とある転生者の遊興日記   作:乾燥海藻類

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第十話

「ただい――ま?」

「いらっしゃいませ。おひとりですか?」

「アッ、ハイ」

「ではこちらのお席にどうぞ~」

 

メイド服を着たウマ娘に奥の席まで案内される。

あれれ~、おかしいぞ~。ここ、俺の店だよな。

改めて店内を見回すが、確かに俺の店だ。内装は少し変わっているが。

 

しまったな。表からではなく裏から入るべきだった。

というか客入り凄いな。8割くらい埋まっている。

仕方ない。とりあえず頼むか。アイツの腕を確かめてやろう。

 

「すいません。ホットコーヒーひとつ」

「かしこまりました。しばらくお待ちください」

 

ニッコリ笑って栗毛のメイドさんがしずしずと下がっていく。

知らない子だな。まあ俺がアイツと一緒に顔合わせ(面接)したのはひとりだけだから、新しく雇ったんだろう。

一応業務報告(メール)は毎週届いていたので、ある程度の状況は把握していたが、まさかメイド喫茶になっていたとは、見抜けなかった。この俺の目をもってしても。

 

妙に売り上げが上がっているとは思っていたが、こんな秘密があったとは。別に趣味でやっているような店だからこだわりなんてないけど、報告しなかったのは俺が怒ると思ったのかね。

いや、帰ってきたらバレるんだからそれはないか。

 

「やはりこのお店のメロンパフェは格別ですわ! 何杯でもいけますわよ!」

「おいおい、そろそろやめとけよ。1杯だけっていうからこっそり連れてきてやったのに、もう3杯目じゃないか。さすがにふと――ぐふっ!」

「失礼、ほほに蚊がとまっていらっしゃったので」

「もう10月なのに!?」

「そんなに心配せずとも大丈夫ですわ。このパフェには希少糖が使われていますの。希少糖はカロリーゼロですのよ」

「え、そうなのか? いや待て、希少糖のカロリーはゼロでもメロンやクリーム自体には――ぎゃんっ!」

「それも問題ありませんわ。これだけキンキンに冷やしてますもの。冷たくすることによってカロリーはゼロになると聞きましたわ」

「なんだその超理論は。そもそも冷やしてカロリーゼロになるなら希少糖うんぬんのくだりは――げるぐぐっ!」

 

騒がしいカップルだな。いや、あれスピカのトレーナーじゃね? ならあの葦毛の子は担当のウマ娘かね。こんな郊外の店までよく来たもんだ。

挨拶は……別にいいか。プライベートの時間を邪魔しては申し訳ない。

 

「お待たせいたしました。ホットコーヒーです」

「ああ、ありがとう」

 

丁寧な仕草でコーヒーと付属の菓子を置くと、メイドさんは一礼して下がっていった。

てっきり「おいしくな~れ。ラブラブキュン!」とかやると思ってたんだけど、もしかしたらメイド服っぽい制服なだけでメイド喫茶じゃない?

 

そういえば最初も「いらっしゃいませ」だったな。メイド喫茶なら「おかえりなさいませ」だもんな。

ふむ。俺の早とちりだったのかもしれん。

 

「――ムッ!」

 

なんだこのコーヒーは! メチャクチャ美味いじゃねぇか!

なんつーか気品に満ちた味っつーか、例えるならアイルランドのお姫様が飲むような味っつーか、スゲー爽やかな美味さだ。

それでいてお値段据え置きで、しかもスコーンまで付いている。

 

このスコーンも絶品だ。単体では少し物足りなく感じるが、ジャムと合わせることで美味さ倍増倍率ドン。

サッパリとしたスコーンに濃厚なジャムが良い塩梅で絡みつく。

スコーンがジャムを、ジャムがスコーンを引き立てる。

ハーモニーつーか、味の調和っつーか、とにかく相性がバッチリなんだ。例えるならユタカとスーパークリーク、ユタカとスペシャルウィーク、ユタカとメジロマックイーン!

 

……この半年でどんだけ成長してんだアイツ。マズいぞ、これは。この味に慣れた客に俺のコーヒーなんか出したら大クレームじゃないか。

 

「もうこの店はアイツに任せた方がいいかも分からんね」

 

エルの凱旋門賞特集雑誌で稼いだ金でアパートでも建てて、家賃収入とこの店のオーナー収入で暮らした方がいいかもしれん。

そんでたまに記事を書いたり予想屋で稼いだり。それがいいな、そうしよう。

簡単な将来設計を描き、俺は伝票を持って立ち上がった。

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

「ありがとうございます。千円からお預かりします。こちらお釣りになります」

 

そう言ってメイドさんが俺の手を取って包み込むようにつり銭を渡してくる。

あぁ、なるほど。これがアイツのやり方(戦略)か~。

こりゃ男はコロッといくわな。

アイツの経営手腕に感心しつつ、店を出た俺はすぐさま裏口に回った。

 

「ただいま」

 

先ほど言った帰宅の挨拶を繰り返す。今度はちゃんとした返事が返ってきた。

 

「あ、おかえりなさい店長。遅かったですね」

「ちょっと電車が混んでいてな」

「……そういうありきたりなボケはいいですから」

 

パスタを調理しながら振り返った葦毛のウマ娘は、小さく笑いながら出迎えてくれた。

洗い物をしていた鹿毛のウマ娘もペコリとお辞儀をしてくる。俺が面接したウマ娘だった。

 

「これ土産だ。チョコとかクッキーな。色々あるからみんなで食べてくれ」

「はい。ありがとうございます。店長」

「あとこれはおまえに。ボディクリームだ」

「そんなに気を遣ってもらわなくても良かったのに」

 

こうして会話をしながらも手は止まっていない。相変わらず器用なものだ。歩合制にしたことがここまで功を奏するとはな。

 

「しかしあの制服には驚かされたぞ」

「え? でも制服を作ることは知らせてましたよね? ああ、写真は送ってませんでしたか」

 

コイツがひとりの時は、私服にエプロンだけだったからな。雇う人数が増えたことで制服を作りたいとの希望は聞いていた。まあ全部任せた俺にも責任はあるのか。

そういえば何を言われても、任せるとか、構わんやれ、とか返事をしていた気がする。自分の店なのに関心なさすぎだな。コイツが平気の平左でいるのも当然の帰結か。

 

「すぐに復帰されるんですか?」

「いや、しばらくは編集部と打ち合わせなんかをしたりして、その後はドバイかアメリカに行くかもしれん」

「……ドバイワールドカップとブリーダーズカップですか」

「そのようだ」

 

帰りの機内で、エルと今後の話をした。どのレースを世界三大と定義するかは人それぞれだが、エルの中では凱旋門賞、ドバイワールドカップ、ブリーダーズカップ・クラシックの三レースらしい。

 

ドバイワールドカップの開催が3月。ブリーダーズカップの開催が11月なので、無理をすれば1年で両方獲ることが可能だ。馬じゃないから輸送のストレスとかもないだろうしな。

 

ウマ娘に入れ込むなんてことは今までなかったのだが、この話を聞いて、俺は不覚にもワクワクしてしまった。

 

 

 

コンドルはどこまで飛んでいけるのか。

 

 

 

もしかしたら俺は、彼女に出会うために生まれてきた(転生した)のかもしれない。

ならば見届けよう。コンドルの行く末を。

あの太陽のような笑顔の、夢の続きを。

 

 

 





というわけで完結です。
感想、評価、誤字報告を下さった方々に感謝を。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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