無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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23話 ロキシーの故郷

 険しい地形だ。

 平坦とは真逆で、ゴツゴツとした岩地が果てしなく続く。

 足を何度も痛めてしまい、その都度、自動治癒(オートヒーリング)が発動する。

 

 けれど、何故だか今は魔力総量が減っている。

 一時的なものだろうが、節約の為にしばらくの間は自動治癒(オートヒーリング)を切っておくことにした。

 

 原因は分からないが、魔力の枯渇からの回復には、今しばらく掛かりそうだ。

 夢を見ている時に、グッと魔力が減ったような気もするが、真実は知らない。

 

 エリスは──。

 へっちゃらそうな顔でルイジェルドの先導についてゆく。

 彼女は、ほら?

 ギレーヌとの訓練にも最後までついてこられたし、俺とは身体能力の底が違う。

 たくましいものだね、この子ってば。

 

 さて、ルイジェルドは定期的に俺たちをその場に待機させて、進行方向の先を偵察しに向かう。

 どうやら彼は危険な魔物から俺たちを守る為に、先に始末しているようだ。

 

 その証拠に、彼の手にある三叉槍からは、血の香りが漂っていた。

 血生臭いが、彼はひ弱な子どもを守る為に頑張ってくれている。

 いつか恩を返したいものだ。

 

 

──

 

 

 3時間ほど歩くと集落が見えてきた。

 こんな荒れ地の中にも住人が居ることに感動する。

 ひとまず人里に寄り、食料などを調達したいところ。

 

 ただ手持ちの金が少ない。

 アスラ硬貨は多少はあるが、それも小遣い程度の額。

 レートに差異があれど、贅沢は禁物。

 冷静に、そして慎重にお金を使っていこう。

 

 集落の周りは柵で囲われている。

 入口には監視だろうか?

 門番らしき中学生程度の少年に止められた。

 

 

「ルイジェルド、その者たちは?」

 

「荒野で保護した。村で休ませて欲しい」

 

「こちらでは判断しかねる。村長を呼ぶ。少し待て」

 

「感謝する」

 

 

 知己の間柄らしい。

 門番は村長を呼び出すこともせずに、ルイジェルドと雑談を交わしている。

 それを咎めない辺り、種族特有の連絡方法でもあるのだろうか?

 

 話は変わるが、ロキシーはミグルド族とスペルド族は近い種族だと話していた。

 先祖代々の付き合いでもあるのだろうか?

 

 その割には彼女はスペルド族に対して、過度に脅えていた事を記憶している。

 

 さて、今のルイジェルドと門番の会話は魔神語で行われている。

 

 俺には分かる内容だが、エリスはちんぷんかんぷんらしい。

 魔大陸じゃ、俺が通訳役を担わなきゃな。

 

 やがて村の長がやって来た。

 やっぱり何かしらの手段で呼び出したようだ。

 

 

「ミグルド族は同族間であれば、離れていても対話出来る」

 

「へぇ、便利ですね」

 

 

 俺の疑問に気付いたのか、ルイジェルドは説明してくれた。

 

 

「さて。そなたらは、どちらから参られた?」

 

「中央大陸のアスラ王国です」

 

「ほう、それは何とも遠方だ」

 

 

 村長は背が低く、童顔だ。

 けれど顔にはシワが刻まれ、それなりに歳を重ねている風にも見える。

 

 もしや、ミグルド族ってのは、成人しても中学生くらいの外見なのか?

 じゃあ、ロキシーって何歳?

 

 少しして、村長は俺たちの立ち入りを許可してくれた。

 少女と呼べる女の子2人を無下には出来なかったのだろう。

 それとルイジェルドの信用があっての判断。

 

 彼を頼って正解だったようだ。

 

 で、村長の名前はロックスと言うそうだ。

 彼相手に俺も自己紹介し、エリスにも身振り手振りで挨拶させた。

 

 その後、やたらロックスが俺の胸元を舐めるような視線で見つめてくる。

 んだよ?

 俺のパイパイはまだ真っ平らだぜ?

 

 と、思っていたら、彼の注目の先は、俺が首から提げていたミグルド族のペンダントだった。

 

 

「それはどちらで手に入れなさった?」

 

「師匠から贈られました。ミグルド族の女性でロキシーといいます」

 

「ほう、あの子に弟子が。それもこれ程可憐な少女とは」

 

 

 褒めてくれた、嬉しい。

 ロキシーはね、弟子に恵まれてるんですわ。

 

 

「ロキシーだってっ……!」

 

 

 耳の近くで門番の男が叫ぶ。

 うるせぇな、耳が痛いだろ?

 キーンッとした耳を押さえつつ、門番の話を聞くことにする。

 どうでもいい話だったら、股間を蹴ってやろう。

 

 

「ロキシーはなぁ! 俺の娘なんだよ! ある日、家を飛び出して、それ以来、音沙汰も無いんだっ!」

 

 

 あらま、ロキシー師匠のパパさんだったのか。

 言われてみれば、ロキシーの面影が有るような、無いような。

 

 

「俺はロイン。詳しく話を聞かせて欲しい。宿泊するなら俺の家を使ってくれ。妻のロカリーも、娘の話を聞けるなら、何日間だって滞在を許してくれる!」

 

 

 怒涛の発言。

 言いたい事も、気持ちも分かるが、ギャーギャー喧しいんだよ。

 

 そんなわけで、今晩はロキシー師匠の実家に宿泊させてもらう事になった。

 家にはロキシーに似たお母様の姿。

 つまり神の母ってわけだ。

 ありがたや。

 

 俺もロキシーの事を語るのは吝かではない。

 しかし俺の知らない師匠の素顔も、彼らの口から聞きたいものだ。

 

 有益な話を聞けた。

 ミグルド族の寿命は200年ほど。

 そしてロキシーは現在44歳。

 俺と同い年だ。

 つまり同学年。

 

 前世34年+今世10年=44年という換算。

 

 運命的なものを感じますなぁ。

 もしや俺とロキシーは将来、結ばれる運命にある?

 なんちゃってね。

 

 で、ロキシーの話も重要だが本題に入る。

 これからの事、どのようにして帰るのかについて、ロックス、ロイン、ロカリーら相手に話す。

 

 

「お主らはどのような旅順で帰るつもりか?」

 

「俺が2人を護衛する」

 

「お金は私とエリスで稼ぎます」

 

「それは感心せんな。護衛の件は素晴らしい。しかし、子ども2人だけで、路銀を稼ぐなど無理じゃ。街の中には悪党も()る」

 

 

 ロックスの意見は正しい。

 なら大人であるルイジェルドに手伝ってもらえば良いのでは?

 

 

「それにルイジェルドよ。お主は街に入れんじゃろう?」

 

 

 え?

 なによ、その話。

 俺の計画が早々に否定される。

 

 

「そうなんですか、ルイジェルドさん?」

 

「あぁ……」

 

 

 苦々しい表情で彼は肯定した。

 聞けば以前、街に入ろうとしたら化物扱いを受けたらしい。

 討伐隊まで組まれて大騒ぎだったとか。

 討伐隊員の中には王級クラスの戦士も複数居たのだとか。

 

 そんな奴らから逃げ切るなんて、ルイジェルドの強さの底が知れない。

 最低でも帝級は確実か。

 ギレーヌよりも強いのか?

 

 パウロと再会したら自慢してやろう。

 俺はスペルド族の最強の戦士と友だちなんだぜ?

 ってな、感じで。

 

 

「私とルーディアなら、街でも悪党なんてボコボコにしてみせるわ!」

 

 

 威勢良く吠えるボレアス家の狂犬。

 言葉をそのまま翻訳して、ロックスへと伝えてみた。

 

 ふむ、その気になれば上級クラスの相手までなら、渡り合える。

 俺とエリスが2人揃って居ればの仮定だが。

 各個撃破されたら、アッサリと負けちゃうだろうけどな。

 

 

「腕に覚えがあるのは結構。しかし、この魔大陸では、その考えは浅はかと言わざるを得んのう」

 

 

 真っ向から否定される。

 

 

「どうしてよ! あんた、私たちの強さ知らないでしょう!」

 

 

 続けて、訳してから話してやる。

 うむ、疲れるな、この作業は。

 意訳も含まれるから、作業の負担も大きい。

 

 

「単純な腕っぷしだけでは生き抜いてはゆけんのじゃよ。そこのルイジェルドでさえ、持ち前の不器用さから、食っていくだけで精一杯でな」

 

 

 チラッと彼の顔を見ると、ばつの悪そうに他所を向いた。

 なるほど、さすがの魔大陸だ。

 

 

「こんな話がある。幼い子どもが親を失った。その子どもは幼い兄弟を抱えて、金を稼ぐ為に大人を頼った」

 

 

 なんか語りだした。

 でも聞く。

 被害例を知って、備える事も大切だ。

 

 

 

「しかしその大人は悪党じゃった。子どもは散々働かされた上で搾取に遭い、最後には兄弟共々、奴隷として売り飛ばされた」

 

 

 そうか、俺とエリスに当てはめてみても、可能性としてはあり得る。

 ましてや、俺とエリスは人族基準になるが、美少女だ。

 

 そしてそれぞれ魔術と剣術に秀でている。

 奴隷の価値としても高い。

 そいつはダリウス上級大臣のケースで実証済み。

 

 

「ではどうしましょうか……」

 

「俺が悪党を皆殺しにする。街へ押し入ってでもだ」

 

「ふん、相変わらずの無鉄砲ぶりだな、ルイジェルドよ」

 

「俺にはそれしか出来ん。他に方法は無い」

 

 

 サラッと恐ろしいことを口走ったな、おい。

 悪党相手とはいえ、皆殺しにしちゃあ、討伐隊だって組まれるだろう。

 

 

「売り飛ばされた奴隷となった兄弟を救出時も、そうじゃったな……。100年前だったか……」

 

「あぁ。後悔はしていない。あの子どもたちは、成人して今も生きている」

 

「だが礼も言わず、恐れて逃げ出したのだろう?」

 

「くどい。悔いは無いと言っている」

 

 

 討伐隊から逃げ切ったのではなく、皆殺しにした……?

 

 おい、それってつまり……全てがとは言わないが、悪評の一部は真実ってことになるよな。

 

 ルイジェルドを見る。

 顔は険しく、過去の重々しい記憶に苦しんでいるようにも映る。

 口ではあぁ言っているが、内心じゃ悔いているのだろう。

 

 不器用どころの話じゃない。

 一歩間違えれば、俺やエリスだって餌食に成りかねない。

 言動や行動には、より一層の注意を払わねば。

 

 

「その調子ではお主の宿願は、千年経っても叶わん」

 

「宿願って何です?」

 

「この際じゃ、ルイジェルドよ。その子達にも分かるように話してやれ」

 

「あぁ、隠し事はしない」

 

 

 それから語られるルイジェルド・スペルディアの過去は凄惨たるものであった。

 エリスにも理解出来るように、人間語でおとぎ話は幕を上げた。

 

 要約すると。

 過去に起きたラプラス戦役。

 スペルド族の戦士長だったルイジェルドは、魔神ラプラスの忠臣として仕えた。

 当時の七大列強には遠く及ばないまでも、多くの人族陣営の戦士を殺し回った。

 

 やがて彼とその一族は、功績を魔神ラプラスに認められ、とある槍を賜った。

 現在、彼の使っている物とは、別物らしい。

 

 魔神ラプラスからの賜物の性能は凄まじく、先ほどは遠く及ばないと話していた七大列強相手でも、人数さえ集まれば互角以上に渡り合えた。

 

 しかし、いつしかルイジェルド率いる戦士団は正気を失ってしまう。

 敵味方問わず、殺戮の限りを尽くす。

 

 やがては人族と魔族の両陣営から攻撃を受け、徐々に数を減らしたのだとか。

 ある日、彼らの集落の襲撃の報を受ける。

 

 駆け付けた彼らは集落に居た総ての敵を殺したのだが、その敵とは彼らの最愛の家族達であった。

 ルイジェルドは自分の息子に呪われた槍を破壊され、自我を取り戻したが、後の祭り。

 

 残ったのは自身を含めた満身創痍の戦士たち。

 数は10程度。

 

 泣いて、悲しみ、そして怒った。

 

 魔神ラプラスへの復讐を誓い、そして魔神殺しの三英雄との決戦に介入したという。

 結果、魔神ラプラスは封印され、復讐自体は遂げられた。

 

 けれど犯した罪は消えず、迫害の歴史だけが今もなお、残っている。

 

 そんな悲惨で悲しみしか感じられない過去の物語。

 そして彼は、スペルド族の悪名を取り消したいと。

 

 これは……泣ける。

 他人事だっていうのに、俺とエリスは声を上げて泣いてしまった。

 

 ルイジェルドの胸に飛び込み、ワンワン泣いて……。

 エリスは泣きつかれて眠ってしまった。

 

 俺は……あまりのショックで当分、快眠とは縁が無さそうだ。

 

 

「すまん。気持ちの良い話ではなかっただろう」

 

「いえ、ルイジェルドさんは何も悪くありません。悪いのは魔神ラプラスのクソ野郎ですよ!」

 

「そうか」

 

「今度会ったら、ぶっ殺してやる!」

 

「奴は封印された。もう居ない」

 

「それでもです!」

 

 

 とんでもない悪が居たものだ。

 せめてもの救いは、既に魔神ラプラスはこの世に居ないということか。

 封印って形だから、いずれは復活するのかもしれない。

 

 

「ルイジェルドさん、私に協力させて下さい!」

 

「何をだ?」

 

「スペルド族の悪評を、私が取り除いて差し上げます!」

 

「俺に構うな。私情に、子どもを付き合わせるつもりない」

 

「私たちはルイジェルドさんに助けられました。そして故郷まで送り届けてもらうと。受けとるばかりじゃ気が済みません」

 

 

 ヒトガミは言っていた。

 困っている者が居ると。

 別に奴に言われたからじゃない。

 

 俺は自分の気持ちとして、ルイジェルドを助けてやりたいと思うのだ。

 不器用なのかもしれない。

 悪党だからって人を殺すかもしれない。

 俺たちだって殺されるかもしれない。

 

 でもそれを含めて、ルイジェルドという男の在り方は、見ていてハラハラすると言うか……。

 放っては置けないのだ。

 

 まぁ、俺も純粋無垢なガキってわけじゃない。

 彼に恩を売ることで、いざという時に盾になってでも守って貰う為だ。

 

 無論、ルイジェルドが戦いの達人という事を見込んで。

 そうそう怪我をすることもあるまい。

 負傷したって俺が治してやる。

 ギブアンドテイクってやつさ。

 

 

「しかし……。それはお前にとって足枷となる」

 

「足枷なんて放っておけば錆びて外れますよ。ほら、握手して。約束します、私はルイジェルドさんの汚名を濯ぐと」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 この日、俺は真の意味で心強い味方を得た。

 

 

「もうよろしいかな? 根本的な問題の解決がまだじゃろう」

 

「平気ですよ。街で悪い奴らに目を付けられたら、大声で助けを求めますから。もちろん、ルイジェルドさんの手を汚させないように上手くやります」

 

「そうか、では此方からは何も言いますまい」

 

 

 それっきり、ロックスは口出しをしてこなかった。

 腰を上げて、ロインの家から出ていった。

 

 その場に残るのは、俺とルイジェルド、眠るエリスに、家主のロインとロカリー。

 

 

「なあ、もう少しだけロキシーの話を聞いても良いか?」

 

「構いませんよ。私も先生の話題を話し尽くしていませんし」

 

「私もあの子の事を聞きたいわぁ。こんなにも可愛らしいお弟子さんが居るなんてビックリだもの」

 

 

 良いぜ、ロキシーのママさん。

 今晩はたっぷりと語り尽くそうや!

 

 

 

 

 

 

─中央大陸南部北方─

 

 

「なんだ貴様ら! 儂に危害を加えようというのか! 良かろう、相手をしてやろう!」

 

 

 紛争地帯を歩くサウロス・ボレアス・グレイラットは、果敢にも腕まくりをして自身に向けられた敵意と相対する。

 

 どこぞの国に雇われた傭兵だろうか?

 サウロスの身の上を確認することなく、刃を向けている。

 

 

「じじい、どこの組織のモンだ。吐かねぇなら、ここで殺す」

 

「ふん、貴様らごときに獲れる命ではないわっ!」

 

 

 サウロスの拳が傭兵の一人に刺さる。

 が、闘気だろうか。

 鋼のように硬い体表に拳が痺れてしまう。

 

 

「雑魚が。じじいの癖に粋がるんじゃねぇよ!」

 

「むぅ……。これは抜かったわ」

 

 

 これまでか……。

 傭兵たちは剣や斧を構えて、こちらの命を軽い気持ちで奪おうとする。

 

 後退りしようが、逃げ場は無い。

 

 

「すまん、エリス。どうか生きていておくれ……」

 

 

 最愛の孫娘を思う。

 彼女もまた、世界の何処かへ転移してしまったのだろう。

 そこがどんな場所で、どんな過酷な土地なのか、知る術は無い。

 

 しかし、願う他にあるまい。

 せめて幸せになる事を祈って──。

 

 サウロスの首に凶刃が振り下ろされた……。

 

 が、首の皮に触れる直前のこと。

 突然、その刃は粉末のように霧散する。

 

 

「ご無事ですかっ! サウロス様っ!」

 

 

 その者は褐色の剣士。

 獣の耳と尾を生やした剣神流最高位の武芸者。 

 主人の危機に馳せ参じたのだ。

 

 傭兵達は既に此の世から旅立っていた。

 数人の骸を、ギレーヌは初級火魔術で火葬処理する。

 スケルトンなる魔物の発生の原因を絶つ為だ。

 

「よくぞ参った、ギレーヌよ!」

 

「お怪我は?」

 

「ちぃとばかし、拳の皮を擦りむいた程度じゃ」

 

「すみません、あたしには治癒魔術が使えず……」

 

「構わん。こうして命を拾われただけ儲けものだ! 大儀である!」

 

 

 サウロスは救われた。

 食客として招いた剣王ギレーヌは忠義心に厚く、見事に我が命を救った。

 この感謝は未来永劫、忘れることはあるまい。

 

 

「して、どうする?」

 

「フィットア領に戻る──のは止めた方が良いでしょう」

 

「何故だ! 領主たる儂が行かずしてどうする! 被害状況も把握しとらん!」

 

「以前、アルフォンスが話しておりました。ダリウス上級大臣やご子息のジェイムズ殿。そしてノトス家の当主ピレモン。彼らは、ボレアス家が弱味を見せたその瞬間、食らいついてくると……」

 

「何が言いたい?」

 

「あたしには政治の事はわからない。しかし、行けば命を落とす。そんな予感がするのです」

 

「……道理だな」

 

 

 あの光の正体は不明。

 されどフィットア領から、根こそぎ人や物が奪われた可能性は極めて高い。

 仮に今すぐ救助活動や復興活動を開始したところで、計り知れない被害は取り返しがつかない。

 

 サウロスが王都に貯めこんだ財産を費やそうと、とてもではないが資金不足を免れまい。

 

 

「時を置くのです。せめてフィリップ様と合流してからの方が望ましい」

 

「奴も行方が知れぬ。いつ再会するのやらのう」

 

「あたしが必ず捜し出します。エリスお嬢様とヒルダ様もです!」

 

 

 考える。

 何が最善で、何が悪手なのかを。

 

 だが、自分には誰よりも守りたい存在が居る。

 孫娘のエリスだ。

 己の意地だけで捨てて良い命ではない。

 

 であればだ、ギレーヌの案に賛同する他あるまい。

 

 

「良かろう。お前の言葉に従おう。しばらくは身を隠す。手伝え!」

 

「は! このギレーヌ、デドルディア族の名にかけて、必ずやボレアス家に栄光と幸福を取り戻しましょう!」

 

 

 かくして、サウロス・ボレアス・グレイラットはフィットア領の復興と孫娘エリスの笑顔の為に再起を図る。

 そして、彼の側には剣王ギレーヌの姿があった。

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