無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~ 作:三毛猫丸
人質は首都ラタキア郊外の古びた倉庫に押し込められているとジンジャーから情報提供を受けた。
離反した親衛隊の一部との合同作戦。
元々、パックスの親衛隊の隊員数は少なかったそうだが、奴隷市場のツテを作った功績と、聖級クラスの奴隷を私兵化した事から、一定の評価を与えられた。
そこで褒美として親衛隊員が増員されたのだとか。
総員15名らしい。
その内、離反組はジンジャーを含めて数にして3人。
一部が親衛隊から抜けたと話していたが、ほんの数人とは思わなかった。
戦力不足だな。
まぁ、ルイジェルドが居れば、その戦力差も有ってないようなものだが。
さて、王宮の方では、パックスが逃亡を図ったとかで、追跡を開始したらしい。
残るパックス側の親衛隊が抵抗していて、手こずってるらしい。
構ってはいられないので、パックスの身柄拘束は国王の手勢に委ねるとしよう。
他の人質を取られた一般兵士に関しても、パックス確保に動いているとのこと。
さて、件の倉庫だが……確かに事前情報通り、護衛の数は少人数に留まっている。
だが屈強だ。
ルイジェルドに言わせれば、取るに足らぬ戦士だろうが、一般の兵士には荷の重い相手だ。
何でもパックスの手にある奴隷らは、シーローン王国に接している紛争地帯で戦争捕虜となった人物らしい。
技量も高いだろうが、敵対国に同等以上の戦士なりが居たのだろう。
戦場で敗北を喫して捕虜へ。
それから捕虜の身から奴隷の身へとやつし、奴隷商人へ売り飛ばされて、ここシーローン王国へ流れ着いたのだと推察する。
奴隷とはいえ、金さえ稼げれば自分自身を買い取る事は可能だ。
下手に逃げ出しても指名手配が掛かるので、仕方なしにパックスに従っているのだろう。
いかに馬鹿皇子とはいえ、給金くらいは出しているようだ。
反乱を誘発しかねないしな。
まぁ、親衛隊からは忠誠心を得られなかった挙げ句に、こうして蜂起されているわけだが。
「どう攻めます?」
「正面突破だ」
作戦もへったくれも無い。
ルイジェルドってこう……もっと戦闘に関しては慎重な思考の持ち主だと思っていたが?
あ、そっか。
額のセンサーで敵の数を把握し、最善手が正面突破であると判断を下したのだろう。
ここは彼の指示に従うべきだ。
「ルイジェルド殿、背中は我らにお任せを」
ジンジャー率いる親衛隊より分離した一派が背後を守護してくれるという。
俺としても魔術師という職業柄、紙装甲。
たった3人だが居ないよりはマシだ。
安心して事に当たれるというもの。
「俺が先陣を切ろう。エリスも続き、その後ルーディアを守れ。ルーディアはジンジャーらと共に後方支援だ」
「腕が鳴るわね!」
「了解!」
サポートに徹するとしよう。
剣士や戦士相手に、馬鹿正直に近接戦を挑むつもりはない。
今回はルイジェルド達の独壇場というわけだ。
そして彼が切り込み隊長として、奴隷戦士達へ接近する。
三叉槍の先端が奴隷戦士の喉元を穿った。
一瞬だ。
聖級クラスの手練れを、ほんの一突きで仕留めたのだ。
これにはジンジャーらも驚嘆する。
俺は見慣れているので、余裕の表情。
エリスもまた、初っ端から光の太刀を繰り出し、大柄の男の首を斬り飛ばした。
もはや殺しに忌避感を抱かない程に肝が据わったか。
直後、ワラワラと奥からパックスの私兵が群れとなって表へと出てきた。
数にして20人は下らない。
いずれも鍛え上げられた筋肉が眩しい。
剣や槍に留まらず、戦斧やボウガンを携えた者まで居る。
多種多様な戦力だこと。
というか、手薄でこれだけの見張りが付いてるのかよ。
とりあえず飛び道具は危険だ。
早々に
視界に映る範囲にボウガンの射手が居たので、背後から座標指定魔術で狙い撃ち。
が、傍に居た戦士風の男に魔弾を難なく切り捨てられる。
聖級クラスには及ばないまでも、対魔術師戦に慣れているかのような手つき。
紛争地帯での戦場を多く経験した中で培われた手技か。
今回はあまり役立てそうにない。
無理に前へ出ても足手まといだ。
混戦の中に飛び込む勇気も無い。
遮蔽物も少ないので、大人しく後方に位置を維持する。
盾にはルイジェルドがなってくれる。
「ルーディアは私が守るわ!」
頼もしい姉も守ってくれると言う。
俺単体だと火力はともかく弱いからな。
こんな乱戦下じゃ、下手に帝級威力の魔術なんて放てないし。
エリス様々である。
と、ここでボウガンの矢が魔術師の風体をした俺を排除すべく射出された。
目の前にはエリスが立つ。
居合いの構えからの一太刀。
淀みなく鞘から抜かれた剣は、矢を捉えて粉々にする。
パラパラと散る破片が、達人技の現実味を知らしめる。
「余裕よ。それにしてもよくも私のルーディアを狙ったわね!」
怒りに任せて飛び出すエリスだが、考え無しではないようで、狙撃を避けつつ、時には剣で切り払っては射手との距離を縮める。
至近距離にまで到達すると、顎先を蹴り上げてから胴を横薙ぎ。
吐血した射手が最期に見た光景は、上半身を失った自身の下半身だった。
エリスは血の付着した剣を振り払い、血液を地面へと飛ばす。
再度、俺の護衛に回るべく、華麗な足取りで舞い戻ってきた。
何故か上機嫌だ。
「どう? 格好良かったでしょ!」
姉としての勇姿を示したつもりでいる。
うん、カッコ良かった。
惚れてしまいそうだ。
「この状況で余裕ですね」
「油断はしてないわよ。でもコイツら、弱すぎるもの」
ふむ、エリスの実力は既に剣聖クラス。
転移事件のせいで正式な認可試験を受験してこそいないが、日々剣の腕前は向上している。
ルイジェルドとも飽くなき鍛練に励んでいる様子。
彼女にとってこの戦場は物足りないのだろう。
数少ない味方に付いた親衛隊らにも目を向ける。
劣勢気味だ。
血を流して倒れる者が1人いる。
気力で命を繋いでいる有り様だ。
すぐに
程なくして立ち上がった彼らは、再び戦線へと復帰する。
後方支援とはこういうものである。
ルイジェルドは無双状態。
もう2人居た聖級相当の戦士を文字通り八つ裂きにして、肉片をそこら中に撒き散らしていた。
手荒いが、戦士同士の殺し合いだ。
容赦する気もなかったのだろう。
その後は残党狩りだ。
投降の意思のある者は、俺の土魔術で地面へと固定しておいた。
呼び掛けに答えず徹底抗戦しようという者は少なかった。
ルイジェルドの化物染みた強さを目の当たりにしたというのもあろうが、パックス皇子なんかの為に死ぬ事が解っている戦いに身を投じようとは思えなかったのだろう。
戦闘終了。
肝を冷やす場面もあったが、終幕は呆気ないものだ。
倉庫に捕らえられていた人質の解放も恙無く進んだ。
さぁ、町へ帰ろうかと、集団での移動を開始したその最中での出来事──。
──そいつらは現れた。
「兄上! 奴らを殺せば、この人形を進呈する! こやつらは余に楯突いた不届き者だ。それに国内へ敵対勢力を招き入れた悪党だぞ!」
寸胴で横幅の広い男。
背は俺よりは少し高く、しかしエリスよりは低い。
成人男性の顔が、その不釣り合いな身体に乗っかっている。
彼が第七皇子パックス・シーローンだろうか?
その手には俺の姿を模ったフィギュア。
あれぇ?
それって俺がボレアス家に滞在している時期に、戯れに市場へ流した代物では?
何度も作っては壊して、一度だけ小遣い稼ぎに売却した事があるのだ。
よもや、ロキシー人形と共にシーローン王国へと流れ着いていたとは。
「パックス殿下!」
ジンジャーが叫ぶ。
ビンゴらしい。
「それにザノバ殿下!」
もう1人居る。
パックスと少し似た顔立ち。
だが体格は正反対。
細木のような長身。
背丈だけならルイジェルド並みか。
丸眼鏡を掛けたオタクっぽい男。
「パックスよ。約束を違えるでないぞ。その麗しき少女の人形と、ロキシー殿を模した人形を並べて飾りたいのだ」
「約束は守る! あいつらさえ殺せば、父上のお怒りも、外交問題とか言うのも有耶無耶に出来る!」
どうやら皆殺しにして口封じを目論んでいるらしい。
しかし兄上?
あの枯れ木のような大男も王族なのだろうか。
「ザノバ殿下は、この国の第三皇子です。怪力の神子であり、その肉体も鋼のごとく頑強です」
ジンジャーの説明が入る。
「物理攻撃はまず通じない物としてお考え下さい。ルイジェルド殿であれば、あるいは……といったところでしょうか」
神子ってのは世界に10人と居ない特殊な能力を保有する人間だ。
ザノバ皇子も先天的に『怪力』の名を冠する異能を保有しているのだろう。
「魔術攻撃は効きますか?」
「効きますが……。ザノバ殿下を殺害すれば、計画は破綻します。彼はこの国防を担う存在。ザノバ殿下を失っては、シーローン王国は立ち行きません」
元より王族を殺そう等とは思うまい。
沙汰を下すのは、シーローン国王の役割だ。
いくら非常事態といえど、勝手な独断で手に掛ければ、戦争は避けられん。
俺とエリスはアスラ王国の人間だと認識されるだろうしな。
「ルーディア殿はお下がり下さいませ。ここは自分が、パックス殿下及びザノバ殿下の説得に当たります」
言われるがままに集団の最後尾に避難する。
代わりにルイジェルドが、人質達を守るように先頭に立つ。
事の成り行きは、ジンジャーの交渉次第だな。
「ジンジャー貴様! 余を裏切ったな! フィリップとかいうアスラ貴族に唆されおって!」
「お言葉ですが、我々の身内はフィリップ殿の手勢により、脅かされていたのです。我々としても不本意であります」
「なにい? ふん、そういうこともあるのか?」
フィリップが悪人に仕立て上げられている……。
後で国王が誤解を解くとはいえ、やるせない気持ちだ。
しかしパックスは思惑通り騙されているご様子。
このまま押し切れるか?
「だが許さんぞ! 余を裏切るということは反逆の意が有ると見なす! お前の家族がどうなっても良いのか!」
「それは……」
困惑気味にジンジャーは集団に視線を配る。
人質は既に解放されている。
自分で取った人質の存在に気づかないのか、この男は?
「む、なんだその見慣れん者は! そこのハゲ、名をなんと申す! フィリップの手勢か!」
ルイジェルドの姿が目に留まったらしい。
手勢かと問われれば、否定出来ない部分もある。
わざわざ言わんけど。
「デッドエンドの番犬だ──」
「知らん! 犬畜生がこの国に何の用だ!」
「旅の途中で立ち寄った。それだけだ」
「っち、ロキシーのヤツ以外は興味など無いわ。余は寛大だ。
自分で寛大と言う男など信用ならない。
ましてや人質を取るような悪どい輩だ。
「だが去らんと言うのなら、ここに居る兄上、怪力の神子ザノバ直々に貴様らを葬ってくれる」
「他力本願とは意気地の無い男だ」
や、煽らんでくださいよ、ルイジェルドさん。
「なにぃ! 余を侮辱したな! 兄上、奴らを殺してくれ。さすればこの人形は兄上の者だ!」
「お待ちください。パックス殿下!」
「待たん!」
交渉決裂か?
いや、まだザノバとの対話の余地が残されている。
「ザノバ殿下。我々はあなた様と事を構えたくはありません。お母上の事から受けた御恩もあります。何卒、矛をお収めください」
矛も何も無手だが?
いやまぁ、怪力の神子と呼ばれるくらいだ。
素手でも強いのだろう。
うん?
国王がパックスへ放った追手は、彼が返り討ちにしたってことか。
じゃあ、強いわ。
「余は止まらぬ。たとえ弟に顎で使われようとも、譲れぬものがあるのだ。見よ、あの人形を。なんと精巧で躍動感に溢れることか!」
パックスの持つルディちゃん人形を指して熱く語りだす。
「麗しい少女とは言ったが、余は女に興味を持たぬ。しかしだ。この人形は別である。今一度見るのだ、この小生意気な表情を。今にも不遜な態度で罵倒を飛ばさんとする顔!」
メスガキとでも言いたいのかね?
調子に乗って、普段自分のしない様な表情を、姿見に映してフィギュア化してみたのだ。
本来であれば、小生意気な顔なんてしないぞ。
「初心者用の杖などを構えて一端の魔術師気取り。さりとて、己が才能を疑わぬやる気に満ちたポージング!」
実際は才能に関してはどうとも言えない。
治癒魔術は我ながら才能に恵まれているとは思うが、こと戦闘に関しては実力不足が否めない。
「服装に着目するのだ。どこぞの貴族令嬢なのだろう。レースで飾られたドレスに身を包む。少々、胸の辺りがダボついてはおるな。だが恥じる様子など、おくびにも出さぬ。不相応な服に振り回されていることにも気づいておらんのだ」
基本、ボレアス家じゃエリスのお下がりの服を着てたからな。
胸元に余裕が生まれるのも当然だ。
中に詰め物などして対応した事もある。
まあ、ヒルダの計らいでサイズぴったしの服を買い与えられもしたが。
エリスが何かお下がりの着用を勧めるもんでね?
「なんとこのドレス。着脱可能というではないか!」
パックスよりフィギュアを奪い取る。
「兄上! まだ約束は果たされていないぞ!」
「黙っておれ! 説明の為に一時借り受けるだけである!」
フィギュアについは、俺のこだわりで衣装の着脱式に仕上げた。
下着姿である。
とはいえ上はキャミソールで、下はキュロットペチコートといった、およそ色気とは無縁な肌着だ。
「まだ成長過程なのだろう。女児の貧相な体つきだ。だが、まだ性の意識が薄いがゆえに、警戒心を持たぬ堂々とした佇まい。今この瞬間にしか無防備な乙女の艶姿は存在し得ぬ。その貴重な時を切り取ったものだ!」
「はぁ……自分には解りかねますが」
「ジンジャーよ! ここまで余が力説しても理解が及ばぬか! ええい! この中にこの人形について語れる者はおらんか!」
暴れだすザノバ。
地団駄で地面が捲れ上がる。
怪力とやらを発揮しているようだ。
ふむ、人形──フィギュアについて語れる同志であれば、俺が適任じゃないかね?
集団を掻き分けて、ザノバの前に出る。
「ザノバ殿下。私で良ければお話し相手となりましょう」
「む? お前は何者だ……? ……なんとっ!」
お、気付いたか。
君の手の中にあるフィギュアのモデルが、目の前に立つと。
「この人形の元となった少女か! ちっと実物は乳がデカ過ぎるが、おおよそは同じではないか!」
そのフィギュアを製作したのはボレアス家に居た頃だ。
身体の成長による誤差は当然ながら生まれる。
「名をなんと言う? そしてこの人形の制作者はどこの誰だ?」
「私はルーディア・グレイラット。その人形の制作者でもあります」
その証拠に即興で土魔術を用いて、さるぼぼの様な人形を作ってやる。
粗い出来だが、信憑性は高まったことだろう。
「ぬおぉぉぉ……! このザノバ・シーローン! 貴女様をお探ししていましたぞおぉぉぉ……!」
跳躍したかと思えば、そのまま着地と同時に土下座。
ちゃっかりフィギュアは、両手の平の上に乗せて、前へと突き出している。
しかし、いきなり王族に頭を下げられるとは予想だにしなかった。
「今のお手前で確信致しましたぞ! 貴女様は水王級魔術師ロキシー殿の直弟子にして水聖級魔術師のルーディア・グレイラット殿であらせられますな!」
いまそう名乗ったんだが……。
この国の皇子は話を聞かない人ばかりなのか?
「是非とも師匠とお呼びさせてくださいませ! このザノバ、貴女様のご命令とあれば、いかなる内容であっても従いましょうぞ!」
「そんな頭を上げてください、ザノバ殿下」
「では、第一の命令に従いましょう!」
なんだ、この人。
一挙一動を俺に任せっきりにするつもりか?
だが好都合だ。
あのフィギュアを餌にパックスに従っているようだし、寝返らせる事も選択肢に加えられる。
「ではザノバ殿下。パックス皇子を見限り、こちら側に付いていただけませんか? 新作の人形を製作して差し上げますので」
「おぉ! なんと! そのような事で褒美をいただけるのですな?」
そう言って、パックスからフィギュアを取り上げたまま、ザノバは俺の側へと寝返った。
「な! 兄上! 約束と違うではないか! その上、人形まで持ち去るなんて!」
「その口を閉じるが良い。貴様は誰に向かって敵愾心を向けているのか!」
「ぐっ……。ロキシーを余の女にするには、その小娘が必要なのだ。先ほど、ルーディアとか名乗っていたであろう? 紛うことなくロキシーの弟子だ!」
ヒルダから聞いたな。
パックスはロキシーを手篭めにしようと画策していると。
そんな彼に嫌気が差して、ロキシーは宮廷魔術師の地位勧誘の話を蹴って出国したとも。
フィリップ達が人質として通用しないから、次は俺を標的に定めたか?
「それにこの場に居る者全員を殺さねば、父上に叱られる。それは嫌だ。殺されるかもしれぬ!」
騒乱を誘発したものな。
それだけではない。
アスラ王国との衝突、王竜王国による締め付けといった事態までも、パックスの愚行で招きかねない状況。
そこまで事が進めば、王族といえども死罪は免れない。
いま引き返せば、ギリギリ国外追放で済むかもしれないが……。
彼の判断はいかに?
「面倒だ。首根っこを掴んで父上の御前へ連れて行こう。師匠、それでよろしいですかな?」
「はい、構いません」
後はザノバに任せよう。
一時は衝突も危惧していたが、対話で味方に引き込めて良かった。
神子がどれ程のものかは知らないが、無傷という甘い考えでは、命を落としていた筈だ。
何せ国防を担うほどの逸材だと言うし、相当なものだろうに。
「それでは師匠。余は一足早く王宮へと向かいます。後程、お会いしましょう」
「ありがとうございます、ザノバ殿下」
「いえいえ、お力添え出来たかどうか。後はその……」
「もちろん、新作の件は忘れていませんとも」
「おぉ! 師匠には礼を言い尽くせませぬぞ!」
いちいち反応が大きい。
だが第三皇子の後ろ楯を得たのだ。
事後処理もし易い。
んー?
微妙か。
ザノバはここに来るまでにパックスを捕縛せんとした兵士達を蹴散らしてきた筈だ。
いわば騒乱に加担した。
何かしらの処分が待ち受けている。
「うわあぁぁぁっ……! 離せ、兄上えぇぇぇっ……!」
わめく弟に目もくれず、ザノバは宣言通り、パックスの首根っこを掴んで引き摺って王宮方面へと向かっていった。
「これって解決したって事かしら?」
「みたいですね?」
エリスと顔を見合わせて釈然としない解決に、拍子抜け。
いや、スマートに収まったのだから、喜ぶべきなんだろうが。
「後の始末は我々が。事が収まり次第、お呼びしますので、お三方は宿へお戻りになってください」
ジンジャーの言葉に従い、直帰することにした。
──
宿の前にはパックス側に最後まで付いていた親衛隊の一部が倒れていた。
大多数は王宮方面で抵抗の末に死亡したらしい。
やはりヒルダ達の身にも手勢が迫っていたようだ。
エリナリーゼとタルハンドが守ってくれたみたいだな。
この国の精鋭の騎士らを相手取って、ほとんど手傷を負わずに撃退したのか。
元Sランクパーティーの腕は健在だ。
彼女らの活躍を労い、ゆっくりと宿で休みを取る。
だが俺には一仕事がある。
ザノバの為のフィギュア製作だ。
王族との約束は反古には出来ない。
モデルは現在の俺を選択。
ルディちゃんフィギュアのオッパイの大きいバージョンだ。
少し時間が不足し、出来に満足がいかなかったが、最低限の体裁を整えておいた。
少なくとも、ボレアス家で製作していた頃よりは腕前も上達し、クオリティとしては遜色ない。
しばらくして夕方頃、王宮よりジンジャーが遣わされてきた。
既にパックスの親衛隊は解散。
暫定的に王宮勤めの騎士待遇らしい。
引き続き、エリナリーゼとタルハンドは宿に残り、ヒルダらの護衛だ。
既に目に見えた脅威は去ったとはいえ、油断ならない。
というよりも、2人とも王宮のような堅苦しい場所を好まないらしい。
諸々の事情でデッドエンドの面々で王宮へと足を運ぶ。
──
謁見の間。
最奥の玉座に座るのは憂いた顔のシーローン国王。
やつれた表情で今回の騒動での心労の程が知れる。
そして玉座より10メートル程手前の壁際。
そこに彼は居た。
少し老けただろうか?
それでもまだパウロと同年代と若い筈だ。
見た目は優男だけど腹の中の読めぬ権謀術数に秀でた男──フィリップ・ボレアス・グレイラットその人だ。
「お父様──!」
「エリス──!」
飛び込むエリスをその胸で受け止める。
剣士として鍛え上げられた娘の勢いによろめいたものの、父娘の再会は今ここに成った。
顔を綻ばせた2人は周囲の事など気にも掛けず、湧きあがる喜びに身を任せていた。
そしてホロリと俺までもが、涙を垂らす。
この空間の主役はあの父娘だ。
国王にもその座を譲ってもらおう。
そして俺とルイジェルドはその至福の瞬間をじっと見続けるのであった。