無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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3話 ロキシー先生は可愛い

 ロキシーの(げん)に偽りはなく、朝から晩まで授業は続いた。

 

 ただ定期的に息抜きの時間が儲けられ、ティータイムくらいは取ってくれた。

 でないと心身共に参ってしまう。

 

 

「ところでルディ。何故、無詠唱魔術が使えることを黙っていたのですか?」

 

「え?」

 

 

 バレていたか。

 親以外には見せないと決めていた無詠唱の技能。

 一般的な感性では天才肌であるロキシーをして、嫉妬心を買いかねないと危惧し、秘匿していたのだが……。

 

 天才の目は欺けなかったか。

 こっそり、就寝前に自主トレしていたのを、どうやら見られていたらしい。

 

 そのジト目、責められているかのようで心苦しい。

 

 

「理由はあるにはあるんですが……。一番は魔術習得の基礎固めの為ですかね」

 

 

 無詠唱とは邪道である。

 いや、技術に貴賤など無かろう。

 ただ、順番を飛ばして身に付けたら能力ってのは、いざという時にヘマを犯しかねん。

 

 知識だとか感覚ってのは理解が大切だ。

 下地も抜きに、どうして完璧を自称出来ようか。

 

 

「つまり、正攻法で学んでから無詠唱化を進めたいと? 話していてくれれば、無詠唱化を考慮した指導をしたのに」

 

「すみません。先生の指導に支障が出ると判断してしまって」

 

「いえ、謝らなくとも……。ただ、鍛えがいがあるな、と思いましたよ。まさか一番弟子で、これ程までの逸材を引き当てるとは……」

 

 

 そうか、俺ってば、ロキシーの一番弟子なのか!

 

 こんなにも可憐な少女の()()()を戴いた事実を胸に、辛いことがあっても全力で生きよう。

 

 というのは冗談として──。

 ふむ、これは割りと重要なことでは?

 

 ロキシーが一番弟子で俺を引き当てた様に、俺もまた師として彼女という存在と巡り会えた。

 何か運命的なものを感じる。

 

 何だろうか?

 この胸がポカポカするような感覚。

 浸透して離れない。

 

 

「どうしました? わたしの顔をジッと見て」

 

「いえ、ロキシー先生は可愛いなぁって」

 

「そ、そうですかっ! ありがとうございます……」

 

 

 褒められる事に不慣れか?

 

 照れ隠しなのか、髪の毛の先を指で弄っている。

 その仕草、彼女の癖だろうか。

 

 

「髪、綺麗ですね」

 

「え? そうですか?」

 

 

 意外そうな顔で前髪をつまむ。

 青髪なんて現代日本じゃ染髪でもなければ存在しない。

 

 おそらくは地毛であろうロキシーの髪色は違和感なく現実に溶け込み、毛先がハネている部分も含めて魅力的だ。

 

 少しばかり分けてもらえませんか?

 お守りにでも仕立て上げたい。

 

 

「初めてですよ、そんなことを言われるのは」

 

「おかしいですよね、こんなにも綺麗な髪なのに」

 

「そう言ってもらえると嬉しいですね。でもわたしの髪って、人族の方々には受け入れ難い色なんです」

 

「理由をお聞きしても?」

 

「そうですね、教えましょう」

 

 

 前提として、かなり昔に人族と魔族とが、大規模な戦争をしたらしい。

 そのせいで人族は魔族に対して差別意識を持つのだとか。

 

 アスラ王国での魔族に対する扱いは、まだ寛容な方らしく、ミリス神聖国での差別は苛烈を極めるのだとか。

 

 そして、ロキシー・ミグルディアは、ミグルド族という名の魔族である。

 彼女の故郷は、魔大陸と呼ばれる過酷な環境の土地。

 

 およそ生命が存在するには適しているとは思えぬ異国の地。

 そこで暮らす魔族は、種族によるが人族より頑強な肉体や魔術資質、あとは種特有の能力を持つらしい。

 

 そしてその中でも、最も恐れられる種族が『スペルド族』。

 かつてのラプラス戦争では、敵味方問わず殺戮の限りを尽くした。

 

 外見的な特徴はエメラルドグリーンの頭髪と、額に埋め込まれた宝石のような深紅の石。

 

 ロキシーは説明の最中、話しづらそうにしていたが、少しずつ語り続ける。

 

 何でもミグルド族とスペルド族は、源流を共通のものとしているようで、生物的には結構近い。

 

 種として派生して長いだろうに、民衆の恐怖心からミグルド族への風当たりはキツイ。

 

 例え話にしては失礼だが、犬猫くらい生物学的に離れてるのに同一視されてるってことか。

 

 差別ってのは地球でも存在する概念だ。

 人は自分よりも強い存在を恐れ弾圧する。

 絶対的多数派が少数を攻撃するのだ。

 

 この世界じゃ、法律の上では魔族への差別は撤廃されている。

 だが長年に渡って根付いた人々の意識までは変わらない。

 

 きっとロキシーも俺が知らない人生の中で、泣きたくなるような悲しい思いをしてきている。

 

 

「髪の色も、わたしの青髪はスペルド族に似ていますから。だから誰も綺麗なんて言ってくれなかったんです」

 

「そうだったんですね。だとしたら、そいつらは見る目が無かったんですよ」

 

「人族の人々がみんなルディみたいだったら良かったなと、思います。でも今は貴女の言葉だけで十分です」

 

 

 優しい微笑。

 ……言い訳はしない、トキめいたわ。

 ロキシーの一挙一動から目を離せないまである。

 

 まっ、この身体は女の子だ。

 こちらからどうアプローチしても、彼女には振り向いてもらえないだろう。

 

 それに外見だけで人を好きになるなんて、あまりに不誠実。

 前世が容姿に恵まれていなかっただけに、その辺の意識が妙に拗れている。

 

 それはそれとして──。

 ロキシーとは良い師弟関係を築きたいものだ。

 

 

「私は先生のこと、好きですよ」

 

「ええ、慕ってもらえるのは嬉しいものです。貴女のような弟子を持てて、わたしは幸せ者ですよ」

 

 

 対面して『えへへ』とか『あはは』とか笑い合う。リーリャの用意してくれたクッキーを互いに食べさせ合った。

 

 リアルに女子とアーン、ってするとは。人生

どう転ぶかわからん。

 

 なんて甘々な師弟だよ。義姉妹の契りでも交わす?

 

 

 頭がぼんやりするようなひととき。

 

 その後は、教師モードに戻ったロキシーにしごかれる。

 飴とムチの使い分けってか?

 

 ドMじゃねぇから、まるで気持ち良くはないけどな。

 

 

 

 

 ロキシーによる授業は極めて順調。

 基礎六種においては既に上級までを習得した。

 期間にして一年。

 

 うむ、やはり上級ともなると取得難易度がハネ上がる。

 しかし、俺はまだ4歳だ。まだ伸びる芽はあるだろう。

 

 さて……魔術にばかり専念していたが、そろそろ剣術を学びたい。

 そう思い立って、パウロに指導を頼み込んだが……。

 

 

 

「ダメだ! 女の子に剣術は危ないだろう?」

 

「土下座しても?」

 

「無理なものは無理だ。前に見たろ? 父さんが剣で足に怪我を負ったのを」

 

 

 あれはどちらかと言えば、パウロが子どもの前で格好をつけた上でのミスだろう。

 しかし父親の尊厳を傷つけぬよう、お口にチャックをする。

 

 

「危ない時は父さんが守ってやるから、ルディは魔術を頑張れ。応援してるぞ」

 

「はぁ、頑張ります……」

 

 

 言いくるめられちゃったよ……。

 

 パウロは剣術の先生として優良物件だと踏んでいたが、見事に当てが外れた。

 

 この世界の三大流派『剣神流』『水神流』『北神流』の全てにおいて上級を修める彼の実力。

 

 実際に戦っている場面を見た訳じゃない。

 けれど時々、ゼニスの語るパウロの武勇伝からして、その力量は折り紙つき。

 

 はぁ、仕方がない。

 今は魔術にのみ努力を傾けよう。

 別に無法地帯に出向く用事なんて無いのだ。

 剣術で身を守らなきゃならん危機に瀕したりはしまい。

 

 

「では父さま、妥協案なんですが」

 

「おう、なんだ? 聞こうじゃないか」

 

「剣術はダメでも体力作りはしたいです」

 

「む、そうか。魔術師だって体力勝負の機会はあるよなぁ」

 

 

 冒険者としての現役時代に思い当たる節があるのか、(しき)りに一人頷く。

 

 

「よし、わかった! 筋トレとランニングのやり方を、オレがみっちり教えてやる」

 

「わあ!! 父さま、ありがとう!! 大好き!!」

 

 

 膝立ちになって腕を広げて待っていたパウロの胸に飛び込む。

 こいつ、娘が抱き付いて来ること当然だと考えてやがるな?

 

 しかし俺も毒されてきたもんだ。

 躊躇なく、親父の抱擁を受けている。

 

 なんつーか、安心するのだ。

 何者に侵せぬ安全地帯って感じだ。

 親の庇護下にあるって実感するねぇ。

 

 

 

「ルディはお父さんっ子なんですね」

 

「はっ、先生? 見ていらしたんですか!」

 

「ええ、はじめから」

 

 

 くっ、油断した。

 今朝、ゼニスがロキシーに編み物を教えるとかで、はしゃいでもんだから気を抜いていた。

 

 こいつはまた、恥ずかしいところを目撃されたな。

 4歳児であれば、何も恥じることはないけど……。

 

 

「いまは休憩中です。ここで筋トレを見ていても?」

 

「構いませんよ。ただ私って、たぶん全然体力がありませんよ。見ていて楽しめるかどうか」

 

「楽しむ為ではなく、ルディの頑張りを見たいんです」

 

 

 ほう、殊勝な事を言うね。このロリっ子ティーチャーは。

 

 そろそろ師匠とかって呼んだ方が良いかしら?

 

 

「ねえ、先生。先生のこと、師匠って呼んでもいいですか?」

 

 

 途端、ロキシーは硬直する。

 ん? もしや地雷でも踏んだか?

 俺の知らないトラウマでも抉ったか?

 

 

「それは勘弁してください……」

 

 

 消え入りそうな声。

 やはり過去に嫌な経験をしてきているんだろう。

 

 

「きっとルディは近い将来、わたしなんかを大きく超える魔術師に成長します」

 

「それは……どうも」

 

「現時点でも無詠唱魔術という唯一無二の才能を持っていますしね。わたしは……試してみたけどムリでした」

 

「そう……ですか」

 

 

 なんというか、掛ける言葉が見つからない。

 

 

「弟子に劣る存在をいつまでも師匠と呼ぶのは、貴女もイヤになるでしょう?」

 

「そんなことはないですよ。だって私、ロキシー先生のこと大好きですから。前にもそう言ったじゃないですか」

 

「その節はありがとうございます。貴女にとっては何気ない一言。でも、わたしは救われています」

 

 

 幸薄そうにニコりと笑い、何かを噛み締めている様子。

 

 

「でもやっぱり師匠と呼ぶのは禁止します。詳しくは話せませんが、わたしは自分の恩師と喧嘩別れをしましてね」

 

「なるほど……」

 

 

 和解を出来ずに飛び出してきた苦い思い出が、未だに彼女を縛っていると……。

 根深い問題だな。

 

 

「そういうことであれば止めておきましょう」

 

「気を遣わせてしまいましたね」

 

 

 でも俺は、そんな彼女を尊敬している。

 本人は気に病んでいるが、この想いに嘘はない。

 断言してやる。

 

 なんだかんだでこの一年、ロキシーから得たものは多く、そして大きい。

 

 ルーディアという人間の構成成分の半分はロキシーが占めている。

 本心からそう思っている。

 

 ともあれ、本人は師匠呼びを忌避しているので、心の中でだけ、師匠と呼ばせてもらおう。

 

 

「へえ、いつの間にかルディとロキシーちゃんは仲良くなったんだな」

 

「長い付き合いですからね、父さま」

 

 

 大人のパウロにとっての一年は短いだろうが、ルーディアという、まだ4歳の幼女にとっては相対的に長い。

 

 なにせ比率的には人生の1/4にも及ぶ期間。

 それだけの月日があれば仲も深まるというもの。

 

 

「すみません、パウロさん。暗い話に付き合わせてしまって」

 

「気にすんなよ。うちの子に良くしてくれてんだ。常々、感謝が絶えんよ」

 

「そう言ってもらえると幸いです」

 

 

 うちの家族とロキシーとの仲も良好だ。

 リーリャとも時々、談笑しているのを見かける。

 これはもうグレイラット家の一員に数えても差し支えない。

 

 会話も一区切りがついたのを皮切りに、パウロによるブートキャンプ染みた特訓が始まる。

 

 剣術は危険だとか抜かしていたクセに、ハードな練習メニューだった。

 

 

 腕立て伏せ、腹筋運動、ランニング。

 筋トレはまだいい。

 しかしランニングが想定以上に厳しい指導だった。

 

 息切れるまで庭を走り回ったのちに、『まだ限界だと思うな!』とか『限界を超えた先に成長があるんだ!』とかね?

 

 根性論ですよ、この時代に。ここは異世界だから時代云々は無関係か?

 

 パウロは言うなれば天才肌かつ感覚派の人間だ。 

 元々、人に物を教えるという行為が苦手なんだ。

 

 父親としては頼れるが、教師の適性はロキシーの勝ちだな。

 

 まぁ、人の向き不向きなんて千差万別。悪いことじゃあない。

 

 俺だって出来ないことはいくらでもある。

 生前がその最たるものだ。

 一流には及ばない二流にすら届かない、三流の側の人間だったしな。

 

 ルーディアとしても同じく、何かしら苦手な分野がこれから先、判明することだろう。

 たとえば、料理とか別に得意ってわけでもない。

 

 曲がりなりにも乙女だから、料理くらいは精進するか。

 ゼニスが教えたそうにウズウズしていたし。

 

 パウロの熱血指導で精魂尽き果てた俺は、その場で仰向けに倒れた。

 ゼーゼーと荒い息をくりかえし、呼吸を整える。

 

 

「すまん、ルディ。子どもに初めて物を教えるってんで、張り切り過ぎた」

 

「まったくです。父さまは、こんなにも可愛い娘を痛めつけて楽しいですか?」

 

 

 頬を膨らませてそっぽを向く。

 いたいけな少女なりの反抗心である。

 

 

「お! その仕草、母さんと同じだな」

 

「話をそらさないでください!」

 

「へへ、悪いとは思ってるよ。そうかそうか、やっぱり親子だよなぁ……」

 

 

 何を感傷に浸っているのか。

 いや、本音じゃ嬉しいよ? 喜んでるよ?

 

 ある種、ゼニス母さまは俺の理想の女性像。

 女に成りたかったわけじゃないが、慕っている人に似ていると言われて、イヤなハズがない。

 

 

「ルディの成長が今からでも楽しみだよ。ルディもきっと母さんといっしょで、乳と尻が育つだろうしな」

 

 

 視線が俺の胸部と臀部に注がれる。

 当然ながら、幼児体型なので起伏に乏しい。

 

 

「エロオヤジ……」

 

 

 何をナチュラルに娘にセクハラかましてるのやら。

 呆れてものも言えん。

 

 

「パウロさん……。デリカシーって言葉、知ってますか?」

 

 

 ロキシーにも苦言を(てい)される始末。

 この男は基本的にバカなのだ。親バカでもあるけども。

 

 

「おっと、口が滑ったな」

 

「もう! 失言ですからね! 母さまに言いつけちゃいます」

 

「そいつは勘弁してくれ。オレは母さんに口じゃ勝てん」

 

「けど、ベッドの上では勝てるんですよね?」

 

「お前……。女の子なのにそういう事を言うのは止めろ……」

 

 

 ドン引きされてる。俺の下ネタ、滑った?

 

 

「まさかその年で、そういう知識を得てるのか?」

 

「い、いえ! ただ、夜中にトイレに立った際、父さま達の寝室から声が聞こえまして!」

 

「お、おう?」

 

「母さまの声で『あなた許してっ! もう私、ダメなのおぉっ!』という言葉が耳に入りました。いったい、何の勝負をしていたんでしょうね?」

 

 

 迫真の演技で母親の喘ぎ声を真似る娘。

 パウロはどんな顔をしていいのか迷った末に、青ざめて反応する。

 

 

「そ、それは……。子どもが知るにゃあ、まだ早い……」

 

 

 よっしゃ! 誤魔化し成功!

 

 ふと、ロキシーを見ると、ほんのりと頬を紅潮させていた。

 

 そういやあ、ロキシーさん。

 貴女、夜中にパウロ達の寝室の扉に張り付いて聞き耳を立てていましたね?

 

 しかも股の間に手を忍ばせて──。

 

 キャー! 乙女のルディちゃんの口からは、それ以上は言えなーい!

 何を想像して欲求不満を発散していたの?

 

 と、下衆の勘繰りは程ほどに。

 父親をからかうのも、先生に邪推を重ねるのも無垢な子どもに似つかわしくない。

 

 

「まあなんだ。弟か妹が生まれるのを期待していてくれ。そうとしか今は言えん」

 

 

 苦し紛れに、ラインギリギリの返し。おいおい、墓穴を堀りかけてるぞ。

 

 

「こほんっ、パウロさんもそれくらいにして。ルディが動けないようなので、家の中へと運びましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 ロキシーの機転でこの場は切り抜けられた。

 彼女は真面目な性格だからな。

 

 猥談に興味はあっても耐性が無いんだ。

 ちなみに俺は前世じゃ、あらゆるジャンルのエロゲーをプレイしてきた。

 

 並大抵のエロトークでは俺を後退させられんよ。

 しかし、俺がエロゲーの主人公なら、早々にロキシーのフラグを立てて攻略するんだが……。

 

 あいにく、今の俺には先生属性持ちのロリっ子は攻略不可ヒロインである。

 泣く泣く諦める。

 

 パウロに背負われて自宅へ戻る。

 お湯で濡らしたタオルを持って待ち構えていたリーリャ。

 お疲れ様、という労いの言葉を受け取り、身体を清めた。

 

 

「なあに? 今日はやけに楽しそうだったじゃない」

 

 

 ゼニスが俺たちに向けて嫉妬気味に問う。

 仲間外れにされた気分ってか。

 

 

「まあな。ルディが体力を付けたいって言うから、ちょいとな」

 

「そう、鍛えてあげてたのね。うん、ルディったら、親の私たちが何も言わなくても成長しちゃうんだから。少し寂しいわね」

 

 

 現在の俺は上昇志向の塊だ。

 たしかに親の目が離れた隙に自分磨きをしている。

 

 だが、それはパウロとゼニスの娘という立場があるからこその向上心だ。

 

 たぶん、俺は彼らに見捨てられたくないのだ。

 自分の価値を示すことで、その縁を繋ぐ。

 

 そんな歪な精神性。自覚はしている。

 

 もしもルーディアという人間が落ちこぼれでも、2人の人格上、決して見捨てたりはしない。

 

 変わらぬ愛情を注いでくれるのは想像に難くない。

 でも、やっぱり、ああ、……上手く言葉に出来ん。

 

とにかく俺は気に入っているのだ。

 この家族を、この生活を──。

 

 

「どうしたの、ルディ? 神妙な顔なんかしちゃって」

 

「いえ、今日はいっぱい動いてお腹が空いたなーって」

 

「あらあら。ご飯の支度をしなくちゃ! リーリャ、手伝って」

 

「かしこまりました、奥様」

 

 

 粛々とゼニスと協力して動くリーリャ。

 炊事場に向かう直前、ロキシーに何かを耳打ちしていた。

 

 ロキシーはというと、口をへの字にしていた。青褪めているようにも見える。

 

 

「どうしました、先生?」

 

「いえ、その……。晩御飯にピーマンが……」

 

「ピーマン?」

 

 

 ロキシーはピーマンが苦手のようだ。見た目通り子どもっぽい食べ物の好き嫌いだ。

 

 

「苦手なら先生の分のピーマンを、私が代わりに食べてあげましょうか?」

 

「いえ……、それは結構です。教え子に苦手な物を押し付けたとあっては、先生としての名折れです。我慢して食べますよ」

 

「頑張ってください、先生……」

 

 

 苦し気に話す。

 ふむ、俺の中での師匠の株が上がったぞ。

 

 その後、夕飯に出てきたシチューには、がっつりとピーマンが入っていた。

 

 鼻をつまんでピーマンを口に放り込むロキシーの姿は、家族みんなの笑いを誘う。

 終始、賑やかなムードに包まれる食卓だったと言っておこう。

 

 

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