無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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20話 10歳のお誕生日会

 10歳を迎えた当日の晩。

 館の食堂にて、ボレアス家とブエナ村のグレイラット家の一堂が介する。

 

 そこに招かれた主役()の家族は、再会の喜びを内包した笑顔の表情で目の前に立っていた。

 いや、変わらないのは両親と侍女だけだ。

 2人の妹たちは成長している。

 

 4歳くらいだろうか?

 俺が何者なのか分からないのか、不思議そうにジッと見詰めている。

 けれど次第に、俺の顔が母親(ゼニス)の生き写しであると気付き、自分ちの姉であることを理解したようだ。

 

 ノルンとアイシャ、見ない間に大きくなったものだ。

 

 そして数歩を歩いた位置には、俺の会いたかった最愛の人達が立っている。

 父親(パウロ)母親(ゼニス)だ。

 

 3年程度じゃあまり老けていない。

 ゼニスは相変わらずの美人だ。

 元々、童顔であることから、衰える事の無い美貌を維持し続けているらしい。

 

 そしてパウロ。

 彼は目に見えて変わった。

 ただの立ち姿から、多くの努力と苦労を感じさせる気配を漂わせている。

 

 しかし、悲観的なものじゃない。

 大いなる力を得て、そして責任を全うする強者(つわもの)の顔をしている。

 

 体つきも様変わりしていた。

 全身の筋肉はより引き締まり、かつてはあった無駄な筋肉の肥大は()がれている。

 けれど力強さは一層増していた。

 

 (みなぎ)る闘気が、体表の大気に歪な流動を促す。

 

 パウロは成ったのだ、剣王に──。

 

 

「まずは、ルディ。誕生日、おめでとう」

 

 

 聞きたかった声だ。

 この人の声を俺は3年間待ち望んでいたのだ。

 

 

「っ……はい、父さまっ……!」

 

 

 きちんと返事を出来ていただろうか?

 やっとの思いで喉から声を絞り出す。

 

 

「その、なんだ……。大きく成ったな。ますます、母さんに似てきた。綺麗だぞ、ルディ……」

 

「ありがとう。父さまこそ、随分と強くなったみたいですね……」

 

「あぁ……。オレも頑張ってきたんだ。遂に剣王にも成ったんだぜ?」

 

 

 その頑張りを近くで見たかったものだが、こうして目の前に来てくれたんだ。

 それだけで満足だし、俺の為に努力してくれたことが何よりの愛情の証だと知る。

 

 

「さっきフィリップから聞いた。3年前、また誘拐事件に巻き込まれたってな。大変だったな……」

 

「正直、心が折れかけました。でも家族の事を想って、なんとか立ち上がれましたよ」

 

「そいつは良かった。フィリップの野郎は、さっきぶん殴っといた。サウロスの叔父上もな」

 

「それは……怖いもの知らずですね」

 

「我ながらそう思う。まあ、無理を言って預けたのはオレだ。その後、叔父上に殴り返されたよ。これでおあいこだな」

 

 

 ケジメは取ったらしい。

 目を凝らして見れば、パウロの片頬は赤みを帯びている。

 サウロスの拳は闘気すら貫通するらしい。

 

 

「ほら、皆もこっちに来るんだ」

 

 

 パウロがゼニス達を呼び寄せる。

 とりわけゼニスは、がっつくように小走りで俺の身を抱きに来た。

 

 

「ルディ……! 会いたかったわ! この3年間、片時も忘れなかったのよ!」

 

「母さま、私もです……。会いたかった……」

 

 

 この感覚は懐かしくもあり、そして今まで我慢してきた全ての感情を決壊させる引き金にもなった。

 

 

「う、あ……えぇーん……」

 

 

 遂に泣いてしまう。

 パウロやリーリャ、妹達の見守る前で。

 サウロス、フィリップ、ヒルダ、ギレーヌ。

 そしてエリスだって居るこの場で。

 

 周囲を気にする余裕なんて無かった。

 ただ、母の胸の中で泣くことが、自我を守る為の方法だと無意識に判断させて、そう行動したのだ。

 

 変に意地を張るのは、何か違うとも思った。

 親の前では子は、素直であるべきだ。

 少なくとも、ルーディア・グレイラットとして生を受けた俺は、そう考えて感情のままに従う。

 

 いや、理屈なんて関係ない。

 ただ自分がそうしたかったのだ。

 親に甘えたい、泣いている時は抱き締めて欲しい。

 

 欲望とか云々じゃない。

 いまここに居る俺は、天才魔術師でもボレアス家家庭教師でもなく、どこにでもいる子どもなのだから。

 

 

「よしよし、ルディは良い子ね。これまで、頑張ってきて、偉いわね」

 

「ぐすっ……はい!」

 

 

 思う存分、泣いたあとは家族の会話の時間だ。

 3年間の様々なエピソードを、ありったけゼニス達へとぶっちゃける。

 

 その後、ゼニスはノルンとアイシャを俺の前へと連れ出す。

 

 

「2人とも、貴女達のお姉ちゃんよ! 挨拶しなさい」

 

 

 俺の顔をジーっと覗き込むノルンは、顔立ちはパウロにもゼニスにも似ている。

 両親双方の特徴を受け継いだ玉のように可愛らしい女の子だ。

 

 

「お姉ちゃん?」

 

「ノルン、私が君の姉だよ……。大きくなったね」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

 

 ゼニス似の顔立ちが幸いしたのか、すぐに懐いてくれた。

 トコトコと足下にやって来たかと思えば、脚に抱きついてきた。

 その小さな頭を撫でてやる。

 目をつむり、俺の行為を受け入れてくれている。

 

 

「はじめまして、それともお久しぶりです? ルーディアお姉さま! 私はアイシャといいます!」

 

 

 もう1人の妹のアイシャが、丁寧なお辞儀と共に挨拶。

 この年にして、この礼儀の良さ。

 きっとリーリャの教育の賜物だろう。

 

 彼女に手招きをしてやり、近くに呼ぶ。

 母親譲りの頭髪と、パウロ似の面影のある笑顔に親近感が湧いた。

 ノルンと同じくらい頭を撫でてやった。

 

 

「会えて嬉しいよ、アイシャ」

 

「はい! あたしも!」

 

 

 ふむ、仕事モード時の一人称は『私』、素の彼女は『あたし』といった具合か。

 出来ればアイシャには、素の自分を出し続けてほしい。

 リーリャの教育方針的には厳しいだろうが。

 

 そしてリーリャも、俺のそばに来ていた。

 

 

「ご無沙汰しております、ルーディアお嬢様。ご壮健のようで何よりです」

 

「これは、お久しぶりですね、リーリャさん」

 

「どうでしょうか、私の娘は。お気に召されましたか?」

 

「良い娘じゃないですか。リーリャさんに似て美人だ」

 

「お戯れを」

 

 

 ふふ、と微笑む彼女は、娘が褒められたことを素直に受け止めているようだ。

 メイド見習いとして育てているみたいだが、ちゃんと親として子を愛しているように見てとれる。

 

 と、ここで我が姉のエリスが煌びやかなドレスに身を包んで、俺の家族の前へと躍り出た。

 

 

「は、はじめまして! エリス・ボレアス・グレイラットと、も、申しますのよ!」

 

 

 ちょいと可笑しな挨拶をかましながらも、スカートの端をつまんで淑女の礼を取るエリス。

 見ていて正直面白い。

 そんな挨拶にまず反応を示しのはパウロだ。

 

 

 

「君がエリスか。フィリップから手紙で、色々と聞いているよ。ウチの子が世話になってるみたいだな。家族を代表して礼を言わせてくれ」

 

「そ、そんな! ルーディアはわたくしにとって、い、妹同然ですのよ! むしろ、わた、わたくしがお世話にになっているのですわよ」

 

「あぁ、ムリに敬語を使わなくても良いさ」

 

 

 パウロの言葉にエリスも甘える事にしたのか姿勢を正して、改めて挨拶する。

 

 

「私はエリスよ。よろしくね、パウロさん!」

 

「あぁ、今後ともよろしく頼む」

 

 

 ガッチリ握手を交わした2人は、数分の会話を挟み、それぞれの家の人間と対面する。

 エリスはゼニスに、パウロはサウロスにといった組み合わせだ。

 

 

「ゼニスさんよね! ルーディアに似て美人ね!」

 

「あら、お世辞が上手ね。エリスちゃんもヒルダさんに似て美人よ」

 

「当然よ、お母様は美人なのよ!」

 

 

 波長が合うのか打ち解けるのが早い。

 ゼニスもエリスも裏表の無い人間だ。

 相性が良いというのも頷ける。

 

 で、パウロとサウロスは?

 

 

「さっきは殴って悪かったよ、叔父上」

 

「ふん、儂とてエリスが同じ目に遭えばそうしておったわ。許す!」

 

「つうか、叔父上の拳の鋭さは健在だな。ガキの頃を思い出すよ」

 

「今も昔も腑抜けた面をしておるな、貴様は! だが、パウロよ。少しばかりマシにはなった! 話は聞いたぞ、ルーディアを守るために己を磨き続けたとな!」

 

「それなりにな。今ならギレーヌにも勝てるかもしれんぜ?」

 

「面白い! 後で余興として一戦交えると良いわ!」

 

 

 あっちはあっちで盛り上がっている。

 

 

「パウロ、お前……」

 

 

 そんなパウロに声を掛けるギレーヌは、値踏みするような視線を送る。

 

 

「ふ、あながち嘘では無さそうだな。あたしもその自信の理由を知りたくなってきた」

 

 

 パウロから滲み出る闘気を読み取って、剣士としての力量を測ったらしい。

 

 

「冒険者時代、お前がゼニスとの結婚を決意した時もそうだが……。覚悟を決めた時のお前は、誰よりも背中が大きく見える」

 

「お前がオレを褒めるなんざ、明日、天変地異でも起きる前触れか?」

 

「あたしだってそういう気分にもなる。ルーディアはあたしにとって剣術の弟子であり、魔術の師匠だ」

 

「なるほど、ギレーヌにもウチの子が世話になったんだな。ありがとよ」

 

 

 旧縁を深める2人の会話が終わると、いよいよ誕生日パーティーは開幕を宣言される。

 

 

「ルーディア! 10歳のお誕生日、おめでとう!」

 

 

 エリスの合図を皮切りに、グレイラット家とボレアス家一同が祝福を口にする。

 

 その後は沢山のプレゼントを受け取った。

 特に目を惹いたのは、エリスが用意してくれた杖だ。

 

 金貨100枚は下らない高価で、長大な魔法の杖。

 

 

 銘を──傲慢なる水竜王(アクアハーティア)──

 

 明日、この杖を使って水聖級魔術の試し撃ち会を行うと皆に約束した。

 参加者は、いまこの場に出席している使用人などを除く全員。

 

 俺も皆に良いところを見せるべく、今の時点で張りきりだす。

 久し振りに詠唱有りで仰々しく魔術をお披露目しよう。

 

 両親からは剣帯ベルトを贈られた。

 俺が剣術をギレーヌから学んでいることが選定理由とのこと。

 

 そして一番重要なのが、リーリャに保管して貰っていた御神体(ロキシーのパンツ)だ。

 小箱に収められていたソレは、木彫りのペンダントを包んでいた。

 

 そのペンダントは、どうやらシルフィからの贈り物だそうな。

 何でも彼女の家に伝わる幸運のお守りで、シルフィの手作りらしい。

 彼女がわざわざ俺の10歳の誕生日に合わせて、リーリャに預けていたのだ。

 

 そうか、あのシルフィが……。

 彼女に会うのはもう少しだけ先になるのか?

 いや、でも既にパウロは剣王だ。

 下手をすればギレーヌに比肩するほどの。

 

 そこら辺の話し合いは、明日にでもするのだろうか?

 もしかしたら俺は、ボレアス家からブエナ村の実家に帰るかもしれない。

 だとしたら、エリスにも挨拶しないとだ。

 

 それにしても、エリスの手料理は美味しかった。

 巨大なバースデーケーキとやらも、エリスが手伝って作ったらしい。

 自信満々に自慢してきたのだ。

 

 そんな場面もありつつ、誕生日会は盛り上りの中で閉会した。

 

 閉幕後、俺とパウロは、フィリップの私室で面談を行っていた。

 どうやら俺の処遇を話し合っておくのだと。

 

 

「で、どうするパウロ。君はもうルーディアを守るだけの力を手にした。引き取るなら今だよ。尤も、私としては成人するまで、彼女を留めておいても構わない」

 

「バカ言えよ。オレの愛娘だ。お前にはやらん!」

 

「剣王様に言われたら断れないね。これは困った。エリスとヒルダが悲しんでしまう」

 

「なんであれ、オレはルディの考えを尊重する。話によれば、エリスと……その、あー、うん、良い仲なんだってな?」

 

 

 煮え切らない言い方だ。

 恐らく、俺がエリスを愛しているのだと言いたいのだろう。

 

 けど俺にも本心は分からない。

 男を異性として愛せるとは思えないし、かといって俺がエリスを幸せに出来るのかと問われたら、答えには困る。

 

 いかに同性愛が許容されるアスラ王国といえど、現実的に考えれば、その先は茨の道だ。

 そんな苛酷な人生にエリスを付き合わせるのは憚れる。

 

 それこそが俺がもう一歩を踏み出せない理由。

 自分の気持ちが不明瞭だ。

 俺はエリスの事は好きだけど、生涯を共にする類いの愛情とは、もしかしたら違うのかもしれない。

 

 

「悩んでいるようだね。ここで1つ、提案なんだが、聞いてみるかい?」

 

「はい、聞かせてください。フィリップ様」

 

「成人するまでとは言わない。もう2、3年ほどボレアス家に滞在して、自分自身の気持ちを確認してみたらどうかな?」

 

「なるほど、一考の価値はあるかと」

 

 

 俺とエリスの関係がなんであれ、義姉妹の関係までは偽りなんかじゃない。

 もう少しだけ、エリスと同じ時間を共有したい。

 

 

「どうでしょうか、父さま? 私はここで、まだお世話になりたいです。定期的にブエナ村に帰省するという条件なら、許可して頂けるでしょうか?」

 

「……そうだな。ルディもいつまでもガキじゃないんだ。だが3ヶ月に1度、帰省することを約束してくれ。滞在期間は都度、1週間でどうだ!」

 

「決まりですね、その条件でお願いします」

 

「話は纏まったね。父上にも報告しなければ。君たちは明日以降も、家族の団らんを過ごすと良い。そうだね、ひとまず10日間の滞在を許可しよう」

 

「お、すまんな。ルディが生まれる前もそうだが、フィリップには世話になった」

 

「まあ、良いさ。私はパウロの事を軽蔑しているが、父親としての在り方までは別だ。ルーディアにとっては善き父みたいだしね。多少の配慮はさせてもらうよ」

 

 

 大人同士の会話を横で聞いているが、こいつら割と仲が良いんじゃね?

 子どもの頃は、年が近いということもあって、遊び仲間のようなものだったらしい。

 

 

「そういうわけだから、ルーディア。もう少しだけ我が家で、エリスとよろしくやってくれ。ヒルダにも構ってくれたら助かる」

 

「はい、色々とご配慮、ありがとうございます」

 

「それと、今晩は申し訳ないが、1人で普段通り就寝して欲しい。理由はすぐにわかる」

 

「んー? わかりました」

 

 

 フィリップの私室を後にして、グレイラット家に用意された部屋に移動する。

 パウロ、ゼニス、ノルン組と、リーリャ、アイシャ組の2部屋。

 

 各部屋で小一時間ほど会話を楽しんだ後、ようやく俺は自室へと戻ることにした。

 本来なら家族と一緒に寝たかったが、フィリップの言葉がやけに耳に残る。

 

 念を入れるように、1人で寝ていろと話していた。

 彼の言葉は無視も出来んし、渋々従うとしよう。

 

 そして扉を開いて気づく。

 赤い何かがベッドの上に居た。

 いや、何かじゃなくて……エリスだ。

 

 肌の露出がやけに多い。

 髪の毛と同じ色のネグリジェ。

 頭髪と同化していたから、一目ではエリスと気づけなかった。

 

 

「どうされたんですか、こんな夜分に」

 

「え、えっと……。今日も良い天気よね?」

 

「もう夜ですけど? それに日中は曇りでしたよ」

 

「……今日は悪い天気よね?」

 

 

 何が言いたいんだ、この子は。

 極度の緊張ゆえか、視線もさ迷っている。

 

 俺には解った。

 フィリップの差し金だろう。

 もしかするとヒルダの入れ知恵もあるかもしれない。

 俺にエリスとニャンニャンしろという事らしい。

 

 困ったな……。

 散々、エリスにセクハラしておいて何だが、いざ本番を迎えるとなれば足が竦む。

 

 ここで手を出せば、もう2度と戻れなくなる。

 そうなればフィリップの思うツボである。

 

 それは俺にとってもエリスにとっても不幸になりかねない。

 下手に政争に首を突っ込んで、万が一敗走したとしよう。

 良くて首をハネられ、悪くて拷問の末に首をハネられる。

 

 そんな末路は望まない。

 だから俺は、扇情的な姿のエリスを前にしても、極めて平静を保つ。

 

 前世も含めて俺は変わらず童貞(処女)を貫くとしよう。

 

 

「ねえ、シないの……?」

 

「何の話です?」

 

「エッチなことよ……」

 

「しませんよ。私では責任を取りきれませんので」

 

「……バカ」

 

 

 エリスの覚悟を無下にする。

 でもこれで良いのさ。

 お互い、若い頃の甘い思いに出に留めておくのだ。

 

 俺とエリスは義姉妹として健全な関係を築いていきたい。

 

 

 

「では私はもう寝ますので。エリスも明日に備えて寝ちゃって下さい。エリスから頂いた杖のお披露目会ですよ」

 

「そうね……」

 

 

 しかし、エリスは帰ろうとしない。

 それどころか、俺の身体をベッドへ押し倒してきた。

 その顔は、どこか血走った様子で……。

 

 

 

「どういうおつもりですか、エリス。事と次第によっては、お尻ペンペンですよ?」

 

「そんなことじゃ、私は退かないわよ……」

 

「そうですか……。今のエリスは、少しばかり変ですね」

 

「ええ、でもルーディアがいけないのよ! 私の気持ち、知ってるくせにっ!」

 

 

 服を剥がれる。

 誕生日会の為に仕立てられたドレスが、エリスによって力任せに引き裂かれた。

 費用はボレアス家持ちだから文句は言うまい。

 

 エリスの手が、俺の太ももや胸に這われる。

 こちらから仕掛ける事はあるが、される側ははじめてかもしれない。

 

 彼女自身、訳も分からずに行為に及ぼうとしているに違いない。

 だってエリスの手が震えている。

 どうにかして俺を繋ぎ止めよう必死になっているのだ。

 

 

「これ以上はダメだ、エリス。()はお前を嫌いになりたくはない……」

 

 

 一喝してやる。

 これより先は、一生悔いる事になる。

 誰も望まない不幸な結末を生み出し、俺もエリスから離れざるを得ない。

 

 

「だって……! ルーディアは私に色々してくれたじゃないっ! それなのに何も返せてない! ルーディアも何処かへ行っちゃいそうになるしっ……! だったらどうすれば良いのよっ……!」

 

「それは()には分からないよ……。でも今はその時じゃないだろ?」

 

 

 エリスも本心では、いけないことをしていると理解している。

 ただ焦燥心や親からの焚き付けで暴走している。

 彼女を止められるのは俺だけなのだ。

 

 でも考え無しに説得しようものなら、余計に手をつけられなくなる。

 だから俺は代替案を出す。

 

 

「じゃあ、エリス。もう5年だけ、待ってください。私が15歳になったら、その時は……。私はエリスのものになりましょう」

 

「5年……?」

 

「はい、5年です。私もエリスもまだ子どもです。判断するには早い。少しくらい遅れても間に合います」

 

 

 これで良いのだ。

 問題の先送りかもしれない。

 根本的な解決とは程遠い。

 それでも俺は、あと少しだけ義姉妹の関係で在りたいのだ。

 

 

「わかったわ! ルーディアが大人になったら絶対よ! 他の女には渡さないんだから!」

 

 

 そう言い残して、エリスは扉を蹴り破る勢いで部屋を去っていった。

 まるで初めてエリスと出逢った頃のように。

 

 

「これはまた、とんでもない約束をしちゃったかな?」

 

 

 後悔しても遅い。

 ルーディアよ、いい加減、覚悟を決めておけよ?

 

 そして一晩明ける。

 

 家族たちと朝食を摂り、身支度を整えた。

 御神体(ロキシーのパンツ)を携え、昨日貰った剣帯ベルトを装着し、昔パウロから貰った剣を収める。

 

 本日は晴天なり。

 

 しかし、空に浮かぶ赤い珠が、妙に雰囲気を醸し立つ。

 まるで何か不幸をもたらすかのように、妖しく蠢いているのだ。

 

 でもまぁ、気にするこたぁ無い。

 

 新しく手にした杖を掲げ、グレイラット家及びボレアス家総出で、ロアの町郊外の丘へと向かうのだった。

 

 

 

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