無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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40話 ラトレイア家の団欒、パウロとアレク

 教皇派──というよりは、教皇の思惑から外れた過激派の暴走という事で片はついたらしい。

 しかし枢機卿派に攻撃される口実を与えたのもまた事実。

 今や枢機卿派及び魔族排斥派が優勢に傾いている。

 ミリス神聖国じゃ、ますます魔族排除の指向が強まることだろう。

 

 ただ、ラトレイア伯爵家としては、スペルド族だけは魔族ではなく、大森林の亜種族同等の扱いをすると表明。

 少々釈然としないが、ラトレイア家なりの最大の譲歩だろう。

 これ以上を望むというのは贅沢ってもんだ。

 所属派閥内の立場も危ういだろうに、むしろそこまで配慮して貰えた事に感謝の念が尽きない。

 

 そして俺たちは宿を引き払い、ラトレイア家に滞在する事になった。

 もちろん、ルイジェルドも客待遇でお出迎え。

 ノルンも彼に懐いているようだし、良い傾向だ。

 

 旅費についてもラトレイア家が提供してくれるとのこと。

 その額は残りの旅路の上で多少の浪費をしても尽きないほどの金額。

 節約の意識は欠かさないつもりではあるが。

 

 ミリス大陸南西部のウェストポートから中央大陸に渡る際、スペルド族の渡航費は高額になるらしいが、俺の祖父でラトレイア家の入婿であるカーライルお祖父様にご一筆頂いた。

 彼は神殿騎士団の複数あるグループの内の一つ、剣グループの大隊長という地位にある。

 ラトレイア伯爵家の名前と神殿騎士団の大隊長の肩書き。

 この書状があれば渡航費は免除されるだろう。

 

 それにプラスして、別途、ルイジェルドは知人から書状を受け取っている。

 ミリス教団・教導騎士団団長ガルガード・ナッシュ・ヴェニク。

 ルイジェルドは彼をガッシュの名で呼ぶ。

 

 ガッシュが若い頃に教導騎士団の活動の一環で、魔大陸南部に遠征した際に、命の危機に瀕したらしい。

 そこをルイジェルドに救われ、交流を深めたそうだ。

 古い知人ってのは、ガッシュのことか。

 

 正直、カーライルの書状だけで事足りるし、俺の顔から、ラトレイア家に連なる子女であると証明出来る。

 書状の信憑性を疑うアホは居ないだろう。

 だがせっかく書いて貰ったのだ。

 ガッシュ氏のご厚意を素直に受け取ろう。

 

 さて、祖母クレアは俺の旅立ちを許可してくれた。

 孫娘の強さを目の当たりにして、認めざるを得なかったようだ。

 頑なに止めようとしていたのは、俺がゼニスに似すぎていた為、守るべき子どもだという認識が強まったという理由らしい。

 

 あとは色々だ。

 口下手で誤解を生んで申し訳ないだとか、本心から孫として愛しているとか、沢山の話をしてもらった。

 なんていうかね、勘違いって怖いよね?

 って話だ。

 

 ゼニスとノルンの処遇について。

 どうやらゼニスは、俺が来るまでの間、町へ家族を探しに行こうと何度も屋敷を抜け出そうとしたとか。

 その度に止められ、自傷行為に走るまでに精神状態は悪化。

 やむにやまれず、軟禁状態が強化され、長引いた。

 ただし今のゼニスの状態であれば、外出も護衛を付けた上でなら許可が降りそうだ。

 

 さすがに街中じゃ人目を気にして刺客も襲ってこまい。

 魔族排斥派の神殿騎士団からも、多数人材が派遣されるというし、一応の安全は確保された。

 クレア暗殺未遂という事件があったのだ。

 ミリシオン全体で監視の目は強まり、両陣営ともむやみに動けなくなった。

 

 それに、魔族排斥派の方も、似たようなやらかしをしていたらしく、暗殺など日常茶飯事らしい。

 例を挙げると、現教皇の息子夫婦もそういった争いの中で敵対的派閥の手に掛かり命を落としたのだとか。

 生き残った孫は孤児院に預けられたとのこと。

 

 暗い話はこれくらいにしておく。

 

 ゼニスとノルンは当面の間、引き続きラトレイア家で暮らす。

 クレアとの話し合いで、パウロの迎えを待つという流れに話は纏まった。

 ゼニス、ノルン、俺の無事を報せる手紙を何通もフィットア領捜索団宛に送ったそうだ。

 届く頃には一年以上経っていそうだが。

 

 で、ミリス教団内での権力闘争が激化した影響で、教皇の実の孫が海外へ避難する事になったらしい。

 名前は確か『クリフ・グリモル』といったか。

 魔術の才能に溢れた少年らしく、エリスも彼とゴブリン退治の際に会ったらしい。

 鼻持ちならない性格だが、そこまで悪い奴ではなさそうだ。

 

 彼も気の毒に。

 身内の暴走で故郷を離れる事になってしまったのだから。

 まぁ、今後会うことは無いだろう。

 俺とエリスの行く着く先はアスラ王国だし。

 

 

──

 

 

 1週間ほどラトレイア家に滞在する予定だ。

 旅の疲れを癒しつつ、家族とゆっくりと過ごす。

 旅費の心配が無くなり、心は穏やかなものだ。

 町も観光したい。

 が、まずは家族との時間だ。

 

 気を利かしてエリスとルイジェルドは席を外す事が多い。

 ラトレイア家敷地内の修練所に缶詰めである。

 衛兵たちに稽古をつけてやってるみたいだ。

 ルイジェルドとの貴重な戦闘経験は確実に成長の糧となる。

 ラトレイア家の警護レベルが飛躍的に上昇する事だろう。

 ゼニスとノルンの身の安全にも貢献するはず。

 

 食事会が開かれた。

 参加者は俺、ゼニス、ノルン、クレア。

 10日に1度しか帰って来ないというカーライルお祖父様とは、数日前に書状を書いて貰った際に会話を交わしている。

 今回は予定が合わずに不在だ。

 

 エリスとルイジェルドも同席している。

 クレアにとっての恩人だし、是非参加して欲しいという事らしい。

 ノルンもルイジェルドの参加を望んでいた。

 やたら懐いているようだが、ルイジェルドの大人の魅力に惹かれでもしたのだろうか?

 男を見る目があるね。

 

 

「それじゃあ、ルディとお母様は和解したのね?」

 

「えぇ、私はクレアお祖母さまの事が大好きですよ」

 

 

 母親に対して惚気る。

 基本、堅い口調のクレアだが、会話の節々に気遣いの心が感じられた。

 以前はもっと我が子に対しても高圧的だったらしいが、ゼニスやテレーズとの関係の失敗から、態度を改めたと本人は話している。

 特に今回の件が響いていると見た。

 

 

「ルーディアは聡い子です。少々、お転婆が目立ちますが、それも個性なのでしょう」

 

「今からでも淑女としての振る舞いを学ぶべきでしょうか?」

 

「いえ、それには及ばないでしょう。貴女はグレイラット家の人間です。私が口出しする事ではありません」

 

「でも私はクレアお祖母さまの孫ですよ」

 

「えぇ、変わらず孫として扱わせていただきます。しかしルーディアは、パウロ氏の子なのでしょう? 当主の教育方針に無い事を、無断で指導は致しません」

 

 

 ほう、彼女はパウロを認めている?

 

 

「きっと貴女がこうも真っ直ぐに育ったのは、パウロ氏の教育の賜物なのでしょう。誇らしいことです」

 

 

 ベタ褒めだな、おい。

 クレアお祖母ちゃんのデレ期が来た?

 

 

「お母様ったら、ようやくルディの可愛さに気づいたのかしら」

 

「そのようです。これまで我が子達への接し方を間違ってきた私には、過ぎた孫娘ですけれど。ゼニス……。貴女にも酷い扱いをしてしまいました」

 

「お母様らしくないわよ、人に謝るだなんて」

 

「今回ばかりは猛省しているのです。あまり卑屈になるのも品位を損ねるので、ほどほどに留めておきますが」

 

 

 ゼニスとの関係も、まだぎこちないながらも改善したか。

 やはり肉親が相争う姿は見ていられるものではない。

 親子仲の修復に一役買えたようで安堵する。

 

 

「ところでエリス嬢。ルーディアとはどのようなご関係で?」

 

 

 クレアの興味がエリスへと向く。

 自身の要望で食卓に並んでいた骨付き肉を貪り、エリスは数秒の咀嚼の後に回答する。

 

 

「私とルーディアは、姉妹よ!」

 

 

 あ、もう無理な敬語は止めたのね?

 

 

「義姉妹というわけですか。貴族令嬢の界隈では、良く見受けられる光景です。なるほど、ルーディアとは親しくしていただいている様ですね」

 

「将来も誓い合っているのよ。クレアお祖母様にも結婚式に参加してもらうから、待ってなさいね!」

 

「結婚……?」

 

 

 さしものお祖母さまも、眉根を寄せる。

 同性同士の婚姻などミリスには無い文化だ。

 要らぬ事をポロッと話したな、エリスは。

 

 

「こほんっ……。いえ、それもまたアスラ貴族の嗜みなのでしょう。彼の国は特殊な趣味嗜好をお持ちの方が多いようで。知っていますとも」

 

 

 無理やり自身を納得させているようだ。

 以前の彼女ならば、烈火の如く苦言を呈する立場にあっただろう。

 

 まぁ、もしもの話だが、アリエル王女辺りが王位に就けば同性婚の合法化も実現するかもな。

 別に肩入れするわけじゃないが。

 権力闘争の面倒さはミリス教団内のゴタゴタでウンザリだ。

 

 

「エリスちゃん、本当にルディとラブラブなのね? それにいつの間に将来を約束したの?」

 

「ルーディアの10歳の誕生日の晩よ。ゼニスさんにも、早く孫を見せてあげたいわね」

 

「孫……。あ、うん。女の子同士で子ども……?」

 

 

 混乱するゼニス。

 パウロでさえフィリップとの面談で困惑気味だった。

 とりわけ敬虔なミリス教徒であるゼニスには、刺激の強い内容か。

 

 てか、エリス。

 それ本気で言ってる?

 一応、俺もそういう研究をしちゃいるけど、大っぴらにはしてなかったのだが……。

 以前した約束の責任を取れるとも限らないし、保留ということにしておこう。

 

 

「ところでノルン? ルイジェルドさんの事がずいぶんと気に入ったようだね」

 

「うん、ルイジェルドさん。優しいもん。転びそうになった時も受け止めてくれたんだよ?」

 

 

 ルイジェルドの隣に椅子を寄せて座るノルン。

 普段は険しい表情の多い彼も、いまはどこか朗らかな顔つきだ。

 

 

「我が子を思い出す。男児ではあったが、幼い頃はこういった行動や反応を示していたな」

 

 

 懐かしみ、そして哀愁を漂わせる男。

 ノルンが頭を彼の肩に預ける。

 頭を撫でることを催促したらしく、ルイジェルドもそれに嫌な顔ひとつせずに応じる。

 

 

「ノルン、家族は大切にしろ」

 

「わかった!」

 

 

 改めて言うまでもないが、ルイジェルドは過去の経験から他者へも家族の大切さを説く。

 ますますルイジェルドの汚名払拭への活力が湧いてきた。

 今回、あまり彼の為に行動してやれなかった。

 ラトレイア家に受け入れられた事は、大きな一歩ではあるけど。

 

 

「ルイジェルドさん、ウチの娘達を良くしていただいてありがとうございます」

 

 

 ゼニスがペコリと頭を下げた。

 これまで俺とエリスを守ってくれたのはルイジェルドだ。

 これまでも、これからも世話になりっぱなしである。

 仮に俺が中身も純粋な女ならば、とっくに惚れ込んでいただろう。

 ノルンが父親相手のように甘えるのも頷ける。

 

 

「気にするな。俺は自分のやりたいようにしたまでだ。子どもを守るのは大人の義務だと考えている」

 

「立派なお方ね。どうかしら? ノルンが大きくなったら、お嫁さんに迎えていただくとか」

 

「ノルンの気持ち次第だ」

 

 

 ありゃ、否定しないんすか?

 ロリコン説あるよ、ルイジェルドは。

 てっきり、はぐらかすかと思ったけど。

 

 

「わたし! 大人になったらルイジェルドさんと結婚する!」

 

「そうか。成長して覚えていたのなら、考えておこう」

 

 

 微笑ましいような、危険な香りがするような……。

 触れないでおこう。

 ルイジェルドならば、万が一の事態も考えられまい。

 彼を疑うのは気が引ける。

 

 終始、食事会は和やかなムードで進行した。

 やや、エリスの発言や、ノルンのお嫁さん宣言で肝を冷やしたけど。

 

 

 

 

 

─アスラ王国首都アルス・王城シルバーパレス─

 

 

 パウロ・グレイラットはアスラ王により、出頭命令が下されていた。

 部下の北神カールマン三世アレクを従え、登城する。

 

 恐らく、七大列強入りの件で王家より聴取という名目で、意思を問おうというのだろう。

 アスラ王国に利する者か、害する者か──。

 

 無論、パウロにとってアスラ王国は母国だ。

 貴族社会を嫌って冒険者に身をやつしこそしたが、愛する家族と暮らす故郷である。

 害意など微塵も無い。

 

 ただ少しばかり不満はあった。

 フィットア領捜索団を組織するにあたって、国からの援助がごく限定的なものに留まっていたからだ。

 

 事情は多少なりとも分かる。

 フィットア領消失により、国力の低下が起きた。

 敵対勢力に隙を突かれぬ様に兵力の増強や、国内の情勢不安による内乱の防止。

 交易路の遮断による経済不況。

 

 生じた問題はフィットア領だけに留まらず山積していた。

 お陰で下りた予算は活動期間にして半年分程度。

 人員も常に不足し、1人当たりの労働負担も計り知れない。

 過労に倒れた者も少なくはない。

 

 以上の事から敵意までは抱かないまでも、文句の一つでもつけてやらねば、気が済まなかった。

 

 

「パウロ様、いかがされますか?」

 

「どうもしねえさ。とっとと謁見を終わらせて捜索活動に戻るだけだ。本来ならアレクには、ミリス神聖国に向かって貰いたかったんだがな。ノトス家の件で何か話があるかもしれん」

 

 

 ミリス神聖国には少数の人員しか派遣出来ていない。

 アスラ王国として協力要請を出してはいるが、家族に繋がる情報は依然として入ってこない。

 ゼニスの実家ラトレイア家にも問合わせたが、まともな回答を得られなかった。

 ならば自分の右腕とも呼べるアレクを送り込み、現地で本格的な捜索を始めたかったのだが……。

 

 この頃、自身の生家であるノトス家の動向が妙なのだ。

 自身が籍を置いていた頃の家臣の1人が、重大な情報を有していることを匂わせていた。

 その情報とは……十中八九、家族の安否に繋がる手掛かり。

 

 もしや愚弟ピレモンめが、家族の内の誰かを保護した上で、人質同然の扱いをしているのではないか。

 そう疑い始めた。

 場合によってはノトス家との対立を想定し、自身にとっての最高戦力であるアレクをやむ無く手元に置いているのだ。

 

 ノトス家の家臣団の半数以上はピレモンを当主に相応しく無いと不満を漏らしているらしい。

 パウロを新当主として担ぎ上げ、内乱を企てているという不穏な噂まで流れている始末。

 龍滅パウロの名はそれほどまでに内外への影響力が強い。

 列強の庇護下に加わりたいという臣下や、ミルボッツ領民が多いのだ。

 

 本音を言えばミルボッツ領など、どうでも良い。

 愛着が湧いているのはボレアス家の治めるフィットア領の方だ。

 

 だがパウロが見向きにせずとも、彼を慕う臣下の誰かしらが内乱を誘発する可能性も危惧される。

 その時になって矢面に立つのは、やはりパウロ自身。

 よって捜索活動の指揮にも影響が出始めていた。

 まったく、苛立つものだ。

 その上、アスラ国王による急な呼び出し。

 

 不敬な口を叩かぬよう、気を引き締める。

 やがて謁見の間へと足を踏み入れた。

 貴族の礼など随分と昔に忘れた。

 元々、ノトス家の問題児として家庭教師たちの授業などまともに聞いてこなかった。

 ゆえに威風堂々と肩を揺らしながら、国王の前に立つ。

 

 

「パウロ・グレイラット、出頭命令に従い参上した。で、用件ってのはなんだい? 国王様よお」

 

「な、貴様っ! 国王陛下に向かってなんと無礼なっ!」

 

 

 宮廷仕えの貴族の誰かが吠える。

 苛立ちを隠しもせずにパウロは舌打ちをしながら、その者を睨む。

 それだけで発言者は蛇に睨まれた蛙のように石化し、数秒後に失神してしまう。

 殺気を放ったわけではない。

 単なる気迫ですら常人には耐え難い圧力であったのだろう。

 

 

「余は貴様を咎めん。七大列強序列七位・龍滅パウロよ。急な呼び立てへの対応に感謝する」

 

「殊勝な態度だな。分を弁えてやがる」

 

 

 立場はどちらが上か。

 少なくとも今のパウロに歯向かおうという輩は、この王城には存在しない。

 

 

「単刀直入に訊こう。そなたは余の国、アスラ王国に仇なす者か?」

 

「話が早いな。安心しろ、あんたの国と敵対するつもりはない。こんな腐った国でも家族との思い出の地なんだ」

 

「そうか。ではノトス家についても、そなたの真意を問おう。余の耳にノトス家内乱を示唆する情報が入ってきておる」

 

「そいつもオレはノータッチだ」

 

 

 噂程度で踊らされる王家といのも滑稽だ。

 裏取りを済ませてから質疑に上げれば良いものを。

 

 

「よい、余も内乱により国が荒れる事を望まぬ。その回答を得られた事で国の安寧は保たれた」

 

「あぁ、そうだ。ピレモンの奴に伝えておけ。隠し事があるのなら早い内に打ち明けた方が身の為だとな」

 

「相わかった……」

 

 

 顔に手を当てて頷く国王。

 心労祟って今にも倒れそうだ。

 

 

「あぁそうだ。もう一ついいか?」

 

「申してみよ……」

 

「フィットア領消失の責についてだ。サウロスの叔父上に一切の責を追及するな。あの人には大恩がある。オレや娘だって敬愛する男だ」

 

「それは……」

 

「ジェイムズの野郎を槍玉に上げたらどうだ? 尤も、奴は既に片手の指を失った。それでチャラにするってのも構わないんじゃないか?」

 

「はぁ……。承知した……。領民を守れなかった責は国王である余が引き受けよう。任命責任は余にある……」

 

 

 いずれにせよサウロスはボレアス家の当主にも、フィットア領主の席にも戻れまい。

 けれど穏やかな余生を送れるようにパウロは便宜を図った。

 後の目下の問題は──。

 

 

「すまん。もう一つだけ要求させてもらおうか」

 

「なんだ……? 余はもう疲れた……」

 

「ダリウスの糞狸についてだ。奴はオレの娘に手を出した。いずれその首も貰い受けるが、よろしいか?」

 

「しばし待て。ただでさえ情勢が不安定なのだ。いまヤツに死なれては、更なる死者が出る」

 

「少しくらいなら待つさ。オレも現実の見えない馬鹿じゃねえ。ヤツからの資金援助を、いま切られちまったら困るんでな」

 

 

 ジェイムズを脅し、ダリウスに対して資金援助を取りつけたのだ。

 手段は……。

 ジェイムズの切り落とした指を書状に添えて送り付けてやった。

 断れば次はお前だと、名指しをしたのである。

 

 

「余からも一点よいか?」

 

「おう、いいぜ。オレの要求ばかり通させるのも悪いしな」

 

「パウロ・グレイラットよ。そなたは次期国王に何者を推すか?」

 

「誰でも良いだろ? 誰が王になったところで、この国に大した変化は起きねえよ」

 

 

 関心は無い。

 ただ、ノトス家の推す第二王女アリエルとは距離を置くつもりだ。

 アリエルとの接触は、とどのつまりノトス家へと近づく事となる。

 ならば積極的に関わろうという気にはなれなかった。

 

 

「もう行くが、構わないか?」

 

「うむ、時間を取らせて申し訳無い。詫びとしてフィットア領捜索団へ追加予算を下ろそう」

 

「それはありがてえ。あんた、実は良い国王なんだな?」

 

 

 上機嫌で讃えるパウロのなんと現金なことか。

 言葉を受け取る国王も、見守る貴族らも指摘は出来なかった。

 

 見守っていた内の1人、アリエル王女も、パウロ・グレイラットという男の底知れぬ覇気に圧倒されていた。

 そばに控えるルーク・ノトス・グレイラットもまた、自身の叔父に対して恐怖する。

 この場に彼の父ピレモンが居合わせたのなら、血を見る事になっていたやもしれない。

 守護術師フィッツは記憶喪失の身だが、パウロの顔に何かを感じた。

 

 

 そうしてパウロは謁見の間を後にして、部下のアレクに愚痴をこぼす。

 

 

「堅苦しい場所だったぜ」

 

「解ります。僕も一応、魔王アトーフェラトーフェの孫で王族なのですが、この国の格式張った雰囲気には馴染めませんね。お祖母様は礼儀よりも力を好む方なので余計に」

 

「あ? お前、王族だったの? それにしちゃあ、オレに従順じゃないか」

 

「パウロ様は僕の尊敬する上司ですので」

 

「は! 嬉しいねえ。お前の方が年上なのに慕ってくれんのは」

 

 

 アレクはパウロよりも10歳以上は年上だと言う。

 外見は若いのでつい子ども扱いしてしまうが。

 そんな幼い彼からは、北神流を学んでいる。

 元々、北神流上級の認可を受けていたパウロは基礎が仕上がっていた。

 アレクの取った弟子の誰よりも上達が早く、才能も示して見せた。

 つい先日には北帝の認定試験にも合格したほどである。

 

 パウロの肩書きとしては、『剣王』及び『北帝』。

 実際の技量は──。

 剣神流・神級

 北神流・帝級

 ──となる。

 

 水神流については相変わらず上級に留まっている。

 首都アルスには水神流宗家の道場があると聞く。

 アレクを連れて、この後にでも訪問するのも良いかもしない。

 

 

「よしアレク。城で溜まった鬱憤を水神流の道場で晴らしにいくぞ」

 

「水神流と言えば水神レイダ殿ですね。手合わせ願えれば良いのですが」

 

「北神のお前を無下には扱わんだろう。いくぞ、息子(アレク)よ」

 

「息子なんて恐れ多い──」

 

 

 妻子と離ればなれとなった今、パウロはアレクを擬似的に息子として扱っていた。

 娘としてはロキシーも居る。

 両者共にパウロの年齢を上回るが、些細な問題であった。

 

 そうしてパウロ・グレイラットは強さ求めると同時に、龍神オルステッドとの決戦に備える。

 ヤツが存在する限り、娘の身に危険が及ぶ予感がしたが為に──。

 

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