無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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39話 祖母の危機

「お姉ちゃん、元気になったね!」

 

 

 ケラケラと笑うノルンはご満悦。

 意気消沈していた俺の顔は、彼女にとっては不安の種だったらしく、今のこの状況は好ましい。

 

 テレーズに相談後、エリスとルイジェルドと共に今後の方針を論議した。

 力を示すと言っても、先日は神殿騎士との交戦でマイナスの印象を与えてしまった。

 

 負けたのだ。

 勝とうと思えば勝てた戦闘に無様にも土下座までして完膚なき敗北。

 ただ俺は戦闘が下手ゆえに、手心を加えた戦いというものが苦手だ。

 勢い余って殺そうものなら、ゼニスに顔向け出来ない。

 

 ルイジェルドならば、敵を殺さずに無力化出来たのだろうが。

 俺の得意とする昏睡(デッドスリープ)は容易に対応されてしまったし、手に余る相手なのは確かだ。

 

 

「ごめんね、ノルン。お母さんと離ればなれにしちゃってさ」

 

 

 俺を追いかけてくれた事は嬉しいが、こんな不甲斐ない姉よりは母親の下に居た方が、この子の為である。

 ノルンだけでもラトレイア家に帰すべきか。

 無策なまま近づけば、俺は捕縛されかねないし、ルイジェルドは立場的にも不味い。

 エリス辺りならば……頼んでみるか?

 

 

「エリス、ノルンを引き渡しにラトレイア家へ行っていただけませんか?」

 

「イヤよ。この子、あなたのそばに居たいって話してるじゃないのよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 というかエリスさん、ノルンを第2の妹として可愛がっている様子。

 膝に乗せて両腕を回して抱き込んでいる。

 

 

「ノルンもお姉ちゃんと一緒に居たいわよね!」

 

「うん、お姉ちゃんの事をもっと知りたいもん」

 

 

 良心が痛む……。

 なぜ俺は周囲にこうも優しくされるのだろうか?

 それほど弱々しく映るのだろうか……。

 虚勢を張っているつもりはないのだが。

 こうも精神的に不安になり始めたのは魔大陸へ転移して以降だ。

 

 リカリス付近の石化の森での失敗に端を発し、ザントポートでの奴隷解放、そしてガルスの一件。

 この1年半もの間の俺は失敗続きだ。

 

 性別が関係している?

 というのも否定は出来まい。

 俺の人格自体は男ではあるが、肉体は生物学的には女性だ。

 つまり脳も女性型。

 精神との剥離でバランスが崩れてきているのかもしれない。

 

 クレアに対して売り言葉に買い言葉になったのも、キレ易くなったのも、自意識の不安定さゆえだろう。

 性格的に相性が悪いというのも要素として大きい。

 元々、母親と喧嘩別れしたゼニスの娘である俺なのだ。

 血筋的にも十分にあり得る。

 

 

「エリスお姉ちゃん! お姉ちゃんの事、お願いね?」

 

「もちろんよ。ルーディアは私が守るわ!」

 

 

 ノルンのお願いを安易に引き受けるエリス。

 うん、まぁ……。

 元々彼女は俺の身にも守る事に関しては常に気を張り巡らせていた。

 気が休まらないだろうに、これまでも良く頑張ってくれたものだ。

 俺の存在が彼女の負担となってなきゃいいが……。

 姉として妹を守るのは当然だ! と、常日頃から口にしている。

 妹キャラってことか、俺は。

 

 

「ルイジェルドさんには引き続き、ノルンの護衛をお任せしてもよろしいでしようか?」

 

「あぁ。子どもを守る事は俺の使命のようなものだ。負担にはなり得ない」

 

「ありがとう、ルイジェルドさん」

 

 

 そうなると、残される問題は力の示し方。

 いまクレアの下を訪れ『私は魔王バーディガーディでさえも倒せるくらい強いんですよ!』などと言っても、信憑性は低い。

 適当にあしらわれて、屋敷のどこかに閉じ込められるのがオチだ。

 

 となると冒険者として名を上げるとか?

 デッドエンドは現在Aランクパーティー。

 その気になればすぐにでもSランクへの昇格も可能だ。

 かの有名な黒狼の牙と同じである。

 自衛力を証明するに不足無し。

 

 しかしそれでは路銀稼ぎが困難になる。

 Sランクともなれば受注可能な依頼の範囲がS~Aランクに限定される。

 やたら日数が掛かり、危険度も増すような内容ばかりだ。

 コンスタントに稼げるBランク依頼を、みすみす手放すのは惜しい。

 

 

「良い案が出ませんね」

 

「ならこうすれば良いのよ! 私がルーディアを襲う暴漢のフリをして、あなたが返り討ちにするのよ!」

 

「バレたらどうするんですか? それにここミリシオンでは厳重な治安維持体制が敷かれています。すぐに取り押さえられた挙げ句に、芝居を打っていたことがクレアお祖母さまの耳に入ってしまいます」

 

「じゃあ却下ね」

 

 

 妙案とはすぐには思い浮かばないものだ。

 議論を重ねている内に昼時となる。

 宿の隣の飯屋で食事にでもしよう。

 意外と食卓でのなにげない会話にヒントが隠されているかもしれない。

 

 

──

 

 

 食後のデザートに舌鼓を打っていると、店主からふとメモ書きを渡される。

 他の客からの伝言のようだ。

 このタイミングで接触を図る者となれば、ラトレイア家の手勢かと思われたが──。

 どうやら違うらしい。

 

 

「内容は?」

 

「今からお話します」

 

 

 ルイジェルドの問いに答える。

 要約すると、このメモ書きを渡してきた相手は、ミリス教団の教皇派の人間。

 ラトレイア家のお家騒動に際して、協力する準備があるという申し出だった。

 それは内部干渉ってやつじゃないのか?

 クレアからしたら面白い話ではないだろう。

 

 外部の人間、それも対立する陣営の手を借りては、余計に反発を受けてしまう。

 教皇派とは関わらないでおくのが吉だ。

 俺を使って内部からラトレイア家を切り崩す腹積もりなのだろうが、その思惑には乗らない。

 

 それにエリスは教皇派の刺客を殺してしまった。

 恨みを買い、背中を刺されかねない。

 いまいち信用ならん。

 

 その場でメモ書きを破り捨てる。

 

 

「良いのか?」

 

「構いませんよ。本格的にラトレイア家と敵対しては、この国に滞在しづらくなりますから」

 

 

 出来ればルイジェルドの件で便宜を図ってもらいたい。

 今ではなく今後、ラトレイア家の力を借りるかもしれない。

 あの家の発言力は高いからな。

 無為に対立するのも、自ら選択肢を潰す悪手だ。

 

 1度は襲撃を企てた俺が何を言うんだって話だが。

 あの時は冷静ではなかった。

 落ち着いた今ならば大局を見ることが可能だ。

 

 

「この町での滞在は長引きそうですね。すみません、旅に支障を出してしまって」

 

「気にするな。俺の人生の中での数年。誤差の範囲だ」

 

 

 長寿種族のスペルド族の彼からすれば、多少の足留めはタイムロスには感じないのだろう。

 

 

「家族に関わることだもの。妥協は出来ないわよね」

 

「エリスにもご迷惑をおかけします」

 

「いいのよ。ルーディアには昔、ボレアス家の問題に巻き込んだ事があるもの。おあいこね」

 

 

 ボレアス家でのエリス誘拐事件。

 まだ気にしていたのか?

 

 

「考えても答えが出ないのなら、真正面から挑めば良いのよ! ルイジェルドも連れて行けば、絶対に負けないわ!」

 

「いや、そうすると話が拗れちゃいます。いかに穏便に事を進めるのか。それに頭を抱えているんですよ」

 

 

 明確な案も上がらず食事の時間を終えた。

 

 

──

 

 

 部屋でくつろいでいると、ドアをノックする音が鳴る。

 警戒するルイジェルド。

 彼の額の生体センサーが、ただならぬ者の来訪を知らせる。

 

 

 

「この足運び、全うな者ではないだろう」

 

 

 足音からの判断だろう。

 教皇派の人間か?

 それともラトレイア家の刺客?

 判断しかねていると扉越しに名乗りがあった。

 

 

「『教皇派』の者です。お返事いただけないようなので、こちらからお迎えに上がりました」

 

「こちらに協力を求める意思は無いのですが?」

 

 

 教皇派の人間だったか……。

 魔族迎合派と名乗るから、当初は好印象を持っていたが、今やそのイメージは地に堕ちた。

 結局は薄汚い権力闘争の末に周囲を巻き添えにするような連中だ。

 俺からすれば教皇派も枢機卿派も、どっちもどっちである。

 

 

「返答が無いようであれば、貴女様の御母上と御祖母様の身に何か起きるやもしれません」

 

 

 は?

 なに、脅すつもりなの?

 

 勢いで扉を開けてしまう。

 見た目はいたって普通の女性。

 手荒な真似とは無縁そうなこれと言った特徴の無い人物。

 

 

「可能性の話です。こちらとしても、表立って何かしようという意思はありませんので」

 

「あんたなぁ……!」

 

 

 表立ってしないというのなら、裏で仕向けるつもりだろ?

 ルイジェルドはノルンを背に庇い、エリスは鞘に手を添える。

 

 

「ミリシオン郊外の森。そこに答えはあります。来ていただければ幸いです」

 

「何を企んでる……?」

 

「何も……。しかし、貴女にとっては都合の良い事かと。後の処理の際、貴女の身柄があれば交渉が捗るのです」

 

 

 つまりはゼニスとクレアに刺客を差し向けるつもりだ。

 ラトレイア家の敷地内に居る限りは、手を出せないはずだが……。

 

 もしや、郊外の森に2人あるいはクレア一人を誘き寄せた?

 教皇派の人間は不敵な笑みを浮かべると踵を返して去っていった。

 後に残るのは不安という感情のみだ。

 

 

「2人とも、今の聞きましたか?」

 

「あぁ、お前の推測通りだろう。ルーディアの祖母クレアは敵に誘い込まれているのだろう」

 

「殺すって……事でしょうか?」

 

「だろうな」

 

 

 それは……望んじゃいないことだ。

 相容れる事は無かったが、クレアはゼニスの実の母親だ。

 ゼニスは確かに母親との仲は良好とは言えない。

 この一年半もの期間もずっと反目してきた事だろう。

 だが、死んで欲しいとまでは思わないはず。

 死ねば母親の死を悲しむ。

 ゼニスは愛情深い人間だ。

 

 もしも俺と喧嘩別れをしたとしても、決して見捨てたりはしないだろう。

 

 それに俺だってあの人と和解出来ないまま終わるというのは、納得がいかない。

 断じて容認出来ない。

 分かり合えなくとも、気にしない。

 せめてお互いに生きて、いがみ合うくらいで一向に構わないのだ。

 

 不思議なものだ。

 どれだけ憎み合っていても、肉親というものには情が湧くのだから。

 

 

「俺とエリスで向かいます。ルイジェルドさんは、ノルンを安全な場所へ!」

 

「あぁ、行くのだな?」

 

 

 ルイジェルドと共に戦えば、一瞬で決着がつくだろう。

 でもそれでノルンの身に何かあっては本末転倒である。

 戦力不足は否めないが、俺とエリスで事に当たるしかない。

 

 

「エリス、私に付いてきてもらえますか?」

 

「聞くまでも無いわ! ルーディアのお祖母さんを助けましょう!」

 

 

 快諾を得た。

 不安は尽きないが、俺は血の繋がりに導かれて、死地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

──クレア視点──

 

 

 娘のゼニスがラトレイア家を出奔して幾数年。

 一年半前になって、唐突に帰ってきた。

 そのそばにはクレアにとっての孫娘ノルンの姿。

 

 転移災害の発生が正式に発表されたのは、そのしばらく後。

 経緯はともあれ、長くミリス大陸より離れていたゼニスは自分の下へと戻ってきた。

 

 娘のゼニスは手の掛からない子であった。

 自分の教育方針に文句一つ言わず、粛々と従い、ミリス貴族令嬢に相応しい振る舞いを身につけた。

 

 将来は母である自分の用意した縁談で嫁ぎ、女としての幸せを手にするものだと考えていたが、ある日、言い争いの末にラトレイア家を飛び出してしまう。

 

 馬鹿な娘だ。

 女一人で生きていくなど、貴族社会に生きたあの娘では不可能だと断定する。

 しかし、予想に反してゼニスは家庭を築き、幸せな生活を送っていたという。

 転移災害さえ無ければ、クレアとて反論はしなかっただろう。

 

 だが現実に一家は離散し、絶望の淵に立たされているではないか。

 母に従わぬから、悲惨な目に遭うのだと哀れむ。

 

 同時に、娘を助けなければとも思った。

 他に頼るアテの無い愛娘と孫。

 自分が世話を見てやらなければ、ことさらに不幸となるだろう。

 愛する家族の為、一肌を脱ぐ。

 

 ゼニスとノルンの保護からしばらくして、捜索願いを出していたもうひとりの孫娘ルーディアが、姿を現した。

 

 一目見た瞬間、驚愕する。

 その姿かたちが、あまりにも娘のゼニスに似ていたのだから。

 ゼニスは治癒魔術を扱えたが、戦えぬ子であった。

 その先入観が孫娘ルーディアにも適用され、クレアの目を曇らせる。

 

 たとえ、水聖級魔術師の肩書きを持とうと、クレアにとってはか弱い孫娘。

 全力で守らなければ。

 手段を問わず、ルーディアの幸福を願い、鬼の心で対応してしまう。

 

 縁談の件は話半分だ。

 ミリス貴族には望まぬ婚姻などありふれている。

 しかし、幸せな家庭というのは後から出来上がるもの。

 いずれは親に、あるいは祖母に感謝して、理解する日が来るだろうと構えていた。

 

 だが四女テレーズは反発し、ラトレイア家から放逐した。

 その後、成果を示したことから和解を許し、受け入れはしたが。

 

 その経験から、結婚が絶対的な幸福とは思えなくなっていた。

 ラトレイア家の次女は嫁ぎ先で、権力争いに巻き込まれ、命を落としたという出来事も起因している。

 

 だからルーディアが拒否するのなら、縁談なども白紙にする意思でいた。

 しかし、強く出ねばゼニスのように自分の下から離れていく気がした。

 多少の脅しのつもりで縁談をちらつかせ、従順になったところを手厚く世話を見てやるつもりでいたのだ。

 

 だが想定以上にルーディアは暴れた。

 これは不味いと判断し、クレアは物語の敵役のような精神で孫娘を追い詰めてしまう。

 

 クレアはルーディアを孫として愛している。

 一目見た瞬間から、自分の手で何としても守ると決意していた。

 庇護欲を掻き立てられたのだろう。

 そうでなくとも、孫の身を案じるのは当然のこと。

 

 土下座などされた時には胸が締め付けられる思いとなる。

 自分はそこまで孫娘を苦しめるつもりなど無いのに、ルーディアは泣きそうになりながら懇願する。

 

 もう止めよう。

 こんなやり方ではルーディアを悲しませるだけだと自身を責め立てる。

 ただ一旦、ルーディアをラトレイア家で保護し、気持ちが落ち着くのを待とうとした。

 

 結果として逃げられはしたが、今度は優しく接してあげよう。

 失敗から学び、次からは本心を打ち明けて話し合おう。

 そう考えた矢先のこと。

 

 教皇派の手勢が、ルーディアの身柄を拘束したとの報が入った。

 場所はミリシオン郊外の森。

 そこに孫娘を人質に、教皇派が待ち構えている。

 

 彼らの要求は一つ。

 孫娘の引き渡しを条件に、枢機卿派からの離脱。

 そのような無茶な要求、断じて飲み込めるものではない。

 されどルーディアの命が掛かっている。

 ラトレイア家と孫娘のどちらを取るのか。

 苦渋の決断を下す──。

 

 クレア・ラトレイアが選んだのはルーディアであった。

 ラトレイア家が取り潰しになることは、先祖代々紡がれてきた歴史に泥を塗るようなものだ。

 だが家柄に固執して、最愛の孫を見捨てるなど、今は亡き両親もあの世で嘆くことだろう。

 

 正しくあれ──。

 

 クレアはその言葉を胸にこれまでの人生を生きていた。

 そしてその正しい生き方こそ、孫を守ること。

 ゆえにクレアは、覚悟を決めて指定された場所まで赴いた。

 

 ゼニスは屋敷で厳重に警護させている。

 交渉の場にも身内の神殿騎士を付けて、万全の用意で臨んだ。

 

 だがそこにはルーディアの姿は無かった。

 待ち構えていたのは教皇派の刺客。

 神殿騎士すらも容易く葬る手練れの暗殺機関。

 

 護衛に付けていた神殿騎士たちは5分と持ちこたえられずに絶命。

 残されたクレアもすぐに後を追うことになる。

 

 

「ルーディアはどこへやったのです……!」

 

 

 孫の居場所を問う。

 

 

「貴女の孫はここには居ない。ただし、貴女の死後、この場所へ現れるだろう。祖母の骸を前にして、嬉々として感謝することだろう。その後、我々の陣営に引き込むのだ」

 

 

 そうか、そうなのか。

 ルーディアはきっと自分を恨んでいる。

 だから憎き祖母を討った教皇派に感謝し、御輿に担がれラトレイア家を乗っ取るつもりなのか。

 

 いや、ゼニスの娘がその様な計略に耳を貸す筈がない。

 何も知らぬ子どもが政争に巻き込まれ、ただ翻弄されてゆく。

 絶望の未来だ。

 悲観的な将来予想だ。

 

 ゼニスやノルンへの態度から見て、ルーディアは優しい子なのだ。

 自分などよりも、よほど素直で真っ直ぐな家族愛。

 彼女ならば誤解を招くこと無く、家族との仲を、そして未來を繋いでいけるはず。

 

 どうか、祖母亡き後に幸福な未来あれ──。

 

 死を受け入れ、刺客の刃の到達を待つ──。

 凶刃が迫り、間もなくクレア・ラトレイアの生涯は幕を下ろすことだろう。

 

 

 そして──。

 

 

「クレアお祖母さまっ……!」

 

 

 声が聞こえた。

 孫娘の声だ。

 ルーディアは祖母の死を待たずして駆け付けて来たのだ。

 

 視線を向ければ必死の形相で魔術攻撃を刺客へと放つルーディアの姿。

 あぁ……、やはりあの子は優しい。

 こんなにも偏屈でわからず屋の自分などを助けようとするのだから。

 

 そしてクレアは、孫娘ルーディアの強さを、間近で視る──。

 

 

 

 

 

 

──ルーディア視点──

 

 

 間に合った。

 ギリギリではあったが、クレアは無事だった。

 

 教皇派の刺客らが祖母を取り囲み、嬲り殺しにしようとしていたが、咄嗟に放った水弾(ウォーターボール)が、刃を振り下ろそうとした敵の1人を屠る。

 

 残る数は20人。

 対してこちらは俺とエリスの2人のみ。

 10倍もの戦力差だ。

 数の不利を覆すだけの力量が俺たちに有るのか……。

 いや、怯むな。

 やらなきゃクレアが殺されてしまう。

 

 俺は家族を見捨てない。

 クレアだって俺にそう言ってくれた。

 

 

「どうして……。私などを……」

 

 

 クレアが言う。

 なぜ自分に情けなど掛けるのかと。

 

 

「お祖母さま。()はあなたが嫌いだ。けれど母さまの家族だ。認めたくないけど、俺にとっても家族だ」

 

「私を家族と認めるのですか……? あれだけの事を、貴女へした私を許すおつもりで……」

 

「許すかどうかは後で決めます。とにかく今は、あなたを守らせてください」

 

 

 結論など後回しだ。

 眼前の敵を片付けることが先決。

 

 今度は殺し有りの本気の闘い。

 不覚を取るつもりはない。

 序盤からクライマックスだ。

 杖に魔力を充填、瞬時に帝級威力の水弾(ウォーターボール)を正面に放つ。

 

 目視してから回避する者が半分。

 残りの半分は一瞬にして肉片一つ残さずに消滅した。

 

 続いてエリスが駆ける。

 踏み込んでから、いつの間にか使えるようになっていた()()()()を繰り出す。

 

 複数人の脇を瞬きの合間に駆け抜け、直後、敵たちの胴体が両断される。

 上半身の落ちた下半身が数秒遅れで倒れる。

 強い、エリスはもはや剣聖と同等以上の実力だ。

 

 あと5人。

 いける。

 俺とエリスなら、勝てる戦いだ。

 

 が、奴らも戦況の悪化を察してか、卑劣な手に打って出る。

 煙幕玉を地面に叩きつけると、モクモクと煙が立ち込め、視界を奪い去る。

 

 即座に風魔術で煙を払うが、刺客の手の中にはクレアの身柄があった。

 人質に取ろうってわけか?

 

 だが俺は躊躇わない。

 奥の手というものは後に取っておくものだ。

 人質に怯むフリをして、これみよがし悔しがる演技をする。

 

 悦に浸る敵の背後から()()ジェ()()()の槍が首をはねた。

 

 絶命した刺客から解放されたクレアは、何事かと困惑してる様子。

 敵も唐突な増援に緊張が走ったのか、硬直している。

 生まれた隙を見逃さない。

 

 俺、エリス、ルイジェルドの3人で、陣形の瓦解した残党を掃討し、暗殺集団を壊滅させた。

 

 奥の手とはルイジェルド・スペルディアの参戦。

 彼は安全な場所(ラトレイア家)へノルンを預けてから、この戦場に駆けつけてくれたのだ。

 

 

「終わりましたよ、クレアお祖母さま」

 

 

 へたりこむクレアを立たせるべく手を差しのべる。

 少し躊躇してから彼女は、ゆっくりと俺の手を取る。

 

 

「ルーディア……。私は貴女の強さを見くびっていました。貴女は……私の手など取らずとも、自分の身を守れたのですね──」

 

 

 図らずもクレアは俺を認めてくれているらしい。

 思ってもみなかった収穫だ。

 火事場に乗じて利益を得ているようで、いたたまれなくなる。

 

 

「私は1人では弱いですよ。でも仲間が居る。エリスと、そして彼はスペルド族ですが、とても頼りになる優しい兄貴分のルイジェルド」

 

「スペルド族? では魔族……」

 

「魔族なら何です? 貴女を救ってくれた恩人ですよ」

 

 

 少し考えてからクレアは言う。

 

 

「そうですね、恩人です……。ルイジェルドさん、あなたに感謝を」

 

「礼には及ばん。仲間の家族なのだ。当然の行動だ」

 

 

 魔族排斥派の筆頭貴族のクレアが、ルイジェルドへと頭を下げた。

 それも深々と。

 

 

「エリス嬢。貴女にも礼を言います。この度は私の命を救っていただき、感謝致します」

 

「礼には及びませんわよ。ルーディアのお祖母様だものでしてよ」

 

 

 無理して敬語を遣う為か、可笑しな口調になるエリス。

 クスリと笑う我が祖母。

 

 

「ここミリシオンまでルーディアを守っていただいたこと、大変感謝しております。ラトレイア家を代表してお礼申し上げます」

 

 

 それはもう土下座する勢いの謝意だった。

 俺の土下座とは違い、情けない部分など欠片も見受けられない。

 

 

「ルーディア……。これまでのことを全て謝ります。私が間違っていたのです。貴女の気持ちを省みずに……」

 

「いえ、クレアお祖母さまなりの優しさだったのでしょう?」

 

「ですが……。縁談などと脅しを掛けていたのは事実です。もちろん、縁談など白紙にしますので安心なさい」

 

 

 つまりアレか?

 クレアは本心から俺を守ろうとして、自身の無茶振りも自覚していたと。

 ほんの僅かなボタンの掛け違いで、俺は祖母と大喧嘩したってわけか。

 くそっ、なんて間抜けな。

 

 

「ルーディア、貴女に私の気持ちの全てを伝えたいと思います。どうかラトレイア家にお越しください」

 

「喜んで──」

 

 

 もう俺はクレアとは喧嘩しない。

 彼女を家族だと認めよう。

 分かり合えないなんて決めつけた過去の自分を恥じる。

 

 さて、事後処理はラトレイア家の人間に丸投げだ。

 こうなった以上、俺の手に余る事態となっただろう。

 教皇派はクレアの暗殺に失敗し、隙を見せた。

 これから熾烈な派閥争いが勃発する。

 精々、巻き添えを食わないように身の振り方を考えよう。

 

 そして俺は、祖母クレア・ラトレイアと手を繋いで町へと戻るのだった。

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