無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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17話 お嬢様は10歳

 ボレアス家に預けられて早いもので1年が経過した。

 俺の年齢も8歳となる。

 対してエリスは近々10歳を迎える。

 

 個人的には妹分扱いのエリスだが、実年齢では彼女が上回る。

 建前上は親戚のお姉ちゃんとして敬わなきゃいかん。

 

 お姉ちゃん面するエリスが可愛いかったので、無意識に胸をつついたり、お尻を撫でたりしたら怒られた。

 赤面したエリスからビンタをされる始末。

 グーパンをしなくなっただけ、成長というものが見て取れる。

 

 そんなエリスは剣術においても成長を遂げた。

 10歳を迎える前に剣神流中級の認定をギレーヌより受けたのだ。

 

 で、俺が指導してやった魔術の方は、攻撃系統四種にて初級をマスターした。

 

 それ以降は、あまり魔術面での伸びは望めず、現在はいかに正確かつ素早い詠唱を行うか。

 その点について重点的に指導している次第だ。

 

 一方でギレーヌの方はと言うと、初級魔術を幾つか覚えたものの、エリスほどは習得が進まなかった。

 もしかしたら種族的な適性が関係してるのかも。

 

 とはいえ彼女の本領は剣術にある。

 魔術などオマケにしか過ぎず、逆に戦闘面で邪魔になりかねない。

 半端な選択肢は増やさない方が良いだろう。

 

 という理由で、雑事に使えそうな魔術だけをマスターさせておいた。

 後はずっと反復練習だ。

 

 俺の魔術事情についても話そう。

 

 既に聖級治癒魔術をマスター済みで、内臓の損傷もある程度は治癒可能になった。

 これで晴れて俺は聖級治癒術師の称号を得る。

 

 肩書きとしては『水聖級魔術師兼聖級治癒術師』となる。

 

 

 ちなみに解毒魔術も聖級を習得した。

 

 現在の魔術習熟度を一度リストアップしてみるか。

 

 火魔術:上級

 水魔術:聖級

 風魔術:上級

 土魔術:上級

 治癒魔術:聖級

 解毒魔術:聖級

 

 ロキシーのように王級には届かないが、正直な話、詠唱さえ知っていれば、すぐに到達可能だと考えている。

 あいにくと王級ともなると、各国の秘術扱いなので、気軽に学ぶなんてことは不可能だが。

 

 俺の場合は無詠唱魔術の利点として、込める魔力量によって威力を増減出来る。

 極端な話、初級魔術でも制御すれば王級相当の火力を引き出せるのだ。

 

 だから王級魔術師の称号には、こだわりは無い。

 あるとすれば、治癒魔術関連だ。

 

 あぁでも、ロキシーのフィギュアを製作する為に、土魔術も捨てがたい。

 フィギュアって市場に流せば良い小遣い稼ぎになるんだよな。

 

 さて俺が誘拐事件でお披露目したマンガ的、力の覚醒について。

 

 手を介さずに攻撃魔術を発動可能になった。

 知覚する空間内ならば、どこにでも攻撃魔術を生成し放題。

 これでいつ腕を切断されても安心。

 四肢の欠損を前提に備えるのも物騒な話か?

 

 チートやんけ、と思われるかもしれないが、欠点だってある。

 便宜的に『()()()()()()』と呼ぶそれは、一度に一種類の魔術しか発動出来ない。

 つまり混合魔術の発動は不可能だ。

 

 火・水・風・土・()()()の五種の攻撃魔術をそれぞれ単体でしか扱えない、少しばかり不便な技能。

 これも今後の成長に期待したい。

 

 『自動治癒(オートヒーリング)』の効果範囲だが、聖級治癒魔術まで拡大した。

 ますます、不死性が高まってしまったぞ。

 

 とはいえ、基本的に剣士という存在は、即死級の攻撃をしてくるわけで、相変わらず死と隣り合わせだ。

 

 ちなみに剣術の方は、やっとの思いで剣神流初級の認定を受けた。

 正直、伸び悩んでいるが、剣士の間合いというのを理解出来ただけで収穫は有ったな。

 

 今現在の俺の魔術及び技能を総動員すれば、中級剣士までなら危なげなく相手取れるだろう。

 ギレーヌも肯定してくれた。

 

 ただ上級以上になると、闘気の有無や技量の差で、全く歯が立たない。

 結局のところ、どれほど強い魔術を使えても、当たらなきゃ意味が無いんだ。

 

 仮定の話だが、今の俺でさえ、1年前のパウロ相手に挑んだところで勝てない。

 もっと突っ込んだ話をすると、殺す気でやり合ったなら、一瞬で首を落とされて即終了だ。

 

 それほどまでに魔術師と剣士との間には、絶対的な壁があるのだ。

 

 さて、ブエナ村のパウロについて語ろう。

 つい先日、実家から手紙が送られてきた。

 差出人はパウロで、グレイラット家の近況が主だった内容。

 

 ノルンとアイシャが歩けるようになったとか、ゼニスと喧嘩になって口喧嘩に負けたとか。

 

 リーリャを抱きたいけど、ゼニスに本気で離婚を切り出されかねないので我慢しているという、下半身事情まで綴られていた。

 

 スケベオヤジめ……。

 奇しくも俺はスケベ心が再燃してきて、エリス相手にセクハラ行為を働いている。

 血は争えないってやつだな。

 

 本題に入る。

 パウロの指南役として剣の聖地から派遣された人物は剣王だった。

 ギレーヌには実力では及ばないまでも、過去に武者修行の経験のある歴戦の剣士。

 

 シルフィの父ロールズも師事し、剣神流初級の認定を受けたと、手紙には書かれている。

 以前、魔物にやられた経験から、剣を振るようになったとか。

 

 そしてパウロは、手紙を送る直前に剣神流聖級の認定を受けたらしい。

 剣士としては感覚派のパウロだが、剣の理論をきちんと理解したようだ。

 剣聖の称号を得た父親を、俺は誇りに思う。

 

 次段階の剣王について補足すると、認定を受けるには、剣神の下で直接認定試験を受けなければならない。

 

 受験資格は、剣聖であることに加えて現役の剣王以上の推薦が必要。

 もしくは、剣神本人の判断で、ランクを問わず受けられる。

 

 パウロもその内、指南役の推薦で認定試験を受けるって事か。

 良い報告を待つとしよう。

 

 他にはシルフィについても記されている。

 

 俺が不在の間も魔術の練習に励み、上級魔術の無詠唱化に奮闘中。

 彼女も成長過程だ。

 手紙上のやり取りではあるが、気長に成長を見守りたい。

 

 さて、こっちも返事をしとかないと。

 

 『家庭教師として順調なスタートを切ったこと』

 

 『ボレアス家の人たちはみんな自分に優しいということ』

 

 『聖級治癒術師になったこと』

 

 以上の事を記しておく。

 しかし、誘拐の件は黙っておこう。

 パウロのことだから怒鳴り込みに来るだろう。

 

 ていうか、フィリップにより箝口令が敷かれている。

 ボレアス家の次期当主の座を奪取するにあたって、影響が及ぶからだ。

 仮に口を滑らせれば、俺といえど制裁は免れまい。

 

 立場的には、フィリップの方が上なのだ。

 筋の通らない話かもしれんが、それが貴族社会の在り方。

 厄介な世界に片足を踏み入れたものだ。

 ボレアス家とかノトス家のゴタゴタとは距離を置きたい。

 

 エリスだけ連れて、いずれアスラ国を飛び出してしまおうか?

 

 ああ、それが良い。

 シルフィにも声を掛けて、ラノア魔法大学に入学するのもアリだな。

 

 エリスは魔術こそ不得手だが、剣術という一芸がある。

 何らかの形で推薦してもらえるかもしれんな。

 

 そんな妄想をしつつ、手紙を書き終える。

 

 『追伸:父さま、大好き』

 

 パウロの喜びそうな一文を書き足してから、封蝋を施す。

 

 

 

 

 もうすぐエリスの10歳の誕生日だ。

 アスラ王国の風習に則って、盛大なパーティーが催される予定だ。

 この頃、ボレアス家の中では準備でバタついて落ちつきが無い。

 

 あのフィリップでさえ浮き足立っているほど。

 ヒルダの張り切り様も、目を見張るものがある。

 サウロスも似たようなもんだ。

 パーティーの開催費には、金の糸目をつけないつもりらしい。

 

 サウロスと雑談したのだが、どこそこの貴族を呼ぶだの、呼ばないだの、とペラペラ話していた。

 良いんすか?

 そんな情報を俺なんかに吹き込んで。

 情報漏洩のリスクだってあるのに。

 

 と、そんな疑問をサウロスにぶつけたところ、俺を信用しているから問題ないそうだ。

 人として信頼してもらえて嬉しかったので、素直に礼を言っておいた。

 

 愉快そうに俺の背中をバンバン叩いてきたが、超痛かった。

 あの爺さん、加減という物を知らない。

 曲がりなりにも俺は女の子なんですけどねぇ。

 

 パーティーの形式について。

 どうやら近隣の中級貴族を招待する関係上、ダンスパーティーとして開かれるようだ。

 

 当初、俺の参加は特に求められていなかった。

 しかしながら、礼儀作法の教師のエドナに、エリスのお付き合いとして、参加を求められてしまった。

 

 エリスは自分が主役のダンスパーティーにも関わらず、参加に消極的だ。

 その原因というのが、彼女自身が踊れないという切実な悩みによるもの。

 

 そんな彼女にやる気を出させるべく、俺も参加する運びとなったのだ。

 でも俺もダンスなんて踊れないよ?

 エドナの指導は受けるつもりではあるが。

 

 やる気どころか元気まで失ったエリスの居場所を突き止めるべく、館内を忙しく歩くメイドや、すれ違いざまに飴玉をくれたヒルダから情報収集。

 

 ついに中庭の中央で木剣を片手に握りながら、地面に倒れるエリスを発見した。

 一人で木剣を振るっていたらしい。

 

 

「どうされましたか、エリス」

 

「どうもこうもないわよ……。ダンスなんて大嫌い……」

 

 

 声に覇気が無い。

 普段ならサウロス譲りの発声で鼓膜を破ろうとするのに。

 

 

「ダンス、苦手なんですって?」

 

「そうね、魔術よりも苦手かもね」

 

「魔術が出来たのなら、ダンスだって大丈夫ですよ。私が保証します」

 

「そ……」

 

 

 それっきりエリスは沈黙する。

 よほど堪えているようだ。

 挫折する気持ちは、痛いほどにわかる。

 俺だって失敗談には事欠かず。

 成功談なんて全体で見れば極少数である。

 

 エリスは、小さい頃から失敗し続けて、今でもそれを恐れている。

 ちょっとやそっとじゃ動いてくれないだろう。

 だから少しだけ、成功談を思い出させてやろう。

 

 

「エリス、自分の得意な事を挙げてみてください」

 

「いきなり何よ、しょうがないわね」

 

 

 まず聞き出すのは、エリスにとっての得意分野。

 明るい話題から攻めていく。

 

 

「ギレーヌにはまだ全然負けるけれど、剣術が得意かしらね」

 

「はい、続けて」

 

「あとは、ルーディアが教えてくれた魔術ね」

 

 

 魔術は初級だけの習得だが、それは言うまい。

 エリスにとっては得意という認識だ。

 

 

「その2つは、はじめから上手でしたか?」

 

「そんなはずないわよ。最初の頃はダメダメだったんだから!」

 

「でも今はもう、1人前の腕前じゃないですか。エリスが継続して努力を重ねた結果ですよ」

 

「あ、うん……。照れるわね」

 

 

 何事も最初からプロレベルなんて事は無い。

 誰にだって下手な時期があり、それでも続けるから結果として形になるのだ。

 それを俺は、今の人生で強く実感している。

 

「だったらダンスも同じことです。出来ないと思い込むから、尻込みなんてするんです。大丈夫、私もエリスに付き合いますから。一緒に上手くなりましょう?」

 

 

 言いたい事は全て伝えた。

 あとはエリスの気持ち次第。

 

 

「そうね! ルーディアが言うことなら間違い無いわよね!」

 

 

 活力が戻ってきた。

 表情に笑顔が戻り、俺はいつものエリスと再会した。

 

 

「なにボサッとしてるのよ! 早くダンスのレッスンを受けなきゃ!」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

 

 強引に手を取られながらも、エドナの下へと走り出した。

 

 そして、ようやく開始したダンスレッスン。

 当初こそ、剣術の訓練時と同等の意欲に満ち溢れていたエリス。

 けれど時間の経過と共に、翳りが差す。

 

 結論から言おう。

 エリスのダンスセンスは壊滅的だった。 

 絶望的と言い換えてもいい。

 

 ステップもリズムもめちゃくちゃ。

 エリスと組んで踊ってみたが、何度も足を踏まれた。

 その度にエリスは申し訳無さそうに、瞼を閉じる。

 

 

「やっぱり私にはムリなんだわ……。きっと本番で笑われて、お祖父様やお父様に恥をかかせちゃう」

 

 

 良くない傾向だ。

 すぐに上達するわけがないのに、諦めかけている。

 

 

「エリス! さっき私の言った事を忘れましたか?」

 

「忘れてないけど……。さすがに自分でもセンスゼロだって思ったわ」

 

 

 エリスは絶不調で、対して俺は最低限のレベルなら踊れる様になった。

 当て付けみたいじゃん。

 

 でも言い出しっぺの俺が見捨てたら、エリスを助ける者が居なくなる。

 俺が最後の砦なのに、そんな無責任な真似を出来るもんか。

 

 

「はぁ、エリスならきっと出来ないまでも、諦めずに努力すると思ったのですが……」

 

 

 焚き付けるようにため息をつきながら言う。

 わざとらしいことこの上ないが、一か八かの大博打に出てみる。

 

 

「見たかったなぁ、エリスの踊るところ……」

 

 

 さも、エリスの踊る姿をねだる子どものような声色。

 

 

「一緒にエリスと踊りたかったのに……残念です」

 

 

 お姉ちゃんが相手をしてくれなくて寂しい、そう心に訴えかける妹のような仕草で。

 

 

「エリスお姉ちゃん、私のこと嫌いなんだ?」

 

 

 とどめの一言を上目遣いで言い放つ──。

 

 

「仕方がないないわねっ! 私がいっしょにルーディアと踊ってあげるわよっ!」

 

 

 よし、来た!

 

 

 エリスのやる気を半ば強引に取り戻し、レッスンの続行を促した。

 試みはどうやら成功のようだ。

 俺も中々の演技派で、捨てたものじゃない。

 

 

「ルーディア! 私に付き合いなさい!」

 

「はい、エリス! いっしょに踊れて嬉しいです!」

 

 

 下手っぴなエリスだが、踊る相手を見つけて続ける気になってくれた。

 そうだ。それでいい。

 下手の横好きで、上達が遅くとも自分が楽しめれば、それで良いのだ。

 

 彼女にはその楽しさを学んで欲しかった。

 きっとこれからも、この経験を通じて継続の重要性を思い出すことだろう。

 

 そしてめげずにエリスのレッスンの日々は、誕生日パーティー本番まで続く。

 もちろん、俺もエリスの為に粉骨砕身の覚悟で付き合ってやった。

 

 その中で一つの気付きがあった。

 エリスには剣術由来の、彼女特有のリズムがあることに。

 他人に合わせるのは苦手のようだが、俺に合わせるのだけは、やけに上手く感じた。

 

 どうも俺とエリスの相性はバッチリらしい。

 ふむ、姉妹のような意識を持っていたが、目から鱗だな。

 

 そして迎えた本番。

 俺はダンスホールの片隅で飲み物をあおりながら、目立たないようにエリスを眺めていた。

 

 今日この日の主役であるエリスは、ガチガチに緊張しながらも、彼女なりの本気を窺わせる。

 

 周囲の招待客は誰しもがエリスに注目する。

 ボレアス家の令嬢がどれほどの器量の淑女なのかを見定めんが如く。

 

 その視線に晒されながらも、エリスは俺の存在を頼りに、自分の足で立っている。

 尊敬するさ。

 悔しくても、怖くても立ち続けることの難しさを知っているから。

 

 エリスは俺なんかよりもずっと強い女の子だ。

 かつての俺なら投げ出したことも、一度は諦めそうになっても、離さずにやり抜いたんだから。

 

 そんなエリスだから助けたいと思ったし、認められる姿も見たかった。

 だから今のエリスは、とにかく輝いている──。

 

 以降、エリスのぎこちないながらも決して折れることの無いダンスは、この場の全員の心を鷲掴みにする。

 

 そして俺は、ついエリスの下へと歩み寄り──。

 

 

「お嬢様、ご一曲、踊っていただけませんか?」

 

 

 エリスの手を取って、ダンスを申し込んでいた。

 

 

「しょうがないわね! 特別に踊ってあげるわよっ!」

 

 

 俺の気持ちを汲んでくれたエリス。

 皆が見守る中、俺とエリスだけの時間が、パーティーの最高の演出となった。

 

 まあ? 女の子同士で踊るのも、マナー違反ってわけじゃあるまい──。

 

 

 

 

 

 ダンスパーティーの後は、身内だけを集めて二次会が開かれた。

 パーティー自体はおおむね好評で、その感想を各々の口から語る。

 

 

「ルーディアァァァ! よくやったぁっ!! 儂のエリスをよくぞ、淑女に仕上げてくれた!!」

 

 

 酒に酔ったサウロスは、ご機嫌で俺を肩に乗せる。

 高いところは苦手だから、下ろしてほしい。

 

 

「いえ、全てエリスの努力の成果ですから。私はほんのキッカケに過ぎませんよ」

 

「だとしてもだ! 儂たちじゃエリスをここまで引っ張ってやれん! だがルーディアはやってくれた! 感謝する!」

 

 ふーん?

 こうも大げさに礼を言われると照れる。

 俺のやった事にも意味があったのだと、達成感を得られた。

 

 

「ああ、ルーディア! 貴女はもう、わたくしの娘よ! 養子に来なさい! そしてエリスと本当の姉妹になるの!」

 

 

 ヒルダもサウロスに見劣りしない激情家らしい。

 

 

「お母様! ルーディアが困ってしまうわ!」

 

「貴女もルーディアのことを少なからず想っているのでしょう? 悪い話ではなくてよ!」

 

 エリスとヒルダが言い争っている。

 奥さん、ありがたい申し出だが、俺にはパウロとゼニスっていう両親が居るんですぜ?

 

 

「父上と妻はともかく、私は君に感謝が尽きないよ。またしても私たちを驚かせてくれる」

 

「また、私なんかやっちゃいました?」

 

 

 おどけて返事をする。

 

 

「やっちゃってるんだよ、ルーディアは」

 

 

 冷静に返すフィリップ。

 その目は俺の心の内まで見通してきそうな鋭さを含み、しかし、労いの色も感じられた。

 

 

「前に約束していた賞与を支給しよう。金貨100枚でどうだい?」

 

「ひゃ、ひゃくっ!」

 

 

 前回貰った分すら手付かずなんだが、毎月の給料も含めて貯金がどんどん増えていく。

 悪いことじゃないが、子どもの持つべき額じゃないな。

 

 いっそのこと、ブエナ村の両親に仕送りでもしようかしら?

 妹たちやリーリャにもウマイ飯を食わせてやりたい。

 

 

「というわけだから。1週間以内に口座に振り込んでおくよ」

 

「なんか、すんませんねぇ」

 

「何を卑屈になってるんだい? 君は時々、腰が低すぎる事があるね」

 

「そういう性分でしてね」

 

 

 謙虚な姿勢も大事だ。

 特に目上の立場の人間には。

 出る杭は打たれるって言うしな。

 

 

「そういうところは、両親のどちらにも似ていないな」

 

「私の個性ってやつですよ、ギレーヌ」

 

 

 俺の両親を良く知るギレーヌにとっては、やはり異様に映るらしい。

 

 ただボレアス家の人たちは、こんな俺を受け入れてくれている。

 エリス、ギレーヌ、サウロス、フィリップ、ヒルダ──。

 

 たった1年で多くの思い出が紡がれた。

 ブエナ村のグレイラット家にも引けを取らない。

 

 政争については関わりたくないが、それを抜きにしてなら、個人的に末長い付き合いを願いたいところだ。

 

 

「ルーディアの10歳の誕生日も皆で祝いましょう!」

 

 

 エリスが俺の右腕に抱きついて提案する。

 密着した彼女の胸は、少しだけ膨らみを感じさせる。

 1年前よりも大きくなっている?

 

 

「そうだね。サプライズパーティーも考えていたが、私たちに隠し事は無しだ」

 

 

 フィリップにしては、含みの無さそうな言葉だ。

 ふむ、当初はサプライズで誕生日をお祝いしてくれる計画だったのか。

 

 

「ルーディア! 2年後が楽しみね!」

 

「はい、楽しみです」

 

 

 2年後には1度パウロたちにも会える。

 ボレアス家とブエナ村のグレイラット家合同の誕生日パーティー。

 これは盛り上がる予感がする。

 

 と、後でエリスに誕生日プレゼントを渡さなきゃな。

 忘れちゃいけない、今日の主役はエリスなのだ。

 

 エリスの為に用意したプレゼントを思い浮かべながら、二次会を楽しむことにした。

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