無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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28話 旅立ちと成長の兆し

 困り果てたものだ。

 目の前に立つ御仁は、か弱い女の子相手に果たし合いをご所望ときたよ。

 

 痛いのは嫌だ。

 第一、これ程の巨体の拳を受けようものなら、俺の身体なんか木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

 バラバラに散った肉片をエリスに回収させたくはない。

 かき集めても蘇生するものでもないが。

 

 魔王バーディガーディは不死魔族だと聞く。

 彼の屈強な肉体は、どこまでの損傷であれば修復可能なのか、探究心がくすぐられる。

 いや、よそう。

 変に興味を持つと深みにはまる。

 

 決闘に関しては、どう対応すべきだ?

 何も殴り合いで勝敗を決めずとも構わないだろう。

 

 

「バーディ様! 提案なのですが、決闘の内容を、かけっこにしませんか?」

 

「それでは魔術師の本領を発揮出来んな! 却下だ!」

 

 

 一蹴された。

 魔術師の本領云々を語るなら、見るからに肉弾戦主体の魔王様との対決なんていう時点で無理難題だ。

 6本の腕のいずれも怪力揃い。

 掴まれでもしたら、プレス機の如く圧力で握り潰されそうだ。

 

 まともに正面からぶつかっても敗北は確実。

 勝つよりも、生き残る事を優先に立ち回らなければ。

 じゃあ、その具体的な作戦は?

 考え込んで眉間に皺が寄る。

 そんな俺の悩ましげな表情に、バーディ陛下が口を挟む。

 

 

「安心しろ。命までは獲らん。人族の娘が脆いことなど承知済みだ。ならば、我が身に貴様の渾身の魔術を撃ち込んで見せろ! 我輩からは手を出さん!」

 

「え? それは渡りに船ではありますが」

 

 

 要するに魔術の一撃で勝敗を決すると?

 バーディガーディは言っていたな。

 俺の実力を見極めると。

 決闘だなんて大仰な言い方に騙された気分だ。

 命拾いして、ホッと一息入れる。

 

 青ざめた俺の顔には、幾らかの生気が戻ったことだろう。

 まったく、魔王様ってのは人騒がせだ。

 決闘後も1日休むとはいえ、休息日が台無しだ。

 明日の出発にも差し支える。

 

 話を戻そう。

 バーディガーディを納得させる一撃となると、使用する魔術の対象は絞られる。

 俺の得意系統は、治癒魔術及び解毒魔術。

 それぞれ聖級となる。

 

 攻撃系統となれば、現在聖級まで取得済みの水魔術だな。

 先日、石化の森にて、Aランクモンスターの赤喰大蛇(レッドフードコブラ)を仕留めたのも、水魔術。

 ロキシーから授かった攻撃魔術ゆえに、思い入れも強く、日頃から重点的に腕を磨いている。

 

 次点で土魔術で、その後ろに火魔術と風魔術が横並びで引っ付いているイメージだ。

 後は系統外の昏睡(デッドスリープ)や座標指定魔術と言った個別の魔術がポツポツと使える感じ。

 

 話を纏めると、俺が選択した攻撃魔術は水系統の初級魔術・水弾(ウォーターボール)

 無詠唱発動の特権である、魔力制御による威力の可変化。

 その気になれば、水王級の火力さえも叩き出せる。

 それだけの自信と確信が俺にはあった。

 実績だって枚挙に暇無い。

 

 傲慢なる水竜王(アクアハーティア)を使用すれば、更なる威力の底上げを期待出来る。

 エリスが贈ってくれた誕生日プレゼントに救われた格好となる。

 よっしゃ!

 いっちょやってやろうじゃないのっ!

 

 

「では、バーディ様。魔術発動の準備をするので、少々お待ちください」

 

「しばし待とう!」

 

 

 あら素敵、男前な笑顔だわ。

 

 彼の承諾を得て、手に握った杖に魔力を回す。

 彼は待つと自ら言ったんだ。

 与えられた時間を存分に活用し、我が生涯最高の一撃をぶちこんでやるつもりだ。

 

 手の平を通じて杖の先端にはめられた宝石に魔力を蓄えていく。

 一定期間毎の流動量の許容範囲を超えぬ程度に魔力の量を調整。

 圧縮し、丁寧に継続的に込めてゆく。

 

 繊細な作業だが、得意分野ゆえにお手の物。

 普段以上に落ち着き払ってやれている。

 杖の先端部に水弾が生成。

 密度を高くする為に、尚も魔力を注いだ。

 

 密度と共にサイズも肥大化。

 中身がスカスカにならない様に、大きさの増減を繰り返しながらも、圧縮と膨張の変化を交互に行う。

 

 順調だ、良いぞ!

 

 全身に熱を帯び始める。

 集中力の持続時間もそろそろ打ち止めだ。

 これより以降は、魔力を溜めるだけ無駄だろう。

 頃合いを見て、魔力の供給を完了。

 

 後は狙いを定めて──。

 

 

 バシュンッ──!

 

 

 杖先より、俺の成せる究極の一撃が射出された。

 

 

 「くたばれっ! バーディガーディッ!」

 

 

 つい口走る。

 いや、くたばっちゃイカンでしょ!

 よもや俺の口から小悪魔染みた台詞が飛び出すとは。

 

 しまったと、口を押さえるが──。

 当の本人は、放たれた人間大程のサイズの水弾に視線を定め、こちらの言動など意にも介していない。

 

 水弾は距離を進む毎に加速し、勢いを強めた。

 超威力で命を押し潰す魔弾は真っ直ぐに飛ぶ。

 轟音が一帯に響き渡り、誰しもがバーディガーディの死を耳で予感した。

 

 そしてバーディガーディの鼻先に触れる寸前、彼は持ち前の6本の腕全てを、防御行動に駆り出す。

 掌で受け止め、弾き返そうと抵抗を開始した。

 

 腰を下げ、足が地面に沈む。

 グググと、水弾は巨体を後方へと押し込み続けていた。

 拮抗が生まれ、死闘の開幕。

 

 勇者()魔王(バーディガーディ)との鬩ぎ合い。

 

 遠巻きに眺めている歴戦の戦士ルイジェルドでさえ、固唾を飲んで見守っている。

 

 エリスもまた、拳を握り締めて真剣な眼差しで経過を窺っている。

 この熱戦の結末を是が非でも見届けようという意思を感じた。

 

 やがてバーディガーディは、上体を仰け反らせ──。

 下半身も地から浮き、6本の腕も関節が逆向きに折れ曲がる。

 

 均衡は崩れ、俺の一撃が彼の身を容赦なく粉砕する。 

 

 

 「ぬ、……お、おぉぉぉぉっ……!」

 

 

 半壊した彼の身体は、更に崩壊を進め、塵も残さず消滅の憂い目を見る。

 ──とまではいかないが、上半身を跡形も無く消し飛ばした。

 唯一、現存を許された下半身すらも、遥か彼方のクレーター外へと弾き飛ばす。

 

 え──?

 マジで、くたばっちゃった……?

 オーバーキルですか?

 

 違うよな?

 だってバーディガーディは不死魔族で、それも強大な力を保有する魔王だ。

 頑強な肉体は鋼鉄を凌駕し、剛力は大地をも叩き割る。

 そんな超人が、俺のような人族の子どもに討ち取られる筈がない。

 

 けど、現状だけで判断するに、確かにこの手でバーディガーディをこの世から消し去った。

 俺が……殺したのか?

 

 いや、迷うな。

 バーディガーディも言っていたじゃないか。

 どんな時も笑っていろと──。

 

 

 「フハハハハ! ルディちゃん、大勝利っ!」

 

 

 勝鬨を上げる。

 

 

 「フハハハハ! そして我輩、大復活っ!」

 

 

 バーディガーディも復活宣言。

 

 てか、生きていらっしゃった……!?

 

 

「バ、バーディ様! ご無事でしたか!」

 

 

 見間違いでなければバーディ陛下本人なのだが、心なしか、図体が縮んでいるように見える。

 現在は2メートルに僅かに届かぬ程度。

 それでも尚、長身である事実は揺るがないが、体積自体が減少しているらしい。

 

 

「うむ! 今の一撃、本気で死ぬところであったな! 威力にして帝級と言ったところだ!」

 

 

 お、おぉ!

 王級を通り越して帝級であるとな?

 誇るべきことだ。

 なにせ魔王様にお墨付きを貰えたのだから。

 

 フハハハハ! と、笑う陛下の背後からワサワサと何が這う。

 手首が列を成して魔王様の身体に吸収されていくのが見て取れる。

 バラバラになった身体の一部らしい。

 これが不死魔族の再生方法か?

 

 

「ラプラスを彷彿とさせる攻撃! 愉快! 痛快!」

 

 

 ある程度の大きさを取り戻すと、興奮気味に語り始めた。

 

 

「お気に召していただけましたか?」

 

 

 俺の本気を見せてやったのだ。

 これでダメなら、もう打つ手は無い。

 万策尽きたってやつだ。 

 

 

「無論だとも! もうちっと極めれば、神級クラスにも到達し、魔神ラプラスにも比肩するだろうな! フハハハハ! まぁ、代償として肉体が弾け飛ぶがっ!」

 

 

 神級相当の威力を出そうとすれば、その反動は肉体を自壊させる域に達するらしい。

 治癒魔術を極めればワンチャンあり得る?

 それこそバーディガーディ並の不死性を獲得すれば、デメリット抜きで発動し放題かも。

 

 

「どれ、不死魔族の再生力の秘密を教えてやろうか!」

 

「是非、ご教示戴ければと存じます!」

 

 

 聞き逃せないぞ、これは。

 この先の俺の魔術師人生において、糧と成り得る重大な内容だ。

 不死性=無限の治癒力と位置付けられる。

 解明が進めば、神級治癒魔術の開発においても大きな前進となるだろう。

 

 

「不死魔族の再生力とは──すなわち、種族に備わった魔力の性質に依るものだ」

 

「特殊な魔力をお持ちということですか?」

 

「うむ、そうだ。肉体は魔力であり、魔力は肉体となる」

 

 

 つまり肉体を失っても、魔力が肉体になるってことか?

 

 

「我輩たち不死魔族の持つ魔力は世界に満ちる魔力にも作用する。いわば世界と同化するも同然。一片も残らず消滅しようとも、世界に魔力が存在する限りは何度でも甦るぞ!」

 

 自身の保有する魔力と大気中の魔力が、相互に影響し合うと考えれば、理屈としては納得がいくな──。

 

 いや、しかし……不死魔族が人族の英雄に討たれたという古い英雄譚も存在する。

 何らかの方法で、完全に死に至るケースも有る筈だ。

 そこから逆説的に、不死身の理由にも行き着ける。

 

 具体的な理論を仮定してみる。

 不死魔族の魔力は自身の周囲に漂う大気中の魔力に、肉体の設計図をトレースする。

 

 トレース後の魔力は、肉体のスペアとなる。

 

 そして失った部位に応じて、魔力中に保管してある肉体のスペアを供給することで身体が再生する。

 ただし、魔力のみから肉体を再生させると、長い時間を要する。

 

 先ほどのバーディガーディのように、肉片が残っているケースであれば、パーツをかき集めた方が劇的に再生も早まるのだろう。

 

 つまりあれか?

 不死魔族が死ぬ条件とは──。

 肉片一つ残さず完全消滅させた上で、大気中に漂う魔力を枯渇させた場合に限るってことになるのか?

 

 じゃあ、そういうことなのだろう。

 魔力が無きゃ、肉体のスペアを生み出せず、再生させる為の供給源を失うんだからな。

 

 強大な不死魔族、すなわち魔王クラスの強者であれば、作用する魔力の範囲が広まり不死性が高まる。

 肉体の再生速度も速くなり、外的要因による魔力の枯渇にも耐性が強まると。

 

 そんなところだろうと当たりをつける。

 

 人の身で不死魔族の体質を再現する事は、理論上は可能だろう。

 肉体を後天的に改造或いは再構築すれば良いだけの話。

 肉体に対応した魔方陣を刻むなり、体内に満たす魔力の配列パターンを変更するなりすれば容易い。

 問題はその法則性を導き出せるか否か。

 生命の禁忌に触れるような、まさに神の領域だ。

 

 

「ルーディアよ、貴様ならば我が一族の不死性にも到達するかもしれんな」

 

「人族の身に余る話でしょうね」

 

「そうでもないぞ! 人族とて神域に到達する。我が姉アトーフェラトーフェの伴侶、初代北神カールマン・ライバックこそが、その最たる人物だ」

 

「初代北神とは、北神流開祖の?」

 

「その北神だとも!」

 

 

 初代北神と言えば、魔神殺しの三英雄の一角である人物だ。

 かの高名な甲龍王ペルギウスの盟友である。

 確かに人族の中には、人智を超越した力を得た者だって実在する。

 

 誰しもが歴史や伝説に語られる英雄に至ることを、子どもの頃に夢見るものだ。

 俺もまだガキの年頃だし、夢を見ても文句は言われまい。

 

 

「どれ、試してみるのも座興となろう! 我輩の一撃、やはり受けてみるか?」

 

「ご、ご冗談を! 私の身では、バーディ様の一撃を受け止めきれません! 爆散しちゃいますよ!」

 

 

 何を言い出すんだ、この男は。

 手足の一つ、原形も残さずに消失しようものなら、再生もままならないんだぞ?

 

 

「なんだつまらん。だが我輩は、女子ども相手に無理強いはせんぞ」

 

「寛大なお心に感謝を」

 

「フハハハハ! 謙虚な奴だな、貴様は!」

 

「フ、フハハハハ!」

 

 

 笑い返してやると、バーディは満足げに何度も頷く。

 その仕草には、ありありと喜びの感情が現れていた。

 さも生涯の友を見出だしたかのような反応だ。

 

 

「我輩のツテを使うことを許す。海族に支配された大海の航路も3人程度であれば渡れるが、どうするかね? 中央大陸まであっという間だ」

 

「正直なところ悩みますけど、魔大陸にも行方不明の家族が居るかもしれませんし……。捜索の為にも、南下しながら旅を続けたいと考えています」

 

 

「そうか。見つかると良いな!」

 

「はい!」

 

 

 この人との会話は、満足感を得られる。

 彼との出逢いは、色々な意味で俺の人生に大きな爪痕を残す結果となったろう。

 良くも悪くも刺激となった。

 

 

「引き留めて悪かったな。今日は休むと良い。明朝に出発するのだったな? 運搬トカゲも、こちらで手配しておこう。宿に使いの者を出す」

 

「感謝致します、バーディ陛下!」

 

「ではな! 我輩はこれから、何処かで腹を空かせているキシリカを捜すのでな! これにてさらば!」

 

 

 溜め動作も無く跳躍したと認識した瞬間には、バーディガーディの姿かたちも視界から消えていた。

 現れる時も唐突だったが、去る時も然り。

 

 

「魔王様って、みんなああいう感じなんですかね?」

 

 

 傍らに立つルイジェルドに問うと、溜め息混じりに『奴が特殊なだけだ』と返される。

 姉の方は『輪を掛けた戯け者』という情報も戴く。

 

 バーディガーディの姉アトーフェラトーフェも当然だが不死魔族であり、別地方の魔王であるらしい。

 姉弟で揃って魔王とは、一族単位で強い権力を持っているようだ。

 恐れ入った。

 

 

「ルーディアってば、スゴいじゃないっ! 魔王を倒しちゃうだなんてっ!」

 

 

 子犬のように俺の周囲をグルグルと駆け回ってから、エリスは抱き着いてきた。

 肉体的接触によるスキンシップが多いのよ、最近の貴女は。

 まぁ、嬉しいけど。

 

 

「実戦では、まず当たらない攻撃ですけどね。溜め時間が長過ぎですし」

 

「それでもスゴいわよ! どれくらいスゴいかって、スゴいくらい、スゴかったわっ!」

 

「なんですか、それは」

 

 

 ヤダ、この子。

 語彙力無さ過ぎ。

 もうちょっと言い回し、どうにかならなかった?

 

 しかし、そこがエリスの魅力であり、可愛さの所以。

 この絶妙なアホさ加減が堪らんのです。

 俺が男だったら、いますぐにでも手を出して、殴られてたね。

 

 最近じゃ俺も自重していて、エリスへのセクハラを控えている。

 精々、添い寝しながら、眠りに就くエリスの乳と尻を撫でるに留まっている。

 寝相の悪い彼女に蹴飛ばされて、頻繁に無意識の抵抗を受けちゃいるが。

 ちなみに俺は、自分から触るのは好きだが、触られるのは苦手な方だ。

 

 

「しかし驚いたな、ルーディア。お前は大成すると踏んでいたが、現時点でここまでとは。予想を大きく超えてきた」

 

「当たらない攻撃に意味などあるんでしょうか?」

 

「使いどころは確かに難しいが、俺達はチームだ。立ち回り次第では、命中させることも十分に可能だろう」

 

 

 ふむ、的を射た回答だ。

 大型の魔物相手ならば有効打にも成りそうだ。

 デッドエンドの前衛組のエリスとルイジェルドが足留めし、後衛の俺が砲台役。

 シンプルに強そうな布陣だな。

 力こそパワーとは、この事だ。

 

 とにかく疲れた。

 残存魔力にはまだ余裕はあるが、明日の出発に備えて宿に戻る。

 なんであれ俺は魔王に勝った、と言うよりは胸を借りて勝利を譲ってもらった形だが、結果としてはそう悪くない。

 

 運搬トカゲという移動手段も手に入れた。

 トータルで判断すれば、ロスタイムにはなっていまい。

 さて、先はまだまだ長い。

 魔大陸においては、最南端部に位置する港町ウェンポートを最終目的地に設定し、俺達デッドエンドは、被災者を捜索しつつ旅路を進むと決めた。

 

 

 

 

 リカリスの町を出て1週間ほど。

 ルイジェルドは髪を染める手間を惜しんで、頭髪を全て刈り上げた。

 ツルツルの見事なスキンヘッドである。

 最初に目にした時は、ギョッとしたものだが、不思議と彼には良く似合っている。

 強面の顔が更に強調され、どこぞのマフィアかって外見にはなったが。

 

 さて、そんなルイジェルドに護衛されて旅を続ける俺達の食料は、専ら大王陸亀(グレートトータス)とかいう恐ろしく不味い魔物の肉だ。

 焼いて調理して、味や食感は多少はマシになったが、ボレアス家で食べてきたメシと比較すれば雲泥の差。

 成長期の我が身にはツラいものがある。

 

 エリスは舌が馬鹿なのか、旨いと言いながら不満一つ漏らさずに食っている。

 胸もブラジャーが必要な程に膨らんできた彼女にとっては、都合の良い話だ。

 食って寝ておっぱいが大きくなる。

 年頃の娘としては正常なサイクルだな。

 

 俺の身について話しておこう。

 生理はまだ来とらんが、胸の先端が痛み始め、意識して見れば、乳房に成長の兆しが確認出来た。

 もう10歳を迎えて2ヶ月近く経つ。

 そういう時期が来たって事なんだろう……。

 

 最近行うようになったデッドエンド作戦会議の際にも、誠に勝手ながら議題に挙げさせてもらった。

 いやだって、不安だったし……。

 

 

「という訳なんです……。私のおっぱいが、徐々に膨らんできているようでして」

 

 

 エリスとルイジェルドに赤面しながらご報告。

 エリスはニマニマと笑みを顔に貼り付け、ルイジェルドは真顔かつ無言で聞く。

 

 

「いよいよルーディアも大人の女の仲間入りね」

 

「大人の女ですか?」

 

「お誕生日で会ったルーディアのお母さんって、巨乳だったわよね。なら、ルーディアも同じくらい大きくなるから自信持ちなさいよ!」

 

「いや、胸の成長に不安があるのは共通していますけど、貧乳を危惧しているわけではなくて……。逆に育ち過ぎる事に複雑な心境でありまして」

 

 

 これでもまだ、前世で男をやってきた期間の方が長いのだ。

 TS作品の醍醐味である性差の実感に困惑するという定番イベントに、俺はいま直面している。

 軽く捉えていたが、いざその時期を迎えると、重く沈んだ気持ちに陥らせられる。

 

 

「ルーディア。俺は女の悩みには疎いが、アドバイスしてやれるとしたらひとつだ。女でも力が有れば戦える。特にお前は魔術という武器があるだろう?」

 

「論点がズレてますよ、ルイジェルドさん」

 

 

 こと女の子特有の悩みに関しては、歴戦の戦士も頼りないですね。

 けどそこがルイジェルドの人間的魅力なのだろう。

 不器用で無骨だが、包容力の有る男。

 男が惚れる男の中の男って感じの人だ。

 

「む、そうか。俺も願っておこう。乳が豊かになると良いな?」

 

「いや、だからっ! あまり大きくなられると困るって話なんですがっ!」

 

「戦闘に支障が出ると不都合だろう。理屈は解る」

 

 

 ダメだ、この人。

 話が通じない。

 

 

「ルーディア! 成長痛が収まったら揉ませなさいっ! ボレアス家に居た頃は、私ばっかり揉まれて不公平だったものっ!」

 

「その節は大変申し訳ございませんでした! 何卒、ご勘弁願いませんでしょうか?」

 

 

 土下座して命乞い。

 果たしてエリスの反応は?

 

 仁王立ちで腕組み。

 

 

「そんなに揉んで欲しいの? 素直じゃないわね」

 

 

 俺は肉食獣に獲物として定められた──。

 

 

──

 

 

 被災者を捜索しつつ冒険者ギルドの有る街に立ち寄っては、冒険者稼業で路銀を得る日々。

 補足するとルイジェルドがスペルド族であると見抜いた者はゼロだ。

 髪も剃り上げたし、額の宝石も鉢金で隠している。

ちょっと鋭い目をしただけの普通の魔族の出来上がり。

 

 道中、エリスに魔神語を教えつつ、俺は俺で際限無く育つ乳房に葛藤の毎日。

 コンディションは最悪だ。

 

 ルイジェルドに戦士としての扱きを受け、それなりに戦闘技術を学んだ。

 エリスは剣神流上級の剣士だが、実際の実力的には剣聖相当だと、ルイジェルドは認定していた。

 

 そして俺は総合的に判断すれば聖級クラスらしい。

 元から水聖級魔術師だからね、ようやく戦闘能力に追い付いてきたってわけだ。

 

 近況はこんな具合。

 その後もデッドエンドの名を売りながら、南へと進路を取る。

 道中、魔大陸南部へ武者修行に訪れている武芸者が、ルイジェルドに果たし合いを挑むなんて場面も数多く見受けられた。

 

 三大剣術流派の聖級剣士に留まらず、世界でも数える程度しか認定者が存在しない北王が相手として名乗りを上げる出来事もあった。

 魔大陸には北神流・魔王派という門派があるようで、北神流の剣士が数多く訪れるようだ。

 

 下手をすればバーディガーディにも傷くらいなら付けられそうな達人。

 そんな剣士にも動じず、真っ向から受けて立ったルイジェルドは、北王を相手取り完勝を収めた。

 

 彼もこの短い旅で力を伸ばしたようだ。

 500年以上もの時を生きる彼が、一年足らずで急成長を遂げるとは──。

 守るべき子どもの存在は、ルイジェルドにとって群を抜いて重要な要素だと見る。

 

 やがて1年が経過し、Aランク冒険者となった。

 人間としても、女の子としても成長した俺は──。

 

 エリスとルイジェルドと共に、無事に魔大陸最南端の港町ウェンポートへとたどり着く。

 

 そして、バストのカップサイズは、11歳時点でCカップへと到達していた。

 ちなみにエリスは俺と同じCカップだ。

 尤も、同じカップ数でもトップとアンダーの差で区別される為、年齢的にも身長差的にも乳房の脂肪量自体はエリスの方が断然上なのだが──。

 

 別に大きさで争っているわけじゃない。

 ただこれだけは言いたい。

 俺のおっぱいは、紛うことなく母ゼニスの遺伝であると──。




第3章 少年期 冒険者入門編 - 終 -
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