禰豆子が自我を取り戻す前のこと……
「おいこれ竈門禰豆子じゃねーか、派手に鬼化が進んでやがる」
「
宇髄のその言葉はもちろん、炭治郎に向けてのものである。しかしもう一人、それを聞いていた者がいた。
「ぐずり出すような馬鹿ガキは戦いの場にいらねぇ、地味に子守――」
言い切らないうちに、ただならぬ気配を感じて宇髄は振り返る。
直後、建物が崩れ落ちた。
「禰豆子!時間がない、走りながら説明するから聞いてくれ!」
「さっき善逸がお前に血をくれたから、今は一時的に理性を保てている。それでも、また大きな怪我をしてしまったら、それを治す為に力を使い、飢餓状態に戻ってしまうだろう。
もしもお前が、血肉を
「俺たちの仲間は、さっき会った善逸と伊之助の他にもう一人、柱の宇髄天元さんだ。白い髪で背が高くて、左眼の周りに化粧をしているから、すぐに分かるはずだ」
「んだこのボムボムしたやつ!?近づけねぇぞ!!」
「……禰豆子ちゃんの手前、カッコつけて迷わず引き受けたけどさあ!?助太刀!?ムリムリ!!今度こそホントに死んじゃうよぉお!!!」
「じゃあオマエ今すぐ寝ろ!!」
「こんなとこで寝たら死ぬだろ!?バカなの!?」
「寝れねぇなら代わりに絞め落としてやるぜ!!」
「話通じてないんですけど!?」
「ボンボンしてたのが止んだな……行くぞコラ!!」
「いやあああ!!」
「こうしている今も、俺たちはジワジワ勝ってるんだよなああ」
「それはどうかな!?」
攻撃が止んだのを見計らって、伊之助は声高らかに現れる。
後ろに、震える善逸を連れ立って……
「俺たちを忘れちゃいけねぇぜ!!」
「忘れててほしい、死にたくない……!」
さらに続けて炭治郎と禰豆子が、宇髄の前に降り立った。
「――何で妹まで連れて来てんだ!?」
「何で禰豆子ちゃん連れて来ちゃったんだよ!?」
「私も戦います……!」
「戦える!?さっきまで暴れ散らかしてたお前が……」
違和感の正体に、宇髄はすぐに気付く。
「……おい待て竈門禰豆子、お前何で普通に喋ってんだ?」
その質問に、炭治郎が代わりに答えた。
「……宇髄さん、善逸が禰豆子に血をくれました。おかげで今は落ち着いています」
「善逸テメェ!?鬼にエサやってどうすんだコラ!?脳みそ爆発してんのか!?」
「そんな言い方ないでしょォ!?禰豆子ちゃんに失礼でしょうがあ!!!」
「うるせえなあ……何人来たって、幸せな未来なんて待ってねえからなあ」
(こっちの人が宇髄さん、そしてあっちは……鬼……!)
「竈門禰豆子、来ちまったもんは仕方ねえ……ただし次はねぇぞ……?」
「……はい……!」
「……さて、勝つぞお前らァ!!」
「勝てないわよ!頼みの綱の柱も毒にやられてちゃあね!」
「余裕で勝つわボケ雑魚がァ!」
「こいつらは三人とも、優秀な俺の継子だ!逃げねぇ根性がある!」
「フハハ!まぁな!」
「今すぐ逃げ出したい……!!」
「妹の方も、人を食わねえ根性がある!」
「そしてテメェらの倒し方は俺が看破した!同時に首を斬ることだ、そうだろ!?」
「分かったところで、意味ねえよなあ」
「そうよ!夜が明けるまで生きてた奴はいないわ!長い《夜》はいつも
「裏切り鬼の分際で、アタシを散々痛めつけてくれたアンタからよ!!」
「っ!!」
伸びてくる帯を、禰豆子は後ろに飛び退いて躱す。
(身体が軽い……これが鬼の身体……)
「逃がさないわよ!」
「禰豆子!」
思わず飛び出しかけた炭治郎だったが、自制する。
(間違いなく、こっちの男の方が強い……!宇髄さんは毒を食らっている、ここは俺がやらなければ……!向こうは禰豆子を信じるんだ……!)
「二人とも、禰豆子を頼む!!」
(思えば、禰豆子と言い合いになったことなんて、ほとんどなかった……禰豆子の本音を……俺は……負けるわけにはいかない!)
「動きも遅い、力も弱い……拍子抜けね。さっきのは何だったの?まぐれかしら?」
屋根の上、長く伸びた帯に巻かれて、禰豆子は全身を締め付けられている。
「返り血を浴びてまた燃やされたら堪らないし、距離をとったままバラバラにしてあげる」
巻き付いているのとは別の帯が、鋭く伸びていく。
「――禰豆子ちゃん!!」
落雷のような音が響き渡り、伸びた帯が切り裂かれた。
「禰豆子ちゃん……!」
「……すみません……」
禰豆子は、左足の膝から先を切り落とされていた。傷口がミシミシと異様な音を立てている。
「さっきに比べて再生が遅いじゃない、アンタもう力を使い果たしたの?」
「そっちの不細工でも食って回復すれば?まあアタシだったら絶対イヤだけど、不細工だし」
「禰豆子ちゃんは、そんなことはしない……!」
「お前は黙ってろ、不細工が私に話しかけていいとでも?(コイツ……刀を抜いて、また鞘に納めてる……?)」
善逸は構えたままで、堕姫の目を見た。
「何?その目?またその目……あの時と同じね、怖くて震えてるくせに、見栄張って庇って……みっともないわね」
「ね、禰豆子ちゃんに……そ、それと、怪我させたあの子にも、……あああ謝れ……!謝れよ!」
堕姫は何も答えない。
「――親分を置いてくんじゃねえ!!」
伊之助が合流して、刀を構える。
前触れもなく、堕姫の額が割れて、目が現れた。
「どいつもこいつも……さっさと死になさいよ!」
宙を漂う帯が速さを増して襲いかかり、さらに続けて、どこからともなく血の刃が飛んでくる。
絶え間ない攻撃を避けるのに必死で、三人は反撃に転ずることができない。
堕姫に近づくほどに攻撃の密度が上がる中、堕姫からの距離は近い順に、伊之助、善逸、禰豆子となっていた。
「特に血の刃はやべぇ!!掠っただけでも死ぬってのを肌で感じるぜ!」
言うや否や、刃が禰豆子を掠める。肩をザックリと切られた彼女は、さらに距離をとった。
「大丈夫か!?」
「禰豆子ちゃん!?」
「……はい!」
(毒があるといっても、私にはあまり効かないみたい……それでも、これ以上傷を受けるわけには……!)
「死ぬ!!死ぬ!!嫌ぁあああ!」
「オイ!?」
(
(遠い、近づけない……!このままじゃ私、足手まといだ……!)
――禰豆子が突然、真っ直ぐ駆け出した。
前の二人を追い越して、堕姫に向かっていく。
「禰豆子ちゃん!?」
「オイどうした!?危ねえぞ!?」
「ど素人のアンタが、術も使わずに何のつもりよ!?」
大量の帯が禰豆子に迫る。
――不意に禰豆子の身体が小さく縮んだ。
そのまま、隙間を縫うように近づいていく。
「(子供の姿?攻撃が当たらない……)ちょこまかとウザったいわね!!」
血の刃を飛んで避けた瞬間、その一瞬、帯の攻撃が禰豆子に集中する。
「俺たちも行くしかねえ!」
「禰豆子ちゃぁぁあん!!!」
伸びきってから折り返して禰豆子を狙う帯を、二人が叩き切る。
禰豆子はその援護を受けて、ギリギリで相手の懐に潜り込んだ。
「そんな小さな足で蹴るつもり!?笑わせないで!!」
「――血鬼術、爆血!!」