それ故に、闘う艦娘は美しい   作:パイロット

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説明などが多いので、地の文が多めですね。
エレガントさを表現できるのかが勝負ですね。
なんか違う!ってなったら言ってください。

共にこの世を去ろう。


戦士の輝き

遠い未来、突如として深海より現れた深海棲艦は瞬く間に各国を襲った。人類はこれに抵抗するが、既存の兵器ではかすり傷一つ負わすことできず。

そこへ現れたのはかつて世界に存在した艦の名を名乗る艦娘であった。少女の姿をし、艤装と呼ばれる装備を身に纏い、水上を走る存在、深海棲艦を倒すための人類最後の希望。

彼女たちをサポートするための機関、海軍が形成され、鎮守府が各地に作られ早数年、ただひたすらに防戦を続けていたのだった。

 

朝日が照らす砂浜の波打ち際、その水面を走る艦娘が2人。

 

「飛龍、急いで!早くしないとまたご飯抜きだよ!」

 

「そうはいってもさぁ……あれ?」

 

短いスカートと橙の着物を着込む飛龍と呼ばれた少女は、まさにその砂浜に1人の男が打ち上げられてるのを発見し、指差す。

 

「ねぇ、蒼龍!あれ見てよ!」

 

「えぇ?……うわ、土左衛門さんかな。」

 

そこには、ぼろぼろではあるが気品のある服を着た人物が打ち上がっていた。飛龍と同じく短いスカートに緑の着物で、ツインテールに縛った髪が特徴的な蒼龍と呼ばれた少女はそれに近づき、容体を確認する。

 

「身体中アザだらけだけど、まだ生きてるっぽいよ。」

 

「え、じゃあ急がなきゃ!」

 

言うや否や、飛龍はその男を担ぎ上げ、蒼龍と2人で鎮守府への道を駆けていった。直線距離、その水上を。

 

ーーーーーーーーーー

 

火花散らすコンソールボックスを見つめながら、想いを馳せる。

身体はもうまともに動きそうもない。

私の機体を貫いたその槍は、見事な一撃だった。

 

「見事だ……五飛。」

 

感嘆の言葉が口につく。

 

「五飛……我が永遠の友よ……。君たちと戦えたことを誇りに思う……。」

 

彼の怒る言葉が聞こえる。

しかし、私としては全力を出し負けた。

これ以上はない。

私の役目はここまでと言うことだ。

 

「ミリアルド……先に行っているぞ。」

 

もう1人の永遠の友よ。

逝くではなく、行く。

そうだ、これは終わりではなく……。

 

ーーーーーーーー

 

そこは白い天井。

決して上質とは言えないが清潔なシーツに、漂う薬品の匂い。

医務室のようだが、あまり高度な施設ではなさそうだ。

 

「……私は……生き恥を晒したか。」

 

目を覚ました彼は、まずは生き残ってしまったことを後悔した。

自身が生き残ってしまっては、あの戦争の終着が見えない。

このままでは良くないと判断し、ベッドから降りようとする。

 

「あーっ!目を覚ましてる!」

 

そこに飛び込んできたのは先程彼を運んだ飛龍。

 

「……どういうつもりだね?」

 

彼としては自身のその姿は世界中に知られており、トレーズ派でもなく、軍人とも見えぬ女性がわざわざ彼を助けるなどとは思えなかったのだ。

 

「どういうつもりって……貴方が打ち上げられてたから、助けたんです!……あっ、もしかして自殺とか?」

 

しかし、その返答は当たり前のような言葉だった。トレーズは驚くが、それを一切表には出さない。

 

「いや……事故にあったのだがね。どうやら神には嫌われているらしい。」

 

ひとまずは自らの正体がバレてないと考え、トレーズは偽名を名乗ることにした。

 

「私はシュヴァリエ。良ければここがどこか教えていただきたい。」

 

「し、しばりえさん……。ここは日本で……ひ、ひとまず上のものに相談します!」

 

飛龍はまるで逃げるように医務室を出て行く。

 

「……日本と言ったか。」

 

そういえば彼女たちの着物も日本のものだったかと思いだす。トレーズにとって、日本とは地球の島国であり、ガンダムのパイロットの少年が日系だっただろうか、と想いを馳せる程度の場所だ。

彼らには恨まれているだろうなとすこし感慨深く感じるが、自分のやるべき事は終えたと考えを新たにする。後は彼らの物語だ。

そうこうしていると、またも医務室の扉が開く。

 

「失礼します……。」

 

入ってきたのはこれまた着物を着た黒髪の女性だった。彼女は自らを鳳翔と名乗った。

 

「しばりえさんは、艦娘をご存知ですか?」

 

「……いや……。」

 

トレーズは知らぬことを知らぬと言うことに恥を感じるようなタイプではないが、駆け引きを一切行わない突然の知らぬ単語に警戒心を覗かせる。

 

「私は日本のことはあまり良く知らなくてね。」

 

「そう……ですか。」

 

艦娘は日本のみの存在ではなく、この世界においては世界中ざまざまな場所に存在し、海を守っている。

鳳翔からすれば、トレーズは自らが知らぬことを吐露したと同然であった。

しかし、彼女は腹の探り合いをしにきたのではないのだ。

 

「しばりえさん、艦娘とはこの世界において深海棲艦から平和な海を守るための兵器、と言うことになっています。」

 

トレーズは眉の一本も動かさぬが、心の奥では驚きを大きくする。

 

(私の誤答をすぐに明かすとは。それに世界では、だと?私の知識にはそのようなもの存在しないが……。)

 

しかし、混乱は一切出さない。

優美な笑みを携えて、彼は言葉を紡ぐ。

 

「突然すまないが……トレーズ・クシュリナーダ。もしくは……ガンダムという兵器。それらに心当たりはあるかね?」

 

トレーズはジョーカーを切った。

目の前の彼女が危害を加える気がないと確信めいたものを感じたと同時に、もしどこかに突き出されるのであればそれも運命と受け入れるつもりだったのだが、彼の思惑は的中した。

 

「……いえ、存じ上げませんね。」

 

「なるほど、ありがとう。」

 

地球に住んでいて、彼のことを知らないなどとあり得ない。彼自身にはそれだけの自負があったし、あの戦争はそれだけの規模だった。

それでも知らぬ存ぜぬというならば、なにか理由があると考えるのが自然だ。

 

(『トレーズ』ではなく、私を利用しようということか?それとも顔を知らない……?)

 

考えに耽るトレーズに対して鳳翔が続ける。

 

「……実は、この鎮守府には責任者、つまり提督がおりません。」

 

「お断りさせていただく。」

 

「え……?」

 

何の質問もしていない鳳翔が、先に回答を受け取り困惑してしまう。

 

「軍に所属するのは、表舞台に立てと言うことだ。それは彼らに対する礼儀を欠くことになる。それに、初対面の素性も分からぬ男に頼むようなことでもないと思うがどうかね?」

 

彼の青い瞳が鳳翔を見つめる。

鳳翔は一度下を向くが、再度意を決して話し出す。

 

「た、たしかにお願いしようとしました……。提督になっていただきたいと。ですがそれは……理由があるのです。初対面の方でも頼らざるを得ない理由が。」

 

そこで話を止めた鳳翔に対して、トレーズは表情で続きを促す。

 

「……艦娘は鎮守府に結び付けられた存在であるので、鎮守府が消えれば共に消えてしまうのです。着任してくださった提督は長い間、いらっしゃらないのです。」

 

「来ない?提督という立場の者が、かね?」 

 

軍人が急に来なくなるなど、それは基地の放棄なのではないか、ともしともすれば彼女たちは捨てられたのではないかと危惧する。

 

「はい、よくあることだそうなのですが、提督になる条件は成人していることのみでして、鎮守府を作るだけ作ってあまりいらっしゃらずに失踪されるのだと……。我が鎮守府はかなり規模も小さく……このままでは消えてしまうことになります。」

 

「消えるとは?」

 

「鎮守府には、艦娘を保護する機能があります。所属している間は存在が消えることはありません。しかし、提督がいなくなる等、基地として機能しなくなる場合ここは消えてしまうのです。所属していた艦娘と共に。」

 

ふむ、と彼は手を顎に当てる。

 

「そのカンムスとやらが消えてしまうと、君たちはどうなるのかね?」

 

「私たちが、艦娘です。」

 

まるでそう聞かれるとわかっていたかのように、鳳翔はトレーズの言葉に被せて答える。

 

「……つまり君たちは生き残りを、謎の男にかけているわけだ。己の運命を享受する気にはならないのかね?」

 

「失礼を承知でお願いしております。」

 

トレーズは整理する。

おそらくここは自分の知っている地球ではないこと。

そして、おそらくこの世界には、モビルスーツは存在しないのであろうこと。

敗北し、世を去った命だ。

拾った彼女たちのため、使うのも運命というものだろうと。

そして、自らが兵器であると言い切った鳳翔の瞳に宿る生命の炎を信じようと。

 

「……君の敵はなんだ?」

 

トレーズは鳳翔をまっすぐと見つめる。

彼女は怯むことなく応える。

 

「……深海棲艦……平穏な海を脅かす、人類の敵です。」

 

「なるほど。……どうやら君は兵器ではない。戦士だ。……戦士の輝きは戦場以外で失われて良いものではない。」

 

トレーズはベッドから立ち上がる。

ぼろぼろではあるが、気品のある、彼が着ていたマントを手にとる。

 

「会議室はあるかね?皆を集めてくれたまえ。」

 

鳳翔の顔が明るくなる。

 

「では!」

 

トレーズはマントを羽織り、前を見つめる。

行先はまだ見ぬ世界。

しかし、彼の行動に曇りなどなかった。

 

「現時点をもって、この私トレーズ・クシュリナーダが艦隊の指揮を取ろう。」

 

窓からの日差しが彼を照らす。

差し込む朝日が男の新たな生誕を祝っているかのようで。




俺の中のトレーズ様なら自分で言います。
間違いないです。

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