いが、扉の外からは人攫い達の話し声が聞こえる。
俺たちを売り飛ばす算段を立てているらしい。
「ルーディア!」
と、ここで眠り姫のお目覚めだ。
「エリス、どうやら私たちは誘拐されたようです。見ての通り、私は身動きが取れません」
「どうすれば良いの! 教えて!」
「とりあえずエリスは、ご自身の拘束が解けるか試してください。その後に私も解放してくだされば、後はどうにかしますから」
「わかったわ!」
「ちょ、声のボリュームを下げて!」
注意する俺も、結構な声の大きさだったようで、扉が開いて男が1人入って来た。
苛立った様子で、片腕が見当たらない。
そうかコイツ、俺が腕を斬り飛ばした奴だ。
応急処置を済ませたようだが、上級治癒を使える人間が一味には居ないらしい。
「このガキッ! よくも俺の腕をっ!」
「かはっ……!」
男の爪先が俺の腹部へと刺さる。
怒りをぶつけるように執拗に蹴ったり踏みつけたりを繰り返してきた。
……っ、痛い……。
めちゃくちゃ痛い……。
自然と涙がこぼれ、暴力に対する恐怖心と死の存在を隣に感じたことから身体が震えた。
「ゆ、ゆる、して……」
「許すわけがねえだろうがよぉっ!」
「腕なら、治し、ますから……」
「無詠唱魔術を使えようが、てめえみたいなガキに治せるわけねぇだろ! くそっ! ぶっ殺してやりてえが、商品は殺せねぇ」
実際、俺ならば切断された腕さえあれば治療可能だ。
だが、目の前の男は信じようとしないし、ストレスを発散するように、俺をひたすらサンドバッグにする。
「か、ひ……い、痛い、……あ、ぁ」
「うるせえっ! てめえは黙ってろ!」
頭を踏まれ、脳が揺さぶられる。
怪我なら都度、
「父さ、ま……助けて」
パウロに助けを求めるが、今や遠く離れた土地にお互い居る。
今回ばかりは俺の声は届くまい。
心が折れそうだ。
どれだけ魔術を使えようが、所詮のところ俺は非力なガキに過ぎないのだ。
「傷が治ってやがる。てめえ、不死魔族の混血か?」
なにやら勝手に誤解している様だが、まあ誤認されるような体質ではある。
でも痛いものは痛いんだ。
そろそろ止めて欲しい。
子どもには優しくしてくれよ……。
縋るような気持ちで男の目を覗き込んでみるが、反感を買ったらしく、顎を強く蹴り上げられた。
「ちょっと、あんたっ!! ルーディアになにしてんのよっ!」
見かねたエリスが男へ向かって吠えた。
おい、やめろよ、エリス。
お前まで標的にされちまう。
サウロスの大切な孫娘が傷つく姿なんて見たくない。
「てめえも生意気なんだよっ……!」
「か、はっ……!」
俺と同じように、男の蹴りと踏みつけを受けたエリスは威勢を失ってしまう。
「その子だけには……手を出さないでください。私が、なんでも……しますから……」
「っち、だったら大人しくしてるこったな」
そう吐き捨てて男は扉の外へ消えた。
その場に残るのは、散々痛め付けられた俺とエリスの2人だけ。
「すみません、エリス。私を庇わせたばかりに」
「謝るのはこっちよ。私が大声を出したから……」
鼻血を流すエリスの顔は痛々しい。
『
こういう時に便利な魔術だ。
手が塞がっていても使えるし、無詠唱だから奴らに気取られることも無い。
治癒魔術の研究を進めておいて正解だった。
「ん、ありがと。もう大きな声は出さないわ……」
「うん、助かります」
申し訳なさそうに顔を暗くするエリスの頭を撫でてやりたいが、あいにくと簀巻きでミノムシ化した俺じゃムリだ。
「では今度こそ、エリスの拘束が解けるか試してみましょう」
「そうね」
俺の指示で後ろ手に縛られているロープを力業で
顔を真っ赤にさせながら試行錯誤すること数分。
緩みを見せたロープは解かれ、彼女は自由の身となった。
「待ってなさい、いまルーディアも自由にしてあげるから」
「お願いします、エリス」
程なくして、エリスの奮闘により俺も自由を手に入れた。
ようやく一息つける。
ドア周辺を火と土魔術などを駆使してガッチガチに固めておく。
これならば魔術を剣で反らすような輩相手でも時間稼ぎくらいにはなるはずだ。
次に窓にはめられた鉄格子に着手する。
ノロノロしていたら、また男が入って来てボコられかねないので、気づかれる事前提で、魔力を多めに込めた
今の物音で俺らの脱獄を知った人攫い達が、ドア付近で騒いでいる。
不安そうなエリスの手を引っ張って、外へと逃れた。
無我夢中で走る。
この時ほどパウロの体力トレーニングに感謝したことはあるまい。
エリスは余裕のペースで着いてきている。
なんて涼しい顔だよ。
そして乗合馬車の案内板で現在地と運行時間を確認する。
まだ出発まで時間があるので待つしかない。
しかし、ロアの町から随分と離れた土地まで連れてこられたもんだ。
町二つ分は離れたウィーデンとかいう名の町だ。
ブエナ村と比べりゃあ、栄えている方だが、ロアを散策した今となっては、見劣りする。
さてと、追手から身を隠さねば。
エリスを連れて物陰で屈む。
ブルブルと震えるエリスの肩を抱き寄せてやると、ピタリと止んだ。
俺の肩に頭を預けて、小声でささやいた。
「悪かったわね、私のせいで、あなたを巻き添えにしちゃって」
「気にしないでください。私だって誘拐の標的にされてしまうくらい可愛かったので。遅かれ早かれ、こうなっていたことでしょう」
「そうね、ルーディアは可愛いものね」
「エリスも可愛いですよ? 凛々しいし、カッコ良くもあります」
お互いに褒め合っている内に出発時間を迎えたので、御者に料金を支払って乗車。
子ども2人組が夜に馬車に乗ることを不審がられながらも、ウィーデンを発った。
しばらくして隣町へ到着。
安宿に素泊まり、そこで夜を明かす。
同じベッドで身を寄せ合って眠る。
エリスは不安のようで、俺を抱き枕にして寝ていた。
しかし、彼女の腕力は凄まじいもので、翌朝に目覚める頃には背骨が砕けそうになっていた。
そして安宿を飛び出し、乗合馬車の始発に乗り込む。
どうにかしてやっとの思いでロアの町まで戻って来られた。
さしものエリスも安心したのか、ずっと力の入っていた肩を脱力させている。
俺も同じようなもんだ。
とはいえ、まだ油断ならない。
ボレアス家の館に帰るまでは気を抜けないのだ。
遠足とは違い殺伐とした空気である。
だが、ロアの町だ。
俺にとってはまだ滞在して数日の土地。
けれどエリスにとっては生まれ育った故郷。
精神的には不安は和らいだことだろう。
「早い内に戻りましょうか。フィリップ様達が心配しているはずですから」
「そうね、ありがとう。ルーディア!」
「お礼はお家に帰ってからにしましょうね。人攫いがウロついているかもされませんし」
「それもそうね!」
足を踏み出し、ボレアス家へと歩を進めた。
高級住宅エリアへ入ると治安も良い。
ここいらなら人攫いのような身なりの人間は入って来られないはずだ。
衛兵が巡回しているし。
が、その油断がよろしくなかった。
曲がり角から成人男性らしき者の手がエリスへと伸びていた。
まさか! まだつけ狙っていたとは!
咄嗟にエリスの肩を掴んで引き戻す。
でも俺の身体が前のめりとなり、身代わりのように、その手に引きずり込まれた。
そのまま肩に担がれて何処へと移動する。
「ルーディア!」
エリスの焦る声が聴こえる。
彼女には悪いが、そのまま逃げてもらおう。
「逃げて、エリス! ギレーヌを呼んでくるんです!」
曲がり角に消えた俺の声が届いたかは定かではないが、こうしてエリスを守れたんだ。
本望だし、家庭教師としての面目も保てるってもんよ。
「おいおい、赤毛のガキじゃねえぞ」
「逃がしたか……。だが、このガキも高く売れるぞ。昨晩、確認したが、コイツはブエナ村のルーディアだ。金貨2千枚の高級品だ」
俺の相場は金貨2千枚、日本円換算で2億円ってわけかい?
人を物扱いしやがって、いい加減に腹も立ってくる。
それにしてもこの男たち、盗品なのか高級紳士服に身を包んでいる。
つまり待ち伏せをくらったってわけだ。
ボレアス家に帰るなんて事は、向こうからしたらお見通しだからな。
肩に担がれながら売り捌く話を聞くのは趣味じゃない。
今の体勢を利用して、男の背中にゼロ距離で『
別に魔力弾として放つ必用性は無いのだ。
念入りに魔力を込めておいたので、よほどの闘気でも纏わなければ、防ぐ事は出来まい。
崩れ落ちる男の肩から下りて、人攫いの残党に立ち向かう。
あと2人、俺を狙う敵は居た。
隻腕の男と、見知らぬ顔の男。
たぶん、俺を背後から襲ったヤツだな。
双方、戦闘態勢に移行する。
一度は負けた相手だ。
ポカかましてやられるのはもう御免だぞ。
ひとまず先手を取らせてもらっ……ぐっ……!
隻腕の男の剣先が肩口に刺さる。
「……っ! い、……!」
目で追えなかった!
激痛で魔術を発動する思考が乱される。
こんにゃろう!
俺が傷の治る体質だからって容赦なく突き刺してきやがって!
背後に倒れかけるも、太ももに力を入れて踏み留まる。
痛かろうが敵は待ってくれない。
隻腕の男と、もう1人の男の足下に『
足の甲を串刺しにされてしまえっ!
だが、奴らは視認もせずに、地面の異変を察知して飛び退いた。
これでもダメかよ。
剣士の動きがまるで読めないぞ。
その後も攻撃魔術は避けられ続ける。
魔力の残量はほぼ無制限に近いから、残弾を気にする必要はない。
しかしジリ貧だ。
昨晩、ろくに寝られなかったせいか体力が落ちている。
消耗が激しく、無視出来ないレベルだ。
いずれは動けなくなる。
そして戦況は悪化の一途を辿る。
こっちから攻撃する余裕を失い、防戦に徹している。
勝てないなら逃げるべきなんだろうが、いつの間にか前後で挟み撃ちにされていた。
『
その度に俺の身体をチクチクと傷をつけては後退。
まるで生殺しだ。
なまじ治癒力の高い体質だ。
ああやって心をへし折りにきているんだろう。
そして痺れを切らした男らは、魔術の発動源である両腕を──切断した。
「う、あ……あああぁぁぁっ……!」
今度は救いはなかった。
両腕を肘関節の辺りで失い、地べたに尻餅をつく。
失血死を恐れて切断面を
男たちも後で俺の腕をくっ付ける為なのか、存外にも丁寧に回収していた。
「安心しな、嬢ちゃん。腕は引き渡し前に治療してやるさ。尤も、買い取り先の変態貴族の意向によっては、一生そのままかもしれねえがな」
痛い、痛い、痛い……。
無意識に痛みを遠ざけようと、全身の神経に魔力を流し、
痛みは消えた。
しかし、俺は敗北した。
完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
「手こずらせやがって。だがこれで俺たちは大金持ちだ。こんな稼業からもおさらば出来るってもんよ」
その最後の被害者が俺ってわけか、なんて運が悪いのやら。
いや、俺が高額だからこそ引退するんだ。
逆に言えば俺の犠牲で未来の被害者を減らせたってことになる。
いや、もっと自分の身を労れ。
パウロは俺を守る為に鍛えているのに、俺が諦めてどうする?
父親を裏切れない、母親だって悲しませたくない。
他にみんなも悲しませたくない。
パウロ、ゼニス、ノルン──。
リーリャ、アイシャ──。
ロキシー、シルフィ、エリス──。
俺にとって本当に大事な人たちの顔が思い浮かぶ。
だから諦めるな。
負けるな。
生きろ。
だから俺は腕を失いながらも──
それらは俺の周囲を浮遊し、円を描く様に回る。
『
人攫い達は、遅れながらも飛来するそれを回避した。
切り落とされた俺の両腕を残して。
すぐに風魔術を虚空から発動し、吹き飛ばすことで切断面へと密着させる。
後はこの一瞬で
自身の底力が末恐ろしくなる。
かの有名なラプラス戦役においても、魔神ラプラスは異様な不死性を見せたと言われている。
もしかしたら俺は、魔神ラプラスには及ばないまでも、その再来者になり得るかもしれない。
「このガキィ……! 化け物がぁ!」
「もういい、殺せっ……!」
殺気を飛ばす剣士2人。
戦況は依然として不利。
勝つことは不可能に近い。
いくら腕がくっついたとしても、俺は決定打を持ち合わせていない。
ヤツらがどこの流派で、どのランクかは知らないが、少なくとも俺より場慣れしているはず。
だったら逃げるか!
背中を見せるのは危険だが、この場に留まる方がもっと危険だ。
「あばよ、とっつぁん!」
ボレアス家に逃げ込めば、俺の勝ちだ!
そう確信した時だ。
背後から土壁を貫通する破壊音が聴こえてきた。
「え……?」
振り返る。
剣が……飛来してくる。
ヤツらは、剣を投擲したのだ。
軌道上には俺の頭部。
あ、ヤバい。
俺、死んだわ。
いかに治癒力を飛躍的に伸ばした俺といえど、頭部を損傷すれば即死だ。
死を感じて、しかし目を背けず、ただ奇跡の訪れを祈る。
そして奇跡は俺を救済した──。
褐色の獣が彗星のごとく目の前に飛び込んできた。
迫っていた剣は、俺を救った何者かの剣の一振りで木っ端微塵。
得物を自ら投げた男は、首を落とされ、生き残っていた隻腕の男も頭から真っ二つに切り落とされていた。
「無事か、ルーディア」
「ギ、ギレーヌ!」
救世主の正体はギレーヌ。
俺の直接知る人の中では最強の武芸者であり、剣王の称号を持つ剣士。
そうか、エリスが呼んできてくれたんだな。
命を削る思いで闘い抜いたことに意味はあったのだ。
本音を言おう。
今度こそ本当の意味で死を覚悟していた。
命を諦めはしなくとも、奪われる事は想定していて、それでも助かって……。
「本当に助かりました、感謝します」
「すまんな。ボレアス家として守ってやるつもりだったのだが、まんまと出し抜かれてしまった。今頃トーマスのヤツはサウロス様たちに八つ裂きにされているだろう」
「いえ、私の力不足が招いたことですので」
ギレーヌの話に出てきたトーマスが、エリス誘拐を企てたのか。
町への社会見学を利用されたって形だな。
直前にギレーヌを呼び止めたことから、間違いない。
ふと、俺が
仲間を置いて逃げたのか?
だがそうではなかった。
頭上に影が差す。
視界から日光は遮られ、何かの接近を感じた。
残党の姿は、宙にあったのだ。
「ギレーヌ、上です!」
「知っている!」
長剣を構えたギレーヌは、跳躍し──。
空中で敵を迎え打つ。
だが地の利は敵にあった。
太陽を背にした男は逆光に紛れる形で、ギレーヌの剣を掻い潜り、俺の真横に降り立った。
が、ギレーヌだって遅れは取らない。
すかさず蹴りを見舞って、男の身を数メートルほど飛ばす。
蹴りの衝撃で内臓を傷つけたのか血を吐く剣士。
被弾したが、剣王相手に数秒の事とはいえ生き残るなんて手練れだ。
それほどの剣士が俺なんかに一矢報いられるなんてな。
時の運もあるのだろうか。
いや、俺は自分でもドン引きする程に大量の魔力を込めた上で
強い闘気の持ち主だからこそ、この短時間で意識を取り戻したのだ。
「その太刀筋、北神流だな?」
淡々と問うギレーヌ。
「それも北聖といったところか」
北聖と言えば聖級剣士だ。
ギレーヌを除けば、俺が遭遇した中では最高位の剣士。
「そういうてめえは、剣王ギレーヌか……。ここいらで引き分けって事にしねえか? 金なら払う。手打ちにしてくれ」
「ほざけ。ボレアス家の人間に、それも2人に手を出して五体満足で居られると思わないことだ」
交渉決裂と判断した男は、決死の覚悟なのか、それとも破れかぶれなのか、剣を携えて突進。
捨て身だ。
しかし、確実に相討ちを狙わんとする意思をひしひしと感じる。
一度、鞘に剣を納めるギレーヌ。
そして再び鞘に手を添える動作。
腰を落とし、膝に力を込め、踏み込みの準備体勢に入る。
僅かに剣を抜き、彼女は視線を北聖の男へと定めた。
空気が固まる様な感覚。
接近する北聖に対して剣王は一呼吸の時を静止。
やがて剣に神が宿ったのを契機に、ギレーヌは鞘から奥義を解き放った。
一閃──。
音はしなかった。
空気を切り裂き、真空が生み出される。
隙間を埋めるように流入する大気が風の流れを作り出す。
その風すらも置き去りにして、ギレーヌは光にも迫る速度を以てして、北聖を迎え撃った。
血飛沫が舞った。
北聖は死に、首を失った胴体だけが数歩分の歩みを進めて事切れる。
その奥義は見たことが無い。
でも俺は名前くらいはパウロから聞いていた。
『剣神流奥義・光の太刀』
パウロの使用した無音の太刀を極めた先にある、正真正銘、剣神流の極致。
この世で他の追随を許さない最強の業を、俺は目の当たりにしたのだ。
ギレーヌは、めちゃめちゃ強かった。
パウロが俺をボレアス家に託した理由が分かった気がする。
「もう敵は居ないな?」
「はい、私の認識が正しければ、執事のトーマスを含めて4人だけです」
「そうか。では帰るぞ、エリスお嬢様がお待ちだ」
「はい!」
なんとか生き残れた。
剣士に殺されかけ、剣士に救われる。
まったくよぉ、ブエナ村とロアの町で同じ体験をするとは思わなかったぜ。
「ところでエリスに怪我はありませんか?」
「ああ。お前があの子を守り通したからな」
「良かった……」
俺はきっと、我が身以上にエリスを守りたかったんだと思う。
過去の自分に勝手ながら重ねて、それに可愛いから、大切にしようと決めたのだ。
こうして俺の家庭教師としての初仕事は、ギレーヌのサポートを受けながらも成功に終わった。