無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~ 作:三毛猫丸
数日後、ミリス神聖国はドルディア族とのこれ以上の対立を避ける為に、正式な謝罪を表明。
莫大な賠償金を支払う事を決定した。
各集落に拐われた子どもらを返還するのに、時間を取ったが、人数の割には1週間以内に完了。
ザントポートに集めた戦士達が、各集落まで付き添って送り届けたようだ。
ギュスターヴ、ギュエスらの案内で、俺たちはドルディア族の村に厄介になることにした。
その際、ガルスが同行。
密輸組織の一員である彼を、ギュエスはえらく警戒し、反発していたが──。
ガルスは組織を秘密裏に裏切って、今回の奴隷解放を手引きしてくれたと説明。
そこまでしてようやく溜飲を下げてくれた。
しかしガルスは、雨季の間の約3ヶ月間、組織を留守にしても良いのか?
そう質問すると、奴隷狩りの為に遠征するなど、ままある事らしく、今回もそういう口実をでっち上げてきたようだ。
さて、ドルディアの村までの道程。
こんな一幕があった。
「む……。集団が此方へ接近している。距離はまだ遠いがな」
ルイジェルドの額の眼が敵を捉えた。
その報を受けて、ガルスは舌打ちを一つ。
思い当たる節があるらしい。
「あんたらがぶっ殺してくれた派閥の残党だな? 損害を埋める為に、形振りを構わなくなったみてえだ。俺の認識が正しければ、ドルディアの村を襲撃する腹積もりだな」
そういうわけか。
ならガルスに非はあるまい。
むしろ内部事情に詳しい彼の存在が、こちらに優位をもたしてくれる。
「数時間後には、奴らは村に到達するだろう」
「でしたら、村の戦士団を入口に配置して迎え討つというのはどうか? 子ども達の返還に同行し、帰還していない戦士もいるので手薄ではあるが」
ギュスターヴの提案にルイジェルドは頷く。
エリスは、トーナとテルセナの護衛を引き続き、買って出る。
ちなみに、テルセナは本来ならばアドルディアの里に暮らす住人らしいが、雨季の近付きを鑑みて、ドルディアの村に滞在するらしい。
「しかし不味いぜ?」
「どう不味いんですか?」
ガルスに問うと、苦々しく口を開いた。
「対立派閥の残党には腕利きの剣士が居てな。剣神流の男なんだが……」
「剣聖だったりします?」
「ご名答だ。元は剣王候補にも名が上がった程の男でな。先代の剣神との間で不和が生じて破門された人間なんだ」
正式に剣王には至らなかったものの、それに準ずる実力者ってわけですかい?
いや、でもこっちには天下無敵のルイジェルドの兄貴がおわすのだ。
恐れるに足りんよ。
「名をウィンドル・クラッシャー。ヤツとは酒の場の余興で一戦交えたが、太刀打ち出来なかった。底が知れない男だよ」
「それは……手強そうな相手ですね」
そして詳細が語られる。
ウィンドル・クラッシャー。
剣聖ながら準剣王相当の剣士。
光の太刀に限りなく近い域の無音の太刀を武器に、数々の競合密輸組織の人間を殺めてきたらしい。
年齢は五十代後半、種族は人族だが、数世代前に魔族の血が混じっているそうだ。
世代的にはギレーヌとは面識は無さそうだな。
その後も、戦闘スタイルだとか行動の癖だとかの情報を全員で共有する。
手下も少なくない数を引き連れてくる事が予想されるとも。
やがて、6時間程の移動を経て、ドルディア族の村へと到着した。
余談だが、獣族の彼らだけなら、身体能力の差で時間を半分程度は短縮出来ていた事だろう。
──
ドルディア族の村は月並みな表現だが幻想的だ。
地上には家庭菜園レベルの畑やら簡素な小屋が存在する程度に留まるが、木々の上には無数の住居が建っていた。
木々の間には吊り橋が掛けられており、その上を獣族の人々が行き交っている。
ドでかい木の切り株の上では、若い戦士同士が訓練に励んでいた。
それはさておき、状況は切迫している。
ギュスターヴやギュエスの動向に注目だ。
ギュエスが聖獣様に住み処へ戻るように語り掛け、大きなワンちゃんは、俺の顔をたっぷりと舐め回してから駆け出して行った。
ワンちゃんの為の犬小屋か何かが、村の何処かにあるらしい。
「戦士長! ギースと名乗る男が、お目通しを願いたいと訪ねて来ております! いかがなさいますか!」
村の若い男衆が数人、ギュエスに向かって報告する。
「何者だ、そやつは。今はそれどころではないというのに」
「何でも人族の迷い人を捜しているようでして」
「例の転移災害の遭難者か? もしや……ルーディア殿とエリス殿か……」
眼で問うギュエスにコクりと頷いておく。
「たぶん、私たちの事でしょう。ギースという方が、どなたかは存じ上げませんけど」
「そうだったのだな。では、襲撃までしばしの時間があるだろう。面会をされてはどうか?」
「はい、そうします」
ギース氏とやらと面会する運びとなった。
場所はデドルディア族長であるギュスターヴの自宅。
ギュエスやルイジェルドは、防衛陣地を築く為に不在だ。
ガルスは敵対する相手が組織の人間という事で、裏切りの発覚を恐れて村の者に匿われている。
5分くらい経って、その男は姿を現した。
一言で言えば猿顔の男。
たぶん魔族だろう。
ノミの湧いてそうな毛皮のベストを上半身に纏い、ペテン師のような風体。
ガルスよりは見た目に愛嬌がある。
「俺はギースって言うんだが、嬢ちゃんは……。一目で分かっちまったぜ。ゼニスの娘だよな」
顔を合わせた途端にその一言。
この男、ゼニスの知り合いか?
思い出話に出てきた黒狼の牙。
パーティー内でシーフを務めていたという男の名前を思い出す。
たしかそいつの名もギースだった気がする。
「母さまのお知り合いなんですね……」
「ああ。転移災害で行方不明ってんでな。独自に捜索してたのさ。アスラ王国の発表によると、アレは魔力災害って話だが、知ってたか?」
「えぇ、人伝に聞きましたから」
ヒトガミから聞いたよ。
そうでなくとも、割と早い段階から魔力災害だと世間じゃささやかれていた。
各大陸の各国の宮廷魔術師が自信ありげに、発表していたそうだ。
転移の際、フィットア領からは、根こそぎ生命が奪われた。
つまり生命を構成する魔力そのものが、何かの弾みで吸収され無差別な土地にぶっ飛んでいったのだ。
転移直前、キュムロニンバスが不発に終わったのも、転移という事象に魔力を吸い上げられたからだろう。
もしアレが無ければ、転移現象は更なる魔力を求めて災害区域を拡大させていたかもな。
まぁ、俺のテキトーな推測に過ぎんけど。
「ではギースさん。私の家族の所在を知りませんか?」
「親父さんのパウロの事なら知ってるぜ? フィットア領捜索団の団長なんかを務めてるらしい。俺もまだ会っちゃいないがな」
「よかった、良かった……。父さま、ちゃんと生きてくれていたんだぁ……」
ヒトガミに既に教えられていたが、半信半疑だったのだ。
ヤツもテキトーな性格だからな。
だがギースの言葉で確証を得た。
パウロはやはり無事だったのだと。
「母ちゃんのゼニスと、妹のノルンはラトレイア家で保護済みらしいぜ。ちょいとキナ臭い事になってるみてえだけどな」
「それは何となく知ってます」
ラトレイア家から捜索願いが出ていたのは俺だけ。
状況からゼニスとノルンの無事を導き出せる。
キナ臭いという言葉が気になるが、現地に到着してから、この目で確かめればいいだろう。
「で、パウロの妾と、その娘に関しては俺も情報を掴めてねぇんだ。悪いな、嬢ちゃん」
「いえ、今の安否情報だけでも有り難いです。あ、申し遅れましたね。私はルーディアといいます」
「そうか、ルーディア。パウロと違って礼儀正しいんだな。尤も俺は、パウロの人柄も割と気に入ってたんだがな」
パウロは、かつての冒険者仲間に毛嫌いされていたみたいだが、ギースとやらはそれほど悪い印象を持っていないのか?
人間関係ってのは複雑怪奇。
相性さえ良ければ、そう易々と仲違いしないのかもな。
「そっちのボレアス家のお嬢の家族については、まだ何も判明しちゃいねぇな。運が良けりゃ生きてるとは思うが」
エリスの両親と祖父については、変わらず不明と……。
サウロス、フィリップ、ヒルダ……。
俺としても彼らの無事を願うばかり。
「私の家族よ! 無事に決まってるわ!」
「お、おう? まぁなんだ。無事を祈ってるぜ」
空元気ってやつだろうか。
エリスは家族の生存を信じて、明るく振る舞う。
「それにしてもギースさん。間の悪い時にここを訪れましたね? 雨季もそうですけれど、今からここを襲おうっていう密輸組織が迫って来ているみたいです」
「マジか……。さっきから妙な空気が流れてるとは思っちゃいたが。俺は戦闘に関しちゃあ、てんでダメなんだがなぁ」
「迎撃の準備は進んでいるみたいですし、避難をオススメします。非戦闘員の方の避難誘導を地上でしているみたいですし」
「いや、俺も微力ながら協力させてくれや。ゼニスの娘を放って、自分だけ安全圏で見物なんざ、男が廃るってもんよ」
へぇ?
なかなか男気が、あるじゃないのよ。
一時はSランクパーティー黒狼の牙に籍を置いていたという男だし、それなりの身のこなしを期待しても良いんじゃないか?
「盾くらいにはなってやるよ」
「いや、それは……。もっと自分を大切にすべきかと」
自己犠牲は好かない。
どの口が言うのかって話だが。
それから防衛陣地の構築完了の知らせを受けて、作戦会議となった。
俺とエリスは主に避難民の護衛。
敵の数は、手薄となっているこの村の戦士団よりも上回る事が予想された。
主戦力は──
・帝級相当のルイジェルド
・王級相当のギュスターヴ
・聖級相当のギュエス
・他中級相当の戦士達
護衛戦力は──
・聖級相当の俺
・聖級相当のエリス
・初級相当のギース
・他中級相当の少数の戦士
ルイジェルドを中心に戦線は展開されることだろう。
俺たちは討ち漏らしから、非戦闘員の住人らを守ることが主だった役割だ。
──
その時は訪れた。
まぁ、実際の様子は村の奥で護衛に就く俺とエリスには分からないが、遠くから聞こえる喧騒で、おおよその状況は読める。
「エリス……。もしかしたら敵は、私たちを予告もなく殺しに掛かってくることでしょう」
「ええ。殺される前に、殺す必要も出てくるって言いたいんでしょ?」
「正解です……」
既に彼女は覚悟を決めているらしい。
剣士という性質上、至近距離での命のやり取りが前提となる。
斬った斬られたの話は、剣術の指南役だったギレーヌより受けているのだろう。
「敵は人間じゃなくて魔物よ。卑劣な連中に慈悲なんて掛けても、こっちが損するだけよ」
「魔物ですか……」
それが戦う者の認識ってやつか。
自身を害してくる存在を看過すれば、いずれ再び危機が訪れる。
であれば、その原因を断ち切らなきゃいけない。
理屈としては解りやすい。
「ちょっと焦げ臭くねえか?」
ギースが唐突に指摘する。
確かに煙たく、燃えるような香りが漂ってきた。
周囲を確認すると、黒煙が辺りからモクモクと上がっていた。
「奴ら放火しやがったなっ! ドルディア族の嗅覚を潰すつもりだ!」
ドルディア族の感知能力は鋭敏な聴力と嗅覚によってもたらされている。
その内の片方を封じられ、数の暴力で攻め込まれたら、戦況は不利に傾く。
つまり敵は戦況を支配する為だけに、放火なんていう卑劣な手に出たんだ。
早急に対応しなきゃ死人が増える。
「表に出て魔術で消火に当たります! お2人はここで護衛をお願いします」
「お、おう! ヤバそうだったら、すぐに駆けつける。盾になるって言ったのは本気だからよぉ!」
慌てふためくギースは、腰の鞘から剣を抜いて構える。
「ムチャはしないでよ、ルーディア! 姉を置いて死んじゃったら、後を追っちゃうからね!」
「いや、追わないで下さいよ」
後追い自殺なんて笑えない冗談だ。
しかし、エリスならやりかねない。
だったら俺も、生還も約束しよう。
「エリス、この戦いが終わったら結婚しましょう!」
「ちょ、な、何よ! いきなり!」
顔を真っ赤にして反論するエリスをその場に置いて、俺は火消しの為に走る。
例の
──
村の中には死体がゴロゴロと転がっていた。
ただし密輸組織側の人間のものが圧倒的に多い。
数ではこちらが劣るが、ルイジェルドの立ち回りで被害自体は最小限に抑えられているようだ。
老戦士のギュスターヴだって居る。
それでも数だけはネズミのように多い人族の悪党。
少なくない数が、村の中心部まで入り込んでいた。
俺をドルディア族側の戦力と見て、敵が3人殺到して来た。
【三方向より切り掛かってくる】
予見眼で危機を察知。
慌てず冷静に対処する。
初級クラスの戦士相当の敵の背後から、
先日の奴隷解放時の手法と同じだ。
心臓を撃ち抜かれて、敵は息絶える。
不思議と今は罪悪感は生まれなかった。
あ、そうか。
ただ魔物を討伐しただけなのだ。
だから俺は殺人なんて犯しちゃいないのだ。
さてと、消火だ。
最初の目的を忘れるな。
空に手をかざして雲を生み出す。
今回は雷を落とす必要性が無いので、ただ単に雨雲を作りだした。
上級水魔術『
聖級水魔術のキュムロニンバスよりも難易度の低い魔術ゆえに、あっさりと雨雲は完成し、村全域に土砂降りの雨を発生させた。
ものの数分で完全鎮火。
一時は劣勢に追い込まれていたドルディア族の戦士達は勢いを取り戻して、完全に盛り返した。
【背後より投擲剣が飛来】
身体を地面へと投げ出すようにして回避。
【敵が5人、周囲を取り囲んでいる。一斉に斬りつけようと駆けてくる】
やべ!
対応が間に合わない!
咄嗟に3人をノータイムで発動出来るお得意の
残りの2人は無傷のまま。
顔を庇うように両腕を交差させたが、容易く肘から先を斬り飛ばされる。
痛覚を瞬時に遮断し、苦痛を軽減させた。
だが、不味い。
急に両腕を失っては、身体のバランスが崩れて動きづらい。
まともな回避は取れないと考えるべきだ。
「てこずらせやがって……」
にじり寄る敵。
その背後をドルディア族の戦士が斬りかかるが、直前に別の敵に斬り伏せられた。
これ、死んだな……。
エリスとの結婚の約束を直前にしてきたというのに、呆気ない幕切れだ。
男らの刃が眼前に迫る。
装着した仮面は剣先で切り裂かれていた。
座標指定魔術の発動を試みるも、思考が定まらず上手くいかない。
死を目前とした事で、脳が機能を低下させているのか。
なぜ今に限って、この身体は火事場の馬鹿力を発揮しないのだろうか?
【ギースが横から飛び込み、剣で敵の首をハネ、もう1人の敵が応戦する】
未来が見えた──。
俺の人生にはまだ続きがあるらしい。
読んだ展開に介入してやる。
予想通り、ギースが現れて1人を殺害した。
そんな彼を斬り捨てようと敵がダッシュするのが見えた。
今は思考が冴えている。
スムーズに魔術は発動し、
脳漿が撒き散らされ、人間だったものが地面に横たわった。
「おぉ! ナイスアシストだったぜ、ルーディア!」
「ギースさんこそ、助かりましたよ……」
両腕を失った俺の姿を見て、ギースは硬直していた。
痛み自体は痛覚を麻痺させてるから無い。
騒ぐほどの事じゃないのだ。
「ギースさん。そこに転がってる私の両腕を運んできてもらえますか? そして断面に密着させて下さい」
「あ、あぁ……。まさかそれで治るって言うんじゃないよな?」
「治りますよ、この程度の怪我なんて」
「はあっ……?」
驚嘆しながらも彼は忠実に指示に従ってくれた。
失った両腕は1分とせずに元通り。
後遺症も皆無だ。
肩を回して健在っぷりをギースに思い知らせてやる。
「有言実行でしたね。ギースさんに庇っていただいて」
「治ったとはいえ、腕を切断されちまったけどな。しかし……お前、ぶっとんでやがるな……」
「我ながらそう思います。目指すは魔王バーディガーディに比肩する不死性です」
「狂ってやがるぜ。だが味方だってんなら、頼もしいか……」
立ち上がってみるとフラついた。
ギースに支えられながら、避難民の護衛へと戻る。
命のやり取りというのはこの分だと、一生慣れなさそうだ。
【ギュスターヴとギュエスが吹き飛ばされて来る。ルイジェルドが敵の剣を受け止め、膠着状態が生まれる】
右目の捉えた未来は旗色が悪い。
予見した未来が現実となる。
身体中に傷を負ったギュスターヴとギュエスが、俺とギースの脇へぶっ飛んできた。
息はあるようだが、しばらく立ち上がれそうにない。
敵の長大な剣を穂先で受け止めるも、力で押し込まれ後退するルイジェルドの姿。
脚に力を入れ踏ん張っているが、徐々にその身体は後方へと下がっていく。
ルイジェルドの相対する敵は──剣聖ウィンドル・クラッシャーだ。
はぁ?
どうして帝級クラスのルイジェルドが劣勢を強いられてんの?
「ルーディア! 俺ごと魔術でヤツをやれっ……!」
物騒な事を兄貴分は言う。
それは……無理だ。
俺の本気の魔術は魔王バーディガーディすら木っ端微塵にする超火力。
溜める時間が短かろうと危険性は変わらない。
ましてやルイジェルドを追い詰める程の剣士。
ルイジェルドの身を案じて、半端な威力で放っても通用するとは思えない。
「おいおい……! ありゃ剣聖ウィンドル・クラッシャーかよ!」
ギースも知る有名な名前らしい。
ガルスも奴については高く評価していた。
「娘よ、ガルスのクソ野郎はどこだ? 裏切り者には制裁を加えねば」
ウィンドルが声を掛けてくる。
その声色は肩をゾワゾワとさせる冷たさ。
問いに答える思考回路ごと凍りつかせる冷気。
「さ、さぁ? なんのことだか……」
「ガルスの裏切りは先ほど知った。強襲のつもりだったが、こうも準備が良いとは。ミリス大陸南部に奴隷狩りに赴いたというガルスを疑わざるを得ない」
物的証拠も目撃証言も無い?
状況証拠だけで仲間の裏切りを断定するとは、察しが良いのか思い込みが激しいのか。
なんにせよガルスさん?
貴方、ピンチですよ!
「チッ……ウィンドルの兄貴。気付いてやがったか……」
当事者たるガルスが現れた。
そのまま逃げれば良かったのに……とは言えない事情がある。
大森林は間も無く雨季に入るので抜けられない。
ザントポートに戻れば、組織の裏切りをウィンドルに告発されて居場所を失い、粛清される結果が待ち構えている
ならば、ここで裏切りの事実を掴むウィンドルを殺すしか生き残る道は無い。
勝っても負けても、対峙する選択しか無かったんだ。
「そうさ、俺は組織を裏切った。いい加減、あの稼業には嫌気が差してきてな」
「そうか。ならこやつらを始末した後に、お前もあの世へ送ってやる」
瞬間、ルイジェルドとの膠着状態から脱し、前触もなく光の太刀が放たれる。
ギレーヌより遅いが、4年前のパウロよりは速い!
尤も、4年前時点のパウロは剣神流上級で、使用した技も下位互換の無音の太刀ではあったが。
さて……。
俺の予見眼でも追い切れなかったその絶技の結果は……?
ルイジェルドは三叉槍で受け流していたが、ガルスは避け切れなかったのだろう。
肩から血を流して片膝を地面につく。
「浅かったか……。そこのスペルド族に剣筋をズラされたな」
淡々と技の失敗を語る。
コイツ……強い。
剣聖以上剣王未満なんて甘えた認識は捨てた方がいい。
正規の剣王とは別の方向へ振り切った剣術を我流で身に付けたに違いない。
あのルイジェルドでさえ防戦を強いられる事から、下手をすれば帝級以上だ。
魔族の血が剣神流破門後に、思わぬ成長を促したらしい。
「くそがっ……。
「誰かに裏切りを唆されたか? 愚かだ。お前ほどの男が他者の意見に行動を左右されるとは」
「俺にはやりたい事があってねえ。その手っ取り早い手段がアイツに従うことだったが……。ハッ、情けねえ。騙されていたみたいだ……」
諦観。
ガルスの声からは全てを諦めた男の本心が漏れだしていた。
「仔犬ちゃん……! 俺はこれまで散々悪事を働いてきた! それこそ今のウィンドルと変わらねえ事だって山ほどしてきたぜ! だがよぉ……最後くらい善人ぶらせてくれやっ……!」
「ガルスさん、貴方は……!」
そう言ってガルスは深手を負いながら無謀にもウィンドルへ斬りかかる。
ウィンドルの剣がガルスの胸を貫いた。
が、ガルスは倒れない。
必死にしがみつき、敵の動きを拘束する。
「離せっ……! 死に損ないがっ……!」
ウィンドルの剣はガルスを貫いたままびくともしない。
抜くことは叶わない。
「俺ごとやれ……! 仔犬ちゃん……!
その声は果たして、何故俺を動かしたのか。
死に際の男の声に何を感じ、何を思ったのか。
俺は無意識に杖を手に取り──。
威力にして帝級──。
魔王バーディガーディをも葬りし死の魔弾。
そして剣聖ウィンドルは死に、北聖ガルスもまた──死んでいた。