無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~ 作:三毛猫丸
絶命の声が幾つも耳に入る。
悪辣を屠るルイジェルドの戦果だ。
俺も素早く子ども達の下へ走る。
だが、思いの外、組織の人間は多いらしく、俺も複数人と出会した。
「おいっ! そこの仮面を被った
「やりやがったなっ……! 生かしておけねぇ……!」
コイツらこそ生かすわけにはいくまい。
看過すれば被害者が今後も生まれかねないし、外部に襲撃の騒動を知られるのも不味い。
ここでケリを付けるのだ。
「貴方たちにはここで……死んでもらいます」
我ながら抑揚の無い声だ。
心は冷めきっている。
だが、俺は止まらない、止められない。
ルイジェルドにだけ殺しの咎を背負わせるワケにはいかない。
これまで俺は彼に甘え続けていた。
強いからと、鋼の精神を持つのだから、へっちゃらなのだと。
でもそんなのは、彼を体の良い奴隷扱いしているだけだ。
それでは俺も、ここの奴らと何ら変わらない。
人間のクズだ。
もう自分は全うな人間とは呼べない時点まで来てしまった。
だったら、せめて救える命を後悔の無いように拾い上げるのみだ。
だから俺は決意を固めた。
心を鬼に、修羅が如く道を行こうと──。
あぁ、パウロ。
こんな親不孝者な娘を許して欲しい……。
無詠唱でウォーターボールを座標指定魔術で複数生成。
男達の背後から射出し、心臓を穿つ。
一瞬の出来事。
奴らは己の死を認識する事なく、あの世へと旅立った。
悪党だが時間が惜しいので手短に、そして苦しまぬ様に楽に殺してやった。
「お、おえぇぇぇ……」
込み上げてくる胃液。
船から降りて以降、ろく物を食べていなかった事が幸いしてか、それほど吐く事はなかった。
だが、気持ちが悪い。
吐き気が止まらない。
悪い人間とはいえ、この手で命を奪ってしまったのだ。
ルイジェルドに全てを委ねれば、なるほど、万事解決となるだろう。
けど彼だって万能じゃない。
敵の数が多ければ討ち漏らしも生じる。
そうなれば増援を呼ばれて、俺たちも捕らえられている子ども達も共々壊滅だ。
あるいはルイジェルドの実力なら切り抜けられるかもしれないが、確実性に欠ける手段は取れない。
おんぶに抱っこなんて情けない真似で、窮地を生み出すなんて馬鹿げている。
だから俺はやったのだ。
向こうが悪い。
俺は何も……悪くないんだ。
この世界じゃ犯罪者に人権なんて存在しない。
襲われたら殺してでも自分の身を守る。
それが常識だ。
あのパウロでさえ、冒険者時代には野盗や傭兵崩れを返り討ちにして、多くの命を奪った。
そんなパウロをゼニスは愛していた。
だからこれこそが世の常。
何も重く捉える事は無いんだ。
「は、はぁ……はぁ……」
呼吸を整える。
まだ……だいじょうぶ。
俺にはまだやるべき事があるんだ。
再び歩き出す。
足取りは重い。
けど命を守るためには殺さなきゃいけない。
そして敵と遭遇。
無言で殺し、無言で死体を踏みつけて進む。
その繰り返しだ。
奪った命が10人を数えた頃には、ようやく密輸組織の人間は現れなくなった。
残りはルイジェルドが始末してくれるはずだ。
殺した人間が雑魚で助かったぜ……。
お陰で楽をさせてもらったよ……。
「う……。はぁはぁ……」
逆流する抑えつけた筈の罪悪感。
しかし、堪えろ。
落ち込むのは後でいい。
自分をしっかりと保て……。
どうにか持ちこたえて、普段のルーディアを取り戻す。
仮面の様に、自分という殻を装着した──。
──
目的の場所へと到達する。
騒がしい様子に不安がる子どもらは、身を寄せ合って震えていた。
女の子が多いな?
1人……息絶えてしまったのか、牢屋の隅に横たえられていた。
あぁなっては手の施し様が無い。
ごめんな……。
さて、子どもらはまだ怯えている。
いや、この珍妙な仮面が威圧的なのだろう。
すかさず仮面を外すと安堵の表情。
とりあえず挨拶だ。
「私はルーディア・グレイラット。皆さんを助けに来ました!」
獣族中心なので獣神語で語り掛ける。
言葉が通じたらしく、警戒心を解いてくれた。
俺が女の子だっていうのも、信用に一役買ってくれたのかもしれない。
男は女に見境の無い獣だからな。
その点、俺は女の子だ。
今のところ、エリス相手くらいにしか欲情しない。
「怪我をしていますね。治してあげます」
乱雑な扱いをされたのか、身体中に痣が浮かんでいた。
衛生状況も悪く、素肌が黒ずみ汚れにまみれている。
服装に至ってはボロ布を纏っているだけ。
早くこんな劣悪な環境から解き放って、親元に帰してやらなきゃな。
「ありがとニャ……」
気の強そうなデドルディア族の少女が代表してお礼の言葉を述べた。
あら、可愛い!
こんな状況だけど思わず頭を撫でてしまう。
目をつむり心地好さそうにしている。
その顔立ちからは、どことなくギレーヌの面影を見て取れた。
親族だろうか?
たしかギレーヌは、姪がいると話していたな。
姪っ子の1人かもしれない。
「よく堪えましたね。えらいですよ」
「ニャー!」
語尾が『ニャ』ですか?
リアルに存在したとはな。
この世界も捨てたものじゃない。
「にゃあ! セイジュー様はどこニャ!」
聖獣様?
もしかして、あのやたらとデカイわんちゃんの事かい?
よーし、この仔犬のルーディアにお任せを!
「大丈夫、聖獣様も救出しますから!」
「ありがとニャ! ルーディアは恩人様ニャ!」
ルイジェルドの掃討は順調らしく、密輸組織の人間が嗅ぎ付けてくる事は無かった。
信頼出来る兄貴が居ると、俺も心置きなく動けるってもんだ。
救出作業を落ち着いて継続する。
子ども達の捕らえられていた牢屋から、そう遠くない場所に聖獣様は捕まっていた。
項垂れるようにして落ち込んだ様子。
湿気もあり、薄暗い環境ゆえに毛並みも悪くなり、元気を失っている。
「セイジュー様にゃあ! お願い、助けてあげてほしいニャ!」
「分かっていますとも」
駆け寄ってみると、見えない壁に阻まれて顔面を強打する。
鼻っ面への衝撃で涙目になるが、かろうじて鼻血は出なかった。
これは……結界?
ふて寝するわんちゃんの身体の下には2メートル程度の魔方陣。
マズイな、結界魔術についての知識は明るくない。
ロキシーに軽く表面だけ教わった程度だ。
攻撃魔術で力ずくでぶち破るか……いや、この密閉空間では、ド派手な真似は出来ない。
結界ともなれば起点となる魔力結晶があるはず。
手早く見つけ出さないと。
「皆さん、この結界を解くには魔力結晶と呼ばれる物を破壊する必要があります。手分けをして探して下さい」
せっかく人数が集まっているのだ。
人海戦術で解決を試みる。
「にゃあ! お任せニャ! みんな! セイジュー様を助けるニャー!」
俺も魔力結晶探しに参加。
探し始めて数分後。
犬耳のアドルディア族の少女が天井付近を指差した。
「上にあったよ!」
確かにある。
カンテラのような物が吊り下げられており、その内部に鈍く光る魔力結晶が収められていた。
「お手柄ですね! 良い子だ!」
頭を撫でると犬の尻尾がパタパタと左右に振れた。
ふむ、デドルディア族も可愛いが、アドルディア族も同じくらい可愛いな。
魔力結晶を加減した
聖獣様に駆け寄って抱き着く猫耳の少女と犬耳の少女。
わんちゃんと女の子の戯れは微笑ましく、目の保養となる。
捕らえられていた奴隷の解放は完了。
後はルイジェルドと合流して、町へ向かうのみだ。
でも親元に帰すにはどうすれば良い?
冒険者ギルドに『子どもを保護したので親を探して下さい』という依頼を出すとか?
いや、それでは密輸組織に俺たちが奴隷解放の主導者と喧伝するようなものだ。
ガルスはどうしろと話していたか?
奴は奴隷を解放後、状況が落ち着いたら向こうから声を掛けると話していたが──。
とにかく今はこの場から離れる事が先決だ。
そう決めた矢先、聖獣様が飛び掛かって来て襲われた。
「おわっ!」
のし掛かられて舌で顔をペロペロと舐められる。
くすぐったいぜ。
「こらこら、わんちゃん! お止めなさいな。早く逃げなきゃいけないんだ!」
「くぅ~ん」
悲しげに鳴くわんちゃん。
とりあえず背中をさすってやると、元気を取り戻してくれた。
「セイジュー様もルーディアに感謝してるニャ」
彼女は聖獣様と意志疎通が可能らしい。
「それと
どういうこと?
救世主が何だって?
いや、考えてる暇なんぞ有るか。
「終わったぞ。建物内の悪党は全て片付けた」
聞き慣れた声だ。
返り血ひとつ浴びる事なく一仕事終えたルイジェルドが現れた。
怖い顔をしたお兄さんに子どもらは、身を強張らせたが、俺の仲間だと知ると安心したのか肩から力を抜いた。
「外部には感づかれてはいまい。だが急ぐぞ。夜明けまでに町へ向かうのだ」
「はい、そうしましょう!」
子ども達を引き連れて屋敷を後にする。
屋外にはルイジェルドが始末した密輸組織の男達の遺体が1ヶ所にまとめられていた。
スケルトン化しないように火魔術で、跡形も残さず処理しておく。
建物の中にはまだ俺が……殺した人間の遺体が残っている……。
ゆえに屋敷に放火して全ての証拠を隠滅した。
──
一時間程で町の入口近くまで到達。
そこには赤毛の少女が不満げに立っていた。
ていうか、エリスちゃんです。
貴女、荷物の番はどうしたの?
「やっと帰って来たわね! 私を仲間外れにしてどういうことかしらね!」
「エリス。だって貴女、船酔いでダウンしてたじゃないですか。体調不良のまま連れていけませんよ」
「それもそうね。ごめん、悪かったわ」
えらく素直だ。
というのも、彼女の意識が別事に向いていたかららしい。
エリスは俺とルイジェルドの背後に立つ獣族の子ども達をギラギラした目つきで眺めている。
「その子達が話にあった奴隷?」
「もう奴隷ではないので、配慮してあげて下さい」
「あら、貴女たちゴメンね」
言葉は通じまい。
魔大陸に居た頃の名残りで、覚えたての魔神語で話し掛けるエリス。
当然ながら獣族の子達はキョトン顔で返す。
エリスも遅れて言葉の通じない事に気が付いて、所在無さげにする。
「わっ! うしろの犬、大きいわね!」
聖獣様の存在を察知したエリスは驚きながらも、首元にしがみついて顔を埋める。
モフモフとしていたが、聖獣様はエリスの力強さにビクついていた。
こら、エリス。
動物はもっと優しく扱わないと!
「む、何者かが近づいてくるぞ。密輸組織の新手かもしれん」
追手か?
俺たちの足跡を残さないように細心の注意を払ったつもりでいたが──。
なんにせよ、ルイジェルドは何者かの気配を察知した。
「かなりの手練れだ。心してかかれ。エリス! お前は子どもたちを守れ! ルーディアは俺の援護を頼むぞ!」
「わかったわ!」
「はいっ!」
ルイジェルドがテキパキと指示を出す。
ここは年長者の彼に従うのが最善。
杖を構えて臨戦態勢に入る。
やがて敵さんは現れた。
褐色肌の厚い筋肉に覆われた灰色の髪の男。
鉈のような肉厚な剣をルイジェルドへ向けて振り下ろす。
三叉槍が剣先を叩き、地面へと縫い付けた。
隙を晒した敵は、ルイジェルドの蹴りを胴に受け掛けるが、素早い後退で避けた。
得物を手放したが、まだやる気らしい。
褐色肌の男は、視認せずに魔力弾を回避した。
は……?
視界に入れてから避けるのなら解る。
けど今のは、見るまでもなく回避行動を取りやがった!
そこらの剣士以上に感知能力に長けてやがるよ。
呆気に取られる俺など尻目に戦闘は継続する。
座標指定魔術での攻撃は効果が薄い。
視覚のみに頼らない彼は、俺の魔術をことごとく避けていた。
弾数を増やせばかえってルイジェルドの邪魔になる。
あまり手数は増やせない。
いつしか、俺の介入するタイミングは、2度と生まれなくなった。
大人しく静観に徹する。
一応、
やがて、一歩踏み込んだルイジェルドの矛先が、男の鼻先を穿たんとして突き出された。
が、掠めこそしたが、当たらない。
槍の先端は、僅かに髪先のみを切り落とすに留まる。
パラパラと地面に落ちる数本の髪。
敵さんも冷や汗を掻いた様子で、ルイジェルドから距離を取った。
そして口元に手を当てたかと思えば、大きく息を吸って──。
「ウオオオオォォォォォォン!」
大気を揺らすような大声量で、咆哮を放つ。
進路上に居ない俺でさえ、鼓膜に音圧を受けて片膝を地面に突きそうになる。
直撃を受けたであろうルイジェルドはどうだ?
三叉槍で衝撃波を捌いていた。
おそらく闘気の乗った穂先が、空気を切り裂き、安全地帯を作り出す。
「
涼しい顔をして、防いでみせた。
味方ながら恐ろしく強い!
さて、吠魔術。
書物で読んだ事がある。
別名、声の魔術とも呼ばれる特殊な技だ。
ドルディア族の特殊な声帯から発される声に魔力を乗せた咆哮だ。
受けた者は三半規管を揺さぶられ、平衡感覚を狂わされるのだ。
しばらくまともに身体を動かせなくなってしまうスタン効果が強味である。
ギレーヌ自身は使えないと話していたが、剣王の彼女には不要な魔術だろう。
「貴様っ! それほどの技量を持ちながら、なぜ人攫いなどに手を染めるかっ!」
たった今の圧巻の槍捌きを目の当たりにして、敵さんも動揺を隠せないらしい。
詰め寄る様に吠える。
へ……?
敵かと思われた男が、ルイジェルドを人攫い扱いしている。
いや、俺たちからしたら、向こうが疑わしいのだが。
「どういうことだ……? お前が人攫いではないのか」
困惑するルイジェルド。
相手もハテナマークを浮かべている。
てか、猫の耳を生やしたギレーヌ似の男性だ。
もしや、双方、とんでもない誤解をしているのか?
「獣族か……。もしやお前は、この子ども達のいずれかの親か?」
「そうだが、お前は?」
「俺達はこの子達を密輸組織から救出したところだ。町で親を探す手だてを考えるつもりでいた」
「なんだと……。それは真実か?」
「戦士の誇りに誓う。真実だ」
両者より放たれていた殺気が収まる。
どうやら、不幸な事故だったようだ。
お互いに密輸組織の人間だと思い込み、意図せずして衝突してしまったんだ、きっとな。
「とうちゃんっ! あたち達の恩人になにをするニャ! セージュー様も助けてくれたニャ!」
「ト、トーナ! 私は……。いや、すまぬ。貴方の名前は存じあげんが、とんでもない思い違いで矛を向けてしまった!」
トーナと呼ばれた少女とは親子らしい。
プンプンと怒るトーナは、父親の太ももをポカポカと叩いている。
「おぉ、ギュエス! あれほど先走るなと言いつけておったのに、なんたる事だ!」
ギュエスと呼ばれた男に良く似た老戦士が、今しがた現れ、トーナを抱き寄せる。
あの子のお祖父ちゃんだろうか?
「ち、父上! 申し開きもありませぬ……」
「ふん、恩人に向かって刃を振りかざすとは……。次の族長候補からは外れる事も覚悟することだ」
「じいちゃん! ルーディア達が、あたち達を全員助けてくれたニャ! そこのお兄さんも悪党をやっつけてくれたのニャ!」
やはりお祖父ちゃんか。
老戦士は孫娘を優しく撫でると、俺たちに向き直る。
「すまぬ。ドルディア族を代表して謝罪させてもらいたい」
深々と頭を下げられる。
たしか獣族の謝罪は仰向けに倒れて腹を見せるという話だが、この老練の御仁は人族流の謝罪に合わせて、頭を下げてくれたのだろう。
「構わん。子を想う親であれば、必死になるあまりに視野も狭まる。それを責めるつもりは無い」
「おお、なんと寛大なお方だ! 謝罪と共に礼を言わせて欲しい。聖獣様と子ども達を救ってくださった事、感謝を申し上げる!」
その後、老戦士は自らをギュスターヴと名乗った。
彼の息子が先ほどチラッと名前を耳にしたギュエス。
ギレーヌの実の兄貴らしい。
孫娘がミニトーナ、愛称はトーナ。
姉にリニアーナが居るそうだが、現在はラノア魔法大学に留学中だとか。
あと、トーナと親しげな犬耳持ちのアドルディア族の少女の名前はテルセナ。
彼女の姉プルセナも同様にリニアーナと共に留学中。
「実はまだ拐われた子どもが多く存在する。あつかましいかもしれんが、どうかルイジェルド殿。手を貸してくださらんか!」
ギュスターヴがルイジェルドに懇願する。
彼が断る筈がない。
俺とエリスだって協力してやるさ。
「俺はいっこうに構わん。ただしルーディア。お前はエリスと共に、その子らの護衛に回れ」
「え……? 私も戦力になると思いますけれど?」
「いや……。お前はもう限界が近い筈だ。気が付かないワケがないだろう?」
「あ、……はい。護衛、頑張ります……」
ルイジェルドは見抜いていた。
俺が自分の心を殺して、人殺しに手を染めた事を。
その上で俺の心身を案じて、置いていく事を決断したのだ。
そして俺とエリスは、これ以降の奴隷救出作戦には参加せずに、ギュスターヴの手配した宿屋に宿泊先を移して待機する事となった。
理由も話さずに、エリスの胸の中で泣いてしまった事を報告しておこう──。
──
1日が経過したが、ルイジェルド達はまだ帰って来ない。
使いの者によると、救出作戦自体は成功したが、ザントポートの役人と揉め事に発展したらしい。
何でも密輸船には奴隷の他にも、大量の物資が積まれており、雨季前の最終便だったそうだ。
そして、襲撃した事実を問題視した役人にケチをつけられたようだ。
密輸船自体、役人が賄賂を受け取って見てみぬフリをしていた。
いわゆる汚職事件ってやつだ。
大森林の住人の誘拐・奴隷化自体が非合法。
しかもドルディア族や
そこで話は拗れて、ドルディア族とザントポートの役人達のにらみ合い。
戦士団をザントポートの入口に召集して威圧しているそうだ。
ドルディア族が号令を掛ければ、他にも長耳族や小人族などと言った大森林に住まう種族も集う。
そうなればミリス神聖国とて、戦争ともなれば大きな痛手を被る。
よって長い交渉が始まったそうだ。
そして2日目の深夜。
奴が俺を訪ねて来た。
北聖ガルス・クリーナーだ。
組織の仲間に悟られぬ様に、変装してまで接触を図ってきたらしい。
「大事になっちまったようだな」
「雨季には間に合いませんかね?」
「だろうな。ドルディア村に向かうだけなら間に合うだろうが、大森林を抜けるとなると最初の計画は破綻だ。まぁ、こういう事態も予想してなかったわけでもねぇさ。別プランを実行するまでさ」
「なるほど、道理で落ち着いているんですね」
大金が確実に入ると知っているからか、ガルスにはゆとりを感じられた。
ふと、ルイジェルドと俺が殺した連中に思う所は無いのかと尋ねてみたが、組織内の対立派閥だったようで、むしろ好都合だと笑っていた。
「ところで大金を手にしたら、ガルスさんはどうなさるんですか? 密輸組織から足を洗うおつもりですか?」
「まぁな。褒賞金を元手に、お天道様の下を歩ける商売でも始めようかと考えている。今の稼業は明日の命さえも危うい日々でウンザリしててねぇ」
全うな商売が一番ってことか。
「だが、すぐには組織を抜けられねぇよ。組織内部じゃそれなりの地位にあるもんでね。段階を踏んで独立を名目に抜けるつもりだ」
マフィアやヤクザみたいなものか?
組織を脱退するには相応の対価が必要なのだろう。
「だから安心しろ。俺は仔犬ちゃんの裏をかいたりしねぇからよ。ましてや雨季の寸前を狙って、ドルディア村を襲撃なんて事もしない」
「えらく具体的な想像ですね。もしかして1度は、そんな計画も練っていたとか?」
「他の連中がどうかは知らんが、さてな? だが、素直に
「
それってヒから始まってミで終わる神様だったりしない?
ま、あんな怪しい神様が俺以外の前にそうそう現れるとは思えん。
「なんであれ、ドルディア族と役人共のゴタゴタが片付いたら、またこっちから会いに来るわ。ミリシオンに着くまでは、よろしく頼むぜ。仔犬ちゃん?」
「えぇ、こちらこそ。北聖のガルスさんが護衛に付くのなら心強いです」
「はっ! 番犬の旦那1人で十分だろうがな。そう言って貰えんなら嬉しいねぇ」
契約継続の証に握手を交わして、ガルスの背中を見送った。
若い頃には、かなり悪さをしでかしたようだが、これを機に更正するつもりのようだ。
別に奴が善人になるってワケじゃない。
しかし、悲しむ人間が減るというのは喜ばしいことだ。
特に今回の件は……俺は人を殺しすぎた。
だから、救われる命が増えることを祝福しよう。