人の血 鬼の血   作:かにかまとかにたま

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鬼殺隊隊士 竈門禰豆子編
五話


 

室内に置かれた箱がひとりでに開き、中から小さな禰豆子が顔をのぞかせる。まだ眠たげな彼女は、目をこすりながらゆっくりと外の様子をうかがった。

 

「おはようございます、禰豆子さん。私のこと分かります?」

「……あ、あの……ええと……」

 

困ったように部屋を見渡すと、部屋に置かれている金魚鉢が目に入った。

 

「あの金魚を見せてくれた……」

「ええ、覚えていてもらえて嬉しいです。改めまして、私は蟲柱の胡蝶しのぶといいます」

 

「まずはこちらへ、病室に案内しますね」

 

蟲柱・胡蝶しのぶが、禰豆子へと微笑みかける。帯刀したままのしのぶは、扉を開けて彼女を手招きをした。

 

 

 

 

 

「二人とも一命は取り留めました、まだ油断はできませんが……」

「お兄ちゃん……伊之助さん……」

 

ベッドの上で静かに眠る二人を心配そうに見つめる禰豆子だったが、何よりも生きていることに安堵した様子でもあった。

 

 

 

「そういえば、善逸さんと宇髄さんは……」

 

「善逸くんは、目覚めない二人と一緒だと気が滅入ってしまうので離れた別室に……宇髄さんは知りません、屋敷内のどっかに居ますよ」

 

 

 

 

 

再び自室に戻ったしのぶは、禰豆子の診察を始めた。

 

「あなたがこの蝶屋敷に運び込まれてから三日が経ち、その間ずっと眠り続けていました。推測では、血肉を喰らう代わりに眠ることで体力を回復していると……」

 

「禰豆子さん、今は空腹を感じていますか?」

「……いいえ」

「それは良かったです」

 

「どうしても我慢できない場合に誰かから血を分けてもらうか、それとも空腹になる前に定期的に血を摂取するか……それに、必要な血の量についても全く見当がつきません」

 

「とりあえず二、三日は様子を見ましょう。何か変わったことがありましたら、すぐに私に報告してくださいね?」

「はい、ありがとうございます」

「といっても、私に分かることは限られていますが……」

 

「鬼の体質については鬼殺隊の誰よりも詳しい自信がありますが、それはあくまで……」

 

言いかけて、途中で口を閉ざす。

 

「……無神経が過ぎましたね、すみません」

「いえ、いいんです」

 

 

 

「――おーい、入るぞー」

 

二人が振り返ると、その声の主は確認もとらずに部屋へと入ってくる。

 

「竈門禰豆子、一緒に来い」

「たった今伝令があった。俺の柱としての最後の任務だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ、起きてるか?」

「ここは……」

 

宇髄に背負われて長時間揺られた禰豆子は、とある屋敷の縁側で再び目を覚ました。庭に面したその部屋は広く、日陰になっている。

 

「来てくれてありがとう、天元、禰豆子」

 

閉め切ったままの(ふすま)の先から、落ち着いた声がきこえてくる。

 

「御館様、こちらこそ、隊を辞退するお許しを下さりましたこと、心より感謝申し上げます」

「そんなに(かしこ)まらないでおくれ。君のお陰で、どれほどの人々が救われたことか……」

 

 

 

 

 

「ゴホッゴホッ…………禰豆子、炭治郎が大変なときに呼び出してしまってすまない。しかしどうしても直接話がしたくてね」

 

 

 

「具合が良くないのなら、無理なさらない方が……」

「私のことはいいんだ、代わりはいくらでもいる。それに私と違って、君は貴重な存在だ」

 

 

 

「禰豆子、君を鬼殺隊の正式な隊士として迎え入れたい」

 

「今までは、人を襲わないことを条件に君の身柄が保証されていた。そして、提言した義勇、同行する炭治郎、二人の育手である鱗滝、この三人がその責任を負うことも含めてね」

「しかし、君が自我を取り戻したことで状況が変わった。鬼殺隊としては当然、鬼である君を自由にさせるわけにはいかないんだ」

 

「もちろん入隊は断ってくれてもいい。強制はしない。監視こそ付くが、生活は我々が保証するよ」

 

「それでも君が……炭治郎と同じように、鬼殺隊の一員として戦ってくれるのなら……」

 

 

 

「お願いします!!」

「……ありがとう」

 

 

「二人とも、もう下がっていいよ」

 

「隊服と日輪刀も支給する、詳しい話は後で鎹烏(かすがいがらす)を通じて――」

「か、刀!?え、ええと、私……」

 

「天元、後は頼んだよ」

「待って、もう少し――」

「下がれって言われたら下がれ、ほら帰るぞ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

禰豆子を背負って蝶屋敷へと戻ってきた宇髄を、しのぶが出迎える。どこか冷ややかな態度の彼女は、用事が済んだら早く出ていけと宇髄に告げた。

 

 

 

「まあそう言うな、まだ完治してねえ。もう少し世話になる」

「……それは別に結構ですが、ひとつだけ言っておきます」

 

「今度うちの子たちに乱暴したら、食事に毒混ぜますから」

「毒は効かねえよ」

「……反省してます?」

 

「悪かった、マジで反省してる。あのときの俺は冷静じゃなかった、許してくれ」

「……はいはい」

 

 

 

話を終えて、宇髄が日陰に入って箱を下ろす。中から出てきた禰豆子に、しのぶが微笑みかけた。

 

「お待たせしてすみません……禰豆子さん、私が屋敷にいる間は屋敷内を一人で自由に歩き回ってもらって構いませんので」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 


 

 

 

そして数日後……

 

 

 

「私、こういうハイカラな服は初めてで……変じゃないですか?」

「全く問題ありません。完璧です」

 

届いたその隊服は、上は普通のものと変わらないが、下は膝丈のスカートになっている。

 

「身体の大きさを変えることができると聞き、小さくなっても(すそ)が邪魔にならないように、短めにしてあります」

「そんなところまで……ありがとうございます!」

「気に入っていただけて何よりです。それでは、私はこれで……」

 

禰豆子の隊服姿を見届けると、眼鏡を掛けたその隠はそそくさと屋敷を後にした。

続けて、鉄穴森と名乗る人物が挨拶をする。

 

 

 

「さて、こちらがあなたの日輪刀になります」

「これを私が……」

 

差し出されたそれは、刀というよりも包丁のような見た目だった。

 

「わざわざありがとうございます」

「いえいえ、作ったのは私ではなくて里長の鉄珍様でございます。あのお方、『おなごの刀はワシが作る!』と言って勝手に始めてしまいまして……」

 

「剣士としての修行をなされていない関係で、鬼としての腕力を活かして叩き斬るためにとにかく頑丈に(こしら)えたとのことです」

 

「それと……鬼であるあなたが、日輪刀を持ち歩く危険性について……」

「ご存知かと思いますが、鬼を滅することができるのは太陽の光と、日輪刀で首を斬ることのみ……日輪刀こそが、鬼殺隊の隊士である証なのです」

「鬼との戦いで、ひとたび相手に奪われてしまえば……鬼であるあなた自身に牙を剥くやもしれません。重々承知の上で、取り扱いにはご注意下さい」

 

 

 

 

 


 

 

 

おまけ

 

 

 

「お兄ちゃん……伊之助さん……?(……被り物とった姿、初めて見た……)」

 

 

 

「禰豆子さん、その隊服……普通のものに替えてもらうこともできますよ……?」

「いえいえそんな……この服は私のために心を込めて作ってくださったものなので、とっても気に入っています!」

「そ、そうですか……(カナヲといい蜜璃さんといい、着てみたら意外と平気なんでしょうか?)」

 

 

 

 

 

日輪刀が出来上がるまでの日数について

 

原作では十五日ぐらいかかると明言されてますが、今回禰豆子に用意されたものは繊細な日本刀ではなく無骨な短刀で、そのうえ禰豆子に入隊するか訊く前に既に作り始めていたので、そんなにかからず届きました。ちなみに刀の色は変わっていません。

 


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