無職TS転生 ~異世界行ったら女の子です~ 作:三毛猫丸
ロールズの治療から2週間後、彼は意識が回復し、リハビリ期間を経て仕事に復帰した。
妻子と共にグレイラット家へ菓子折りを持参し、礼を言いに来たりなんていう場面もあった。
ブエナ村の最古参であるロールズは、村の誰よりも人望がある。
パウロも人望がある方だが、それにも勝るとも劣らない人望である。
そんな彼を助けた張本人である俺の名前は、村中に広まって神童だとか持て囃された。
神童も大人になればただの人──なんて言葉がある。
称賛の意味合いが強いんだろうが、かえって重圧にしか思えない。
さて、シルフの成長は著しいものだった。
魔術を鍛え教えるようになって約一年という短期間で、基礎六種の初級魔術を我が物にしたのだ。
つまり、彼の念願だった治癒魔術と解毒魔術を、自身の努力で勝ち取ったのである。
うん、偉いね。
頭を撫でてやったら、顔を紅葉のように染め上げながらも、
「シルフ、ちょっと遅くなったけどさ、渡したい物があるんだよ」
俺とシルフにとっては定番の遊び場である丘の上の木。
その根元で弟子へと贈り物を用意してきた。
「なあに、ルディ?」
「ああ、魔術師の師匠っていうのは、初級魔術を使える弟子に杖を贈るんだよ」
本来なら初級魔術のいずれか1つでも覚えれば、杖をプレゼントする条件を満たしている。
けれど、シルフの場合、精力的に魔術の知識と技能を吸収していたし、半端なタイミングで渡すことは躊躇われた。
なんつーか、杖を手にした時点で満足しちゃって、やる気を失くすかもしれんと感じてな。
まあ、シルフの性格上、要らぬ心配だったか?
彼は俺以上に勤勉なのだから。
「良いの?」
「あぁ、やるよ。この杖は私が師匠から貰ったものだけど、シルフに受け取って欲しい」
「そんな大切なもの、貰えないよっ!」
気持ちは分かる。
でも俺は別にロキシーを
理由あってのことだ。
俺にとってシルフは特別な存在だ。
一番弟子──。
ロキシーにとっての
ゆえに、俺は半身とも呼べる代物をシルフに譲りたいと考えた。
シルフにも俺の存在を支えにしてもらいたいのだ。
それに杖を渡してしまっても、俺の手元にはミグルド族のお守りと
「シルフ、頼むから受け取ってくれよ。つらい事があったら、この杖で私のことを思い出してさ。乗り越えてくれ」
少々、傲慢な考えだろうか。
俺の感情を押し付けるような真似だ。
彼に従う義理は無いし、正直な話、重い女だと思われているかもしれない。
「うん、わかったよ。ずっと大切にするね!」
「あぁ……」
良かった、受け取ってもらえて。
いや、マジで不安だったよ。
俺とロキシーは心を通わせ合っていたと確信している。
けれど、その関係をシルフにも許容してもらえるのかは、今に至るまで予想がつかなかった。
でも受け入れられて、胸を撫で下ろす。
さて、これで晴れてシルフは俺の弟子にして、ロキシーの孫弟子の称号を得た。
あのロキシーの系譜だぜ?
これほど名誉なことはあるまい。
そうしてシルフは、俺の魔術の特訓にこれまで以上の意欲をみせた。
瞬く間に中級魔術、そして無詠唱術すらも会得した。
火魔術と混合魔術は、やや苦手のようだが、些末な問題だ。
若いってスゴいよね。
飲み込みが早く、そして良く育つってもんだ。
いやまぁ、シルフ自身の魔術資質の高さも相まっての成果だと思うよ。
もう一回、褒めてやりたい気持ちになって、シルフの頭をナデナデしてやった。
目をつむって心地良さそうに身を任せる美少年の構図。
うむ……、男の子相手に、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
精神衛生上、あまりよろしくないね。
引き続き、新しい魔術を教えてあげよう、そう発言しようとした直前、頬に水の感触。
空を見上げれば厚く黒い雲が、ブエナ村を覆っていた。
「やべ、雨じゃん」
「どうしよう、ボクのお家、ここからだと遠いや」
「じゃあ、私の家で雨宿りだ」
彼の手を引いてグレイラット邸へと駆け出す。
その時には既にどしゃ降りの雨となっていて、下着まで濡れてしまった。
身体のラインに沿って張り付いた着衣が、
どうかしら?
ルディちゃんのセクシーショットだよ?
だが性への意識の薄い年頃ゆえか、シルフは別段、俺の幼女ボディに視線を寄せることはなかった。
なんだこれ、俺がバカみたいじゃん。
なんであれ雨の中を走る。
途中、水溜まりに踏み込んでしまって、衝撃でハネた泥を被ってしまった。
不快感が凄まじい。
一刻も早く洗い流したいものだ。
やがてグレイラット邸が視線の先へ。
倒れるように2人して飛び込むと、リーリャがタオルとお湯を準備してくれていた。
さすがはリーリャだ、仕事が早い。
こうなることを見越していたのだろう。
2階の俺の自室にて、大きめの桶にお湯は張られていた。
しかし、悩む。
まさかリーリャは同じ部屋に男女を押し込むつもりか?
幼いとはいえ、少年に俺の裸を見せるのは良いものか。
別に素肌を見られることが恥ずかしいわけじゃないのだ。
シルフにとって良くない影響を与えやしないか、気掛かりなだけだ。
ブエナ村じゃ、他の追随を許さぬほどの可憐さ。
悪魔的かつ、若く輝くような美人だ。
ナルシストっぽいが、事実である。
そんな俺が幼いとはいえシルフに柔肌を晒してみろよ?
きっと成長したら他の女では満足出来なくなる。
目が肥えるってやつだ。
だから俺は躊躇した。
シルフの未来を守る為にも、ここで服を脱ぐことを大人の精神で許さなかった。
結婚の約束だって、冗談に過ぎないしな。
さて、当のシルフはポイポイと自身の服を脱いでいる。
子どもは難しいことを考えなくても良いから気楽で羨ましいよ……。
「あれ、どうしたの? ルディも脱ぎなよ」
上半身まで脱いだシルフは俺に脱衣を要求する。
どうして脱がないの?
って、感じの純粋無垢な眼差し。
構図としては同年代の男の子に服を脱げと命令される女の子。
それ、なんてエロゲ?
「ダメだよ、女の子は身体を冷やしちゃ! ボクのお母さんも言ってたもん!」
でしょうね?
てか、濡れた服が気持ち悪い。
このままじゃ、風邪を引きかねないが、いざとなればヒーリングを掛ければ一発で完治だ。
じゃあ、別に今、シルフと一緒に身を清めなくても良くね?
「ほら、ボクが脱ぐの手伝ってあげるよ」
「いや、必要ないって」
「なんか変だよ、ルディ」
「私は変な子なんだよ。お気遣いなく」
シルフの白磁のような肌が眩しいぜ。
現実逃避をしている場合ではないのは承知の上だが、明後日の方向を向いて抑揚の無い声で笑ってやった。
「あのな、これは君の為でもあるんだぞ? 私が脱いだらシルフは後悔することになる」
「どうして? もしかして、身体を見られたくない理由があるの?」
身体に傷があるのだとか、テキトーにでっち上げるか?
いいや、シルフに嘘はつけん。
「まぁ、いいや」
「あー、悪いね。シルフ君よ」
普段しない君呼びをするところ、今の俺はぎこちない態度だ。
さぞ、シルフに不愉快な気分にさせたことだろう。
「えーい! スキありー!」
突如、シルフらしからぬ暴挙に出た。
被害者は俺。
スカートの中に手を突っ込まれて、パンツを引きずり下ろされたのである。
「うわっ!」
羞恥心は無いが、突然のことで硬直する。
未発達な縦筋が、少年の瞳に収まる。
まじまじと見てきたりしないが、信じられない凶行にシルフへの見方を変えざるを得ない。
「ほら、バンザーイして」
「お、おう……」
もはや言われるがままである。
単純に世話見が良いだけなのだろうか?
あっという間に服を剥ぎ取られ、生まれたままの姿でシルフの前に立つ嵌めとなった。
「ふーん? べつに可笑しな所は無いよ。ルディの身体、すごくキレイだよ」
「あ、はい」
気にした様子はない。
あっけらかんとしていた。
しかし、シルフ、やっちゃったね?
もう、俺以外の女の子じゃ満足出来なくなっちまったよ。
あぁ、俺は1人の少年の性癖をねじ曲げてしまった。
「じゃあ、ボクも脱いじゃうね」
続いてシルフは自身のズボンを下ろす。
その下には子ども用のかぼちゃパンツ。
それすらもサッと脱いで現れたのは──。
「あ、あれ……? ついて、……ないっ!」
シルフの下半身は俺と同じだった──。
つまるところ……シルフ君はシルフちゃんだったのだ!
「なんで驚いてるの?」
「え、あ、うん。いやな、べつに驚いちゃいないさ」
気が動転してしどろもどろだ。
この一年以上、ずっとシルフが男の子だと勘違いしていただなんて言えるもんか。
ましてや弟子の性別を間違えるアホな師匠なんて言われた日には切腹ものだ。
滑稽物である。
「つかぬことをお聞きしますが……」
「どうして急に敬語?」
無視して続ける。
「シルフの名前って、フルネームだとなんだっけ?」
「シルフィエットだよ。ルディはシルフって呼んでくれてるよね」
「そっか……」
シルフ君ではなく、シルフィエットちゃんかぁ。
愛称としてはシルフィの方が女の子っぽくて似合っている。
これまでの失態を鑑みて、挽回せねば。
「あのさ、今日からはシルフじゃなくて、シルフィって呼んでも良いかな?」
「良いよ。正直、シルフだと男の子みたいだなーって思ってたもん」
「悪いな、シルフィ」
改めてシルフィと声に出して呼んでみると、彼……じゃなくて、彼女に非常に良く合う響きだ。
手のひら返しで女の子扱いする。
俺ってさ、スゲー間抜けじゃない?
思い出してみれば、シルフィの性別に関するヒントは幾つもあった。
そのことごとくを見過ごし、頑なに彼女を男の子だと思い込んでいたわけだ。
違和感の正体を、やっと掴んだ。
まあ、結果オーライだろ。
人生経験最初の友だちが女の子だったわけだし。
俺としては何も損は無い。
むしろその逆でお得でしかない。
そう結論づければ、何も気に病む必要はないと知る。
シルフィさんや、今後ともよろしくな!
心の中でシルフィの手を取って握手する。
現実世界のシルフィは、キョトンとした顔で、小首を傾げていた。
女の子として見ると、途端に可愛く映る。
以前はどちらかと言うと、美しいとばかり感想を抱いていたが、今は年相応の姿で愛でられる。
あ、でも……。
そうなると俺は女の子相手にプロポーズしたってわけか?
だとするなら、既にシルフィの性癖を歪めてしまっている。
俺も俺でシルフィの性別を誤認していた時期に、トキめきを覚えたことも多々ある。
ある意味じゃ、お似合いのカップルだ。
全て俺の妄想か?
その後は特にハプニングも起きず、平和なものだった。
前世から引き継いだ男の思考あるいは嗜好を以てしても、幼児とも言える年齢のシルフィの裸体に欲情することもなかった。
生前基準でならロキシー辺りが、かろうじて異性として意識するラインだろうか。
俺の一年以上にも渡る誤解は今日ここに解かれ、女の子同士の微笑ましい友情がスタート。
そして数日後、珍しくシルフィとは外ではなく、グレイラット邸で会う運びとなった。
俺とシルフィの2人の組み合わせを見るのは、実は初めてのパウロ。
家に連れて来た友だちが女の子であることに安堵したのか、穏やかな表情で見守ってくれている。
「いらっしゃい、シルフィ」
「おじゃまします、パウロさん!」
「ロールズから聞いちゃいたが、可愛らしい子じゃないか」
「そんな、可愛いなんて……。ルディと比べたら大したことないです」
パウロのやつ、年端もいかぬ少女、それも娘の友人を口説くつもりか?
人のことを言えたもんじゃないが、ロリコン認定してやろうか。
「なぁ、ルディ。どうして俺を睨んでんだ?」
「ご自分の胸に聞いてください」
「思春期にはまだ早いよなぁ。まさか俺がシルフィを褒めたから嫉妬してんのか? あぁ、ルディも可愛いぜ」
取って付けたような殺し文句だ。
本気で分からないらしい。
なら良いさ。
父親に冷たく当たっておいて、それからデレを見せれば娘の魅力にイチコロだ。
今後、何か要求を通す際の武器にしよう。
我ながら悪どい戦法だ。
まさに女の武器である。
「ルディにシルフィ。もし時間があるなら、俺の剣術を見ていくか?」
「お断りします。あいにく、時間が押していますので。行こう、シルフィ」
「ええ? いいのかなぁ。パウロさんが可哀想だよ」
「構わないって。どうせ母さまに泣きついて、慰めてもらうだろうし」
「マ、マジで行っちまうのかっ!」
悲壮感に満ちたパウロを置き去りにして自室へと向かった。
遠くからわめき声が聴こえるが、意識からシャットアウトする。
ふむ、中々の思春期の娘プレイである。
興が乗って趣味になりつつあった。
とはいえ、俺はパウロを敬愛している。
あとで存分に甘えてやろう。
父親を慰める意味でも、ただ自分が甘えたいという欲求を満たす為にも。
部屋の中では、シルフィに対する座学の授業を行う。
日頃は野外で実践的な魔術指導を行っていたが、今回は理論の授業ということで室内。
吸収の早いシルフィだ。
さして教えるのに不便せず、小一時間もすれば本日の内容を終える。
時間が余った為、夕方頃までフリータイムだ。
というわけで2人で魔術談義に花を咲かせる。
寝ても覚めてもどっぷりと魔術の世界に浸かっている生活だ。
そうであるからこその伸び盛りとも言い換えられる。
「──つまり魔術とはなんぞや? 原理自体は簡単だぞ」
「うんうん、聞かせて!」
既にシルフィには教えた内容だが、復習の意味合い兼ねて説明してやる。
あれ? 授業は終わったハズなのに、これでは補習しているかのようだ。
まずこの世界の全ての存在は魔力で構築されている。
つまり、世界の法則をねじ曲げる術技を魔術と呼ぶ。
魔術を発動するってことは、世界に干渉すること。
便宜的に干渉とは魔力の配列を弄るものだと、俺は仮定している。
魔力配列を操作するに際して必要な要素は、『魔力量』『魔力流速』など。
他にも細やかな条件はあるが、解り易い部分ではこの2点だ。
そして各種魔術には、対応した魔力配列が存在しており、魔力配列のパターンを文章化した物こそが詠唱。
詠唱とは先人たちが心血を注いで手探り状態で発見・解析した遺産。
今を生きる俺たちは、そんな人類の叡智に乗っかっているわけだ。
そこに応用として無詠唱化が存在する。
無詠唱魔術とは、ザックリ言うと詠唱魔術による魔力の流れを身体で感覚として覚え、各工程ごとの魔力の操作を全て手動で行う技能。
つまりどれほど詠唱が長い高ランクの魔術であっても、理論上は無詠唱化可能なのだ。
さすがに王級以上となると、複雑かつ多数の魔力操作や制御を要するので至難の業ではあるが。
治癒魔術に関しては実は、使い手として全くの未経験でも無詠唱化可能だったりする。
俺がその例である。
俺なんかはゼニスから頻繁にヒーリングを掛けてもらっていた。
その際に治癒魔術による魔力の流れを身をもって体感した。
無意識下に刷り込まれた感覚に従って魔力を操作したことで、いきなり無詠唱治癒魔術が発動出来た。
そう考えている。
さて、人によっては魔力量自体が不足して発動すらままならないケースがある。
まあ、俺は馬鹿げた魔力量を持っているから無縁の話だけどな。
シルフィも俺ほどじゃないけど、それに準じる魔力量だ。
最終的にはロキシーくらいの魔力量に到達するのではなかろうか。
ロキシーもミグルド族の中では飛び抜けて魔力量に恵まれていたと話していたっけ。
さて、魔術の得意・不得意が何故、個人によって表れるのかについてだ。
理由は単純、人によって適性のある魔力配列の操作パターンが異なるからだ。
俺は満遍なく扱えるが、シルフィは火系統魔術の魔力配列に関する操作を苦手としている。
うんと小さい頃、熱された鉄串を誤って掴んでしまって火傷したゆえの苦手意識に起因する。
さて、次に魔術の発動には想像力も重要な要素だと考えている。
具体的には魔術で再現しようとしている現象のイメージ。
イメージとは魔力の流れを円滑にする通り道。
道筋がハッキリしているなら、各種魔術の魔力配列パターンに沿って効率的に魔力を流し込める。
以前、俺が無詠唱で治癒魔術を使い始めた時期には、このイメージが役に立った。
意識せずとも魔力の通り道が整備され、望んだ結果を導き出したってわけだ。
イメージがしっかりしていれば、魔力を流した感覚と、実際の現象との関連を紐付けし易くなる。
あの現象はこのイメージで魔力を流せば再現出来ますよー!
ってな具合で。
そして上級魔術からは、このイメージ力が無ければ、身体で魔力の流し方を覚えづらい。
詠唱魔術でなら問題なくガイドに沿って流れる魔力も、無詠唱魔術だと全て手動操作。
断然、難易度が跳ね上がるわけだ。
無詠唱による手動操作であっても、イメージさえ出来ていれば、比較的楽に魔力を流せるし、無詠唱として成り立つ。
そんで、想像力を養うには現象の仕組みを知る必要がある。
現代日本でそういった知識を得て育った俺には、その土壌が出来上がっていた。
しかし、シルフィたちのようなこちらの世界の住人だと、科学的・気象的知識に不足しており、きちんと現象の仕組み理論を頭に叩き込まなきゃならん。
言い方は悪いが、想像力に欠けるのだ。
ゆえにこの世界において無詠唱魔術の使い手は極少数に留まっている。
すくなくとも俺の提唱する理論ではこう結論付けられた。
そのハズなのだが──。
シルフィにそういった感じで説明してあげたら、この子、理解しちゃったんだよ。
シルフィって、マジ物の天才か?
前世という俺のアドバンテージすら凌駕する才能の塊に、嫉妬しかねない。
まあ、可愛い女の子だから許すけどな。
話を変えるが、この頃、俺はある取り組みをしている。
各種魔術の詠唱文から、対応した魔力配列のパターンを読み解いているのだ。
パターンに応じた現象を表にまとめ、それらの組み合わせで新魔術の開発に励んでいるのだ。
しかし、ロキシーから習った水聖級魔術ならばともかく、他属性・他系統となると、そもそも詠唱自体を知らないから行き詰まっている。
聖級、王級、帝級、神級ともなれば程度の差はあれど、詠唱そのものが秘匿されがちだ。
けれど俺は分からないなりにも頑張っているつもりだ。
知識の範囲で幾つものパターンを組み合わせ、ひとつの魔術を開発するに至った。
系統としては特に決めちゃいない。
この世界に分かりやすい定義付けが出来るほど、体系化されていない分野は多くあるし、こだわっていないのだ。
例えば重力操作とか時間遡行といったSFチックな魔術を誰かが開発していたとして、基礎六種から外れているしな。
誰かに解り易く教えられるほど中身を突き詰めているのなら、体系化されたも同然なんだろうが。
話を戻そう。
俺の開発した魔術とは『
ランクとしては、暫定で中級に位置付けしている。
指先から連射可能で、対象の意識を昏睡状態へと陥らせる効果を持つ。
眠らせるのではなく、昏倒させるのに近い効果だから、別物なので注意だ。
この世界の剣士が纏う闘気とやらも、込める魔力量の調整によっては貫通してしまう。
魔力量の調整が出来る無詠唱魔術の特権だな。
試しにパウロで試させて貰ったが、一瞬だけ意識を奪う事に成功した。
けれどパウロ自身の闘気が強いらしく、一定の耐性を持っていたので、効き目はやや薄かった。
これは要訓練である。
ちなみに『
治癒魔術に高い適性を持つ俺ならではの魔術だと言えるだろう。
この魔術の利点は、対象を殺さずに意識を奪えるということ。
つまり生け捕りも容易となる。
殺しどころか、暴力すら躊躇する俺には好ましい魔術だよ。
なんにせよ、魔術ってのは本当に自由度が高い。
極めれば本当に神級治癒魔術を自力で開発なんてことも夢じゃなさそうだ。
まあ、神級魔術の魔力配列パターンを知る人間が極端に少ないゆえに、開発及び無詠唱化となれば、果てしない時間が掛かりそうだけど。
「よし、シルフィ! 私のとっておきの魔術を教えてやる!」
師匠気取りでシルフィへ提案……というよりはごり押しする。
「やった! でもね、ルディ。ひとつだけじゃなくて、もっとたくさんのことを教えてよ」
「良いぞ、シルフィの為ならいくらでも」
シルフィは俺の魔術理論を共有出来る友だちだ。
そして弟子でもあるから、可愛くて仕方がない。
同い年ではあるけれど、妹のような存在であり、彼女も飼い犬のように後ろを付いて回ってくる。
今は髪こそ短いが、伸ばせば俺好みの女の子になるに違いない。
なにやら不穏な事を考えてるな、俺は。
ともかく、話の合う貴重な同年代の友人だ。
魔術を介して今後も仲良くやっていこうじゃないか。