無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

44 / 59
第6章 少年期 ボレアス夫妻救出編
43話 身体の変化


 またこの空間だ。

 どこまでも純白が続く世界。

 馴れ馴れしく声を掛けてくるモザイク野郎の居住地。

 人神(ヒトガミ)のヤツが俺を呼び出しやがった。

 順調な旅に水を差されたようで舌打ちのひとつでも打ってしまう。

 

 くそがっ……。

 

 

「いきなり随分な態度じゃないか」

 

 

 いやだって、お前の事なんてすっかり忘れかけてたんだぜ?

 せっかく気分が乗ってきた頃に、あんたが夢に出てきたんだ。

 そりゃあ、不機嫌にもなるさ。

 

 

「でも前回の助言のおかげで、上手くミリス大陸にも渡れたし、大森林ではかけがえのない友だちが出来たろう?」

 

 

 そこまで先を読んでいたのか……。

 まぁ俺もお前の助言とやらを利用させてもらったよ。

 それは認めてやる。

 誇れ、お前の成果だ。

 

 

「人の善意を利用するなんて酷い話だよね」

 

 

 あんたは人でなしだろ?

 それにお互い様だ。

 おっと、持ちつ持たれつとか思うなよ?

 もう一度言うが、お前は人でなしなんだよ。

 

 

「神様だからね。うん、人ではないのは確かさ。君もシャレが効くね」

 

 

 飄々としやがって。

 

 それにしてもコイツとは1年ぶりの対面だ。

 不本意ながらまた助言の押し付けでもするつもりか?

 

 で、今回は?

 どんな命令を下すんですかねぇ。

 

 

「命令なんて上から目線で言うつもりはないよ。ボクとしても君みたいな女の子には幸せになって欲しくてね」

 

 

 どの口が言うんだ。

 ここまで来るのに、どれだけの苦難を強いられたのか……。

 そこんところ、理解してるのかよ。

 魔眼とかいう便利な力は得たが、(ガルス)を殺すハメになったし、ラトレイア家じゃクレア祖母さんと誤解の末に大喧嘩になった。

 

 

「災難だったね? でも君も人として成長したんじゃないかなぁ」

 

 

 健やかに育ちたいもんだ。

 厳しければいいってもんじゃないだろうに。

 試練だけ与えて、あとは勝手に切り抜けろなんて、放任主義にも程があるぜ。

 

 

「試練? ボクは関与してないけどねぇ。むしろ障害を乗り越える手段をプレゼントしてあげたのに」

 

 

 否定はせん。

 だが、お前が悪趣味である事実は覆らんぞ?

 どうせ笑ってたんだろうが。

 

 

「そりゃあ、笑うべき時は笑うよ。それに悪趣味なんて言われても気にしないさ。それにしても、ボクを利用すると話しながら、こんなにも頼りきりで良いのかい? こちらとしては別に問題はないけど」

 

 

 ふむ、全ての行動は自己責任とでも言いたいらしい。

 自分自身、甘っちょろい事を抜かしていた部分も、認めざるを得ない。

 

 じゃあ、今回は助言無しってことで構わないぞ。

 自分の頭で考えて、自分の足で歩く。

 この1年で実践してきたことだ。

 手を借りるまでも無いね。

 

 

「凄いね、褒めてあげるよ」

 

 

 馬鹿にしやがって……。

 性根が腐ってやがんな。

 

 

「ご褒美にアドバイスさせてくれよぉ」

 

 

 なんだ、お前。

 何かにつけて助言を与えたがるじゃないか。

 指示厨かよ?

 

 しかし現実問題、ヒントを目の前に差し出されたら、飛びついてしまう悲しい状況。

 不信を抱きつつも、他に寄る辺が無いゆえに行動指針に組み込んでしまう。

 良くない傾向だ。

 

 

「ん? 今回はなんだか遠慮してるようだね」

 

 

 口を閉ざしておく。

 黙して語らずってやつだ。

 いやでも、ヒトガミは心を読んで会話するっぽいしな。

 無駄な足掻きかもしれん。

 

 

「本当は聞きたくてウズウズしてると見た」

 

 

 ほら見抜かれた。

 何でもお見通しって面が気にくわない。

 バーカ、アホー、マヌケ!

 

 

「悪口はいけないね。邪険にするのはそれくらいにしてさ。知りたい事があるのに我慢するのは精神衛生上、よろしくないと思うよ」

 

 

 ……っち。

 今回は特別に聞く耳くらいは持ってやる。

 利用するなんていう俺の目論見も徒労に終わるのが目に見えているだろうがな。

 せめて物事の真贋を見極めるくらいの抵抗はしてやる。

 

 

「よろしい。でも、ひとつ約束して欲しいんだ」

 

 

 あ?

 この期に及んで要求たぁ図太い野郎だ。

 

 

「まぁ聞いてよ。例えば今みたいな喧嘩腰は止めて貰いたいかな。話がなかなか進まないし」

 

 

 お前が嘘臭いのが悪い。

 あんたの言葉からは疑念しか沸かない。

 

 

「信じておくれよ。これまで君に不利益になることはあったかい?」

 

 

 不利益かどうかで物事を計るなよ。

 少なくとも無駄な苦労はさせられたぞ。

 

 だがたしかに……致命的な不利益を被りかけこそしたが、土壇場で盛り返してきた。

 ラトレイア家での一件がそれに相当する。

 きちんと仲直りしたしな。

 

 

「ボクの言葉をなるべく信じて欲しい」

 

 

 なるべく?

 控えめだな。

 もうちょっと欲張るもんだとばかり。

 

 

「そこはやっぱり君の自由だからね。言われるがままに何でもかんでも動くのって嫌でしょ? こっちとしても束縛は好まないよ」

 

 

 そうですかい。

 分かった、今回だけお前の指示に素直に従ってやる。

 その代わり、危険を感じたら、その判断を即時撤回させてもらう。

 

 

「うん、それで良いよ。誰しも我が身が大事だしね」

 

 

 で、内容は?

 出来ればエリスの家族に関する情報が望ましい。

 無理ならすぐに言えよ。

 

 

「おぉ、それはグッドタイミングだね。ちょうどエリスって子の家族と波長が合ってね」

 

 

 ん?

 そいつは出来すぎた話だよな。

 あぁ……でも素直に従うと口約束だが交わしたのだ。

 疑うのは後回しだ。

 文句を添えてやるから待ってやがれ。

 

 

「君の魔眼を通して助言を授けます──」

 

 

 言葉を言い終えるや否や──。

 右目に映像が映し出される。

 

 

【見慣れぬ街並み、どこぞの路地裏のうす暗闇】

 

【良く知る顔の女性、ヒルダが赤子を抱いている】

 

【兵士に取り囲まれ、逃げようと隙を窺っていた】

 

【まだ髪の薄い赤髪の赤子を必死に守ろうとするヒルダ】

 

【懸命に説得しようとする兵士たち】

 

【何かを叫ぶヒルダ、なんとなくエリスの名を呼んでいるように思える】

 

 

 ──映像が途切れる。

 

 え?

 奥様? ヒルダ?

 しかも、彼女やエリスと同じ色の頭髪をした赤ちゃんを抱きかかえていた。

 もしやヒルダの子ども?

 生後1年以内の赤子に見えた。

 性別は分からんが。

 

 お相手は誰だろうか?

 ヒルダが不義を犯すとも思えんし、順当に考えれば、旦那のフィリップだろう。

 一緒にいるのかもな。

 数秒の短い映像ゆえに詳細までは判断しかねる。

 

 

「彼女は君もよくご存じ、ヒルダ・ボレアス・グレイラット。夫フィリップと共にシーローン王国で抑留されています。夫との間に生まれたばかりの息子を連れて逃亡中です」

 

 

 やはり夫婦お揃いか。

 てか、息子かい。

 緊急事態なのに毎晩子作りしてたの?

 転移先でもお盛んですこと!

 

 それにシーローン王国?

 場所は中央大陸南部で、これといった目立つ特徴の無い小国だったよな。

 紛争地帯と国土が接しているという負の観光スポットはあるけど。

 

 

「あなたとエリスは、先の場面に遭遇し、彼女たちを助けることになるでしょう。エリナリーゼとタルハンドにも、シーローン王国への同行を願うのです」

 

 

 助けるのは当然として、親の友人の助力が必要ときか。

 この事態を見越しての巡り合わせのようにも思えてきた。

 

 

「ヒルダから事情を聞き、王宮に居る知り合い宛てに手紙を出すのです。さすればフィリップとヒルダ、そして息子のエリオットを救い出せるでしょう」

 

 

 王宮に居る知り合いって、ロキシーか?

 たしか彼女は何番目かの王子の家庭教師の職に就いてるはずだ。

 ロキシーと連絡を取り合って、抑留されているというフィリップ達を解放しろって事か。

 

 

「じゃあ、後は頑張ってくれ。あぁそうそう。君の父親のパウロだけどさ。七大列強の末席に加わったから」

 

 

 はぁ?

 いまなんつった!

 パウロが七大列強だとっ!!

 

 問い詰める間もなく、この悪夢は終わりを迎える。

 

 

──

 

 

「父さまっ……!」

 

 

 ガバッと身を起こすと、額を(したた)かに打ち付ける。

 

 

「いっつ……」

 

「きゃぁ! 痛いですわ! いきなりなんですのっ! ルーディア!」

 

 

 目の前にはシルフィ──に良く似た顔立ちの耳長族(エルフ)の女性エリナリーゼ。

 彼女の顎に起き上がり際に、俺はおでこぶつけてしまったらしい。

 

 眠る直前の記憶が甦る。

 船旅に疲れた俺に対して、彼女は自身の膝を枕にして眠ることをススメてくれた。

 ご厚意に甘えて、エリナリーゼの艶やかな太ももに頭を乗せて仮眠を取ったのだ。

 

 睡眠環境としては非常に整っていたのだが、ヒトガミのせいで快適な睡眠は破綻した。

 うらめしや……。

 

 起床して数秒後。

 ガンガンと頭が痛み出し、涙を堪えきれなくなる。

 その上、強い吐き気に苛まれる。

 我慢する間もなく、胃袋から上がってきた中身を、エリナリーゼの膝へとゲーゲー吐いた。

 これでもかってくらい盛大に。

 

 

「お……えぇ……」

 

 

「きゃ、突然なにをしますの! それよりも大丈夫でして? 顔色が青いですわよ! 誰か! 誰か来てくださまいましっ!」

 

 

 俺の体調が尋常な状態では無いと判断し、エリナリーゼが周囲へ助けを求める。

 いいよ、別に。

 既に自動治癒(オートヒーリング)が発動してるし。

 時間経過で会話可能な程度には復調した。

 

 

「あなた、船に弱いわけではなさそうですのに……」

 

「う、うぅ……。ずみばぜん……ご心配、お掛けします……」

 

 

 喉が枯れたような声で謝罪する。

 ゲロをぶっかけてしまって申し訳ない。

 混合魔術でお湯を生成し、彼女の膝を清めていく。

 

 まだ胃がムカムカする。

 くっ、マジで調子悪いわ。

 

 人神(ヒトガミ)のヤツに無理やり予見眼を使わされた反動だろう。

 映像の長さは約10秒。

 負荷なく使用出来る限度を大きく超えている。

 俺の為ではなく、ヤツの都合で予見眼を手にするように仕組んだのか……。

 

 あの野郎、いつかぶっ倒す!

 子々孫々に渡って追い詰めてやるからな!

 

 

──

 

 

 中央大陸王竜王国最東端に位置する港町イーストポート。

 到着する頃には12歳になっていた。

 身長も伸びてきた。

 平均より1~2センチほど低めだが、まぁ許容範囲だ。

 魔大陸での一年間に渡る偏った食生活が影響したのかもしれない。

 不味い魔物の肉ばかりで食が進まなかったのだ。

 乳にばかり栄養を持ってかれた……。

 

 エリスは順調に成長していて、俺より頭一つ分以上は背が高い。

 2歳差だし、仕方がない。

 言うまでもないが、おっぱいもふくよかさを増していた。

 就寝時はブラを着けない彼女。

 横たわった体勢でも、しっかりと丸みを見て取れる程に大きい。

 

 さて、ここで重大なお知らせだ──。

 とうとう俺は、アレを迎えてしまった。

 端的に言って生理だ。

 

 イーストポートに到着後、宿泊先での出来事。

 急に肩凝りや下腹部に鈍い痛みを感じ始める。

 2~3日続いたものだから、治癒魔術を掛けてみたが改善せず。

 気持ち緩和されたかな?

 って具合にしか効果を実感出来なかった。

 

 不安に苛まれながら迎えたとある朝。

 ショーツの中に不快感を覚え、寝ぼけ眼で確認してみると──血が滲んでいた。

 要するに股から血が出ていたのだ。

 状況証拠とジクジクと痛む感覚から、瞬時に理解する。

 

 俺にもその時期が来たのだと……。

 その後、半日経っても経血が止まる気配がせず、泣きわめきながら、その場に居たルイジェルドにすがり付いた。

 エリスは不在。

 町の冒険者ギルドに依頼を受けに行っていたのだ。

 エリナリーゼは、言わずもがな男漁り。

 

 

 さて、宿に取り残されたルイジェルドは生理の存在自体は知っていても対処方法までは分からず困惑顔。

 タルハンドも似たようなものだ。

 

 夕方になって帰ってきたエリスは俺を見るなり、抱き締めてきた。

 傷心気味の姿を見て、町で男に乱暴されたのだと勘違いしたらしい。

 すぐに事情を語る。

 

 

「あの……来ちゃいました。生理が……」

 

「あ……そうなのね。うん、そりゃ慌てるわよね。怖いわよね?」

 

「エリスが最初に生理を迎えた時はどうされましたか?」

 

「私の時はまだボレアス家に居る時だったから、はじめの頃はお母様やメイド達に世話を見てもらっていたわね。でも対処法くらいは熟知してるから、お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 

 腕まくりして引き受けるエリス。

 今日ほど彼女の存在が大きく見える日は、そうはあるまいて。

 胸はいつも大きいが。

 

 頼れる姉さんに全てを委ねる事にした。

 ひとたび生理が始まると、数日間は股から血が流れ続けるらしい。

 最初の2~3日が特に血の量が多いそうで、生理期間用の下着があるのだとか。

 説明の最中に帰って来たエリナリーゼが、その足で俺のサイズに合った下着を買いに行ってくれた。

 ありがたや……。

 

 サニタリーショーツとやらを複数枚貰った。

 早速着用し、ひとまず落ち着く。

 断続的な下腹部の痛みには悩まされたが。

 

 慣れない感覚や身体の不調に苛立つ。

 ふとした瞬間に沸点を超えて、ルイジェルドに向かって八つ当たりしたことがあった。

 生理期間中特有のホルモンバランスの偏りで、精神状態が不安定だ。

 いわゆる情緒不安定ってやつだろう。

 

 しかし彼は妻帯者だった経験から、そういった女性の反応には理解があったようで、無茶な物言いを全て受け止めてくれたり

 後になって謝った俺を快く許してくれたりもする。

 家族在りし日には良き夫であったのだろう。

 彼には頭が上がらない。

 

 

「エリスはずっとこんな思いをしながら旅を続けていたんですね……」

 

 

 エリスの旅の苦労を今更になって知る。

 彼女への気遣いだとか、配慮が足りなかった事を悔いる。

 

 

「これからはルーディアも同じじゃないのよ。一緒に頑張りましょ!」

 

「はい、一人だと心細かったので助かります」

 

 

 月経自体は恐怖そのものだが、同じ悩みを共有出来る姉が居る。

 姉妹の一体感がこれから増していくことだろう。

 

 

「ルーディア。良くお聞きなさいな。生理を迎えたからには、殿方と性行為に及ぶと子どもが出来てしまいますの。将来を誓い合った男性以外とは、身体の関係を持たないようになさい」

 

 

 みだりに不特定多数の男と交わるエリナリーゼからのお達し。

 すまんけど、説得力に欠けますよ?

 

 

「以前にもお話いたしましたが、私は女の子にしか興味ありません。もっと言えば、エリスの身体にしか興奮しませんよ。だから男には、そもそも近づきませんよ」

 

 

 エリナリーゼの忠告は的を射ているが、こと俺に限っては適用されない。

 男など願い下げだ。

 俺の身体に触れて良い男は、父親のパウロか、兄貴分のルイジェルドだけである。

 サウロス辺りもOKかな?

 それでも頭を撫でたり、抱き締めたりなどのスキンシップに限定されるが。

 

 

「それなら結構ですわ。貴女がゼニスのように悪い狼に孕まされやしないかと心配ですのよ?」

 

悪い狼(父さま)にだって良いところはありますけどね。まぁ、そんな男は極少数でしょうか」

 

 

 さて、生理を迎えたということは、逆説的に排卵も始まったということ。

 これは極めて重要なことだ。

 何せ不妊治療に関わる魔術を研究中の我が身。

 自身の卵子を採種し、同性でも子どもを作れる方法を模索していきたい。

 非人道的な実験かもしれないが、受精卵で試すわけではないから、セーフ……なのか?

 倫理観に抵触しないか心配だ。

 

 今後は自分の身体そのものを実験体にして、女の子同士での子孫の残し方を確立していきたい。

 長い道のりだ。

 出来れば5年以内に成果を出したい。

 

 なんにせよ、いよいよもって俺は女であると思い知らされた。

 ずっと理解していたが、受け入れていたワケではなかったのだ。

 人生とはかくも戸惑いの連続である。

 TS系作品の主人公の誰もが通る道。

 よもや異世界で自分が体験しようとは……。

 

 気持ちを切り替えよう。

 俺は男であって男ではない。

 女であって女ではない。

 かといってどっち付かずでもない。

 最終的な判断としては、パウロとゼニスの娘ルーディアでしかないのだ。

 娘ではあるが、性別はルディちゃん──とでも定めておこう。

 男の娘に次ぐ第4の性別の誕生である。

 

 

──

 

 

 イーストポートには既に数日間滞在している。

 長い船旅に全員が参ってしまい、長めに休息を取っているのだ。

 俺なんか特に生理を迎えた直後で心身ともに不調気味。

 この港町で体調を整え次第の出発ということに話は決まった。

 ちなみに次の旅の目的地はシーローン王国だと、皆には周知済み。

 デッドエンドのリーダー格である俺に異論を唱える者は居なかった。

 一時加入のエリナリーゼとタルハンドも同様に。

 

 理由を訊かれても神様のお告げがありました!

 だなんて言えない。

 ミリス教徒ですらないのに胡散臭い。

 新手の宗教勧誘ってか?

 

 出発日曜日までの期間、何も無為に過ごすつもりはない。

 俺も含めて身体に無理の無い範囲で情報収集に努めた。

 難民捜索である。

 既にヒトガミを介して、フィリップとヒルダ、そしてエリスの生まれたばかりの弟エリオットの居場所は掴めている。

 しかし、やることは変わらない。

 少しでもフィットア領民の命を救いたいのだ。

 ここいらも既に捜索団の手が入っているだろうが、状況など常に変化している。

 1日の差で、有益かつ新鮮な情報だって飛び込んでくるものだ。

 

 そんな中、とんでもない情報……というか噂話を耳に入れる。

 てか、ヒトガミが夢の終わり際に投下した爆弾発言。

 

 俺の父、パウロ・グレイラットの七大列強入りだ。

 序列にして七位。

 二つ名は龍滅パウロ──。

 

 何でも前任者である北神カールマン三世を下し、半年ほど前に入れ替わりが起きたのだとか。

 ブエナ村の村章が石碑に刻まれていた理由は、パウロが列強入りしたからだ。

 彼の居住地が、あの長閑な農村だったのだから、至極当然の話である。

 

 この話には続きがある。

 パウロは現在、北神三世を配下に加え、精力的に捜索活動を継続しているらしい。

 ただ、ノトス家とは睨み合いの状況下に在り、アスラ王国から下手に出られないらしい。

 基本的には、北神三世を中央大陸各地に順に派遣して調査を実施してるようだ。

 

 後はパウロの近況について。

 ここ王竜王国とアスラ王国の中枢とは距離があるので、幾らか古い情報ではあるが──。

 曰く、龍滅は剣神流での位階こそ剣王に留まるが、その技量は当代の剣神であるガル・ファリオンにも迫るのだとか。

 

 他にも部下である北神三世より北帝の位階を、授かっている。

 それも初代北神が生み出した不治瑕北神流で。

 いわば元祖北神流というやつで、現在の使い手はパウロを除けば北神二世とその母親。

 残るは当代北神であるカールマン三世くらいだ。

 

 そして当代水神レイダの直弟子となり、短期間で水帝の認可を得た。

 技量も実力も、既に水神として通用するレベルだと、噂を口にする者は総じてがそう語る。

 

 いやいや……。

 パウロさん、少し見ない間に強く成り過ぎでは?

 もしや出身地と名前が同じなだけな別人説を疑ってしまう。

 しかし、2年前の時点でも剣王へと迷いなく至ったほどの逸材だ。

 そういうことも、にわかには信じ難いがあり得るのだろう。

 

 人族の中でも、歴史上でそういう者が度々現れたという。

 第一次人魔大戦でも、第二次人魔大戦でも。

 そして、ラプラス戦役でもだ。

 転移災害の余波で一皮剥けて、パウロも英雄に相応しい力を宿したに違いない。

 

 なんであれ良かった。

 この分なら、パウロは大丈夫そうだ。

 列強に名を連ねるほどの人間だ。

 さぞ、精神面でも強靭さを養われていることだろう。

 フィリップ達を助けてから合流しても遅くはない。

 ただし楽観的に考えながらも、しかし悲観論で備えておく。

 強い人間ほど一度崩れたら、後は脆いものだ。

 

 

──

 

 

 体調を持ち直してきた。

 明日には出発可能だろう。

 エリス達に自己都合に付き合わせて申し訳ないと謝ったら、叱られた。

自分の身体を労るようにとの説教をエリスにしこたまされたのだ。

 俺の弱い部分を目撃して、ますます姉としての意識を強めたときたか。

 大事にして貰えているようで胸が温かくなる。

 

 この町を出る前に、古びた飯屋を見つけた。

 古めかしいが歴史のありそうな佇まい。

 閑古鳥が泣いてそうな客入り。

 昼時なのに物寂しげ。

 客の寄り付かないような店の味でも、腹が空けば誤魔化しも利くだろう。

 

 そんな期待を持って、デッドエンド(俺たち)とエリナリーゼとタルハンドで入店する。

 

 

「いらっしゃいませ……」

 

 

 店主は骸骨のような男。

 手に持ったメニューを差し出してくる。

 受け取る際に、ただ者ならぬ匂いを感じ取る。

 俺ではなくルイジェルドが。

 

 

「ヤツは北神流剣士の手練れだろう……。それも何かを隠している……」

 

 

 そして俺たちは、その意味をすぐに知ることになる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。