無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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41話 ミリシオン観光

 首都ミリシオン・ラトレイア家滞在4日目。

 本日は冒険者ギルド本部を訪れる。

 色々とトラブル続きで訪問の機会を逃していたのだが、ようやく状況も落ち着いてきた。

 ルイジェルドはノルンの子守りでお留守番。

 俺とエリスの観光デートってわけだ。

 

 ちなみに神殿騎士が数人、護衛の為に後ろからついてきている。

 カーライルお祖父様の部下だ。

 事件から間もないし、身の安全確保の対応である。

 デートの邪魔だとは思わない。

 

 大通りへ出ると、一際目立つ巨大な建物。

 銀色の外壁の4階建ての建造物こそが、冒険者ギルド本部。

 門を抜けて弾む心に導かれるがままに中へと入る。

 屋内は活気に満ちていた。

 剣士や魔術師、ギースのようなシーフ職の姿を確認出来た。

 

 ミリスというお国柄、治癒術師も多く見受けられる。

 自慢じゃないが、このギルド内で最も優れた治癒術師は俺だろう。

 聖級治癒魔術、聖級解毒魔術に加えて、治癒魔術関連で様々な技能を引っ提げている。

 

 自動治癒(オートヒーリング)

 地帯治癒(エリアヒーリング)

 自己流王級治癒魔術ノーブルヒーリング

 

 他にも細々とした技術・技能を開発済み。

 中でも有用なのは痛覚遮断だろう。

 腕が千切れる事に定評のある俺にとっては痛みを回避出来る事から重宝しているのだ。

 

 

「なんか全員、弱そうね」

 

「こらエリス。思ったとしても口に出してはいけませんよ。誰が聞き耳を立てているのか、分かったものではありません」

 

「ごめん、でも感想くらい言っちゃうわよ」

 

 

 ここら一帯に出現する魔物は弱い。

 魔大陸を踏破した俺が言うのだから、嘘偽りは無い。

 そんな魔物を対象に討伐依頼を受ける冒険者たち。

 その水準は魔大陸の冒険者と比較して著しく低下する。

 

 

「どうします? 旅費は既に十分に有りますけど、小遣い稼ぎに魔物退治の依頼でも受けますか?」

 

「楽しそうね! でもまずはギルドを探索しましょう!」

 

 

 子どものようにはしゃぐ。

 とはいっても、彼女もまだ13歳。

 遊びたい盛りだ。

 冒険者稼業を遊びだと例えるのは本職の方たちに申し訳無いか?

 いやまぁ、俺たちも本職だが。

 Aランクパーティー・デッドエンド。

 ミリス大陸を縦断あるいは横断する旅の中でも、積極的に名前を売っていこう。

 

 一階の受付やら待合室を適当に眺めた後に、二階へと上がる。

 このフロアでは武具や消耗品の販売、素材の買取・販売等を扱っている。

 ちょうど良い機会だ。

 消耗品の調達を行い、依頼を受ける装備を整えよう。

 ギルド直販の為、市場相場よりも一割ほど安く購入出来た。

 冒険者の総本山ともなれば、冒険者として活動しやすい環境が整っているようだ。

 

 三階へと移動する。

 軽食をとれるレストランがフロアを独占していた。

 朝食は十分な量を戴いたが、良い香りが漂ってきて食欲を刺激する。

 食べ盛りゆえ、示し合わせることなく、エリスと共にレストランへ入店。

 

 サンドイッチに似た料理と果汁ジュースを注文。

 少し離れた席には護衛の神殿騎士が陣取っていた。

 周囲の人間は緊張した様子で縮こまっていた。

 神殿騎士ってのは頭のイカれた人間が多いらしい。

 

 ミリス教団内きっての狂信者集団。

 神の名の下に異端審問の際には残虐な拷問を顔色一つ変えずに行うらしい。

 手足をハンマーで潰したり、刃物で指を1本ずつ切り落としたり……。

 基本戦闘能力も高いし、数も多い。

 

 補足するとこの前、神子やクレアを襲撃した教皇お抱えの暗殺集団は、教皇派閥の最高戦力の一つらしい。

 だから神殿騎士とて苦戦を強いられ壊滅した。

 騎士団内でも上位クラスの騎士ならば後れを取らなかっただろうが……。

 

 暗殺者らは、デッドエンドの活躍で、在籍する人間の半数近くが死亡したそうだ。

 教皇派の戦力を削り、図らずも枢機卿派に肩入れしちまった。

 

 さて、神殿騎士について話を戻そう。

 神殿騎士は、強い上に集団での戦闘に長けている。

 俺やエリスのような超火力や超スピードを持たない者にとっては非常に脅威的。

 俺でも加減しようものなら足下をすくわれる。

 

 そんな恐ろしい連中に目をつけられたら堪ったもんじゃない。

 ゆえに荒くれ者の多い冒険者達も物静かに食事を進めていた。

 神殿騎士でまともな人物は、テレーズ叔母さんと、カーライルお祖父さまくらいしか知らない。

 

 最上階にあたる4階へと到達。

 ここはギルドルームがフロアを占めている。

 大規模なクランが使用申請をして、利用するシステムらしい。

 3人パーティーのデッドエンドとは無縁だな。

 なので見学をするに留まる。

 物珍しげにエリスは内装を眺め、飽きてきたのか俺の手を取って階下へと向かう。

 

 一階の掲示板で手頃なBランクの依頼を選択し受注。

 日帰りで移動可能な距離である。

 護衛の神殿騎士達にはどうしてもらおうか?

 冒険者の規約的に、彼らの同伴が許されるのか微妙なラインだ。

 

 まぁ、ラトレイア家の令嬢を護衛も付けずに放置というのも不味かろう。

 冒険者ギルドも黙認してくれるはずだ。

 それほどまでに神殿騎士団ひいてはミリス教団の権威は、ここミリス神聖国では強い。

 

 そして出発。

 時間だけはあるので、あえて町中を観光しながらの移動。

 都市全体を巡るように走る水路は、さながらヴェネツィアのような風景だ。

 遊覧船に乗って束の間の船旅を満喫。

 

 下船後は露店で買い食いして、更に栄養を蓄える。

 この栄養も全ておっぱいに行き着くのだから、複雑な心境だ……。

 太りづらい体質なのは結構なことだが。

 

 ここ最近は胸のカップ数に変化は無い。

 代わりに身長は順調に伸びてきており、乳房の脂肪量も背の高さに比例して増えている。

 結局、カップ数ってのはトップとアンダーの差から算出されるものに過ぎない。

 おっぱいの大きさを誇るのなら、ある程度の身長と、ある程度のカップ数の両立が重要だ。

 

 エリスなんかは、その条件に合致する。

 女の子にしては上背もあるし、胸も年代毎の平均以上。

 更なる成長の兆しを見せており、将来は母親のヒルダすらも超えるおっぱいに育つだろう。

 

 ただ俺は自分の胸の膨らみを見る度に溜め息をつく回数が増えた。

 頭の中のイメージじゃ、男の頃の感覚が残っている。

 なのでふとした瞬間に手が触れてしまうと、違和感を覚えるのだ。

 ブラジャーをしていても、激しく動き回るとぶるんぶるん揺れて痛いし。

 乳に気を取られて戦闘中にヘマしないように要注意だ。

 魔術での解決を試みようか。

 おっぱいを支える専用の魔術の研究開発に挑戦してやろう。

 死活問題だし、上手くいったらエリスにも教えてあげようか。

 おっぱいがデカイと、それだけで肩凝りの原因にもなるしな。

 

 

──

 

 

 やがてミリシオンの町を出る。

 近隣の村で緑葉虎(リーフタイガー)という魔物が猛威を振るっている。

 生息地は大森林の南部辺りだが、ここら周辺に居着いたらしい。

 

 到着後、早々に発見。

 先日見せてくれたエリスの()()()()を再び間近で目撃する。

 赤い髪が尾のように揺れたかと思えば、目標の魔物は絶命していた。

 返り血すら浴びない技量の高さと手際の良さ。

 感服するわ。

 

 光の太刀を習得している時点でエリスは剣聖を名乗っても良いだろうが、正式に認定されたわけじゃない。

 アスラ王国に帰還したら、ギレーヌにでも認可試験を実施してもらうことをオススメしよう。

 

 

 あれ?

 今回の俺は、活躍の場が無かったな。

 おんぶに抱っこみたいで不完全燃焼だ。

 

 その後、家畜を襲っていた緑葉虎(リーフタイガー)の被害に遭っていた村人達から感謝される。

 ミリス教団の権力争いの激化で、本来なら治安維持に勤める聖堂騎士団もてんてこ舞いで、対応が出来なかったそうだ。

 ゆえに冒険者ギルドに依頼として貼り出されていたわけだ。

 

 説明しておくと聖堂騎士団という組織は、いわゆる聖騎士の立ち位置だ。

 権力闘争についても中立の立場。

 自国防衛を担う全うな組織である。

 

 デッドエンドとしてまた善行を積んだ。

 この調子で活躍を継続していきたい。

 

 

──

 

 

 ミリシオン南部の冒険者区より町へと戻ろうとした際のこと。

 俺たちを守護する神殿騎士達がやけにピリピリしていた。

 気になって振り返ってみると、彼らは剣を抜き、とある2人組と対峙していた。

 その姿は何処かで見掛けたような……。

 

 確かウェンポートで妙に目を惹いた長耳族(エルフ)のねーちゃんと炭鉱族(ドワーフ)のおっちゃん。

 冷や汗をかいた様子で戸惑う。

 

 

「わたくし達、決して怪しいものではありませんの! 知人の娘を見掛けたものですから、声を掛けよう思いましたの」

 

「わしらに敵対する意思はない。どうか剣を下げてくれんか?」

 

 

 敵意は無し。

 その証明に両手を上げて無抵抗の意思表示。

 けれど過激派思想の神殿騎士達は矛を下げない。

 彼と彼女は大森林及び青竜山脈の麓に暮らす種族で、ミリス神聖国とは不戦協定が結ばれているはず。

 争う事すら外交問題に結び付きかねない。

 こりゃ、止めなきゃ不味い。

 

 

「騎士さん! その方達は、敵ではありません! どうかお見逃しを!」

 

 

 騎士達を諌め、彼らの身を保証する。

 俺の記憶が正しければ、その2人組の名前はエリナリーゼとタルハンド。

 ウェンポートですれ違い様に会話を耳にして知った名前だ。

 ここ数日のゼニスとの雑談に出てきた黒狼の牙の元パーティーメンバーとも同じ名前の人物で、外見的特徴も一致する。

 

 剣を鞘に納めた神殿騎士達は、警戒心を解く様子はないが、今すぐどうこうしようという姿勢では無くなった。

 

 

「まずはお礼を言わせてくださいまし、助かりましたの。わたくしはエリナリーゼ、こちらはタルハンド。あなたはゼニスの娘でよろしいですわね?」

 

「ゼニスの娘のルーディアです。よろしくです」

 

 

 良い機会だ。

 ここで親睦を深めよう。

 ゼニスの子である俺ならば、悪い風にはされまい。

 

 

「やっと追い付きましたわよ! ウェンポートで見かけて以来、ずっと後を追っていましたの」

 

「ウェンポートですれ違っちゃったみたいですね」

 

 

 エリナリーゼはたしか、どこぞの宿で男と情事に耽っていたはず。

 窓越しに目が合ったが、その後有耶無耶になって現在に至る。

 言い方は悪いが、エリナリーゼはビッチな女性なのだろうか?

 

 ウェンポートじゃキシリカから魔眼を頂戴し、その制御の練習で精一杯だった。

 ゆえに彼女の事など頭から抜け落ちていたのだ。

 俺はほぼ宿に引きこもっていたし、向こうからは見つけられなかったのだろう。

 それに大森林じゃ雨期にかち合って足止めをくらって進めず、今になって追い付いたってところか。

 

 両親の古い知人なので、ギースについても知っているかな?

 というか、エリナリーゼとタルハンド、ギースも含めてかつては同じパーティーメンバーだったはず。

 

 

「それにしても、あの娘(ゼニス)と本当に似ていますわね」

 

「まったくじゃ。パウロのような変な男に引っ掛けられなきゃいいがな」

 

「ご安心を。私は男性を愛せない身ですので。男に靡くなどあり得ません」

 

「ほう、わしと似ておるな。逆にわしは女を愛せん」

 

 

 つまりタルハンドはゲイってこと?

 アスラ王国基準ならセーフな性癖だな。

 

 

「ラトレイア家の下で母さまと妹が保護されています。ご存知ですか?」

 

「ええ、ギースが大森林の各集落に伝言を残していたので知っていますわよ。あいつはこの町に?」

 

「まだ居ると思いますよ。冒険者ギルドへ行けば、会えるかもしれませんね」

 

 

 冒険者ギルドを訪れた際に小耳に挟んだが、ギースは話術の上手さから、ここらの冒険者とも付き合いの幅が広いらしい。

 普段は冒険者ギルドか、町の酒場で享楽的な生活を送っているそうだ。

 ギャンブルにも熱中してるらしいね。

 

 

「ギースは時間があれば探してみますの。放っておいても向こうから顔を出してくるでしょうけど」

 

「じゃあ、母さま(ゼニス)にお会いになりますか? 私の方で取り次ぎますけど。旧友と会えるのなら、母も喜ぶはず」

 

「あら、親切にありがとう。では、お言葉に甘えさせていただきますの。是非、会わせてくださいまし」

 

「何年ぶりの再会じゃろうな。黒狼の牙が解散してから随分と経つのう」

 

 

 パウロとは悪い思い出しか無いが、ゼニスとは逆に良い思い出しかないらしい。

 そんな2人が夫婦になるとは、数奇なものだ。

 ひとつの物語として成立しそうである。

 ルディちゃん誕生の前日譚的な感じで。

 

 

「ところでお2人は何故魔大陸へ? ここに居るという事は、滞在期間も短かったのでは?」

 

「ゼニスの家族の捜索ですの。尤も、無駄骨でしたわね。ウェンポートの隣町まで赴いたのですけれど、デッドエンドを名乗るパーティーが、散々捜索済みと聞きまして」

 

 

 発見漏れが無いように入念に捜索したのだ。

 被災者の目撃情報の聞き込みなどを地道に行った。

 仮に見落としが起きていたとしても、バーディガーディの主導で難民保護は継続しているらしいから安心だ。

 俺たちが魔大陸を去った後にも、救出された被災者が居るかもしれん。

 

 

「デッドエンドとは私たちの事ですね。魔王バーディ様も他の魔王へと捜索を呼び掛けてくれていたようですし。捜索漏れは限りなく少ないのではないでしょうか」

 

「優秀ですのね。バーディガーディとも友誼を結んでいまして?」

 

「成り行き上で。エリナリーゼさんもお知り合いですか?」

 

「ウェンポートで遭遇しましたの。気がついたら一夜を共にしていたんですのよ」

 

 

 それって浮気になんないの、バーディ陛下。

 いや、あの豪気な人だ。

 後ろめたい気持ちなどは無さそうだ。

 向こうの価値観なり文化なのだろう。

 ただキシリカが知れば、どう思うのやら。

 いや、彼女も大物みたいだし、意外と気にしないかもしれない。

 

 思わぬ場所で出会った両親の旧い知人。

 神殿騎士にラトレイア家への連絡を頼み、客として迎える手配をしてもらう。

 

 騎士達を使いっ走りにして心苦しいが、彼らはそれも仕事の内だと話す。

 給料が発生しているのなら、俺が気にすることもないか?

 

 

──

 

 

「うそっ! きゃー! エリナリーゼにタルハンド! 久しぶりね!」

 

 

 旧友との対面に興奮するゼニス。

 2人の手を取ってブンブンと上下に振って握手。

 旧来の仲の良さが窺える。

 

 

「ゼニスは変わりありませんわね。昔より、垢抜けてはきましたけれど」

 

「エリナリーゼは相変わらず美人さんね。貴女のお陰で良い旦那さんをゲット出来たの。今でも感謝してるのよ」

 

「ふふ、感謝なさい。ルーディアのような可愛らしい娘と出逢えたのは、わたくし直伝・夜の営みの絶技あってのこと。そのせいでパウロにゼニスを奪われてしまいましたけれど」

 

 

 パウロへの毒舌は止まない。

 

 

「ふむ、もう1人の娘子も可憐じゃのう。名をなんと言うんじゃ?」

 

 

 ノルンを指して訪ねるタルハンド。

 炭鉱族(ドワーフ)という種族柄、背が低く俺とあまり視線の高さは変わらない。

 ノルンからすれば少し見上げる程度か。

 

 

「わたし、ノルン!」

 

 

 初対面の人相手にも物怖じせずに自己紹介出来るとは。

 生前の俺じゃ真似出来ない芸当だ。

 

 

「この場にあと、ギース、ギレーヌ、ウチの人(パウロ)が居れば、黒狼の牙の再結成! なんてね?」

 

 

 過去の思い出に浸るゼニスは、中空を見て微笑む。

 在りし日の若者達の冒険が、映像として脳内に流れているのだろう。

 

 

「ギースはここには来んかもしれんのう。あやつの性格上、差別を嫌がって貴族街には近づかんじゃろう。わしら亜人でもスレスレじゃしな」

 

 

 枢機卿派の貴族は、大森林に住まう異種族に対しても偏見を抱く。

 解りやすい差別は無いものの、それでも人の目は気になるものだ。

 エリナリーゼとタルハンドも、そういった視線を忍んで、ラトレイア家まで足を運んでいる。

 尤も、クレアは歓迎してくれたが。

 

 

「パウロはフィットア領で捜索活動を指揮しておる。遠方ゆえに、こちらから手紙を出したとしても、届くまでに1年以上は掛かりそうじゃ」

 

「受け取ってから出発して、ミリシオンへたどり着くまでを含めて2年以上は掛かりますわね」

 

「ギレーヌに至っては、消息不明じゃ。腕っぷしは強いから死んではおらんじゃろうが」

 

「ギレーヌ、無事だと良いけど……」

 

 

 ゼニスがギレーヌと直接会ったのは4年半ほど前になるか。

 ボレアス家からの迎えとして、ギレーヌがブエナ村を訪れたのだ。

 俺との出逢いでもある。

 

 ギレーヌの名前が会話に出てきたことで、傍らで聴いていたエリスは伏し目がちになる。

 思えばエリスの家族は誰1人として安否が判明していない。

 全員ではないにしても、俺だけが家族の無事を知り、そして対面まで果たしている。

 そばで見ていて気持ちの良いものではないかもしれない。

 

 いや、エリスは根は素直な子だ。

 再会の喜びも共有してくれている。

 だったら尚更、俺も彼女の為に家族を見つけてやらなきゃだ。

 そしてエリスが家族との再会を見事に遂げたら、俺もそばで喜んでやろう。

 

 

 

 

 

──剣の聖地──

 

 

「ギレーヌ。急に戻ってきたかと思えば、なんだその爺さんは?」

 

 

 ギレーヌの剣術の師、剣神ガル・ファリオンが見たままの光景に対して、問いを投げ掛けてくる。

 獣族の中でもデドルディア族である彼女のそばには、五十代半ばから後半の人族の男性が連れられていた。

 

 急な帰還。

 かつて剣神流を学ぶ為に逗留し、剣士としての才覚を磨いた地。

 独り立ちから幾年の時を経て、ギレーヌは舞い戻ってきたのだ。

 事情は解らないが、神妙な面持ちの彼女は、己が師に対して不遜な態度で相対していた。

 

 剣王ギレーヌ・デドルディアは、フィットア領転移事件以降、主であるサウロス・ボレアス・グレイラットを守護しながら潜伏生活を送っていた。

 

 国へ戻れば、サウロスの身はただでは済まされない。

 命の危険への懸念から、中央大陸には留まりつつも、アスラ王国へはしばらく立ち入らなかった。

 

 そういった状況の中、長らく紛争地帯を渡り歩いた後に、ある目的を掲げ始める。

 目的の達成の為に、自身と主の素性を隠したまま大陸南部からアスラ王国に入国し、国内を縦断する。

 赤龍山脈の上顎を抜け、長い旅の末に剣の聖地へと辿り着いたのだ。

 

 さて、ギレーヌは師匠の疑問に対して、ただ単純に答える事にした。

 

 

「この方はあたしの主だ。名をサウロス・ボレアス・グレイラット」

 

「主だぁ? はん、てめえは飼い猫にでも成り下がったってわけか」

 

「否定はしない。師匠に用件があって来た」

 

 

 当座の間にて剣神の前に姿を表したギレーヌは淡々と告げる。

 剣神流の高弟たちは、その敬意に欠けた態度を疎ましく思いつつも、咎める事はしなかった。

 剣王ギレーヌといえば、剣神流の全て門派において、その名を知らぬ者が存在し得ぬほどの武人。

 気迫に圧され、発言ひとつすら命懸けだと思い知らされる。

 

 

「一応話くらいは聞いておくが、俺様が応じるとは限らねえぜ?」

 

「構わない。ただ──あたしと師匠とで、果たし合いの場を設けて欲しい」

 

「俺様の首でも獲ろうってか? そいつは面白れぇ話だな」

 

「場合によってはそうなるだろうな……」

 

 

 目的を遂げる過程には、剣神ガル・ファリオンとの決闘が含まれる。

 唐突な来訪は相応の理由があってのこと。

 詳しくは語るまい。

 

 

「丁度良い。退屈してたところでな。てめえも腕を上げたみてぇだ。剣帝の認可くらいは、やれるかもしれねぇな」

 

「貰えるものなら貰っておこう」

 

「いいぜ、今からおっ始めようぜ」

 

 

 獣染みた笑みを浮かべた剣神ガル・ファリオンが鞘に手を添える。

 

 

「サウロス様、危険ですので下がって」

 

「うむ、お前の剣の行く末。この目で見届けようぞ……」

 

 

 ギレーヌもまた自身の剣の振るう先に待ち受ける結末を、主に見届けさせんとして鞘に手を掛けた。

 

 そして剣王ギレーヌ・デドルディアと、剣神ガル・ファリオンの死合が幕を開ける。

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