無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

30 / 59
第4章 少年期 渡航編
29話 ウェンポート


──ロキシー視点──

 

 ロキシー・ミグルディアは愕然とする。

 目の前の光景は、あまりにも信じ難い現実を叩き付けてきた。

 

 かつてこの地にはブエナ村という安穏とした村が存在していた。

 しかし今はどうだ?

 かろうじて草原こそ広がっていたが、人も建物も欠片も残されてはいなかった。

 街道だってフィットア領に入った瞬間に途切れ、行き着く先はまっさらな土地。

 

 この仕打ちはあんまりだ。

 グレイラット家で過ごした夢のような日々は、自分の作り出した空想なのではないかと、記憶を疑ってしまう。

 

 あぁ……やはり。

 シーローン王国より旅立つ寸前に空に確認した異変が、何かしらの被害を及ぼしたのだろう。

 

 ブエナ村跡地には難民キャンプが形成されていた。

 災害後、王都アルスよりかき集め、ボレアス家次期当主ジェイムズが派遣した人員だ。

 

 慌ただしく動き回り、常に情報の発信・受信を行っている様子。

 自身も情報を入手し、整理しなければ。

 

 小一時間ほど掛けて、得た情報を自分の中でまとめ上げる。

 

 アスラ王国が出した結論としては、フィットア領で起きた災害の正体は大規模魔力災害だ。

 発生原因は不明。

 されど結果は一目瞭然。

 フィットア領が丸ごと消失し、そこで暮らしていた人々は世界中へと無作為に転移したのだ。

 

 掲示板が立てられている。

 『死亡者』そして『行方不明者』の項目に別れていた。

 すかさずグレイラット家の面々の名前を確認してみるが、ひとまず死亡者欄には記載は無い。

 

 一瞬の安堵の後に、気を引き締める。

 要するに安否不明という話なのだ。

 もしかすると死んでいても何ら不思議ではないのだ。

 

 続いて行方不明者の欄。

 そこには見知った名前と、見知らぬ名前のグレイラット姓の名前。

 

 ルーディア、ゼニス、リーリャは良く知る人物だ。

 ノルン、アイシャという名前の人物は、恐らくは自分がブエナ村を出た後に生まれた愛弟子の妹たち。

 ルーディアがボレアス家から送ってきてくれた手紙にも記されていた事を思い出す。

 

 ん?

 死亡者欄にも行方不明者欄にもパウロの名前が載っていないことに気づく。

 ふと、捜索団の責任者を確認する。

 

 フィットア領捜索団・団長:パウロ・グレイラット

 

 彼の名前があった。

 領主やボレアス家本家の人間を差し置いて、彼が全権を握っているらしい。

 ロアの街跡地には本部が設営されているようだ。

 その地に向かえば、少なくともパウロとの再会は叶いそうではある。

 

 そう判断し、ロキシーの足は自然と捜索団本部へと向いた。

 臨時の乗合い馬車も出ているので、出発にはそう手間取らなかった。

 

 

──

 

 

 6時間後に到着する。

 捜索団本部とは言っても、原っぱにテントが設営されているだけの簡素な造り。

 ブエナ村の難民キャンプよりは人気も多く、物資も潤沢であった。

 

 団長のパウロへの取り次ぎを『水王級魔術師ロキシー・ミグルディア』の名前を出して団員に頼む込む。

 すると数分もせずに面会が許可された。

 どうやらパウロは、自身の接触を予見していたようで、部下たちにも通すように伝えていたようだ。

 

 そして団員の引率でテントへ踏み込む。

 そこには髪や髭を伸ばし放題にして、かつての快活な青年の面影など見る影もないパウロその人の姿があった。

 

 

「パウロさん……ですよね?」

 

「あぁ、オレはパウロだ……。ロキシーちゃん、来てくれたんだな……」

 

「はい……。グレイラット家の皆さんにはお世話になりましたから。早速ですが、本題に入らせて下さい。捜索状況を確認したいのですが──」

 

 

 パウロの顔は亡者をも連想させる。

 そんな男から悲報などは聞きたくはないが……。

 

 

「オレの家族は誰も見つけられてない。ロアの街で目の前に居たってのにっ……! 誰も救えなかったっ……! ルディだって手の届く範囲に居た筈なのにだっ……!」

 

「お、落ち着いてっ……」

 

 

 慟哭しながら懺悔するように胸中を吐露するパウロの姿にロキシーは当惑する。

 

 

「すまん、取り乱した…」

 

「いえ、お気になさらずに……。わたしも動揺していますので……」

 

「あぁ、話を続けるよ。オレは今、ボレアス家次期当主ジェイムズより、捜索団の活動の全権を任されている。オレの家族を捜したいと、頭を下げたら快く譲ってくれたよ」

 

 

 平常心を取り戻した彼は淡々と話す。

 ただ事実のみを正確に伝えた。

 

 パウロ・グレイラットは、フィットア領主サウロスからの覚えが良い事と、剣王の肩書きを買われて、ジェイムズより捜索団を託されたとのこと。

 

 現時点では、国外だと中央大陸北部の魔法三大国や南部北方の紛争地帯から領民を救出・保護済み。

 近く、ベガリット大陸やミリス大陸にも捜索の手を伸ばすのだとか。

 

 ミリス神聖国からも、魔大陸より保護・移送されて来た領民の報告が寄せられているらしい。

 但し、その中にはパウロの家族の名前は一切無い。

 ゼニスの実家ラトレイア家にも確認を取ろうと試みたが、門前払いをくらった。

 

 

「一定数の救えた奴らは居るさ。だが、オレの家族だけは依然として見つからねぇんだ」

 

「それは……」

 

「でも捜すしかないと思ってる。ロキシーちゃん、頼みがあるんだ」

 

「聞きましょう、わたしに出来ることであれば、喜んでご助力いたします!」

 

 

 愛弟子の為ならば何でもする覚悟だ。

 故郷に残してきた両親と同等以上に大切な人なのだから。

 

 

「領民の中には奴隷の身に落ちた人々も居る。金で解決出来ればそれに越した事はない。だが、捜索団は圧倒的に資金不足だ。だから……奴隷を囲ってる奴を、ぶっ殺してでも、領民を解放したい」

 

 

 実際には既に、パウロは殺人行為にも及んでいる。

 力ずくで奴隷となった被災者を救出し、各国の権力者から恨みを買っている。

 

 

「ロキシーちゃんにそういう連中を殺せとは言わない。だけど、報復しに来る奴らから団員達を守ってやって欲しい」

 

 

 その頼みは、結果として殺人に手を染める事になるだろう。

 刺客をみすみす見逃して帰すわけにもいくまい。

 捕縛までをロキシーが行い、その後捜索団の方で処理(殺害)するであろう事は、考えるまでもない。

 

 

「お引き受けします。ルディを始め、ゼニスさんやリーリャさんの為ですから」

 

「あ、あぁ……ありがとう。久し振りに馴染みの顔に会えて良かった……」

 

「ずっとお一人で頑張ってらしたんですね……」

 

「望んだ成果は出ねぇけどな……?」

 

 

 自嘲してひとりでに落ち込むパウロ。

 しかし、新たなに決意を固めた顔をする。

 

 

「近い内にオレの昔の冒険者仲間が手を貸してくれる手筈だ。もしかしたら既に動き出してる奴も居るかもしれん」

 

「『黒狼の牙』でしたか? わたしもその勇名を聞き及んでいます」

 

「あぁ。中でもギレーヌは最も強い。アイツと連絡が取れねぇのが惜しいことだがな」

 

 

 ギレーヌの実力なら死ぬことはないだろうと口からこぼし、信頼を寄せているのだと知れる。

 領主サウロスも簡単に死ぬタマではないとも語った。

 ゆえに心配など一切しないのだとか。

 

 

「協力に感謝する、ロキシーちゃん。ルディと再会した日にゃあ、アイツを抱き締めてやってくれ」

 

「それは父親である貴方の役目では? わたしはパウロさんとゼニスさんの後で構いませんよ」

 

「そう……だな?」

 

 

 ルーディアはきっと師である自分よりも、両親との再会を第一に喜ぶだろう。

 自分はでしゃばらずに一歩引いた立場に居ようと心に決める。

 

 しかし……。

 パウロの纏う雰囲気が数年前とは様変わりしている。

 風の噂で剣王に成ったとは耳にしたが、別の要因も想像してしまう。

 彼は転移事件とは別に壮絶な体験をしたのではと、疑問も抱く。

 

 

「転移事件後に、何かあったのですか……?」

 

 

 恐る恐る問い質す。

 

 

「あぁ……。この災害を引き起こしたであろう男と遭遇した。銀髪で鋭い目をした男だった。もしかしたら七大列強に名を連ねる様な存在かもしれん」

 

「となると──」

 

 七大列強の名を挙げていく。

 

・序列一位:技神

・序列二位:龍神

・序列三位:闘神

・序列四位:魔神

・序列五位:死神

・序列六位:剣神

・序列七位:北神

 

 

 この内、剣神は下手人の候補からは外れる。

 何せパウロも良く知る顔だ。

 剣王の認定試験も剣神が見てくれた。

 

 北神も違うだろう。

 代替わりしてまだ若い青年だと聞く。

 

 魔神はかの有名なラプラス。

 封印されて久しい。

 

 闘神は長らく行方知れず。

 技神も同じく。

 

 残る候補は龍神と死神。

 死神ランドルフと言えば、不死魔族の混血で、王竜王国で飲食店を営んでいる。

 

 となれば消去法で一択。

 パウロ・グレイラットとフィットア領を襲った者の名は龍神だろう。

 

 

「──龍神がこの災害を引き起こした張本人というわけですか。にわかには信じ難いことですが」

 

「突拍子の無い話かもしれん。しかし、いざ目の前にすれば、疑う要素しか無い様な奴だった」

 

「龍神と戦ったのですか?」

 

「手も足も出なかった……。奴が本当に龍神だというのなら、剣神の話していたオルステッドという名の男だ」

 

「龍神オルステッド──。100年前に突然、世界に現れた人物でしたか? シーローン王国宮廷の書庫に収められた書籍にも、彼の記述が僅かにありました。他の皆さんにも注意喚起しないとですね」

 

「団員達には既に報せた。ロキシーちゃんも遭遇したら、逃げることだけを考えるんだ。剣王であるオレですら、一方的に叩きのめされちまったよ。お陰で……更なる力を得たがな」

 

 

 怪我の功名といつやつだろう。

 龍神オルステッドより、その身に受けた神の業の数々は、今もなお、パウロの心身に染み付いている。

 あの戦闘以降、感覚を忘れぬように鍛練を続けてきたのだ。

 正式な認可は受ける暇も無かったが、既に剣帝の領域に在る。

 

 それに……過去に手解きを受けた相手の剣神ですら、今のパウロには然ほどの脅威とも思えない。

 剣神と剣帝の中間程度の実力を保有すると、彼自身は判断を下す。

 

 

「龍神オルステッド……。スペルド族よりも凶悪な存在ですね……」

 

 

 まだ見ぬ脅威に背筋に悪寒を感じるロキシー。

 彼の者と比べれば、スペルド族など、まだ友好を結ぶ余地は十分にあるだろう。

 

 かくしてロキシー・ミグルディアは、フィットア領捜索団の用心棒として入団した──。

 龍神オルステッドの脅威に備えるのだった。

 

 

 

 

──ルーディア視点──

 

 

 ウェンポートは魔大陸唯一の港町。

 交易品は主にこの地からもたらされ、交易商人から行商人に物は売られ、魔大陸全土に広がってゆく。

 

 そんな話をルイジェルドから聞き、この世界の海上の交易路は極めて限定的だな? と思った。

 海族という種族が一部の海を除いて、ほぼ全ての海域を支配しているとのことだ。

 

 さて、バーディガーディから賜った運搬トカゲの背に乗り、ウェンポートの町を進む。

 やがて埠頭近くに到達し、近くに浜辺があったので海を眺める事にした。

 

 どうやら彼女は海を見るのは初めてのようだ。

 フィットア領は内陸部に位置していたし、転移先の魔大陸でも内陸部のルートを主に南下したからな。

 見る機会なんてこれまで1度として無かった。

 

 まぁ、俺も転生してからなら初めて目にするんだが、さほど感動する要素は感じられない。

 ただ懐かしくはある。

 

 運搬トカゲから飛び降りて、波打ち際に立つ。

 素足で感じる海水の感覚は、はるか昔に忘れた思い出を取り戻させる。

 

 生前、ガキの頃は祖父母と両親、兄弟の家族全員で海水浴にも行ったっけな。

 あんまし泳ぐのは得意ではなかったが。

 

 

「まずは宿を決めるべきではないのか? 普段のルーディアならば、率先して探していた筈だが」

 

「すみません、年甲斐もなく、はしゃいでしまいました!」

 

 

 感動する要素が無いというのは嘘だ。

 エリスとバシャバシャと水をかけ合いながら遊ぶ。

 お互いの衣服が海水に濡れて、年の割に豊満な胸部が主張を強める。

 

 

「浅瀬に留めておけ。この海には魔物が出る」

 

「マジすか?」

 

「あぁ、マジだ。陸ならともかく、海中では俺でも(おく)れを取る」

 

 

 う、……。

 急に思い出の海は、死の海へと印象を一変させた。

 

 

「エリス、宿を確保しに行きましょう」

 

「えー? 楽しいのに……。でもルーディアがそう言うのなら仕方がないわね」

 

 

 聞き分けの良い子で助かる。

 ここ最近のエリスは、やたら俺の指示に従ってくれる。

 姉妹の立場が逆転して、こっちとしても御し易い。

 

 

「ルーディア! 服が身体に張り付いてエッチな格好ね!」

 

「エリスもですよ。ほら、殿方(ルイジェルドさん)の目があるんです。乾かしてあげます」

 

 

 海水を含んでいるから宿に到着したら洗濯しねぇと。

 ちなみにデッドエンド内での洗濯当番は俺とエリスとで回している。

 乙女の下着を、いかに紳士的な男ルイジェルドであっても触れさせるのは気が引ける。

 

 余談だが、洗濯の際に俺はエリスの下着の匂いを嗅いだりはしない。

 一線を越えるつもりはないのだ。

 しかし逆はどうか?

 目撃したんだよ、エリスが俺のショーツを鼻に当てて深呼吸をしていた瞬間を。

 

 さすがにロキシーのように自慰まではしていない。

 そういう知識に疎いおぼこい娘なのだろう。

 まっ、現状は止めるつもりはないさ。

 エリスにもストレス発散の捌け口が必要だしな。

 

 火魔術と風魔術の混合魔術で熱風を生み出し、瞬く間に着衣は乾燥する。

 ただこのやり方は生地を傷めるので、極力避けたいところではある。

 

 

──

 

 

 宿で宿泊手続きを行い、運搬トカゲを馬屋に預ける。

 本日の予定は、ずばり、ミリス大陸への渡航費及び通貨の確認と装備の更新。

 装備の更新つっても、主に消耗品の入れ替えなどだ。

 

 物持ちが良いのか、俺の杖も、エリスに与えた剣も劣化は見られない。

 劣化知らずと言えば、5歳の誕生日にパウロから贈られた髪紐だな。

 魔力を通している間は、劣化を停滞させる効果を持つ魔道具である。

 

 これを常に身に付け、父パウロの存在を実感するのだ。

 彼はいま何処で何をしているのだろうか。

 無事だといいが……。

 一年以上、音沙汰の無いヒトガミの話じゃ、生きてはいるらしい。

 悪い奴にギタンギタンにされたのだとか。

 

 

「その髪紐、随分と大切にしているな?」

 

「父からの贈り物なんです……」

 

「そうか、道理でな」

 

 

 しんみりとした空気。

 ルイジェルドもかつては息子が居た筈だ。

 贈り物のひとつやふたつ、親として贈ったのだろう。

 

 

「お前の父親はどんな人物だ?」

 

「そういえば詳しく話したこと、ありませんでしたね。一言で言えば、横着な性格ですけど家族想いの父親です」

 

「それは素晴らしいことだ。家族は大切にするものだ。生きているのなら、尚更にな」

 

 

 貴方が発言すると重いのですが……。

 ラプラスに洗脳され、家族をその手で殺めてしまった彼は、子の姿を俺に重ねて頭を撫でてきた。

 かなり前にも似たような事があったかもしれない。

 子ども扱いされているようだが、彼を慰める為に受け入れてやろう。

 

 

「あ、ズルい! 私もルーディアの頭を撫でるわよ!」

 

 

 負けじとエリスも俺の頭に手を乗せて、しこたまスリスリと撫でる。

 こんなところで負けん気を発揮しなさんなよ?

 

 その後、必要最低限の荷物だけを持って宿より外出する。

 

 

──

 

 

 まずは冒険者ギルドに向かう。

 人混みを掻き分ける様に歩く。

 途中、何度もはぐれそうになるが、ルイジェルドが見かねて肩車してくれた。

 エリスはそれを羨ましがっている。

 ただし、自分が肩車されたいのではなく、俺を肩に乗せたいと喚いていた。

 

 視点の高くなった俺は景色を堪能する。

 人混みの中には、やたらと目立つ金髪の長耳族(エルフ)のねーちゃんの姿。

 ブエナ村の幼馴染みであるシルフィに良く似た顔立ちだが、種族柄なのか酷似してしまうのだろう。

 

 会話を盗み聞きする。

 彼女はエリナリーゼと呼ばれていた。

 傍らに居る横幅の広い寸胴の男の種族は、炭鉱族(ドワーフ)とお見受けする。

 名をタルハンドと言うらしい。

 

 両種族ともミリス大陸の大森林と呼ばれる土地と、その周辺に暮らす少数種族だ。

 なぜ魔大陸に?

 ひょっとしたら彼らの知り合いがフィットア領に居て被災し、その捜索にでも訪れたのかもしれない。

 

 そんな他人の事情の詮索をほど程にして、冒険者ギルドへと到着した。

 ミリス大陸への玄関口に通ずる魔大陸の出口とあってか、人族の姿も多い。

 

 当然ながら、魔大陸とミリス大陸間の通貨のレート表も掲示されている。

 品目毎の物価表も並べて掲示してあり、物によってはミリス大陸に渡ってから調達した方が安上がりで済みそうだ。

 主に食料となると魔大陸は高くつくのだ。

 

 

「物価や相場は把握出来ました。後は船の便の確認をして、買い出しに行きましょう」

 

「相変わらず手際が良いのだな。この旅ではルーディアに助けられてばかりだ」

 

「いえいえ、助けられているのは私たちの方ですよ。ルイジェルドさんの力が無ければ、私とエリスはとっくに魔物の胃袋の中でしたよ」

 

「役に立てたのなら光栄だ。この一年、お前達と過ごした時間は俺にとっては何物にも代え難い宝だ」

 

 

 あらら、ルイジェルドの兄貴も臭い台詞を吐くのね?

 でも素直に嬉しい。

 強固な信頼関係を築けた証だろう。

 

 彼にとっても常識を塗り替えられる出来事は山ほど有った筈だ。

 悪党を目にすると殺しかねない凶暴性は、今や微塵も存在しない。

 争い事が起きようとも、まずは俺に相談するようになってくれた。

 

 エリスは所構わず、見知らぬ相手と殴り合いの喧嘩に発展してしまうがね。

 エリスの方が、よっぽど狂犬染みている。

 

 そんな会話をしていると、周囲の冒険者のひそひそ話が耳に入る。

 俺らの風貌から、新進気鋭のAランクパーティー『デッドエンド』であると、正体を導き出したらしい。

 

 実はスペルド族のルイジェルドは子ども好きの良いヤツ。

 だなんて噂も良い塩梅に流れているようだ。

 狙い通りである。

 二つ名なんて物もあるようだ。

 

 

 『狂犬のエリス』と『番犬のルイジェルド』だそうだ。

 あれ、俺は?

 耳を澄ませていると仔犬(こいぬ)のルーディア』なんて聴こえてきた。

 可愛らしいが弱っちそうな響きだな、おい。

 

 さて、船の件だが、冒険者ギルドの職員によると、管轄外らしい。

 国境を跨ぐ為なのか、詳しくは関所で問い合わせる様にと言われた。

 

 

──

 

 

 言われた通りに関所へ赴き、運行スケジュールと渡航費を問い合わせてみたが──。

 ここで大きな問題が発生した。

 スペルド族の乗船料が、人族の400倍もの料金に設定されていたのだ。

 

 お金が圧倒的に足りない……。

 

 悩みながらも買い出しだけ済ませて、宿で食事にしゃれこむ。

 皆さん、意気消沈です。

 

 

「すまん、俺のせいで足止めをくらったな」

 

「いえ、気に病まないで下さい。どのみち貴方が居なければ、ここまでたどり着けませんでした」

 

「そうよ、ルイジェルド! 誰もあんたに文句なんてつけないわっ!」

 

 

 恨み言は皆無。

 当然だ。

 ルイジェルドは俺とエリスにとって命の恩人であり、兄貴分なのだから。

 

 問題は渡航費用をどのようにして稼ぐかだが……。

 まともに冒険者として稼ごうと思ったら、軽く一年以上もの時間が掛かる。

 他に手が無ければ、最悪、その選択をする事も視野に入れてあるんだけどな……。

 

 

「ひとつ提案があります! 変な話、私の下着を売れば幾らかの金銭になるかと!」

 

 

 ブルセラショップ的な発想だ。

 美少女の身に付けていたパンツならば、変態の紳士方にも需要はあるだろう。

 ゼニス譲りの美貌と、この頃、胸の膨らみが傍目にも分かるようになった超絶美少女ルディちゃんのパンツともなれば、末端価格はアスラ金貨換算で1~2枚は下らない。

 ブラジャーもセットにすれば、もうちょっと価値は高まるだろうよ。

 

 かの有名なアスラ王国第二王女アリエル殿下のパンツも、裏で横流しの被害に遭っているらしく、金貨2枚で取り引きされていると小耳に挟んだ事がある。

 ロイヤルパンツと同等の価値が、俺のパンツにも有ると踏んでいる。

 

 

「却下だ。お前の父親が泣くぞ?」

 

「私も反対よっ! ルーディアの下着を他人にあげるなんて考えられないわっ!」

 

 

 ルディちゃん()の下着は私の物!

 って言いたげなエリス。

 指摘はすまい。

 

 だが1年間もの期間を依頼をこなして金を稼ぐか、下着を売って一攫千金か。

 どちらかを選べと問われれば、後者の方が効率的ではある。

 2人は納得しないご様子だけどな。

 

 

「では別の手を考えましょう。迷宮に潜ってお宝獲得! というのはリスクが高そうなんで没。でしたら密輸人を探すのがベストかと」

 

「密輸人とはなんだ?」

 

 

 ルイジェルドの問いに簡潔な説明をしてやる。

 高い関税を避ける為に、税関の目を潜り抜ける裏業者が存在するのだと伝える。

 今回の場合、多少の悪事ならば彼も大目に見てくれることだろう。

 

 でも肝心の密輸人のツテが俺には無いのだ。

 問題を解決出来ずに、その日の晩を迎える。

 

 

──

 

 

 どうやら一年越しに人神(ヒトガミ)様とご対面らしい。

 また真っ白い空間に呼び出されちまったよ。

 あの薄気味悪いマネキン野郎が目の前で身体くねらせていた。

 

 

 やい、てめぇ。

 よくも顔を出せたもんだな?

 パウロの件、聞きそびれた事があるから、さっさと教えろよ。

 

 

「ごめん、いまはもうパウロの姿を見れないんだ。波長が合わなくてねぇ」

 

 

 ちっ、そうかよ。

 で、一年も連絡も無しに、今さら何の用だ?

 

 

「まぁまぁ、そう急かさないでよ。少しくらい世間話でもしないかい?」

 

 

 世間話ねぇ。

 お前のような世間知らずに話すことなんてあるのかよ。

 

 

「あるさ。例えば君、バーディガーディと戦ったでしょう? 凄い人物と知り合ったものだね」

 

 

 あんたが助言をくれてれば、あんなおっかない思いをせずに済んだんだ。

 どうしてあの件について教えてくれなかった?

 

 

「見ていて楽しいから? なんてね」

 

 

 趣味の悪い奴だよ、お前は。

 

 

 コイツに振り回されてたってわけか。

 何でもお見通しですって面しやがって。

 その割には波長がどうとか、見えない相手が居るとか、ほざきやがる。

 

 

「ちなみにバーディガーディの事はちゃんと見えてたよ。彼は魔眼が通じない体質らしいけど、ボクの目を以てすれば訳ないよ」

 

 

 神としての権能ってやつかよ。

 てか、魔眼ってなんだ?

 

 

「特殊な能力の宿った眼さ。時々、生まれ持った者が現れるんだよ。君も欲しいかい?」

 

 

 どうだろうな?

 あれば便利だろうけど、血眼になって欲しがるもんでもない。

 

 

「ふうん? 欲の無い子だね。まぁいいさ。そんなルーディアに、取って置きの助言があってね」

 

 

 取って置きって、俺の為になることかよ?

 

 

「なるよ、なる。ルイジェルドの渡航費の事で悩んでいるみたいだから、解決策を提示しようかなって」

 

 

 そりゃ大助かりだが、そう上手く事が運ぶかねぇ。

 

 

「そこは信頼と実績のボクじゃないか。じゃあ、聞き漏らしの無いように集中して」

 

 

 ハイハイ、分かりましたよぉ。

 信頼はともかくも、実績については認めてやるよ。

 ルイジェルドとの仲を取り持ってくれたんだしな。

 

 

「露店で食料を買い込みなさい。そして一人で裏路地へと入るのです」

 

 

 んー?

 なんだよ、それ。

 腹を空かせた権力者の縁者でも居るのかよ?

 例えばバーディガーディの腹を空かせた婚約者とかな。

 名前は……結構前の話だから曖昧だが、キシリカなんたら?

 

 

「ほう、驚いた。ご明察だよ。そのキシリカキシリスが君たちの助けとなる人物なんだよ」

 

 

 当てずっぽうだが正解らしい。

 あのバーディ陛下の婚約者ともなれば、さぞご立派なお方なのだろう。

 もしかして決闘とかまた挑まれんよな……。

 今度こそ死ぬ気がする。

 痛いのは勘弁してくれ。

 

 

「まぁ、そこまで理解しているのなら、話は早いよね。大丈夫、死ぬことは無いからさ」

 

 

 死ななければ良いって話じゃないだろうに。

 お前は無責任だぜ。

 

「無責任だなんてヒドイなぁ。ボクの頑張りを褒めてくれたって構わないんだよ」

 

 

 だったらもうちっとスマートでストレートな助言をくれや。

 

 

「とにかく、今度も頑張りなよ。君には期待しているからね」

 

 

 あんたの期待に応えるつもりは無いよ。

 でも精々、お前の助言を利用させてもらうさ。

 

 

「そうだね、好きなだけ利用してくれよ。ボクも()()するから」

 

 

 少々気になる一言だったが、明日の事だけを考えよう。

 そうしてヒトガミの姿は消え、俺の意識も通常の睡眠へと切り替わった──。

 




原作書籍23巻を読む限りでは、バーディガーディにもヒトガミの未来視あるいは遠視が通じる模様です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。