解釈違いであった場合は申し訳ないです。
「この艤装……名を【ルークス】と言う。」
「【ルークス】……これは……。」
長門が【ルークス】と呼ばれたそれに手を触れる。金属特有の冷たさが彼女の指を襲う。
「私は機械いじりが好きでね。」
誰がみても、まだ作りかけだとわかる。
なにせ、砲塔と見受けられるものがほとんど存在しておらず、戦艦の艤装特有の主砲も存在していないのだ。
「随分と軽装に見えるが、私たち戦艦の良さを失うような気が……。」
「【ルークス】は厳密には兵器ではない。君たちを導くものだよ。……君たちに、真の敵の姿を見せてくれるだろう。」
「真の敵?……いや、そんなことより兵器ではない……だと!?」
必死の形相の長門がトレーズに迫る。
「提督も、この長門を戦わせてはくれないのか!?」
「落ち着きたまえ。」
そんな彼女を目の前にしても、トレーズが慌てることはない。ゆっくりとした動作で手を後ろに組む。
「これが落ち着いていられるか!我々戦艦は、戦場で死ぬことこそが誉だぞ!それをこんな火力も防御力もないものを与えて……囮でもさせるつもりか!」
熱くなる長門。
今まさに首襟を掴んでしまいそうなほどトレーズに詰め寄る。
鳳翔は慌てて止めに入り、他の艦娘たちも近寄る。
「やめなさい、長門さん!この方は上官ですよ!軍人として恥ずかしくないような立ち振る舞いをしなさい!」
「し、しかし!」
焦った顔でふらりと離れる長門。
トレーズはそんな長門を真っ直ぐ見つめ、語り出す。
「私は……かつてエピオンというモビルスーツを作った。」
モビルスーツ。それはトレーズの過去いた世界では当たり前の存在であり、"Manipulative Order Build and Industrial Labors Extended Suit" の略で、「建設および工業労働用有腕式拡充型スーツ」である。それが軍事転用され、兵器として使われていたのである。
「……モビルスーツ……?」
動揺する艦娘たち。
蒼龍からぽろりと漏れた言葉にトレーズは答える。
「君達で言うところの艤装のようなものだ。軍事転用された一方的で圧倒的な兵器は悲しい戦争を産む。だからこそ、私はエピオンを作り、敗北者になりたいと考えた。……しかし、君たちは元々兵器だ、兵器とは心がなく目の前の敵を撃つだけの存在だ。ならば今の君たちはどうだろうか。」
カツン……と、トレーズの足音が響く。
それほどの静寂が、辺りに広がっている。
焦っていた長門も、不信感を抱く叢雲も、話半分に聞いていた蒼龍たちも、鳳翔も。
みんな、トレーズの言葉に耳を傾けている。
「……誰かのために戦える存在を、兵器などとは呼ばない。人を守るのは等しく人だよ。」
「なにを……わかったようなことっ……」
かなり弱々しい声だが、叢雲だけが言葉を紡ぐ。
「私たちは……兵器だから……だから……。」
「人を想ってはいけない……かね?」
トレーズが優しく言葉をかける。
ビクッと叢雲の身体が跳ねる。
「なんで……。」
「人の心の機微には、敏感な方でね。どれだけの期間かわからないが、共に命をかけたのだ。それくらいは誰だってありうる。今の私の目の前には自分の生まれを気にして本当の想いを曝け出すことに怯える一人の少女しか映っていないよ。」
「……でも、あの人は来なくなってしまって……。」
「それの理由も、私が気にしていることの一つだ。……一度でも『提督』という立場に着いたものが、そう簡単にいなくなるものだろうか、とね。」
周囲がまたもざわつく。
叢雲が目を見開き、すぐさまトレーズに詰め寄る。
「なにかっ……何か知っているの!?」
「いいや、何も知らない。しかし、知ることはできる。」
今度は長門の前に移動する。
「……【ルークス】には、とあるシステムが搭載されている。」
「システム……?」
艤装に手を置き、穏やかな顔で語り続ける。
「それは精神に干渉する。戦いの覚悟がなければ……戦場に立つことを許されなくなる。」
悲しみを携えた顔で、長門を見つめる。
それを横から鳳翔が遮る。
「そんなものを艦娘に使って大丈夫なのですか!?」
「彼女次第さ。」
「そんな……。」
長門がそんな鳳翔を止める。
「鳳翔、この長門なら大丈夫だ。」
その顔には先ほどまでの焦りや不安は残っておらず、やり遂げてみせるという感情だけを感じることができる。
「美しき戦士の瞳だ。……人間に必要なのは絶対的な勝利ではなく、戦う姿、その姿勢にある。」
また、全員がトレーズを見つめる。
彼は全ての眼差しを真っ直ぐと見つめ返し続ける。
「戦いにおける勝者は衰退という終止符を打たねばならず、若き息吹は敗者の中から培われる……だからこそ、敗者になることに意味があると考えていた、しかし。」
トレーズは一度、目を瞑るとすこしだけ、顔が緩んだように見える。
あの死を覚悟した直前、おそらくミリアルドはヒイロと戦っていたであろう。
地球の命運を懸けて。
「望まぬ戦争を、良しとすることに未来があるとは思えない。足掻こうともせず、望まぬ結末を迎えることは何の価値もない。」
彼らは最後まで足掻き抜いた。
その心が、その姿勢が、その魂こそが、トレーズが求めていた結末そのものなのだ。
「諸君、明朝より作戦開始だ。皆の無事を祈る。」
「はいっ!」
全員の目が輝いていた。
握りしめる音も響く、明日はこの鎮守府の初めての出撃になる。
トレーズの下、みんなの心は一つとなった。
いかがだったでしょうか。
更新頻度は遅めですが、まだまだ続くと思いますので、よろしくお願いします。