無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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21話 ターニングポイント1

─シーローン王国宮廷にて──

 

 アレはなんだ?

 シーローン王国にて、第七王子パックス・シーローンの家庭教師を務める青き少女は、疑問の解明に思考を巡らせる。

 

 が、見ただけでその現象の正体を突き止めるには至らない。

 ただ疑問を強めるだけに過ぎず、ロキシー・ミグルディアは不安の中で、愛弟子の身を案じる。

 

 ルーディアなら大丈夫、きっと。

 根拠の無い確信で、自身の懸念を押し潰す。

 

 しかし……何かあってからでは遅い。

 であれば、己が足で調査に赴くべきか。

 そう判断を下したロキシーは、シーローン王国第七王子に見切りをつけ、足早に去っていった。

 

「ルディ、待っていてくださいよ……」

 

 

 

 

 

 

─赤竜山脈にて─

 

 彼の者は最強と謳われし百代目『龍神』オルステッド。

 

 西の空の異変は、何人(なんびと)であっても動かせぬ感情をも、揺らぎを生じさせる。

 

 これまでの世界には存在し得ぬ事象。

 前触れなど無かったはず……。

 

 

「この目で確かめる他にあるまい……」

 

 

 赤竜を葬りながら、最強の名を冠する只人ならざる者は行く……。

 

 

 

 

 

空中要塞(ケイオスブレイカー)にて─

 

 『甲龍王』ペルギウスの目に映るは、北の空の異変。

 実害を想定される災害を予見する。

 

 であれば配下に調査を命ずる。

 

「アルマンフィ、怪しき者は即刻葬れ」

 

「御意に……」

 

 

 

 

 

─剣の聖地にて─

 

 

「おいおい、ありゃなんだぁ?」

 

 『剣神』ガル・ファリオンは南の空に目を釘付けにされる。

 直弟子らの相手をしながら、この頃送り出したばかりの剣王を想う。

 

 

「パウロのヤツ、死なねぇだろうな?」

 

 

 

 

 

─魔大陸のどこか─

 

 

「おお! けったいなモンもおるもんじゃ!」

 

 

 東の空を見上げるは『魔界大帝』キシリカ・キシリスその人。

 

 かつては魔族の将として軍勢を率いたが、現在は幼女。

 

 空の異変は魔大陸からならば西方に位置するが、当人の所持する魔眼に掛かれば、方角など考慮する必要なし。

 

 

「見えん! 妾の魔眼を逃れるとは、バーディみたいなヤツじゃな! ファーハハハ!」

 

 

 

 

 

─同時刻・ルーディア視点─

 

 これから行われるのは、エリスよりプレゼントされた新たな杖『傲慢なる水竜王(アクアハーティア)』の性能チェックもとい水聖級魔術のお披露目会。

 

 親に恥をかかせないよう、全身全霊で挑むところ。

 詠唱はバッチリ暗記済み。

 何なら無詠唱でも発動可能だが、今回は雰囲気を重視して、きちんと詠唱で発動するつもりだ。

 

 さて見物客の紹介だ。

 まずはブエナ村のグレイラット一家から。

 家長のパウロ、正妻ゼニス、側室リーリャ、次女ノルン、三女アイシャだ。

 

 続いてボレアス家から。

 領主サウロス、ロア町長フィリップ、町長夫人ヒルダ、令嬢エリス、食客ギレーヌだ。

 

 みんなをアッと言わせる、とびきりのデカいヤツを見せつけてやろう。

 

 と、その前に試運転。

 基本スペックを知ることは重要だ。

 いきなり魔力制御を誤って破損とか、エリスに顔向け来ん。

 

 見物客の皆さんをお待たせして大変申し訳ない。

 だが念には念を入れてだ。

 手抜かりにならぬよう、加減を身体に覚えさせる。

 

 消費魔力を維持して魔術攻撃の威力を上げる。

 あるいは、消費魔力を抑えて通常威力の攻撃魔術を発動。

 細かい制御を要するが、慣れさえすればコイツは戦闘に重宝しそうだ。

 

 ゲームの序盤で最強武器を手に入れたかのような全能感。

 精々、力に振り回されない様に制御に努めよう。

 

 

「良いですねぇ、これは。使いようによっては、王級規模の水魔術だっていけますよ。エリスは見る目があります」

 

「ホントに!」

 

 

 金に物を言わせて高価な素材を用いたのだろう。

 だがそこには真心も込められているはず。

 その割には昨晩、服を破られたまま放置されたが。

 

 

「さあ、お立ち会いっ! 此れより御見せしますは一世一代の大舞台! 皆様の目に奇跡というものをご覧に入れましょう!」

 

 ハイテンションで始めた口上に対し、ノリの良い反応を示したのは、エリス、ノルン、アイシャの子ども組。

 拍手と共に目を輝かせて杖を持つ俺を注視していた。

 

 大人組は、かろうじてゼニスとギレーヌが微笑を浮かべる程度か。

 いや、ゼニスは足をバタつかせてその場でステップ擬き、ギレーヌの尻尾もユラユラと左右に揺れていた。

 見た目以上に内心では、盛り上がっているとお見受けする。

 

 天へと杖の先を向けて数節の詠唱を唱える。

 魔力の集う瞬間を知覚し、全身で制御する。

 

 キュムロニンバスが完成するまで、あと十数秒を待つばかり。

 

 

「え……?」

 

 

 途端に、膨大な魔力による妨害を察知する。

 とても人為的とは思えぬ圧力。

 俺が注いだハズの魔力が何かに消費されるような感覚。

 雨雲が散らされない様に抵抗を試みる。

 ダメだ、押し切られそうだ。

 

 誰もが天を仰ぐ。

 禍々しい異色の天空。

 まるで世紀末に恐怖の大王が降り立つのではと、錯覚さえ起こす。

 大規模な異変は皆に恐怖を与える。

 

 等しく不安を被り、されど眼を離せない。

 眼を逸らせば、即座に食い殺されかねない死の香り。

 

 

「む、アレはなんて高圧的な魔力だ……。これは不味い」

 

 

 ギレーヌが右目の眼帯をズラし、空の色味を視認する。

 その上で、異質な魔力の存在を認めた。

 

 

「フィリップ様、これ、ヤバいですよ。早く町の人たちを避難誘導しないと」

 

「あぁ、そうするよ。父上、同伴を願います。貴方の声の方が町民に響きやすい」

 

「心得ておる。ゆくぞ、フィリップ!」

 

 

 後にはヒルダも続いた。

 

 

「ノルン、お母さんと一緒に居なさい!」

 

「うん……」

 

 

 ゼニスがノルンを抱き抱える。

 

 

「アイシャ、何が来るのか分からないので備えて」

 

「うん、母さん!」

 

 

 リーリャはアイシャの肩を抱く。

 

 そして、俺、エリス、パウロ、ギレーヌは変わらず、空の異変と対峙する。

 やがて数秒後の訪れに、事態が急変する。

 

 

「危ねぇ、ルディっ……!」

 

 

 パウロに抱き寄せられる。

 先ほどまで俺の身体の在った空間に風切り音が鳴った。

 視界に映ってはいない、何らかの存在が俺の命を刈り取ろうとしていた。

 狙われる理由に心当たりなど無いというのに。

 

 数度、大気中を駆けずり回ったソレは、地面へと直立していた。

 

 キツネの面を着け制服のような白装束の男。

 細身だが、決して軟弱な印象を持たせない鋭さと冷たさ。

 

 金髪のそいつは、おそらくは人外。

 殺しきれなかった俺を睨んでいる様にも感じる。

 その視線は真っ直ぐと俺を狙い続けていた。

 

 

「何者だ、てめぇは! 人の娘に手を出すなんざ、どういう了見だ!」

 

「さて、それは戦って聞き出すと良い」

 

「そうさせてもらおうかっ! ギレーヌ! 俺に合わせろ!」

 

「言われずともっ!」

 

 

 2人の剣王が仮面の男へ殺気と共に、剣先を向ける。

 両者構えた光の太刀──。

 挟み撃ちにされた仮面の男は、瞬きの合間に、立ち位置を変えていた。

 

 不発に終わる光の太刀。

 が、不発のはずの太刀筋は、軌道を反転させて敵の首を互い違いの方向から挟み込む。

 

 いや、アイツ、避けやがった!

 

 転々と居場所を変える男は、手に掴む剣を軽やかに振るう。

 直後、光の尾が空間に走る。

 縦横無尽に宙を舞い、急降下。

 標的は俺のようだが──。

 

 

「遅せぇ、軌道が丸見えなんだよっ!」

 

 

 パウロの剣が、光速化した仮面の男を押し留める。

 力勝負ではパウロに軍配が上がり、弾き返す。

 

 着地の瞬間をギレーヌは逃さない。

 彼女が獣の如く咆哮を飛ばす。

 仮面の男は直撃を受け、両腕で顔を庇う。

 

 

「隙だらけだ、間抜けっ!」

 

 

 パウロの一太刀。

 がら空きの胴に触れた瞬間、またもや瞬間移動。

 回避される事も想定の内なのか、パウロは着地地点に先回りし、再度、胴へと刃先を薙ぐ。

 

 斬りつけられた男の体表からは血は流れない。

 代わりに光の粒が流出し始める。

 本で読んだことがある。

 彼はきっと使い魔という存在に違いない。

 

 痛みに喘ぐ事もなく、粛々と傷口を撫で上げると、光の粒子の流出は止まる。

 

 

「不気味な野郎だっ! 身のこなしは剣聖程度だってのに、珍妙な移動能力でこっちの認識を狂わされる」

 

「パウロ。ヤツはもしや、ペルギウスの」

 

「だろうな、察しがついたぜ」

 

 

 パウロとギレーヌの間では、敵の正体に行き着いたらしい。

 光の速度で世界を駆ける存在とあれば、2つと無い。

 そう言わんばかりに、警戒を強めていた。

 

 

「剣王2人を相手取るともなれば、さすがに分が悪い。だが、我とて退けぬ」

 

 

 仮面の男は自らの不利を悟りながらも、パウロたちへと光の筋となって強襲する。

 カウンターを目論む2人だが、敵さんも想定済なのか、急ブレーキからの反転を幾度も繰り返す。

 

 ここまで人間離れした挙動を目の当たりすれば、俺にだって理解が及ぶ。

 仮面の男の正体とは──光輝のアルマンフィ。

 

 英雄ペルギウスの配下の1人。

 おとぎ話の存在がどうして俺を狙うってんだ?

 

 パウロとギレーヌが居なきゃ、俺なんかとっくに死んでる。

 薄ら寒いね。

 

 

「この異変を止めに来た次第。ペルギウス様の命により、そこの娘を処分しに参った」

 

「あぁ? てめぇには、オレの可愛い娘が悪さしてる風に見えてんのか!?」

 

「あの空とあたしらは関係ない。たまたま居合わせただけだ」

 

 

 憤慨するパウロと弁明するギレーヌ。

 アルマンフィとやらは、一応は耳を傾けているようだが、その動向に注目せざるを得ない。

 

 

「潔白を証明出来るのか? でなければ処断は免れぬ」

 

「潔白も何も言い掛かりだろうが。てめえの方こそ、怪しいんだよ」

 

 

 パウロの意見はもっともだ。

 あんな襲撃をされちゃ、堪ったものじゃない。

 妹たちだって怖がってる。

 

 

「埒が明かんな。パウロ、ここらで一気に方を付けるぞ」

 

「あぁ、ペルギウスの手下だか何だか知らねぇが、生かしておいたら、また娘を狙われる」

 

 

 やがて放たれる光の太刀の連打。

 底知れない体力を以てして、2人の剣王が力押しを図る。

 アルマンフィも、形勢が逆転したのか、防戦に徹する。

 もしかすると、本来ヤツは戦闘向きの精霊じゃないのかもな。

 

それでも立ち回れるところを見るに、さすがはペルギウスの従僕ってとこか。

 

 

「ルーディア! 私たちも加勢しましょう!」

 

「ダメです。私たち程度じゃ、邪魔にしかなりません!」

 

 

 エリスの手を掴んで踏み留まらせる。

 あのギレーヌが仕留め切れない敵を、まだ成長途中の剣士がどうして対抗出来ようか。

 

 その後も決着はつかず、両者の体力と気力を削るだけの結果となる。

 いや、精霊に体力の限界とかってあるのか?

 

 

「膠着が続いてはペルギウス様もお嘆きになられる。聞こう、貴様達が無関係であると師と一族の名に誓えるか?」

 

 

 アルマンフィの問いに、まずはギレーヌが答える。

 

 

「我が師、剣神ガル・ファリオンと、ドルディア族の名に誓おう!」

 

 

 その相棒の姿を目にしたパウロも、渋々といった佇まいで後に続く。

 

 

「我が師、剣神ガル・ファリオンと、ブエナ村のグレイラット家の名に誓ってやるぜ!」

 

 

 本来の師は剣王なのだが、この場では信用を得る為に、剣神の名を出したようだ。

 認定試験の際、立ち会ってもらった上に、合格後はしばらく手解きを受けたと言うし、あながち間違いではないだろう。

 

 

「良かろう。後の沙汰はペルギウス様のご裁量次第だ。心して待て」

 

 

 そしてアルマンフィは光となって天へと消えた。

 

 

「謝罪も無しに消えやがったか……。ルディ? 怪我してないよな」

 

「お陰さまで傷ひとつありません。しかし、父さまは強いですね。あの光輝のアルマンフィ相手に1歩も退きませんでした」

 

「あぁ、ありがとな。逃げられちまったが、守れたんなら結果オーライだ」

 

 

 消化不良って面のパウロだが、父親の3年間の成果を強く実感する。

 この父ちゃんは、俺なんかの為にこれほどまでの力を物にしたのだと、誇りに思うと同時に照れてしまう。

 

 

「パウロさん、強いのねっ!」

 

「おう、何なら俺が剣の手解きをしてやろうか?」

 

「お願いするわっ!」

 

 

 エリスの目は、ギレーヌを見る時同様にキラキラしていた。

 どうやら俺の親父をご所望らしい。

 ヤダよ、俺の父さまだよ、あーげない!

 

 

「ルディ、災難だったわね。あとでお母さんが慰めてあげるからね」

 

 

 ノルンを抱っこするゼニスの言葉。

 久し振りにおっぱいでも揉ませてもらうとしよう。

 たまには母性だって求めたいのさ。

 

 

「しかし、先ほどの者はなぜルーディアお嬢様を」

 

 

 アイシャの手を引きながら近づいてきたリーリャの疑問。

 アルマンフィとかいうヤツには俺が、この異変の発生源に見えたらしい。

 

 

「何であれ、この場に留まるのは危険だ。とっとと、避難するぞ。ルディはもちろん、エリスの身に何かあっちゃサウロスの叔父上たちに殴られちまう」

 

 

 パウロ主導で俺たちも避難行動へ移行する。

 ロアの町からは馬で来ていたので、早々に股がろうとしたが──。

 

 俺は眼にする。

 真っ白に染め上げられた空に浮かぶ赤い珠。

 

 全ての不幸の根源とも思えるそれから、一筋の光が地面へと流れ落ち──。

 

 地面へと触れた瞬間、急速に世界を呑み込む。

 

 すさまじい速さだ。

 視認してからでは取れる行動も皆無。

 

 音はしない、しかして絶望の警鐘が誰しもの脳内に鳴り響く。

 

 それは全てを奪う光のカーテン。

 

 それは全てを無に帰す破壊の波。

 

 それは全てが等しく乱される混沌の衝動。

 

 呆然と構える。

 けれど抵抗する術は誰も持ち得ない。

 

 エリスは腰に力が入らないのか、地面に尻餅をついてた。

 せめて彼女だけでも助けたい、そんな一心から覆い被さる。

 

 パウロが俺に手を伸ばしていた。

 俺もエリスと密着しながらも、手を差出し──しかし、届くことはなかった……。

 

 

 

 

 

 

 その日、フィットア領からは全てが失われた──。

 

 後の世に大規模魔力災害と呼ばれる『フィットア領転移事件』の幕開けである。

 

 

 

 

 

─中央大陸南部北方─

 

 諸国乱立するこの土地の情勢は、いつの世も不安定。

 戦乱に溢れ、死とは隣り合わせ。

 

 力無き者はただ蹂躙されるのみ。

 力有る者もいつしかその命を消耗し、消失する殺伐とした世界。

 

 そこに彼は居た。

 サウロス・ボレアス・グレイラット

 

 

「何事だ……。なぜ儂はここに()るのだ?」

 

 

 

 

 

─中央大陸南部北方─

 

 サウロスとは別地点。

 されどそう遠くない国境線近くに、彼女は居た。

 

 

「エリス! ルーディア! パウロ! ゼニス!」

 

 

 必死に呼び掛ける剣王ギレーヌに返答する者は現れない。

 しかして、彼女の耳は捉える。

 聞き慣れた歩行音。

 自身の主であるサウロスが近くに居る。

 

 

「サウロス様か……。いま行きますっ……!」

 

 

 

 

 

─シーローン王国宮廷内─

 

 少し前までは水王級魔術師ロキシーが滞在していたこの国では、混乱の真っ只中。

 何処からともなく、アスラ王国の貴族夫妻が宮廷内に現れたのだから。

 

 

「あなた、ここはっ!」

 

「信じられないかもしれないが、シーローン王国だ。ルーディアの師であるロキシー殿にお取り次ぎ願おう」

 

 

 フィリップとヒルダだ。

 

 既にロキシーは発った。

 しかし、彼女を狙うこの国の第七皇子パックスは、そばで聞き耳を立てていた。

 

 そして自身の親衛隊に命じる。

 

 

「こいつらを捕らえよ。そしてロキシーを釣る餌にするのだ!」

 

 

 

 

 

─ミリス神聖国・ラトレイア家前─

 

「ここは……私の実家?」

 

 

 愛娘ノルンを抱き抱えながら、十数年ぶりに図らずも帰省するゼニス。

 門兵がゼニスの姿を確認、すると、ラトレイア伯爵家夫人であるクレアが飛び出してきた。

 

 

「貴女はゼニス……?」

 

「お、お母さまっ……!」

 

 

 その後、ゼニスは実の母の手によって保護され、軟禁生活を娘と共に送る。

 外の情報は以後、遮断された。

 

 

 

 

 

─アスラ王国・ミルボッツ領ノトス家邸宅─

 

 王都での政争に心労が重なり、一時帰宅のピレモンは、突如現れた2人組に詰問する。

 

 

「いま何と言ったっ……!」

 

「パウロ様に連絡を取り次ぎ願いませんでしょうか」

 

 

 愚兄パウロの側室リーリャと、その娘のアイシャ。

 よりにもよって自分へパウロと引き合わせるように要求している。

 

「ふざけおって……!」

 

 

 リーリャとアイシャは、パウロの弱味として数年に渡る人質生活を送る事となった。

 

 

 

 

 

─アスラ王国内──

 

 パウロは気づく。

 目の前の巨悪は、全ての生きる者達の敵対者。

 そして自身の目の前に立っていることに。

 

 

「お前は、パウロ・グレイラット? なぜここに。ノルン・グレイラットは元気にしているか?」

 

「ノルンが元気かだと……?」

 

 

 全てを察する。

 目の前の存在が、自分から愛する妻子たちを奪ったのだと。

 

 

「てめぇだけは許さねぇ! よくもルディ達をっ……!」

 

 

 そして剣王パウロは、家族を取り戻さんとして、龍神オルステッドへと挑む。

 

 

 

 

 

─魔大陸北東部─

 

 ルイジェルド・スペルディアは上空に子どもの姿を確認する。

 自由落下する小さな身体を受け止めると、介抱してやった。

 

 茶髪の人族の娘と、赤毛の人族の娘。

 今はまだ眠っている。

 夜は冷える、ゆえに焚き火で身体を暖めてやる。

 

 何故、空から降って来たのかは理解は及ばない。

 されど誇りあるスペルド族の名に掛けて、必ず助けてやると誓う。

 

 

 

 

─無の世界─

 

 その存在は突如として知る。

 自身の観測する未来にこれまで現れる事の無かった世界の異物。

 

 視ていたはずの未来は全てが狂い出す。

 数万年先までは確かに安定していたというのに、その異物は全てを破綻させる。

 

 殺さねば。

 その者を生かしておいては、龍神オルステッドに敗れてしまう。

 

 その者は、どういう訳か女性でありながら、女性との間に子を儲ける。

 その子ども、あるいは子孫がオルステッドと手を組み、自分を滅ぼそうというのだ。

 

 看過など出来ない。

 

 であれば、接触を図ろう。

 利用する手立てはいくらでもあった。

 全てが順調に事が運ぶように仕向け、そして最後に裏切るのだ。

 

 絶望したその女の肩に手を置いて──。

 

 想像するだけで心が踊る。

 

 さて、まずはルーディア・グレイラットの夢に干渉しよう。

 

 ヒトガミは独り、計画を始動する──。




第2章 少年期 家庭教師編 - 終 -
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