人の血 鬼の血   作:かにかまとかにたま

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四話

 

『人を傷つける鬼を許すな!』

 

(鬼は……敵……!私は……私は……!!)

 

 

 

 

 

 

「禰豆子……」

 

 

 

 

建物の倒壊から免れた炭治郎は、起き上がって周囲を見回す。そして、少し離れた場所にその姿を見つけた。

 

 

「禰豆子!大丈夫か!?」

「――っ来ないで!!」

 

「ハァハァ……!!近づか……ないで……!!」

 

禰豆子の瞳孔は鋭く縦に切れ、肩で激しく息をしている。落ち着かせるためなのか、彼女は自らの着物の袖を強く噛み締めた。

 

 

 

 

 

「――なぁお前……あの鬼の娘、血縁だろ……?」

「ッ……!!」

 

「姉か?妹か?」

 

 

動けない様子の炭治郎は、逆らうこともできずに質問に答えるしかなかった。

 

 

 

 

「……妹だ」

 

「ひひひっ!!やっぱりそうか!!みっともねぇなあお前!!妹を守れずに、逆に庇われて怪我させてよお!!」

 

 

 

禰豆子はうずくまったままで、動ける状態ではない。妓夫太郎は禰豆子に目もくれず、炭治郎へと話を続ける。

 

 

 

「でも仕方ねぇか……鬼は怪我したって治るからなあ?人間と違って……なあ!?」

 

ボキィ!!

これ見よがしに指を折ってみせる。炭治郎は一瞬身を固くするが、うめき声ひとつ上げずに黙ったままだ。

 

 

 

「それに……妹があんなに苦しんでるってのに、兄貴であるお前は何もしてやれないもんなあ!?本当にみっともないぜ!!」

「でもよ、なんだか愛着が湧くなあ……」

 

 

 

「まだお前にも、妹の為にしてやれることがあるぜ?なあ?」

 

「食いモン用意してやるんだよ、兄貴のお前が!でも、自分が妹に喰われるなんて言うなよ!?一回あげてそれっきりじゃあ意味ねぇからなあ!!お前自信が強くならなきゃあ守ってやれねぇ、当然だろ!?」

 

 

 

「お前も鬼になればいい。鬼になれば一瞬で強くなれる……さあどうする!?でなきゃ妹もろともブチ殺すぞ!!」

 

 

「俺は……俺は……」

 

 

 


 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

「ちょっと嘘でしょ!?そんな奴に頸斬られないでよ!!」

 

刀に力を込める炭治郎に向けて、帯が伸びる。

その帯を激しい炎が包み込んだ。

 

 

 

「しつこいのよ!!クソ!!」

「ゔゔゔぁああ!!」

 

 

 

今にも暴れ出しそうな禰豆子が、必死の形相で堕姫の方を向く。

 

(鬼は敵……!お兄ちゃんを守る……私は……!)

(もう耐えられない!!血を、肉を!!なんで我慢しなきゃいけないの!?どうして!?だって私は!!)

 

 

 

 

 

 

 

――禰豆子の眼前に、放り投げられた何かが転がってきた。

 

「柱様の特上肉、有り難く貰っとけェ!」

 

彼女は転がってきた左手を無造作に拾い上げ、むさぼるように口にする。

 

「譜面が完成した!勝ちに行くぞォ!!」

 

 

 

 

 

「そんな量の肉じゃ、大して回復できないでしょ!!それに忘れたの!?アンタじゃ頸は切れないのよ!!」

 

禰豆子に向けて堕姫は再び攻撃を仕掛ける。

しかし、禰豆子は堕姫の方ではなく別の方向へ駆け出した。

 

(建物が崩れる前、すぐ近くにいた……きっとこの辺りに……!!)

 

 

 

 

 

「――善逸さん!どこですか!?」

「……禰豆子ちゃん……!?」

 

禰豆子は声を頼りに、力任せにガレキを蹴り飛ばした。その背中に帯の攻撃が迫る。

 

「――霹靂一閃!!」

 

「チィッ!!今さら役立たずを引っ張り出したって、意味ないのよ!!」

 

 

 

雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃

 

――神速!!

 

 

 

目にも留まらぬ速さで、善逸の刀が堕姫の頸を捉える。

 

「――アンタがアタシの頸を斬るより早く、アタシがアンタを細切れにするわ!」

 

 

 

「善逸さん!!」

 

禰豆子では、善逸の速さに追いつくことはできない。

彼女の視線の先で、帯が善逸の周りを囲んだそのとき……突然帯がバラバラに切り裂かれた。

 

反対側から現れた伊之助が、そのまま頸に刃を向ける。鬼気迫る勢いと共に、二人はついに堕姫の首を斬り飛ばした。

 

 

 

 

 

「――向こうは……お兄ちゃんは!?」

 

達成感に浸る間もなく、禰豆子は兄の姿を探す。

 

彼女が屋根へと飛び乗ったその時、辺りに声が響き渡る。

 

 

 

 

 

「まだだ!竈門!!逃げろォォ!!」

 

 

 

「お兄ちゃん!!!」

 

(遠い、間に合わない……!)

 

首のない鬼の肉体から、血の刃が湧き出てくる。

一瞬のはずのその時間は、禰豆子にとって不思議なほどに長く感じられた。

彼女の脳裏に様々な記憶が蘇り、うつっては消えていく。

 

 

 

『禰豆子……』

『禰豆子!』

『姉ちゃん!』

『禰豆子、お願いね』

 

(お母さん……お父さん……!間に合わない、誰か……!)

 

『諦めるな!』

 

 

 

 

 

『いいか善逸、壱の型は足が全て!!足の先の筋肉、血管の一つ一つに至るまで意識を割くんじゃ!』

 

 

 

 

 

雷が落ちたかのような轟音と共に、禰豆子は飛び出した。

彼女が手を伸ばすと、紅い炎が炭治郎の身体を覆うように広がっていく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「お兄ちゃん……!お兄ちゃん……!」

「禰豆子……」

 

 

 

「他の皆は!?」

「動いちゃダメ!まだ傷が……!」

 

立ち上がった炭治郎だったが、すぐに膝をついてしまう。

 

「何があった……?禰豆子……何で俺は……」

 

 

 

「炭治郎……!禰豆子ちゃん……!誰か……誰か来てえ!!」

「……善逸の声だ、向こうから……!」

「待って、私に任せて!」

 

炭治郎を軽々と背負い、禰豆子は走り出した。

 

声のする方へ向かうと、善逸がガレキの山に手を掛けて倒れていた。

 

「善逸!無事か!?大丈夫なのか!?」

「たんじろお……足が痛くて登れないよお……伊之助がこの上に……心臓の音がどんどん小さくなってくよお……」

「そんな……!」

 

 

 

「伊之助、伊之助!!」

 

伊之助の呼吸は浅く、心音も消え入りそうなほどに弱々しい。炭治郎の呼びかけにも応える様子がない。

 

 

「毒をどうにかしないと……でもどうすれば……!」

「何で俺は助かった……?俺も毒をくらったのに……」

 

 

「……もしかして……」

 

隣にいた禰豆子が、優しく手を伸ばした。その身体を炎が包み込み、毒に侵された皮膚の色が元に戻っていく。

 

 

「腹減った!なんか食わせろ!」

「伊之助!」

「……良かった……!」

 

 

 

「禰豆子……!」

「うん、急がないと!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

炭治郎の案内もあって、その場所はすぐに見つかった。

宇髄を囲んで騒ぎ立てる三人に、禰豆子が割って入る。

 

「すみません、ちょっと失礼します」

 

宇髄の身体が炎に包まれる。

 

 

 

「ぎゃあああ!?何するんですかあ!?」

「落ち着いて、大丈夫ですから!」

「いやよく見たら鬼じゃないですかあなたぁ!?いやあああ!?」

 

 

 

「待て……こりゃ一体どういうことだ……?毒が消えた……」

 

 

 

「ええと……私もよくわかってないんです……」

「おそらく、禰豆子の血鬼術が鬼の毒を燃やしたんだと思います。以前にも他の鬼の術を解いてくれたことがあって……でも傷が治るわけではないので、もう動かないでください」

 

「いやいやお前も動くなよ、死ぬぞ」

「その通りだよお兄ちゃん、もっと自分のことも……」

 

「待て待てお前もだ竈門禰豆子、さっきまた理性飛びかけてたろ」

 

「……おかげで今は落ち着いています。……ええと、その……ありがとうございました……」

 

 

 

 

 

「宇髄さん、念のため俺は鬼の首を探してきます。確認するまではまだ安心できない。……禰豆子、頼む」

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

炭治郎の鼻を頼りに首を探しに出た二人。匂いを辿る途中、鬼の血だまりを発見し、血を採取する。

 

「珠世さんの所へ頼んだぞ」

 

(珠世さん、それにあの猫ちゃん……なんとなく覚えてる……)

 

 

 

「禰豆子、こっちに行ってくれ」

 

「鬼の匂いが強くなってきた」

「……うん」

 

鬼になった禰豆子は、人間だったころよりも感覚が鋭くなっていた。炭治郎ほどではないが、特に血の匂いには敏感となっている。

 

進むにつれて、言い争うような声が聞こえてきた。禰豆子は炭治郎を背負ったまま声の方へと急ぐ。

 

二人が近づいても、その言い争いがとまることはなかった。

 

 

 

「なんで助けてくれなかったの!?」

「俺は柱を相手にしてたんだぞ!」

「だから何よ!!」

「お前こそ上弦だって名乗るならなぁ!大して強くもねえ鬼の小娘に手こずってんじゃねえよ!!」

 

お互いを罵倒する言葉は、激しさを増していく。

 

 

「……アンタみたいに醜い奴が、アタシの兄妹なわけないわ!!アンタなんかとはきっと血も繋がってないわよ!!」

「ふざけんじゃねえぞ!!お前一人だったらとっくに死んでる!!どれだけ俺に助けられた!?」

 

 

 

 

「――だめだ……」

「――お兄ちゃん……?」

 

 

 

「お前さえいなけりゃ、俺の人生はもっと違ってた!」

 

「お前なんか生まれてこなけりゃ良かっ――」

 

 

 

「――嘘だよ」

「本当はそんなこと思ってないよ」

「この世でたった二人の兄妹なんだから」

 

「君たちの味方をしてくれる人なんていない、だからせめて二人だけは……お互いを罵り合ったら駄目だ」

 

 

 

 

 

静かにゆっくりと、首は灰になって崩れていく。

ついに二人の手の中で、完全に消えてしまった。

 

 

 

 

「仲直りできたかな?」

「……うん、きっと……」

 

 

(お兄ちゃんが鬼にも優しいのは、私も鬼だから?それとも……)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「善逸、伊之助……ありがとう……」

「よかったあああ生きてるよォォ……」

「ゴホッ……」

 

 

 

喜び抱き合う三人を、禰豆子は少し離れた所で見守っていた。

 

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