無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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38話 解決策の提示

 ゼニスとノルンは下がらせた。

 クレアもまた、被害が及ばぬ位置に陣取る。

 高みの見物というわけか。

 

 

「痕の残るような怪我をさせるつもりはありませんが、万が一という事もあり得ます。抵抗しなければ、すぐにでもラトレイア家に迎え入れる準備を整えていますので、今一度ご一考を」

 

「考えは覆りません。私は母と妹を連れて、この国から出ると決めましたから」

 

 

 この期に及んで説得に懸けるとは……。

 頭に血が昇っている事実は否めない。

 それでも許容範囲を超えた言い分には反発するしかなかった。

 

 神殿騎士の青い甲冑がやけに威圧的に映る。

 これからおれを殺そうってワケじゃないのにだ。

 

 

【神殿騎士達は剣を抜き、峰打ち狙いで殺到】

 

 

 予見眼によると、あくまでも俺の捕縛が目的か。

 峰打ちでも痣くらいにはなる。

 治癒魔術で痕など、どうとにでもなるとの判断。

 ゆえにこそ、彼女は痛め付けてでも俺の考えを改めさせたいらしい。

 

 風魔術で身体を後方へと吹き飛ばし、加減された剣撃を回避する。

 よく見れば刃は潰してある。

 なるほど、間違っても斬られる事は無さそうだ。

 骨折くらいはしそうではあるが。

 

 剣を俺へ向けて走らせてくる──と思いきや、魔術が飛んできた。

 俺の手の平にある水魔術と同じ、水弾(ウォーターボール)

 神殿騎士の実態は知らないが、魔術も扱うらしい。

 

 手に溜めていた水魔術で迎撃し相殺。

 水しぶきが部屋中に飛ぶ。

 

 やりづらい。

 剣士を相手取った経験はそれなりにあるが、対魔術師戦は何気に初めてだ。

 ゲームで言うなれば、魔法剣士ってやつだな。

 実際に相対してみると厄介極まりない相手だ。

 

 殺す気でやれば、瞬殺も可能だ。

 剣聖ウィンドルをも葬った帝級相当の威力の魔術だってある。

 

 だが、彼らは賊ではない。

 ミリスにある三つの騎士団の内の一つ、神殿騎士団の人間なのだ。

 殺せば俺は犯罪者として裁かれる。

 いかにラトレイア家の血を引こうと、死罪は免れないだろう。

 

 手加減して勝てる相手じゃない。

 人数は3人。

 俺は1人。

 挙げ句に守るべき人が居る。

 考える余裕は無い。

 ええい、ままよ!

 

 昏睡(デッドスリープ)をありったけ叩き込む。

 射出速度を極限までに高めた魔力弾は、騎士らへと着弾する。

 が、弾かれた!

 

 見やる。

 手には半透明の盾が展開されていた。

 アレは結界魔術?

 初級・マジックシールドってやつか……。

 

 結界魔術については全く使えない。

 学ぶ時間が無かったというのもあるが、ミリス神聖国が結界魔術の習得の権利を独占している為、極端に資料が少ないのだ。

 

 ラノア魔法大学でも初級までの指導しか許可されていないのだとか。

 学びたければミリス神聖国の人間になるしかあるまい。

 さらさらそんな気は起きないけどな。

 

 風魔術で牽制を図る。

 敵さんも鏡合わせのように風魔術で対抗してきた。

 風圧が拮抗し、融け合うようにして拡散した。

 ブワッと風が吹き上げ、調度品をなぎ倒す。

 土壁(アースウォール)で、ゼニス達を保護する。

 

 こいつら、雑魚じゃない?

 単純に手数が多く、対応力が高いように思える。

 これまでの敵とは格が違う。

 

 土砲弾(ストーンキャノン)をぶちこんでみたが、剣で払い除けられた。

 その剣技は水神流の技か。

 動きを見るに、三大流派を修めた上で魔術も使う万能型。

 パウロが魔術を身につけたような存在だ。

 いやまぁ、パウロは剣王だし比較対象にはならないか。

 

 それにしても詠唱が速い。

 数の利を活かし、時間差で絶え間なく魔術を発動してくる。

 無詠唱魔術のおかげで、どうにか対応出来ている状況だ。

 予見眼で先読みしたところで、防戦一方からは抜け出せない。

 

 となれば、座標指定魔術で不意を突く。

 彼らの背後を昏睡(デッドスリープ)が襲う。

 いや、察知した!

 身を反転させて斬り払われた。

 

 にじり寄り距離を詰めてくる神殿騎士。

 ラトレイア家の分家の者だという彼らは、親族である筈の俺を追い詰める悪の手先だ。

 

 

「そのような体たらくでエリス嬢をフィットア領まで送るつもりでいたのですか? 彼らは精鋭ですが、神殿騎士には更に上位の実力者が在籍しています。貴女の縁談先の子息などがその筆頭です」

 

 

 クレアが批判するように口を開いた。

 言い返せない……。

 

 

「過去に貴女が誘拐の被害に遭った事実を把握しています。ミリシオンであれば、ラトレイア家が全力を以って警護し、嫁ぎ先でも厳重な護衛が付く事でしょう」

 

「だとしてもっ……。受け入れられませんっ……!」

 

「貴女の未来の伴侶からは、必ずや妻を愛し、生涯を守り通すという気概を感じました。数度の面談を重ねた上で、その人格に確信を持ったのです」

 

 

 あぁ、不味い。

 この祖母さんに反論する材料を奪われてしまう。

 残る家族もラトレイア家が捜索すると言っている。

 その上、俺の見下していた戦力は想像以上に強者だった。

 エリスの護衛も、ルイジェルドの同伴さえ許してもらえば、過剰戦力にもなるだろう。

 

 だが約束したのだ。

 エリスは俺が守るのだと。

 15歳になったらエリスのモノになるとも誓った。

 それは本気かどうかは怪しいものだが、まだケジメをつけちゃいない。

 何も言わずにサヨナラでは、筋が通らない。

 

 ルイジェルドにだって恩を返せていない。

 ラトレイア家から褒賞金は出るだろうが、彼が欲するのはスペルド族の悪名を取り払い、失った誇りを取り戻すこと。

 金じゃ解決しない。

 

 俺にはエリスとルイジェルドが必要だ。

 そして思い上がりかもしれないが、2人にとっても俺は必要な人間だ。

 

 だから立ち続ける。

 勝てない戦いでも自分を見失うつもりはない。

 どんなに無様を晒しても、這いつくばっても希望は捨てないのだ。

 

 膝を床につけ、頭を下げる。

 土下座だ。

 立ち続けるとは言ったが、俺に出来る事など、これくらいだ。

 自尊心などはどうでもいい。

 我を貫き通すからには、多少の恥も耐え忍ぶ。

 

 

「お願いします……。母さまと、ノルンを返してください。ラトレイア家から解放してあげてください……。エリスも私が送らないとダメなんです……」

 

「やめなさい。地に這いつくばって頭を下げるなど。貴女には尊厳という物が無いのですか? 見ていて見苦しいものです」

 

「せめて……すべてが解決するまで待ってください。15歳になったら、必ずラトレイア家に戻ってきます。縁談だって受けて、子どもだって産みます……」

 

「嫁ぐのも子を産むのも当然の義務です。しかし、4年もの月日を浪費するなど、許可は出来ません。貴女には淑女としての教育を施し、相応の心構えを身に付けて貰わねば困ります」

 

 

 まだ粘る。

 諦めたら全部台無しだ。

 ここまでの旅路を無駄にはしない。

 

 

「家族が大切なんです。ただそれだけなんです……」

 

 

 その家族には姉であるエリスも含まれている。

 パウロとも会いたい。

 彼は心が繊細がゆえに、姿かたちを容易に変貌させてしまう。

 そんな気がした。

 俺の為ならば、きっと殺しをも厭わない覚悟を決めてくる事だろう。

 覇道を行き、身を滅ぼす父親を放っておくなんて俺には無理だ。

 

 

「旅を続けてルーディアの身に何かあったらどうするのです。母親(ゼニス)よりも早くに亡くなる親不孝な娘になるつもりですか?」

 

「私は死にません」

 

 

 断じて死ぬつもりはない。

 生きて家族と過ごす。

 ずっと夢見てきた未来図だ。

 

 

「貴女だけの身ではない、それを知りなさい。家族を想うのであれば尚更のこと。母親だけでなく妹までを残して死にゆく孫娘を、どうして看過出来ますか?」

 

 

 クレアの主張は正しい。

 一分の隙も無い。

 もしも俺が彼女と同じ立場なら、全く同じ行動を取っていたかもしれない。

 家出した娘が久し振りに帰って来た。

 しかし、知らぬ間に産まれていた孫娘は行方不明。

 ようやく自分の下へ姿を現したかと思えば、娘と孫の1人を連れ出して、危険な旅に出るなどと言い張る。

 

 これを止めないようならば、それこそ人でなしの薄情者だ。

 

 ならば意見を強引に押し付けてでも考えを改めさせようとするだろう。

 孫娘を守る為に、嫁ぎ先まで探してくれていたのだ。

 偏屈で神経質なお祖母様だが、家族想いな人であることは、口論の中で感じ取れてしまった。

 

 

「埒が明きません。1度、頭を冷やしなさい」

 

 

 クレアの合図で神殿騎士たちが俺の身柄を拘束すべく取り囲む。

 もう、ダメなのか……?

 心は折れちゃいないつもりだが、現実の俺はクレアに負けている。

 どこかに閉じ込められて、旅の終わりを突きつけられてしまうのか?

 

 いっそ、殺してしまおうか?

 そうするだけの魔術()を有している。

 帝級相当の威力の初級水魔術・水弾(ウォーターボール)

 ドルディアの村での防衛戦で、溜め時間を省略して放てるようになった、俺の持ち得る最強の魔術。

 それを放てば、神殿騎士程度、ものの数ではない。

 

 物騒な考えを起こしかけた、その時だった──。

 

 

「やめてえええぇぇ!」

 

 

 ノルンが俺とクレア達の前に飛び込んできたのは。

 

 

「お姉ちゃんをイジメないで!」

 

 

 両腕を広げて俺を庇うように立っていた。

 泣きそうな顔、さりとて勇気を振り絞って震えながらも、自身の祖母に立ちはだかる。

 

 こんな俺を庇うのか?

 情けなく頭を下げて、ガキのワガママを押し通そうとする俺を……。

 

 

「ノルン、イジメているわけではありません。ルーディアには少しお灸を据えてやる必要があるのです」

 

「うそっ! だってお姉ちゃん、悲しそうにしてるもんっ!」

 

 

 どんな顔をしているのだろうか、今の俺は。

 無力で何も成し遂げられない愚かな姉は、こんなにも小さな妹に守られるほど、弱く見えるのだろうか?

 

 

「お姉ちゃんは何も悪くないもんっ!」

 

 

 いや、俺にだって悪い部分はあった。

 自分の欠点から目を逸らして、都合の良い要求ばかりしていた。

 呑み込めない条件を突きつけられこそしたが、話し合いで解決する道もあったかも……。

 

 エリスやルイジェルドにも同伴してもらい、相談すべきだったのだ。

 何でも1人で抱え込もうとしたから失敗した。

 この失態を取り返すにはもう遅い。

 ラトレイア家との間に亀裂が走り、溝も深まってしまったのだから。

 

 

「お母様。私からもお願いです。ルディの気持ちを無視して話を進めないで。この子にも自由があるはずよ」

 

「なんです、ゼニス。意見しようというのですか。つい先ほどまで、話すことすらままならなかったあなたが──」

 

 

 クレアに夫を詰られ傷心気味のゼニスが、俺を守ろうと抱き締めてくれた。

 

 

「分からないの、お母様? あなたのそういう強引なやり方が、かつて()を家出に走らせたのよ」

 

「私の落ち度で不幸を招いた事は悔いています。結果としてパウロのような男につけこまれたのですから。ゆえにその反省から、こういった手に出ざるを得ないのです」

 

 

 強気は姿勢を崩さない。

 涙に訴えるやり方では動じないのか。

 ノルンとゼニスは血相を変えているのに、祖母クレアだけは顔色一つ変えないでいた。

 手強いどころではない。

 これまで遭遇した数々の敵よりもなお、強大に思える力を有していた。

 

 

「連れていきなさい」

 

 

 騎士に指示を下す。

 もう思考がグチャグチャだ。

 何をどうすれば解決に結びつくのか。

 ヒントを与えられても、今の精神状態で出した判断では余計に悪化させそうだ。

 

 だから俺は逃げた。

 戦うことを諦めて逃げたのだ。

 折れないと思っていた心は、音を立ててパッキリと割れた。

 

 壁を魔術でぶち抜く。

 混乱に乗じてその場を後にした。

 結局のところ俺は──ゼニスとノルンの目の前まで来ていながら、何も得るものも無く逃げ帰ったのだ。

 

 俺は弱い、弱かった。

 目頭を押さえながら宿へと走った。

 とにかく今は何も考えたく無い。

 寝よう──。

 

 

──

 

 

 目を覚ますと宿のベッドの上。

 まだ夕方に入る手前で、外は明るい。

 身体に感じる温もりは、エリス辺りが添い寝でもしているからか。

 

 身を起こし、頬にでも触れようかと思ったが──。

 俺に寄り添うようにして眠っていたのはエリスではなく、ラトレイア家に置き去りにしてきた筈の妹ノルンだった。

 

 

「え、ノルン……?」

 

 

 なぜここに……。

 疑問に思っていると部屋の隅で目をつむり立っていたルイジェルドが、事情を話しくれた。

 どうやらノルンは、ほとぼりが冷めてから隙を見て、俺が壁に開けた穴から飛び出してきたらしい。

 動機は姉である俺を追い掛ける為。

 神殿騎士の追手をどう撒いたのか気になったが、ルイジェルドが撃退したのだとか。

 

 町中で泣きながら逃げる幼い人族の娘を悪漢から救ったという構図だ。

 ルイジェルドの顔が割れてなきゃいいが……。

 ただでさえラトレイア家は魔族に対して差別的を通り越して排除的だ。

 指名手配でもされようものなら、スペルド族の悪名が再燃してしまう。

 

 ミリス国民の大半は魔族迎合派だが、貴族連中の多くは排斥派。

 この国に居づらくなる。

 身内のゴタゴタに彼を巻き添えにして申し訳ない。

 

 

「その子の話す特徴から、お前が姉であると判断した。どうやら正解だったようだな」

 

「すみません、ご迷惑をお掛けして……」

 

「母親とは会えなかったのか?」

 

「会えました。けど取り返せませんでした……」

 

 

 ラトレイア家での出来事を語る。

 クレアという人物の人柄。

 母ゼニスとの再会の一幕。

 そして何も出来ずに逃げ帰ったことを。

 

 無言で聞く彼に話し終えると、ポンッと頭の上に手を置かれる。

 

 

「母親は生きているのだろう? ならば取り返せ」

 

「ラトレイア家に喧嘩を売ることになりますよ?」

 

 

 ノルンを誘拐したような形だから、いずれにせよラトレイア家の手勢につけ狙われるだろう。

 そうでなくとも俺の身柄だって求めている。

 

 

「人族同士の闘争は魔族以上に回りくどいな。しかし、守るべき者が居るのなら、決してその手を離すな」

 

「私に出来るのでしょうか?」

 

「手を貸す。それが元々のお前の目的だろう」

 

 

 ラトレイア家との対立。

 こちらから襲撃という形で乗り込むのだ。

 始まれば死人が出かねない。

 クレアを殺したくはない。

 あの人には、あの人なりの想いがあったのだから。

 でも俺にだって譲れないものがある。

 母を奪われたままじゃ終われない。

 1度は逃げ出したが、ルイジェルドが協力してくれると言う。

 彼の厚意に甘えさせてもらおう。

 

 

──

 

 

 夕方ごろにエリスは帰ってきた。

 ベッドで眠る見知らぬ幼女にギョッとしていたので、経緯を説明すると納得。

 ただ俺がラトレイア家で受けた仕打ちを聞いて憤慨。

 

 

「そう、お母さんを取り戻しに行くのね! 私も手伝ってあげる!」

 

「ではノルンを守ってあげてください。ラトレイア家には私とルイジェルドさんで乗り込みますから」

 

「うーん、そうね。ホントは私も暴れたかったんだけどね」

 

 

 血気盛んな事で。

 今日もゴブリン退治に励んできたようだし、剣を振るいたくて仕方がないって顔だ。

 

 

「それにしても神殿騎士ですって? 今日ね、神殿騎士の連中を暗殺者から助けてあげたのよ! それなのに恩を仇で返すなんてっ!」

 

「えっと、どういう事ですか?」

 

 

 神殿騎士も一枚岩じゃないだろう。

 それも別々の場所で起きたこと。

 恩も仇も関係なく、事態は動いていたのだ。

 そもそもクレアに従っていた神殿騎士は、ラトレイア家の分家の人間。

 騎士団の意向とは別に動いていたに違いない。 

 

 

 さて、ゴブリン退治の折、彼女の身にも一波乱あったらしい。

 エリスから今日の出来事が語られる。

 

 ゴブリンの生息地の森で遭難した後に、襲撃を受ける馬車を発見。

 襲われていたのは神殿騎士が守る神子と呼ばれる人物。

 襲撃者は教皇派の抱える暗殺集団。

 

 エリスが助太刀したのは被害者側の神殿騎士たち。

 暗殺者の群れとはギリギリの戦いで、1人を除いて壊滅させたようだ。

 

 

「神殿騎士の1人がラトレイア姓を名乗っていた気がするわ。テレーズ・ラトレイアだったかしら」

 

 

 ラトレイアの人間を、エリスは救ったということか?

 ふむ、これは……使える!

 

 

「エリス、さすがです! この恩を盾にテレーズさんに口利きしてもらえば、母さまの身柄を取り戻せるかもしれません!」

 

 

 事を構えるつもりでいたが、平和的な解決方法を見出だす。

 どうにかしてテレーズなる人物に接触しなければ。

 

 

「では方針転換です。まずはテレーズさんとの面会を優先しましょう。ミリス教団の本部を訪問するんです」

 

 

 やっぱりノルンの護衛はルイジェルドに任せ、俺とエリスとで教団本部を訪ねるのだ。

 

 

「ルイジェルドさん。先ほどのラトレイア家襲撃は取り消します。ノルンをお願いしてもいいですか?」

 

「無論だ」

 

 

 守る事に関してはルイジェルドをおいて他に適任者はいまい。

 後顧の憂い無く、俺たちは事に専念できる。

 

 その後も計画を練り、議論を重ねた。

 二転三転する方針。

 あぁでもない、こうでもない。

 議題は尽きない。

 途中、目覚めたノルンを連れて食事処でパフェをご馳走してやった。

 

 さて、テレーズさん次第で状況にどう変化が起きるのか。

 目が離せない。

 

 

──

 

 

 翌日、ルイジェルドにノルンを託し、俺とエリスは町の西側、神聖区にある教団本部に赴いた。

 金色の建物は、白と銀色ばかりの街並みの中では、やけに目立つ。

 

 入り口の守衛にテレーズへの取り次ぎを願う。

 エリスの名前を出すと、すんなり聞き入れてくれた。

 神子襲撃を阻止したエリスの勇名は、既に教団内で浸透しているらしい。

 

 10分ほど待っていると、青い甲冑を身に纏った女性が小走りでやって来た。

 青色は神殿騎士という身分を表している。

 

 その者の顔立ちは、ゼニスとそっくり。

 なるほど、ラトレイア家の本家筋の人間か。

 この分なら、売れる恩も大きいだろう。

 

 

「エリス様。昨日ぶりですね。会いに来てくれたのですか?」

 

「そうね! 早速、あなたを頼らせてもらうわね!」

 

 

 命の恩人であるエリスに対して敬語とは、義理深い人だな。

 

 

「おや、そちらの女の子は……。もしやゼニス姉様の娘のルーディアちゃん?」

 

「はじめまして、ルーディア・グレイラットといいます」

 

「なるほど、私はテレーズ・ラトレイア。ラトレイア家の四女で、君の母の妹だよ」

 

 

 マジか!

 年齢は二十代前半から半ば程度。

 甲冑で正確なサイズは計れないが、たぶん、おっぱいはゼニス並。

 髪の長さミディアム程度で切り揃えられている。

 顔立ちはゼニスと酷似しているだけあって美人だ。

 騎士なだけあって日々鍛錬しているのだろう。

 甲冑の中身には、さぞ引き締まったエロい身体が隠されているに違いない。

 

 

「もうラトレイア家には顔を出したのかい?」

 

「えぇ。クレアお祖母様と口論になってしまいましたけど」

 

「母様の人柄は良く知っている。そうなるのも無理もないな」

 

 

 娘のテレーズをしてそう言わしめるクレアは、筋金入りの頑固者か。

 

 

「その様子だと無茶な要求をされたようだね」

 

「えぇ、まぁ……。悪い人では無いと思うのですが、いかんせん受け入れがたい内容でして」

 

「それも分かる。ゼニス姉様もそうだが、私も母様に反発して神殿騎士団に入団した身でね」

 

 

 既に和解は済んでいるとも彼女は話す。

 あの強情な婆さんをどう説き伏せたのか、是非ともそのテクニックをご教示いただきたい。

 

 

「母様の口を黙らせるには実績を示すしかないな。私も神殿騎士として、それなりの武功を上げてきた。兄の口利きもあってか、和解したよ。尤も、昨日に部下を死なせてしまったので、左遷確定だがな」

 

 

 結果を出さなきゃ納得させられんのか。

 俺の場合、何をクレアに示せば良いのやら。

 力を認めさせるとか?

 俺の身を案じているのなら、自分の身を守れると思わせるような圧倒的な力を見せつければ、文句は言えなくなるか──。

 

 

「テレーズさんの口から説得は出来ませんか? 私は母と妹を連れて中央大陸へと渡りたいのです」

 

「私の言葉じゃ母様も耳を傾けてはくれないだろう。それに私もゼニス姉様やノルンちゃんを、連れ出す事には反対だ」

 

「え、どうして?」

 

「君の噂はかねがね聞いているよ。水王級魔術師ロキシー・ミグルディアの直弟子にして水聖級魔術師。実績としては既に申し分無い」

 

 

 ならクレアは認めてくれたって良いじゃないか。

 

 

「でも君はまだ子どもだ。危険な旅路を家族を抱えて続けられるのかい? ましてや幼い妹を危険に晒そうと言うんだ。浅はかとしか思えないな」

 

「う……」

 

 

 そもそもの話、俺が間違っていたのか?

 縁談話を押し付けられて過剰に反応しちまったらしい。

 感情的になり過ぎて視野が狭くなっていたのだ。

 冷静に考えれば無茶な妄想をガキが語っていただけだ。

 なぜ俺はそれに気づかず、通る筈の無い要求を突き付け続けていたのか。

 

 

「解決策を提示しよう。君はエリス様をフィットア領へ送り届けたい。そして家族全員の無事を確保したい。君の求めるものは、それで合っているな?」

 

「はい、そうです」

 

「姉様達を連れ出そうというのなら、パウロと合流することだ。子どもの君では母様は認めちゃくれない。けれど剣王パウロであればどうかな?」

 

「あ、そっか!」

 

 

 剣王パウロ・グレイラットは異国の地にも、その名を轟かせる剣客。

 クレアは目の敵にしているが、その実力にまではケチをつけられまい。

 パウロなら妻子を守れるのだ。

 

 であれば、一刻も早くアスラ王国へと帰還してパウロと会わなければ。

 無理にゼニスとノルンを連れ出す必要も無かったのだ。

 

 少なくとも俺の無事をゼニスには伝えられた。

 ラトレイア家に居れば、窮屈な思いこそすれど、命の危機とは無縁でいられる。

 パウロの迎えがあれば解放もされる。

 

 くそっ……。

 クレアの物言いはともかく、間違った事は言ってなかったのだ。

 いやまぁ、縁談は願い下げだが。

 

 

「問題は1つ。ルーディアちゃんの出立を母様が許すか否か。このままミリシオンを出ようとすれば、ラトレイア家は全力で阻止しようとするだろう」

 

「そうですね。どう私の力を認めさせるべきか悩みます」

 

「そうだな。力さえ示せば、君は守られるだけの子どもではないと母様も理解してくれる。縁談も白紙撤回するだろう」

 

 

 光明が差してきたぞ。

 

 

「私もこの件に協力したいところだが、どうも教皇派の動きが怪しくてね。自由には動き回れないんだ。私に出来た事と言えば、ちょっとしたアドバイスくらいだよ」

 

「いえ、解決策を示していただいて助かりました。ありがとうございます」

 

 

 あとは自分で考えよう。

 それにしてもテレーズは頼りになる。

 俺の悩みの大半をあっという間に解決してみせた。

 彼女は若くとも大人なのだ。

 逆に俺は中身は良い年をした大人なのに、子どものままである。

 

 人生経験の差ってやつか。

 引きこもり生活は人生経験の勘定に入らないだろう。

 

 そして、仕事に戻るというテレーズの背中を見送って、1度、宿に戻る事にした。

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