無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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45話 エリスの不安とルーディアの慰め方

 死神ランドルフ・マリーアン。

 七大列強五位にして飯屋の店主。

 前者の肩書きに恥じぬ熱血ぶりで、稽古をつけてもらう。

 店の裏手にある敷地で、俺とランドルフが対峙し、エリス達は隅に固まって見学に徹する。

 

 まずは打ち込んでみろと言われ、剣神流にて挑み掛かる。

 剣の技量を確かめるつもりか。

 予見眼を併用し、だらりと両腕を下げながらも木剣を握るランドルフへと駆ける。

 

 上段の構えからの走り出し。

 接近の最中、一時立ち止まり、数瞬の溜めを置いてから踏み込む。

 右目を通して防がれる事は予習済み。

 

 男女の差に、大人と子どもの差。

 筋力で押し切るのは不可能。

 そこで、あえて明後日の方向へと木剣での一太刀。

 

 ランドルフは意味の無い一撃として見過ごすつもりだ。

 隙だらけ。

 というのは彼が自発的に生み出した無防備だろう。

 飛びついたりはしない。

 

 身を反転する。

 脚部に身に余る力を籠めて。

 脳に掛かるリミッターを魔力制御で解除し、肉体の自壊を厭わぬ力みにて地面を蹴る。

 

 闘気を纏えない俺なりの身体強化だ。

 強化というよりは肉体の制限を取っ払っただけのお粗末な代物だが。

 

 とはいえ虚を突いたのは確か。

 少女の身から考えられない脚力による突貫を眼に収め、焦りに目を見開くランドルフ。

 よっしゃ、一矢報いてやろうじゃないの!

 

 木剣を握る手にも力が入る。

 筋繊維の切れるブチブチという音が鳴るが、痛覚は遮断済みなので考慮せず。

 既に加速を得た身体は、ランドルフの懐に入り込む。

 

 構えなんて上等な型は無い。

 剣神流の面影など一切残さず、無我夢中で木剣を胴へと当てた。

 

 ──かのように錯覚を起こす。

 彼の動きが異様に速くなり避けられた。

 予見眼による分岐先は膨大。

 あ、不味い。

 これは読めないし、選択する判断力にも欠けている俺じゃあ、咄嗟の回避行動も取れない。

 返しの剣先があえなく俺の脇腹にうち据えられた。

 

 

「げほっ……」

 

 

 四つん這いになって咳き込む。

 痛覚遮断により痛みは無いが、肺の中の酸素が押し出されてしまった。

 息苦しさに喘いでいると、ランドルフの差し伸べる手が視界の端に映る。

 

 

「機転が利くようで。初見で対応出来たのは、経験値の差に過ぎません。私相手でなければ、好手だと思いますよ」

 

「それはどうも……」

 

 

 やはり列強の壁は高く厚い。

 小娘の浅知恵が通用するほど世界は甘く出来ちゃいない。

 あまり調子に乗らない方がいいな。

 鼻っ柱を折られて感謝したいくらいだ。

 

 

「お手前は拝見しました。それだけの基礎と隠し球があるのなら、北神流の初級程度であれば容易に身に付くでしょうねぇ」

 

「列強様に認めていただいて恐縮です」

 

「畏まらなくて結構ですよ。私は所詮、しがない飯屋の店主だ」

 

「教えを乞う相手には礼を尽くさないとダメですよ」

 

「謙虚な子ですな」

 

 

 その後、彼の指導が加熱する。

 実戦形式で北神流の型や技を、この矮躯に叩き込まれる。

 痛みで覚えろとでも言いたげな仕打ち。

 痛覚は麻痺させてあるのだが、彼の意図を汲んで痛覚遮断をオフにする。

 弱音は吐かない。

 苦しみを糧に進むのだ。

 でも正直、泣きそうな程に痛い。

 女の子だから泣いちゃっても良い?

 都合の良い時だけ、乙女心を発露させる。

 

 

「これくらいで十分でしょう。北帝として初級の認可を与えましょう。自主鍛練を積めば、中級への昇級も近い」

 

「ご指導、ありがとうございました……」

 

 

 疲労困憊。

 ゼーゼーと忙しい呼吸をしつつ、お辞儀する。

 

 

「これを渡しておきましょう」

 

 

 彼の手にあるのは北神流の指導教本。

 初級・中級・上級までを網羅しているとのこと。

 門派としては実践派。

 星の数ほどある北神流の門派の中ではオーソドックスなタイプだ。

 

 

「私の剣は少々特殊でしてねぇ。付け焼き刃で真似出来るものではないんですよ」

 

 

 奇をてらう事も無いだろう。

 不器用な俺には基礎的な部分を学べれば満足である。

 肝心なのは地力を底上げすることなのだ。

 おとぎ話の英雄のように一足飛びに強くなろうとは思わない。

 あのパウロでさえ基礎固めから始めて、列強入りしただろうしな。

 

 

「やはり死神ランドルフは健在か」

 

 

 稽古の終了と見て、ルイジェルドが一言呟く。

 ランドルフの実力を示す片鱗など見られなかったと思うが?

 手練れであるルイジェルドの目には、何か感じ取れるものが映ったのだろう。

 

 

「死神ラクサスを討ったその真価。是非とも拝見したいものだ」

 

 

 戦士としての部分が表層に滲み出たのか、三叉槍に巻き付けられた布を剥がそうとしている。

 

 

「止めてください。そういった手合いに辟易して故郷で家業を継いだのですから」

 

「む、そうか。それは悪いことをしたな」

 

 

 意気消沈とまではいかないものの、ルイジェルドにしては解りやすく萎えた顔つきだ。

 文字通り矛を納め、一歩引く彼をエリスは『残念だったわね』と慰めていた。

 

 

「ではこれにて稽古は終了です。ルーディア殿、あなたの適性は三流派の中では北神流が最も高いとお見受けします」

 

「ですかね?」

 

「魔術師としても完成されているようで。併用すれば奇抜派からの派生も可能かと」

 

「我流ということでしょうか?」

 

「北神流の数ある門派のいずれも、初めは我流ですよ」

 

 

 それこそ北神流そのものが我流を起源とすると、彼は付け加えた。

 要するに歴史と規模の問題になるわけか?

 北神流・魔術派とでも名乗ろうかしら?

 奇抜派の人間なら魔術のひとつやふたつ、使いそうではあるが、俺には無詠唱魔術がある。

 差別化など容易だ。

 

 散々痛めつけれたが、気持ちの良い汗をかいた。

 服を捲り上げて手拭いで胸の谷間に溜まった汗を拭き取る。

 鼻息を荒くしたエリスが傍にいたので警戒を強める。

 が、注意していた俺の間隙を突いて、手拭いを引ったくったかと思えば、堂々と懐に収めた。

 後でナニに使うんですかねぇ?

 

 

「それでは宿に戻ります。ランドルフさんとはこれで最後かもしれませんね」

 

「一期一会の出会いというものでしょう。もしも再会の機会に恵まれたのなら、ナナホシ焼き改め唐揚げをご馳走しますよ」

 

「それは期待大ですね」

 

 

 別れの挨拶を済ませ、俺たちは飯屋を後にした。

 パウロにはまるで届かないが、晴れて俺も三流派を修めたというわけだ。

 

 ・剣神流 中級

 ・水神流 初級

 ・北神流 初級

 

 そこらの騎士よりは技量に優る。

 まだ成長の過渡期で華奢な身体ゆえに、体格差というハンデはあるものの、それは時間が解決する。

 焦ることない。

 じっくりと時間を掛けて、伸ばしてけばいい。

 

 後日談。

 その日の晩、エリスが俺の汗の染み込んだ手拭いで、とある行為をしていた事は、心の内にしまっておこう。

 

 

──

 

 

 馬車を買い足して街道沿いに進む。

 行く先は王竜王国の首都ワイバーン。

 シーローン王国までは4ヶ月は掛かる。

 その時々で目的地を設定しておいた方が、旅の心的負担は軽減されるものだ。

 終わりの無い旅というのは不安が募りがちである。

 ゆえに首都ワイバーンを目指し、進路を取った。

 

 街道は西側と北側で分岐しており、今回は北側を選択。

 シーローン王国までの旅路上、幾つもの小国を経由することになる。

 遊んでいる暇は無いが、その国々の空気感というか文化に触れる機会くらいはあるだろう。

 そして間もなく首都ワイバーンへ到着した。

 

 王竜王国はいわゆる大国に分類される。

 一番手をアスラ王国。

 二番手にミリス神聖国。

 そして三番手に王竜王国という並び。

 四つの属国を従え、周辺国家への影響力が極めて強い。

 

 その点、アスラ王国は纏まりが良いだろう。

 四家に分かれるグレイラット家統治の四地方は、各領地が一国として成り立つ国力。

 それを一手に束ねるアスラ国王の手腕を振るう様は鮮やかなものだ。

 実際には身内同士で足の引っ張り合い。

 政治の駆け引きで各家の力を削る事に注力しているが。

 それにフィットア領は消失してしまったし、国力の減退は今も尾を引いていそうだ。

 

 ワイバーンの町並みに意識を向ける。

 見る限り、鍛冶屋が多い。

 王竜山で採掘出来る豊富な鉱物資源が関係し、この国は刀剣類の一大産地だ。

 ついでなので、そこらの武具屋に立ち寄り、魔物の素材を回収する為の剥ぎ取り用ナイフを調達する。

 

 北神流の道場が多い。

 北神英雄譚に語られる場所とあってか、剣の聖地に次ぐ剣士憧れの土地。

 僅かに水神流道場もあるが、群を抜いて北神流道場が数に勝る。

 

 エリスの要望でふらっと覗いてみた。

 死神ランドルフの稽古を受けたばかりの俺からすれば、低いレベルの指導内容だ。

 師範とやらも上級止まり。

 魔術さえ使えば、俺でも勝てる実力。

 北神流・魔術派が火を噴くぜ。

 

 滞在期間もそこそこに、次なる国へと進む。

 北上を続け、サナキア王国とキッカ王国を通り抜ける。

 途中、水田の並ぶ風景にお目にかかる。

 気候的にもアジア的。

 米作りが盛んらしい。

 戯れに購入し、飯ごう炊さんなどをしてみた。

 不出来ではあったが、懐かしい味わいだ。

 バリバリとした焦げた食感は兎も角、涙が出るほど美味しかった。

 生卵をかけて卵かけご飯にして食べたりもする。

 ちなみに醤油は無い。

 

 この世界では生卵を食べる習慣が無いようで、エリスにドン引きされる。

 『お腹を壊しちゃうわよ?』なんて注意を受けたが、そこはほら?

 俺には治癒魔術ががあるので杞憂に終わる。

 毒物(ゲテモノ)を必死にかきこむ俺を眺めて、エリスはゲンナリしていた。

 ルイジェルドは『腹を壊さん程度にな』と、心配の声を寄せてくれている。

 

 やがてシーローン王国王都ラタキアへと辿り着いた。

 道中では、エリナリーゼが発情してルイジェルドに言い寄る場面もあったが、靡く事はなかった。

 きっと彼女は、これから男を求めて町を練り歩くのだろう。

 

 宿で部屋を取ると、すぐさま飛び出していった。

 タルハンドは宿屋併設の酒場で酒をあおるとのこと。

 ルイジェルドは、そんな彼の酒盛りのお付き合いだ。

 

 初日は各々自由時間とする。

 情報収集は明日から始めれば良い。

 とはいっても、手にするべき情報は既に持っている。

 王宮にエリスの両親と生まれたばかりの弟が捕らえられているのだ。

 後はどう救い出すかなのだが、ロキシー宛に手紙を出し、手引きして貰えばいい。

 言葉にしてみると簡単だ。

 

 焦らずとも無事は保証されている。

 無理に疲労を溜めて行動しても思わぬ失敗へと繋がるだろうので、俺とエリスは部屋に籠り、身体を休めることにした。

 

 同じベッドで横たわり添い寝。

 上着を脱いで薄着となった。

 本格的に眠るわけじゃないが、ウトウトし始める。

 夕飯の時刻になればルイジェルドかエリナリーゼ辺りが起こしに来てくれることだろう。

 

 

──

 

 

 暑い。

 汗だくだ。

 寝汗がやけに酷く、身体中に不快感が纏わりつく。

 密着感に気付く。

 抱きつかれているな?

 

 片目だけを開けて、しがみついているエリスを見やる。

 普段以上に俺を強く抱き締め、うなされている様に眠る彼女の姿があった。

 悪い夢でも見ているのか……。

 不憫に思い、身体を揺さぶって起こしてやる。

 

 

「エリス、うなされていたみたいですけど、大丈夫ですか?」

 

「ルーディア……。起こしてくれてありがと。うん、嫌な夢を見ちゃって……。お願い、抱き締めさせて」

 

「お互い、汗まみれですよ? 私、匂ったりしません?」

 

「ルーディアの匂いなら大歓迎よ」

 

 

 部屋に美少女2人の香りが充満する。

 窓を開けて換気したいところだが……。

 エリスはベッドから降りることすら許してくれなさそうだ。

 こうなれば強情なもので、羽交い締めにしてでも阻止に走ることだろう。

 

 

「スンスン……。あまい香りね」

 

「ちょ、貴女は変態さんですか?」

 

 

 抱擁までは許そう。

 むしろ俺も興奮する。

 しかし胸元に顔を埋めて香りを堪能する様はいただけない。

 匂いフェチかとツッコミを入れたくなる。

 いやまぁ、俺にもその気はあるけども。

 だがやはり、自分がやるのと、されるのとでは受け止め方が変わるものだ。

 

 

「ルーディアも嗅いで良いわよ」

 

「遠慮しておきます。こんなところ、誰かに見られでもしたら言い逃れが出来ません」

 

「言わせておけば良いのよ。私たち、姉妹なんだから」

 

 

 姉妹は汗だくで抱き合ったりしませんよ?

 

 淫靡な香りが漂い、自我を削られてゆくのを感じる。

 このピンク色の空気に中てられてしまったらしい。

 緊張のせいか、身体は脱力してしまう。

 いま襲われでもしたら、ろくすっぽ抵抗なんて叶わないだろう。

 

 

「不安なの、ずっと」

 

「と、言いますと?」

 

 

 家族の事だろう。

 エリスの両親の安否を知る俺ならばいざ知らず、彼女は見えない闇の中で歩き続けている。

 日頃の気丈さは消え、いまになって弱気になってしまったのだ。

 時々でも弱音を吐いて、溜め込んだものを消化すべきだ。

 それが今この瞬間。

 

 

「ねえ、もっとルーディアを感じていたいの」

 

「それは……。気の済むまでどうぞ」

 

 

 俺の身体でエリスの不安を取り除けるのならお安いご用だ。

 あ、でも先っちょだけなら許すとかそういう曖昧なもんじゃない。

 健全かつ婚前の娘に相応しい範囲でお願いします。

 

 

「ルーディアは可愛いわね……」

 

 

 熱い吐息が鼻先にかかる。

 ごくりと生唾を飲み込み、ソレの訪れを予感する。

 

 

「キスさせなさいよ」

 

 

 肉体関係を迫る男の発言だ。

 接吻程度であれば……まだ貞操は守れているのか?

 いや、まだダメだろう。

 エリスの物になるのは、俺が成人してからだと約束したではないか。

 大人になるまでは、たとえキスであろうとも身体を許さない。

 おっぱいを揉むくらいで勘弁してくれ。

 

 

「それは約束を反故にするということで?」

 

「いけない?」

 

「そりゃあ、いけませんよ。私に覚悟が出来ていません」

 

「私は出来てる。ルーディアになら、抱かれても構わないわ。むしろ、こっちから抱かせてよ」

 

 

 エリスは自棄っぱちになっているのだろう。

 寂しさを肉体を重ねることで埋めようとしている。

 だがそれは気持ちの誤魔化しであり、誠実さに欠ける。

 してしまえば悔いを残すのはエリス自身だ。

 

 双方の合意とムードってやつが大切だ。

 雰囲気作りもせずに、求めるだけ求めるなんて調子の良い話があってなるものか。

 エリスのことは好きだ。

 だからこそこの関係を一時の気の迷いで壊したくはない。

 

 

「エリスが不安なのは解ります、しかし、こんなやり方はいけない。必ず後悔が残ります。キスなんてしたら歯止めが利かなくなってしまう」

 

 

 なし崩し的に俺とエリスは、淫奔な日々へともつれ込むだろう。

 俺の自制心は弱い。

 一度崩れてしまえば二度と修復は叶わない。

 そこにつけこまれてエリスに抱き潰されるのだ。

 快楽に溺れ、旅の半ばでエリスとの子を身籠るなんてこともあり得る。

 

 いや、まだ女の子同士で妊娠までいかないけど……。

 それでも肉欲に負けて、旅の目的を忘れるなんて事態も想像に難くない。

 

 いっそヒトガミから提供された情報を明かしてしまおうか?

 うーん、それはリスクが高い。

 私よりもヒトガミとかいう得体の知れない存在を信用して、これまで旅をしてきたのか!

 と、糾弾され不信感を抱かせかねない。

 信頼度で言えばエリスの方が高い。

 窮地の場面で、どちらの言葉を取るべきかと問われたならば、確実にエリスを信じる。

 というか、ヒトガミとの繋がりを持つ事実そのものが後ろめたい。

 

 

「胸を揉むだけならいくらでも。しかし、キスはまだダメです」

 

「そうね、キスは夫婦になってからよね?」

 

 

 どちらかと言えば順序的にキスから始まって愛撫に続くんですが?

 これも俺とエリスならではの関係性か。

 

 

「でも今日のところは、おっぱいを揉むのは止めておくわ。ルーディアが言っていたように、それこそ歯止めが利かなくなりそうだもの」

 

「なるほど。ではどうします? 不安はまだ解消されていないご様子。私に出来る範囲であれば協力させてください」

 

「そうね。ただ傍に居てくれるだけでいいわ」

 

 

 ラフな笑みを浮かべ、俺に覆い被さってくる。

 てか、押し倒された。

 キス、しないって言ったじゃん!

 胸も揉まないって。

 それ以上の事を求めようとは大胆不敵だ。

 

 

「勘違いしないでよね。ゼロ距離でルーディアを感じたいだけよ」

 

「重いですよ、エリス……」

 

 

 甘え過ぎやろ、この子ってば。

 可愛いかよ!

 

 むせ返る程の甘ったるい匂い。

 2人の体臭が混ざり合い、思考能力を鈍らせる芳香が蔓延する。

 臭くはないが、呼吸が荒くなる。

 

 

「ルーディアは可愛いわ」

 

「それはさっき聞きました」

 

「スッゴく可愛いって事よ!」

 

 

 耳もとで叫ばれた。

 キーンッと鳴る耳を押さえつつ、エリスの表情を確認する。

 相変わらず狂熱的な面差し。

 抱かない宣言を自らに課したエリスは、自分でも情欲の行き場に困り果てている。

 

 思わず、そっと彼女の頬に両手を添えて抱き寄せしまう。

 胸に顔を拘束してやった。

 

 

「むがむがっ……!」

 

 

 籠った声が聞こえる。

 ごめん、何を言ってるのかわからん。

 そしてくすぐったい。

 エリスの口の動きで、乳房が微振動し、むず痒さに襲われる。

 

 

「私もエリスのことが可愛いって思います。だから愛でさせてくださいよ」

 

 

 エリスを見てるとなんかこうね?

 母性を刺激されると言いますか……。

 放って置けないのだ。

 

 衣服越しに感じるエリスの熱。

 俺の体温との相乗効果でどこまでも身体は熱されてゆく。

 ことさらに汗は流れ、ムンムンとした香りが増す。

 天然の女体サウナである。

 エッチな響きだねぇ──。

 

 体温だけでなく室温にまで影響が及んでいるらしい。

 俺の香りが、エリスの香りが、温もりと融け合って正気を失いそうな空間の出来上がり。

 スケベな長耳族(エルフ)のお姉さんことエリナリーゼが匂わせる香りよりも、よほど人の色欲を高めることだろう。

 

 

「ぷはぁっ! いきなり何するのよ、苦しいでしょ!」

 

 

 俺のおっぱいから脱したエリスが物申す。

 赤面した顔は若干ニマニマしていた。

 喜びを隠せていないですよ?

 

 

「今度はこっちの番ね!」

 

 

 宣言通り攻守交代。

 一転して、エリスの両腕が俺のか細くも乳だけ大きい身体を包み込む。

 抵抗する気力の残っていなかった俺は、呆気なく捕縛され、顔面に年の割にはかなり豊満なバストを押し付けられる。

 

 その膨らみは俺の顔を見事に受け止め沈み込む。

 弾力性に押し返されるも、後頭部からエリスの腕がこれまた押し返す。

 極楽か?

 ここは。

 

 歳かさ的にまだ青い果実でしかないそれは、既に母性の象徴としての役割を十分に果たしていた。

 まあ、デカイし。

 落ち着く……。

俺もまた、エリスのように傷心状態にあったらしい。

 

 それもそうか。

 初潮を迎えたばかりで混乱している。

 動揺は収まったものとばかり思い込んでいたが、旅を続けなければという焦燥感から、無理やり考えないように努めてきただけだ。

 

 女として生きなければならない。

 その重責に肩へ重みを感じる。

 それをエリスは和らげてくれた。

 俺はきっと彼女に依存している。

 エリスもまた、妹である俺を心の拠り所としている。

 良く言えば支え合い。

 悪く言えば共依存。

 

 ふむ、この関係の良し悪しは何とも言えない。

 故郷を離れて2年以上。

 ルイジェルドという頼れて気の許せる存在は居る。

 それでもこの世界に蔓延る害意への物案じは尽きない。

 それどころか生きる年数を重ねる度に増大する一方。

 

 だからきっと神様もこの間柄を見逃してくれる。

 人間なんて弱い生き物だ。

 こうして安らぎに心を委ねるのも多様性に富むこの世界じゃありふれた光景に違いない。

 

 柔らかで優しいエリスの肉の感触に安堵する。

 彼女になら何をされても構わないとさえ思ってしまう。

 それは先ほど拒否したので、実現はしないが。

 

 拘束されながらも、頬擦りを敢行する。

 動作に合わせて形を変化させる乳房。

 心地好さに浸り、ウットリとする。

 惜しむべくは舐めたり、吸ったりはNGってことだ。

 

 乳幼児の頃、授乳の際にゼニスのおっぱいで試した事があったか?

 いや、赤子だから吸うのは当然だが。

 舐め回したってのは、今考えれば異常な行動だったな。

 リーリャが悪魔憑きではないかと疑っていたと、後年になって自白して来た。

 悪魔じゃないよ、無職の引きこもりだよ?

 

 その後長らくエリスの胸の中で暑さと息苦しさに苛まれ、気がつけば気絶していた。

 意識を失うほど愛されるなんて、愛情が重たすぎるぜ。

 

 目覚めると懸念した事態が発生。

 エリナリーゼに薄着で絡み合う姿を目撃され、姉妹という関係性を疑われた。

 爛れた姉妹であることは否定しない。

 けど断じて肉体関係は持っていないのだ。

 弁明しても信用は得られず、自他共に認められる百合姉妹の関係を確立させてしまう。

 

 そしてエリスが一言。

 

 

「ルーディアは私のものよ!」

 

 

 ルーディアは俺の嫁!

 と言わんばかりに喧伝するエリス。

 この流れだと、15歳の誕生日を迎えた日に覚悟云々の段階をすっ飛ばして籍を入れてしまいそうだ。 

 それもまた姉妹の愛情表現のひとつの在り方──。

 とでも言葉を濁しておこう。

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