無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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治癒魔術に関して、独自解釈が含まれます。


2話 師匠

 パウロの怪我を治療したその日の晩、食事の場でゼニスに向けて事の詳細の説明がなされる。

 興奮気味に話すパウロ、口を押さえて驚くゼニス。

 

 我が子の才能の高さに興奮冷めやらぬ模様。

 親として鼻が高いってやつか?

 

 やれうちの子は可愛いだの、聡明だの、将来は七大列強に名を連ねるだの──。

 そこまでおだてられたとあっては、むず痒くなってくる。

 

 はて? 七大列強とは何ぞや?

 

 パウロに訊いてみたが、彼本人の口からは、ざっくりとした事しか教えてもらえなかった。

 

 なんでもこの世界で最も強い7人の武芸者やら戦士なのだとか。

 漫画やラノベに有りがちな設定だな。

 

 この呑気な雰囲気のブエナ村で暮らす限りは、関わるなんて事態なんざ、万が一にもあり得ないだろう。

 

 

「きゃー! この子ってば、やっぱり天才だったんだわ!」

 

「だよな、なんてたって俺とお前の子だ。将来は必ずや歴史に名を残す魔術師になるぜ!」

 

 

 なあ、いつまで盛り上がってんの?

 評価されているのは素直に嬉しいが、いい加減にしてもらわないと俺も増長してしまう。

 

 努力を絶やさず堅実に生きていくという方針が揺らぎかねない。

 気を抜くなよ、俺。

 

 

「それにしても無詠唱だなんてねえ。ルディ、それってスゴいことなのよ」

 

「そうなのですか?」

 

「ええ。そうよ。歴史上でも無詠唱魔術の使い手は、数えられるくらいしか存在しない珍しいものなの」

 

 

 無詠唱魔術の術者は稀少のようだ。

 中央大陸の大国であるアスラ王国でも極めて稀な存在なのだとか。

 

 しかし出る杭は打たれるという言葉がある。

 親以外にはあまりひけらかさない方が良いのでは?

 

 不安と疑問に封印指定したくなる。

 異端者でなくとも異端児くらいには扱われることだろう。

 

 

「あの、母さま。ひとつお願いがあるのですが──」

 

「なあに? 言ってごらんなさい」

 

「あのですね、母さまに治癒魔術を教えて欲しいんです」

 

「ルディはもう治癒魔術を使えるのよね? それも無詠唱で。私なんかの指導が必要?」

 

「必要……だと思います。基礎も知らずに放置していたんじゃ、いつか大きな失敗をしてしまいます」

 

「勤勉な子ね」

 

 

 一応、納得はしたみたいだ。

 だが俺自身、必要なことだと考えている。

 今回は偶々上手く事が運んだが、治療後の経過が悪く後遺症を残すケースだって起こり得る。

 

 であるならば、その可能性の芽を摘むことは重要だ。

 手抜かりはいかんぞ。

 

 

「そうねえ。最初は家庭教師を雇おうかと思ったけれど、他でもないルディからのお願いだし。うん、お母さんが教えてあげる!」

 

「やったぁ。ありがとうございます!」

 

「でも基礎を身に付けたら、ちゃんとした家庭教師を雇うから、そのつもりでね」

 

「はい!」

 

 

 話はついた。

 明日以降、暇な時間を見つけて教えてくれると約束。

 現役の治癒術師(ヒーラー)による直々の指導。

 精々、失望されないように励むとしよう。

 

 説明し忘れていたが、治癒魔術を専門に扱う魔術師を指して、治癒術師と呼ぶそうだ。

 

 

 

 

 

 そして数日後。

 さっそく、ゼニスに時間を作ってもらい、勉強タイムとなる。

 

 ゼニスの勤め先である診療所から借りてきた治癒魔術の専門書を手渡される。

 厚さはそれほどでもないが、軽く目を通した限り、俺の頭でも理解出来る内容だ。

 取り扱いは初級から上級まで。

 魔術教本と同じランクの範囲である。

 

 

「ルディにはまだ難しい言葉があるはずだから、わからない部分があれば質問するのよ」

 

「はい、母さま」

 

 

 ふむ──読み進めていくと、色々と知識の欠落を痛感する。

 抽象的なイメージで治癒魔術をパウロに施していたが、専門書の記述から察するに、もっと手際の良いやり方や、応用法があるようだ。

 

 まずは治癒魔術の発動条件について。

 

 当初、治癒魔術とは傷の周辺の細胞を活性化させて強制的に治癒させるものだと決めつけていた。

 

 しかし実際は違う。

 どうやら負傷部位の情報(魔力)を読み取り、正常な状態へと修復させるのだ。

 

 俺の推測に過ぎないが、水弾で例えるなら『生成』の時点で、『状態の定義』、『サイズ設定』は『範囲設定』へ置き換えられる。

 

 『射出速度』は『修復過程』といった流れだと考えれば、ある程度は辻褄が合う。

 

 魔術によって差違はあるにしても、大まかな感覚は掴めた。

 

 ちなみにここまでの範囲で、専門書の難読部分はゼニスに解説・捕捉をしてもらっていた。

 子どもにも理解が出来るように噛み砕いた言い回しで教えてくれた。

 

 まだこっちの世界の言語を網羅したわけじゃないから、助かる。持つべきものは母親だ。

 

 

「ルディがお父さんに掛けたヒーリングは初級に分類されるのよ。刺し傷とか切り傷までが治療の範囲ね」

 

「へえ、では中級や上級はどういった効果なのですか?」

 

「中級ではエクスヒーリング。骨折くらいの傷までなら治せるわよ。上級だとシャインヒーリング。痛い話になっちゃうけれど、千切れた腕とか脚を断面に合わせて治癒魔術を掛ければ、元通りにくっついちゃうの」

 

「それは……スゴい!」

 

 

 この世界の医療水準を舐めていたが、なるほど。

 切断された手足すら、大掛かりな手術を必要とせずとも治療可能ときたか。

 

 そりゃあ、まともに医療技術が発展しないわけだ。

 魔術師の絶対数こそ少ないようだから、医療崩壊の危険性は付いて回るらしいけど。

 

 とはいえ戦争でも起きない限りは事足りるだろう。

 このアスラ王国じゃ、長いこと戦争が起きていないからな。

 

 

「母さまは、どのランクまでの治癒魔術を使えるのですか?」

 

「うーん、中級までね。上級となると大きな街に1人いるかどうか。上級の治癒術師って、とても少ないのよ」

 

 

 併せて解毒魔術も中級までなら習得済みとのこと。

 治癒と解毒で、魔術としては別系統扱いなのか?

 

 まあ、毒物の場合、怪我の治療と勝手が違うのだろう。

 体内から、傷病の原因である毒素を取り除く必要が別個であるとか? そう適当な解釈をしておく。

 

 

「それじゃあ、実践に移りましょうか」

 

「よろしくお願いします、先生!」

 

「ふふ、先生だなんて」

 

 

 微笑みつつ、ゼニスは裁縫箱からまち針を取り出したかと思えば、おもむろに自身の指先に刺す。ジワりと血が浮かぶ。

 

 

「え、痛くありません?」

 

「少しだけね。でもこれくらいならすぐに治せるわよ」

 

 

 身を以て愛娘に指導する親心、ここまでされたら、俺も相応の姿勢で取り組まなきゃな。

 

 そして彼女は中級魔術──エクスヒーリングを唱える。

 骨折程度までの怪我なら対応可能と話していたが、まさか試し撃ちで、自ら骨を折ったりはしまい。

 

 要するに術の発動さえ確認出来れば良いのだ。

 指先の刺し傷程度であっても、治癒さえすれば成功だと見なすってことね。

 

 

「治りましたね」

 

「これくらいは、お手のものよ」

 

 

 ドヤ顔で誇らしげに胸を張る母ちゃん。

 目の前に突き出されたおっぱいを、反射的にひと揉みしてしまう。

 

 

「コラ、ルディ! 人が教えてる最中にふざけるんじゃありません!」

 

「す、すみません……」

 

 

 しょぼん……。叱られちまったよ。だが良い感触だった、ご馳走さま。

 

 

「もうっ! 変な所でお父さんに似なくてもいいのに」

 

「でも私って、母さまにも似ているんですよね?」

 

「それはそうだけれど、お母さんは同性の胸に触れたりはしないわよ」

 

「だって母さまの胸が恋しくて……」

 

 

 なんて言い訳だ。

 

 

「あら、赤ちゃん返り? まだ下の子も生まれていないのに。可愛い子ね、ルディは」

 

 

 脇に手を差し入れられたかと思えば、持ち上げられて彼女の膝に座らせられる。

 どうやら母として子を甘やかしていると見える。

 

 

「ところでルディ、貴女はどんな大人になりたい?」

 

「ええ? どんな大人って……」

 

 

 どう答えるべきか。母親の求める理想の子どもの将来の姿。

 

 いや、適当なことは言えんな。

 真摯な態度で返答すべきだ。

 ここは俺の本心を伝えるか。

 

 

「そうですね、私としては母さまみたいな美人さんになりたいです。あとは上級の治癒魔術を覚えて、父さまが怪我をしたら、治してあげたいです」

 

「あらまぁ、ちゃんと自分の将来像が見えてるのね」

 

 

 まっ! 当たり障りの無い内容でぼかさせてもらった。

 けど本心を含んでいるのもまた事実。

 

 3年以上も同じ屋根の下で暮らせば愛着も湧いてくるってもんですよ。

 呆れるほどの溺愛ぶりに、俺の心も揺らぐってもんだ。

 

 

「ほら、授業を続けるわよ」

 

「はい、母さま!」

 

 

 そんな具合に毎日、ゼニスによる治癒魔術及び解毒魔術の授業が続く。

 2週間後には、無事に中級を習得。無論、無詠唱で。

 

 ゼニス曰く、今の俺なら診療所でも即戦力になる腕前だとか。

 

 やれやれ、我ながら自分の才能が怖いぜ。

 こりゃ、上級取得も時間の問題だな。

 そこまで上達すれば、村でメシを食うのには困らないだろう。

 

 手に職を付けるとはよく言ったものだ。

 

 とっ、いけねぇ。また調子に乗ってしまった。

 前世の教訓を活かせよ、ルディちゃん!

 

 真面目な話、治癒魔術に関しては上級よりも更に上を目指したい。

 上級でも治せない程の重傷をパウロが負って、救えませんでした! なんていう結末はごめんだ。

 

 上級より上位となると、『聖級』『王級』『帝級』『神級』の並びだ。

 

 神級ともなると、お伽噺の中でしか存在が確認されていないらしい。

 

 帝級や王級でさえ、個人で扱える魔術の範疇を超える。

 魔方陣を描くか、100以上もの文節の詠唱を要したり、手間と時間が掛かる代物。

 

 ただし、王級クラスならば巻物(スクロール)として保持でき、緊急時において即座に使用可能。

 無理して覚える事もない。

 

 で、個人規模で扱うならば、聖級が実質的な上限ってところだな。

 その聖級治癒術とやらも、使える人間の絶対数は非常に少ないのだと、ゼニスは話す。

 

 聖級に関しては、覚えたければ、在野の凄腕治癒術師に弟子入りするのが常識だ。

 

 となると、ブエナ村から足を伸ばさなきゃ、そんな腕の良い治癒術師の先生なんて見つけられない。

 

 くっ、詰んだか? 聖級の書籍でもあれば、独学で身に付けるつもりでいるんだが……。

 

 たぶん、めちゃくちゃ高価だろうしな。うちの経済事情じゃ、まず手に入らない。

 

 じゃあやっぱり、城塞都市ロアの方面まで出向いて師匠探しが一番手っ取り早いな。

 

 それよりも前に親のあてがった家庭教師とのレッスンが先になるだろがね。

 

 

 

 

 

 

 治癒魔術の扱いに慣れた頃、ロアの町に出していた家庭教師の求人に応募があった。

 

 人となりまでは分からないが、水聖級魔術師だってよ。

 他系統の魔術も、だいたいは使えるんだとか。

 

 熟練の魔術師の風貌を頭の中に思い浮かべる。

 髭を蓄えたお爺さん的な?

 

 そうでなくとも魔術師として大成した程の人物だ。堅物な気質かもしれん。

 

 ヤダなぁ。

 俺は褒めて伸びるタイプなんだよ。

 叱られるばっかは性に合わんよ。

 

 とかいう風に勝手なイメージで不安がっていると、その人物はやって来た──。

 

 

「ロキシーです。よろしくおねがいします」

 

 

 わあおっ! 見てごらん、うら若いお嬢さんが目の前に居るんだぜ?

 

 そう、家庭教師となる人物とは、下の毛も生え揃っていなさそうな女の子だった。

 年の頃は12~13歳くらいか。

 眠たそうな眼をしている。

 

 お世辞にも状態の良いとは思えぬ茶色のローブに身を包んでいる。

 長年、使い込んでいるのか、所々、生地が薄くなって変色していた。

 

 俺の家庭教師として雇われるからには、相応の給金が出る。

 是非、買い直す事をオススメする。

 

 ひょっとしたら、彼女自身の思い入れのある品かもしれんし、余計なお世話というのも否めんが。

 

 それにしても……ロキシーと名乗った少女は小さい。

 水色の髪が特徴的な彼女。

 

 服の上からでも、肉付きが薄いことが読み取れる。ちゃんとメシとか食ってんの?

 

 よしっ、このロリっ子先生に俺のオヤツを分けてあげよう。

 

 恩着せがましい俺の思いやりなど露知らず、ロキシーさんとやらはジト目で、パウロ→ゼニス→俺の順番に視線を巡らした。

 

 身に纏う気だるげな雰囲気からして、やる気が足りてないぞ、この子は。

 見た目は俺好みで可愛らしいだけにもったいない。

 

 しかしそれにしても──。

 

 

「小さいなぁ」

 

 

 背丈と胸の両方を指しての一言。

 

 

「あなたに言われたくありません」

 

 

 ムッとした表情で反論される。

 目を細めて睨んでいるつもりみたなんだが、まったく恐くない。

 むしろ愛くるしく思える。

 

「それで? わたしの教える生徒はどなたで?」

 

 

 再び、俺たち3人を順に視線を配る。

 パウロは体格からして剣士だと認識し、ゼニスはある程度の魔術の素養があるように、ロキシーの目には見えているようだ。

 

 最後に俺の顔を見つめて──。

 

 

「もしかして…。その小さな子が、生徒だったりします?」

 

「はい、そうです。小さな子であるこの私がロキシー先生の生徒です」

 

 

 根に持っていたのか、小さな子という言葉を投げつけられる。

 

 

「失礼、貴女の年齢は?」

 

「ピチピチの3歳です!」

 

 

 パーの手を突き出し、2本ほど指を折り曲げて3歳であることを強調する。

 

 

「これは……元気なお子さんですね」

 

 

 なんだい、3歳児じゃ不満かい?

 

 

「参考までに聞きますが、魔術の習熟度はどのくらいで?」

 

「基礎六種の全てで中級まで習得しました!」

 

「なっ! その歳でそこまで……」

 

 

 目を見開いて驚く彼女。

 小声で『見栄を張って嘘をついているのでは?』等と漏らす。

 

 ところがどっこい、火・水・土・風の攻撃系統の魔術も地味に中級まで履修済みだ。日々、俺も進歩しているのだよ。

 

 

「こほんっ、取り乱しましたね。では、解りました。今日からわたしが、貴女の先生です。名前を伺っても?」

 

「ルーディア・グレイラットです。気軽にルディと呼んで下さいね」

 

 

 仲を深める為にも愛称呼びは重要だ。

 初っ端から侮られてしまったが、寛大な俺は、こちらから歩み寄ることでチャラにしてやる。

 

 それとロキシーは住み込みで家庭教師をやってくれるって話だ。

 こんなにも幼くも麗しい女の子と同居だなんて、ドキドキワクワクのエッチな生活の幕開けを予感する。

 

 ラッキースケベとか無いかしら?

 

 居間で雇用条件の細かい調整と自己紹介を終えて一段落した頃、早速、授業を行うことになった。

 

 てっきり今日は旅の疲れを癒す為に休養に費やすかと思ったが、熱心なことだ。

 自分の仕事に強い責任感があるのだろう。

 

 と、思いきや、ロキシーの給金は日当割りだそうで。

 授業時間で増減する。なるほど、金にがめついな。

 

 

「ルディ、まずは実際に貴女がどこまで魔術が使えるのかを見せて下さい。口先だけでないことを証明するんです」

 

「ええ、はい。見ててくださいね」

 

 

 まだ疑ってるのか?

 

 まあ、俺だって同じ立場なら疑いたくもなるさ。

 自分よりもうんと年下の女の子が、人並み以上に魔術の腕に自身を持ってるわけだしな。

 

 

「ウォーターボール──!」

 

 

 まずはオーソドックスに詠唱有りで初級水魔術を発動する。

 ロキシーより貸与された初心者用の杖を用いてだ。

 

 特に問題なく水弾は射出され、10メートルほど(くう)を突き進んだ後に霧散した。

 

 

「詠唱もスムーズですね。しかしまだ初級。続けて」

 

 

 むむ? まだご納得いただけない。

 

 

「では中級魔術を。氷柱(アイスピラー)──!」

 

 

 太めの氷の柱が地面に発生する。

 季節的には暖かい時期なんだが、漂う冷気にブルりと震える。

 

 

「なるほど、魔術の実力は確かですね。謝ります、ルディ。貴女の力を疑ったことを」

 

「いえ、構いませんよ。でもお詫びを戴けるのなら、先生のパンツを見せてくれませんか?」

 

 

 ぐふふ、おじさん、ちょっと欲を出してみたり?

 

 

「はあ? ふざけないで下さい。第一、女の子のルディが、どうして同性の下着に興味を持つのです?」

 

 

 幼女の戯れ言だと決めつけ、半目で見てくる。

 ああ、今のはおふざけが過ぎたな。猛省します。

 

 

「冗談ですよ」

 

「でしょうね。まあ、わたしも本気で言っているとは思いませんよ」

 

 

 その瞬間のこと、一陣の風の悪戯──。

 俺は見逃さなかった。

 

 ロキシーのスカートが風によって捲り上げられ、本来ならば決して人目に触れぬ筈のソレが露となるのを。

 

 そう、ロキシーのパンツだ。

 白を基調として黒いリボンのあしらわれたデザイン。

 

 うおおお! ゼニスとリーリャ以外の女性のパンツを人生で初めて目の当たりにした。

 自分のパンツはノーカンである。

 

 風が通り過ぎると、名残惜しいがロキシーの下着は姿を隠す。

 ほんの一瞬だったが、網膜に焼き付いて離れない。眼福である。

 

 

「あの、ルディ?」

 

「なんです?」

 

 

 おっと、下着を盗み見したのがバレちゃったか?

 弁明を考えなきゃだな。

 

 

「たいへん申し上げにくいのですが、スカートが捲れたままですよ」

 

「え……?」

 

 

 指摘されて服装を確認してみる。

 いまの俺の着衣は、薄い桃色のワンピース。

 ゼニスが選んでくれた女の子然としたヒラヒラの装飾付き。

 

 スカートの端が折れ曲がり、これまた桃色の幼児用のおパンツが露となっていた。

 これでは露出狂である。痴女の(そし)りを免れまい。

 

 風の精霊さんってばお茶目だな。

 俺にまでちょっかいを掛けてなぁ。

 

 

「これはこれは、お見苦しい物を見せてしまいました」

 

「いえ、見苦しいだなんて卑屈過ぎです。というか、早く隠してください。ルディは女の子なんですから」

 

「いえいえ、いくらでも眺めてくださいよ。先生へのお給料代わりと言っては何ですが」

 

 

 俺は変態ではない。

 ロキシーのようなロリっ子美少女に見られているという事実に興奮しているだけだ。

 

 まったく……、我が身のことながら倒錯的な性癖である。

 

 

「もう! わたしがスカートを戻しますからねっ!」

 

「わわっ! 先生!」

 

 

 見かねたロキシーがスカートの端をつまむ。

 だがここでハプニングが発生!

 

 

「きゃあー! ロキシーさん! うちの娘になにしてるのっ!」

 

「あ、これはっ! 違います!奥様っ!」

 

 

 ゼニスの登場。そして目撃された。

 

 ロキシーが俺のスカートを掴んだその場面のみを切り取った母親は、娘が家庭教師にエッチなイタズラをされたのだと誤解する。

 

 

「ことと次第によっては家庭教師の件は白紙にさせてもらいますからねっ!」

 

「いえ待って、待ってください! クビだけは勘弁してください! お金が無いんです!」

 

「なら、この状況を説明してもらえるかしら?」

 

 

 うわっ! 俺の母さま、恐すぎっ!

 ベッドの上じゃパウロに押されっぱなしのゼニスだが、こと娘の身に関しては悪鬼すら上回る凄味。

 

 

「その……、突然、風が吹きましてね。ルディのスカートが捲れてしまったので直そうかと……」

 

「ふーん……?」

 

 

 うん、これはヤバいな。

 ロキシーを追い詰め過ぎた。ここいらで助け船を出さねば。

 

 

「母さま、ロキシー先生は悪くありません」

 

「そうなの、ルディ?」

 

「はい、先生の話は事実ですから。私が身だしなみに無頓着だったばかりに、誤解を招いてしまいました」

 

「……あらそうだったの」

 

 

 一転してゼニスの態度は軟化する。

 

 

「ごめんね、ロキシーさん! 嫌な思いをさせちゃったわ!」

 

 

 ゼニスはロキシーの手を取って必死に謝罪する。

 涙目になっていたロキシーは、安堵の表情を浮かべてから忌々しげに俺を睨む。

 

 ……心証を悪くしちまったな。あとで俺の口からも謝んなきゃ。

 

 

「ほんとうにごめんなさい。この国には色々な性癖を持った貴族がいるから勘違いしちゃったの。アスラ王国の常識なんて、他の土地からしたら非常識よね」

 

「誤解が解けたのなら他に言うことはありませんよ。アスラ貴族の噂は耳にしていますし」

 

「うちの旦那はまだ正常な方だけれど、同性でも構わず襲っちゃう人たちもいるのよねぇ」

 

 

 ちなみにパウロは性欲が強い。

 ゼニスとの結婚前はプレイボーイとして鳴らしたものらしい。

 

 毎晩、夫婦の営みを欠かさないしな。

 親父殿の好みのタイプは胸の大きな女性とのこと。

 つまりゼニスが条件に合致している。

 

 

「ロキシーちゃんもアスラ王国に滞在中は気をつけてね。変態貴族に目をつけられたら大変だもの」

 

「心得ました、注意します。わたしも昔、異常な性癖の人に襲われそうになったことがありますから」

 

 

 反撃して事なきを得たと、ボソリと語る。

 

 

「それとルディ? 貴女は女の子なんだから、みだりに下着を見せちゃダメよ」

 

「はい、母さま」

 

「もうね、ホントに分かってるの? 常々、思ってたけどルディってば、女の子の自覚が足りないわよ」

 

 

 うへぇ、ママがガミガミモードに入っちゃったよ。

 しかし、この人の言いつけは無視出来まい。

 

 俺も今や純度100%の女の子なんだから。誤魔化して生きていくにも、この世界の荒波は相当に強い。

 自分の身を守るには自衛意識が不可欠だろう。

 

 

「というわけだから、ロキシーさん。貴女からもルディに女の子としての自覚が持てるように教えてあげて」

 

「ええ、もちろんです。わたしも初めての教え子ですからね。実を言うと張り切っています」

 

「それは頼もしいわ。うん、それならお給金も上乗せしましょう」

 

「え、良いのですか?」

 

 

 棚からぼた餅とはこの事だ、とばかりにロキシーは口の端で笑う。

 

 一件落着。

 ゼニスは家の中へと引っ込んでいった。

 残された俺とロキシーが互いの顔を見合う。

 

 

「あの先生、先程はごめんなさい。私がお遊び気分でいたばかりに」

 

「正直、焦りました。ルディはちゃんと反省してください。罰としてスパルタで教育してあげますから」

 

 

 声色は穏やかそのものだが、目は笑っちゃいない。

 

 その後、ロキシーの言葉は冗談ではなかったと、俺は身を以て知る事となる。

 

 朝昼晩問わず勉強漬けの日々になるとか誰が予想したよ!

 

 まあ、身から出た錆だから文句は言えんよな。

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