無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~   作:三毛猫丸

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治癒魔術について以前と同じく、独自解釈があります。


7話 命の現場

 シルフを父親の下まで送り届けた。

 ちょうど良い機会なので挨拶をしておく。ご子息とお付き合いさせて戴いてます。なんていう風に。

 

 森の近くに立つ櫓で監視の仕事をしていたシルフの父親。

 驚いたことに彼こそがロールズだった。

 つい先日、魔物の肉をお裾分けしてくれたのは記憶に新しい。

 シルフの父ちゃんだったのね?

 

 

「はじめまして、ルーディア・グレイラットです」

 

「ああ、君はパウロさんの娘さんだね。と、うちの子と一緒に居る様だけど、これはどういった?」

 

「今日、友だちになったんですよ」

 

「そうだったんだね。うちの子をよろしく頼むよ」

 

 

 首尾は上々。好印象を与えられた。

 

 しかしロールズはシルフと似て超美形な男性だ。

 見た目はパウロと同年代だが、実年齢はもっと上だろうに、年を感じさせない。

 

 体の線は細いが猟師という職業柄、筋肉だってないわけじゃない。

 日頃、弓矢を射っていることから胸筋もエライことになっているはずだ。

 

 シルフもきっと父親の仕事の跡を継ぐだろうし、いずれはこんな風に逞しい男に育つのだろうか?

 今は女の子のように華奢な体つきだから想像しづらいな。

 

 

「お父さん、遅くなっちゃったけど、お弁当」

 

「ああ、すまないね。今日は悪ガキたちに嫌がらせをされなかったかい?」

 

「されたけど、ルディが助けてくれたから」

 

「そうだったんだね、ありがとう。ルーディアちゃん」

 

「いえ、友だちですから。当然のことをしたまでです」

 

 

 人から感謝されるってのは良い気分だ。

 今後も善行を重ねていこう。

 

 

「君のことはパウロさんからよく聞いてるよ。自慢の愛娘だってね」

 

「父さまが、そんな事を……。照れますね」

 

「奥ゆかしい子だね。うん、君がこの子と友だちになってくれて、親として本当に感謝しているよ。立派だ」

 

「あ、はい。どうも」

 

 

 この人、俺を褒め殺しにするつもりかい?

 まあいい、本題に入ろう。話の途中で切り出してみる。

 

 

「ロールズさん、今からシルフと遊んできても良いですか? もしシルフに家のお手伝いなどがあれば、日を改めますけど」

 

「ああ、構わないよ。ぜひ、遊んであげて欲しい。うちの子は、年の近い子と遊んだ事がなくてね」

 

「では、お子さんをお預かりします。夕方には送り帰しますね」

 

「君は、本当に子どもなのかな? しっかりとした受け答えで驚いたよ」

 

 

 はて? 第三者からすれば、そう感じるのか?

 

 パウロたちは俺が最初の子だから、感覚がマヒしているのかもしれない。

 だから俺の言葉遣いが大人染みていても指摘などしない。

 

 

「子どもですよ。パウロ・グレイラットの長子です」

 

「パウロさんが会うたびに、娘自慢する理由がわかったよ」

 

 

 得心がいったのか手を振って俺とシルフを見送るロールズ。

 たしかにシルフの話の通り優しい人柄の父親だった。

 パウロとは別のベクトルで善き父親だな。

 

 で、丘の方へやって来た。1本の木が伸びており木陰を作っている。

 木の根もとに腰を掛けてシルフに向き合う。

 

 

「さぁ、何して遊ぼうか」

 

「ボク、友だちと遊んだことがないから、どうすればいいのかわかんない」

 

「うーん、私も最近まで引きこもりだったからなぁ」

 

 

 誘っておいて何もアイディアが浮かばない。

 これじゃあ、シルフを退屈させてしまう。

 

 何か良い案が無いか思考の海に浸る。

 

 

「あ、あの。別に何かして遊ばなくても、いっしょに居てくれるだけで嬉しいよ……?」

 

「そう?」

 

 

 健気な子やで、ホンマ。

 その上、超絶美男子ときた。

 大人のお姉さんだってキュンキュンすることだろう。

 

 結局、その日は夕暮れまで何をするでもなく、2人で同じ時間を共有した。

 時間の許す限り、お互いの両親について話したりもしたな。

 

 ただパウロについて、事細やかに話してしまうと教育上、悪影響が出てしまう。

 部分的にぼかして説明した。

 

 そしてシルフを家まで送り届けた後、俺も自宅に到着。

 いつも通り、パウロに出迎えられた。

 

 

「よう、今日も楽しかったか?」

 

「はい、楽しかったですよ。別の友だちが出来ましたし。シルフという子なんですけどね」

 

「シルフ? あぁ、ロールズの子か」

 

 

 心当たりがあったらしい。

 しかし、ソマルの時とは違い、悪い反応ではなかった。

 同じ男友だちなのにこの差。人としての信頼が違うってことかしら?

 

 

「もう愛称で呼ぶようになったんだな」

 

「愛称ですか? 私は彼にルディと呼ばせていますけど、シルフはシルフでしょう?」

 

 

 可笑しな事を言うぜ。シルフの名前は読んでそのままのシルフである。

 愛称ではないはずだ。

 本人の口から出た名前もシルフだったし。

 

 

「まあいい、夕飯の時間だ。冷える前に食べよう」

 

「あ、はい。そうですね、お腹ペコペコですよ、もう」

 

 

 結局、違和感の正体を掴めぬまま、話は打ち切られた。

 でも俺とシルフの友情に揺るぎは生じない。

 明日も、明後日も、一年先も仲良くやっていきたい。

 

 

 

 

 それからの日々は、穏やかなものだった。

 俺の魔術を目にしたシルフは、自ら望んで学びたいと頼み込んできた。

 

 俺としても学びたいという者を無下にすまいと、快く承諾。

 まずは詠唱有りの初級魔術からスタートを切った。

 

 やがて俺とシルフが6歳になった。

 シルフは俺よりも誕生日が1ヶ月ほど早いらしいが、誤差の範疇である。

 

 午前から昼に掛けては自宅で過ごし、正午過ぎからはシルフに魔術を教えたり、家から持ち寄ったお菓子をつまんだり。

 

 充実した生活だ。家でも家族と仲良く暮らし、時々、パウロがゼニスにセクハラをして怒られていた。

 リーリャからプレゼントされたレシピ本で料理の練習、ゼニスに裁縫を習ったりもした。

 

 退屈とは無縁。

 あれもこれも全てロキシーのお陰である。

 

 そんなある日のこと。シルフと一緒にいる時を狙って、ソマル率いる悪ガキ集団が攻めてきた。

 数の暴力ってやつだ。

 中にはヤツらの兄貴たち、小学校高学年くらいの子どもまで混じっていた。

 

 さすがに素手じゃどうしようもならない。

 この身体は見た目相応に非力だし。

 ゆえに魔術を使って撃退したのだが──。

 

 どうもそれがパウロの耳に入ったらしい。

 

 なぜだか知らんが、俺がソマルたちに怪我をさせた事になっていた。

 冤罪である。

 

 手加減したウォーターボールをぶつけこそしたが、アザにもならないような威力。

 ロキシーから魔術を叩き込まれた俺が、そんな怪我を負わせるようなミスをするハズがない。

 

 とにかく腹を割ってパウロと対話し、誤解を解かねば。

 

 

「なあ、ルディ。いま村でちょっとした騒ぎになっていてな」

 

「はい……」

 

「村の男の子たちと喧嘩したって? いやまあ、正直なところ女の子(ルディ)1人に対して徒党を組んでいる時点で、向こうの非が大きいとは思うが」

 

 

 ほう、一応弁明の余地はありそうだ。

 

 

「でも怪我をさせたってのは感心しないぞ。ルディ、お前はちょっとやり過ぎちゃったな?」

 

 

 諭すような声色。

 娘相手に怒鳴り付けるのは憚れたのか、パウロにしては控えめな物言いだ。

 

 

「いいえ。それは違いますよ、父さま。だって私は、あのロキシー先生の弟子ですよ?」

 

「ロキシーちゃんの弟子か……。ああ、説得力が有り過ぎる答えだな」

 

「怪我なんてさせてませんよ」

 

「うむ……」

 

 すると思案するパウロ。

 

 

「わかった、ルディを信じよう。エトんとこの奥さんが怒鳴りこんで来た時は、何事かと思ったが……。俺とゼニスの子が、そんなバカな真似をするわけねぇよな」

 

「信じてもらえて何よりです。父親の愛を感じましたよ」

 

「すまん、少しでも疑ったオレが不甲斐なかった。許してくれ」

 

「自分を責めないでください。私は怒ってなんていませんよ」

 

 

 えらくあっさりと疑いは晴れた。

 子どもの言葉を聞こうとする姿勢は、父親として及第点である。

 ボーナスポイントをくれてやってもいい。

 

 

「とりあえず、またソマル坊たちが喧嘩を売ってきたら懲らしめてやれ。何かあっても父さんが何とかしてやる」

 

「その時が来たら、頼りにさせてもらいますね」

 

 

 一件落着、また少し親子の信頼を強めた。

 

 

 

 

 ──ある日、我が家に連絡が入った。

 シルフの父ロールズが怪我をしたらしい。

 

 近くの森で異常発生した魔物の群れ。

 ロールズはいち早く気づいたことから討伐に赴いた。

 

 パウロや村の自警団も出動して群れの大多数の討伐こそ終えたが、駆け付けた時には既に、片腕を噛みちぎられていたとか。

 

 こりゃあ、マズイ。

 

 診療所に担ぎ込まれて、今は意識不明の重体。ゼニスにも応援要請が掛かった。

 体から離れた腕も回収済みとのこと。

 

 けれどゼニスが使える治癒術は中級まで。

 切断された腕までは繋げられない。

 腕を諦めて、断面を塞ぐように治療するほかない。

 

 だが狩人であるロールズ。

 腕を1本失くしてしまえば、仕事への復帰は絶望的。

 

 そうなれば、シルフの家の働き手が居なくなってしまう。

 一応、ブエナ村として見舞金くらいは出るが、そう長くは生活の維持は出来まい。

 

 

「ルディ、お友だちのお父さんが怪我をしたの。貴女にも手伝ってもらえる?」

 

「もちろんですとも! ロールズさんには私も世話になっていますし」

 

 

 上級治癒術を使える俺ならば治療は可能なハズ。

 問題はロールズ自身の体だ。

 

 大量に血を流している為、失血死の恐れもある。

 その場で止血処置は施されたとは聞いている。

 が、1度は持ち直したかと思えば、後日容態が急変してそのままお陀仏ってケースもあり得る。

 

 出血性ショックによる心不全とかな。

 

 村の男衆が手配した馬に股がり、特急で診療所へと移動。

 ゼニスが馬の手綱を握り、相乗りさせてもらった。

 

 ちなみにパウロは魔物の狩り残しが無いか、森の中で警戒中。

 相棒のカラヴァッジョも出張っている。

 

 二次被害を防ぐ為、掃討作戦も視野にあるのだとか。

 

 診療所に到着するとシルフの母親と(おぼ)しき女性がうなだれていた。

 昏睡状態にある夫に寄り添い、必死に呼び掛けている。

 

 診療所の先生も手を尽くしたようだが、設備的にもこれ以上の処置はムリらしい。

 

 

「シルフ!」

 

「ル、ルディ……。お父さんが……死んじゃうよぉ……」

 

 

 ポロポロと涙を流す彼は、縋るように抱きついてきた。

 

 

「大丈夫だって。私と母さまで、きっと助けるから!」

 

 

 約束する。大切な友だちの肉親だ。

 救えなかったら一生物の悲しみを残すことになる。

 だからこそ、全身全霊を尽くして治療に臨む。

 

 横たわるロールズの息は弱い。

 残された方の腕の微弱な脈からして、相当に弱っているな?

 

 医療知識に乏しい俺でさえ、危険な状態だって理解する。

 

 施術前に、感染症予防で解毒魔術を掛けておく。

 既に消毒済みだろうけど、なにせ魔物にやられたって聞いたしな。

 何がどうなるか分かったもんじゃない。

 

 それに、この世界にも狂犬病のような病気があるかもしれん。

 

 その後、上級治癒術『シャインヒーリング』を詠唱する。

 自分の身体になら無詠唱でも確実性を持って発動出来るが、今回は他人の身体。

 

 万全を期して、長い詠唱文を唱える。

 いくらかの時間が過ぎ、切断面に合わせて添えられた腕──患部が神々しい光に包まれる。

 

 よし、発動に問題なし。

 1度は離れた腕は正常な形で取り戻された。

 相変わらず血色が悪いが、僅かに生気が戻ってきたようにも見える。

 

 治癒魔術には一定の増血作用がある。

 時間経過で快方へ向かうハズだ。

 

 後の処置をゼニスに任せて、俺は診療所の空いてるベッドに腰を掛ける。

 

 夕方になる頃には、ひとまず容態は落ち着いた。

 

 

「シルフ、終わったぞ。腕は繋がった。後はロールズさんの意識が戻るのを待つだけだ」

 

「う、うん! スゴい、スゴかったよ、ルディ!」

 

 

 興奮したように俺を抱き締める美少年。

 んん? 男に抱きつかれているのに不快感が無い。

 

 

「まあ、落ち着けよ」

 

「でも、ホントにスゴかったんだもん!」

 

 

 子どもの目には奇跡にも映ったことだろう。

 神様を気取るつもりはないが、親友からの感謝の気持ちは、俺に全知全能感を与える。

 

 思い違いはしない。

 経験則で知ってるんだよ、慢心は失敗の元だって。

 

 

「何かお礼した方が良いよね? でもうち、あんまりお金とか無いし……」

 

「友だちに金銭を要求しないって。それに村から出動手当てが支給されるだろうし」

 

「でも何でも良いからルディにお礼をしてあげたいんだよ!」

 

 

 困ったな。

 

 

「じゃあ、お礼としてさ。将来、私と結婚してよ」

 

「え? ボクと……結婚?」

 

 

 子どもの口約束だ。本気で言っているわけじゃないし、きっとシルフもその内、忘れるだろう。

 

 じゃなきゃ、男相手に冗談でも求婚しない。

 もしもシルフが女の子であれば(やぶさ)かでもないが。

 

 そういった諸々の考えで、礼をはぐらかすつもりで、結婚などと口走ったのだ。

 

 

「ボクたち、同性だけど結婚出来るのかな?」

 

 

 この子、まだ俺の事を男だと思ってる?

 いや、どこからどう見ても女の子のやろがい。

 

 それとも何か? 実はシルフも女の子だったりすんの?

 

 髪は短いし、いつもズボンしか履いてないし、男……だよな?

 俺の目って曇ってる?

 

 

「うん、ルディがそうして欲しいなら、ボク、結婚してあげるよ!」

 

「シルフが覚えてたらで全然構わないからね? 忘れてたら、結婚の約束は破棄でいいからな?」

 

「忘れないよ、ずっと覚えてるもん!」

 

 

 シルフには悪いが、まあ忘れるだろう。

 仮に覚えていても、その頃には笑い話になってるだろうな。

 

 

「あ、そうだ! ねえ、ルディ!」

 

「なんだい、シルフ」

 

 

 身を乗り出して顔を寄せるシルフ。

 うわっ! 睫毛が長い!

 顔だけ見れば、男女どちらでも通用する。

 

 究極の美とは性別をも超越すると言うが、長耳族(エルフ)の血を引くシルフには、良く当てはまる。

 

 

「あのね、ボク、治癒魔術を覚えたいんだ」

 

 

 さっきまで繰り広げられていた救出劇に感化されたらしい。

 

 

「そういえばまだ教えてなかったね。うーん、タイミング的にもちょうどいいか……」

 

 

 シルフの魔術の習熟度合いは、攻撃系統四種を初級まで習得済み。

 治癒魔術と解毒魔術も身に付ければ、基礎六種を一通り習得したことになる。

 

 俺もこの子の先生のつもりだ。

 ならば教えを乞われた以上、応えてやらねば。

 

「良いよ、明日から始めようか」

 

「やった! ありがとう、ルディ!」

 

 

 ニコッと、笑顔で感謝を述べるシルフ。

 

 いや、だから君はいちいち可愛いんだよ。男の子なのに。

 

 魔術の件に戻ろう。

 基礎六種の初級をマスターしたら、次は中級と混合魔術も教えてみるか。

 出来れば無詠唱も伝授したい。

 

 おお! これが弟子を持つ気分か。

 また1つ、ロキシーに近付いた気がする。

 

 帰ったら、御神体(ロキシーのパンツ)に報告だ。

 

 

 

 

 

 波乱の1日を終え、自室のベッドに突っ伏す。

 思った以上に気疲れしていたのか、ぐったりだ。

 

 

「なんとか……人を救えた……」

 

 

 つい独り言を漏らす。

 

 シルフの前じゃ余裕ぶっていたが、その実、極度の緊張によって心臓が破裂しそうだった。

 人の命を左右する場面に立ち会うなんて、しばらくは勘弁して欲しい。

 

 誰も死ぬような目に遭わないことに越したことはないが。

 

 御神体にも報告を済ませる。

 師匠の教えにより、不肖な弟子は人間として成長出来ました、そんな内容だ。

 

 この先の事に思いを馳せる。

 今の環境で魔術を鍛え続ければ、習得済みの水属性以外の攻撃魔術三種でも聖級を体得可能だろう。

 それだけの下地をロキシーによって作られた。

 

 だが単純に使える魔術が増えるだけでは意味がない。

 では俺はどうしたい?

 そう自分へと問い掛け、空白の時間が流れる。

 

 記憶の奥底から引っ張り出す。

 導き出すまでに、そうは時間は掛からなかった。

 たぶん俺は守る力を求めている。

 

 たとえば家族が大切だ、たとえば友が大切だ。

 

 守るという行為は、ただ外敵と戦って退けるだけではなく、今にも消えそうな命を救うこと。

 

 取り零しの無いよう、命を救済することなんだと思う。

 

 

「じゃあ、やっぱり神級治癒魔術を物にしないとな」

 

 

 医療の最前線に立ったからこそ、無意識の中の渇望を見出だした。

 ただそれだけではなく、シルフの救われたような満面の笑みが綺麗だったから、気持ちに変化が生まれた。

 

 俺には治癒魔術の資質があった。伸ばす為の余地に恵まれていた。

 運が良い、だから視線の先も定まった

 一時期は上級治癒魔術で満足していたが、更なる高みを目指すことにしたのだ。

 

 現実的ではない夢のまた夢のような神の領域。

 おとぎ話でしか存在を確認されていない神秘の術。

 それが神級治癒魔術──。

 

 パウロが怪我をしたら、俺がこの手で治すって心に決めてるしな。

 生きている間に頂へ届くことを祈る。

 

 俺の父親は危なっかしい部分がある。

 

 家族の誰かが窮地に陥った時、きっと自分の身を犠牲にしてでも助けようとする。

 自身の命と家族の命なら、家族の側に天秤が傾く。

 パウロはそういう人間だ。

 

 少し神級治癒魔術について考えてみるか。

 前段階で聖級、王級、帝級についても同様に。

 

 聖級は高価な専門書かラノア魔法大学で学べる。

 

 王級はスクロールで代用可能だが、スクロールそのものが希少だ。

 可能なら無詠唱化して会得したい。

 

 帝級ともなると大国の宮廷魔術師が、大勢で魔方陣に魔力を注いで発動する大規模な儀式。

 こいつを無詠唱化しようとすれば、期間にして10年は軽く超えそうだ。

 

 詠唱も知らないから魔術の発動プロセスの詳細も不明。

 我流で発動行程を組もうとすれば、期間はもっと延びるだろう。

 

 そして本命の神級──。

 一説にはバカみたいに長い詠唱と魔方陣を併用した儀式と言われている。

 概要だけなら本で読んだことがあった。

 

 首が繋がった状態かつ頭の原形を留めている限りは死亡後すぐであれば蘇生することができる。

 

 まあ、魔術なんて人の数だけ発動方法や効果の強さに違いがある。

 一概にこれが正しいというものではないし、あまり型にハマるものでもないだろう。

 鵜呑みはいかんよ。

 

 だからまだ見ぬ神級魔術に関しては、俺独自の路線を目指すとしよう。

 現存する治癒魔術の枠を超えた癒しの力を追究するのだ。

 

 現状でも、既に上級までの治癒魔術に限定してアレンジを加えているしな。

 

 例を挙げると、無詠唱を前提として、自身の身体を対象にした場合にのみ、魔術の発生先である手の平を当てることなく治癒効果を発動可能だったりする。

 

 この際、任意に治癒の発動を切り換えられる。

 負傷した場合、自動的に肉体の損傷を修復するといった具合に。

 

 ロキシーに教えてもらった不死魔族ばりの再生力を、神級の位置付けで、ゆくゆくは再現する意思だ。

 

 よし方針は決まった。

 精進を忘れず、初心を常に念頭に置いて走り続けよう。

 

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