もしも、一夏に気軽に接せる破天荒な幼馴染が居たら。
その幼馴染と離れ離れになり、再会した時にだらしないと思われないよう色々努力していたら?

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リハビリがてら、AIのべりすと併用で執筆


一夏に破天荒な幼馴染を加えてみた

俺には、ある特別な友達がいる。

そいつは女の子なんだけど、だからと言ってとりわけ仲が良いだけであって、恋人とかじゃない。

小学校2年生に上がった頃に同じクラスで隣の席になったのが出会いだ。

正直言ってそいつは、なんで言うか、女の子らしくなかった。

性格は破天荒で嵐のように周りをかき回し、そのくせ勉強も運動も出来るからタチが悪い。なんと言っても、事あるごとに俺に突っかかってきてた。なんでも「お前にだけは負けたくない」って理由らしいけど……よく解らない。

最初はそいつに苦手意識があった。だってそうだろ?いきなり隣に座ってきたと思ったら「私は女だが男でもある」なんて言い出すんだぜ?んでもってテストだろうが体育の試合だろうが、やたら張り合ってくるし。

 

だけど、そいつと一気に仲良くなる事件があった。

 

それは夏休み前の時だった。箒が男子たちからイジメられているのを見た俺はその男子たちに殴りかかったんだけど、多勢に無勢で不利になっていった。

誰も喧嘩を止めず野次馬が出来ていたんだけど、そいつは野次馬をかき分けて現れると「おう織斑、私も混ぜろや!」と言って飛び蹴りをかまして助けてくれたんだ。

その後は先生たちが来てその場はお開きとなった。

その後、俺とそいつは職員室に呼ばれて怒られた。でもそいつは「正当防衛ですー!あいつらが先に手を出そうとしたんですぅ~!」と言い張っていたっけ。そして先生に烈火の如く叱られてたっけ……。

説教から解放された俺とそいつは、職員室を出るとそのまま帰路についた。何故かその日に限って一緒に下校していた。

 

『……』

『……』

 

気まずい空気が流れる中、俺は話題を探しながら歩いていた。すると不意にそいつが口を開いた。

 

『……あ~……さっきの事だけどよ……まぁ、その、あんま気にすんな』

『え?』

『口でわかんねえ連中だからよ、やっぱ体で分からせてやらねえとな。だけどよ、私が助けんかったらお前今頃ボコられてたぞ』

『う……』

 

確かにそうかもしれない。

あの時は頭に血が上っていて気付かなかったが、今思い返せば俺は一方的に殴られるだけだった気がする。

 

『それにな、私だって好きでああいう事をしているわけじゃねぇんだよ』

『そうなのか?』

『当たり前だ。好き好んで人を殴ったり蹴ったりするかっての。まぁ、どうしても我慢できない時はやるけどな』

 

そっか……。なら安心した。いや、していいのか分からないけど……。

 

『よし、それじゃ今日はパーっと遊ぼうぜ!』

『いいのか?俺なんかと一緒にいて』

『は?何言ってんだお前。一緒にいるのが嫌な奴を助けるかっての』

『……そっか』

 

その時、俺は嬉しかったんだと思う。

今までこんな風に俺と接してくれる人はいなかったから。

だから、つい聞かずにはいられなかった。

 

『なぁ、どうして俺に構うんだ?どうして助けてくれたんだよ?』

 

するとそいつは立ち止まって振り返ると、ニカッと笑いながら言ったんだ。

 

『そんなの決まってんじゃねーか。お前は私のダチだからだ』

 

それが切っ掛けとなって、俺はそいつとよくつるむようになったんだったかな。

それから俺とそいつの2人だったり、時には箒を加えた3人でいろんな場所に出かけたりして過ごした。

遊園地に行った事もあったっけ。俺が迷子になって大変だったんだ。

それと夏祭りにも一緒に行って花火を見たりした。楽しかったなぁ……。

 

5年生になる前、箒がある事情で引っ越すことになった。

俺とそいつは、引っ越すことになった箒を一緒に見送ることにした。

 

『……元気でな、箒』

『……ああ、元気でな、一夏。それと佐々木、お前には色々と助けてもらった。本当にありがとう』

 

箒はそいつ──佐々木にあの時助けてもらったことに改めてお礼を言う。すると佐々木はスッと箒の頭を撫でた。

 

『篠ノ之、我慢すんな。泣いたっていいんだぜ?』

 

佐々木の言葉に箒の目から涙が零れる。そして我慢していた思いを吐き出すかの如く泣き出した。

 

『嫌だ!お前たちともっと一緒に居たい!もっと色々な所に行きたかった!お前たちと一緒に過ごしていきたかった!!』

『……箒』

『ずっと一緒だったじゃないか!!なのになんで!?なんで離れなくちゃいけないんだ!?私は、私は……!』

 

箒は涙を流しながら言う。その言葉を聞いて、俺たちは何も言えなかった。

 

『うぇ~ん!いぢがぁ~!!ざざぎぃ〜!!』

『ほれみろ、やっぱり泣くんじゃないか』

『うるさいぃぃ~!!』

『ははは、そうだな。寂しいよな。でも、いつかまた会えるさ』

『本当か?嘘じゃないだろうな?』

『おう、私がお前にウソついた事あるか?』

『無いな。うん、ない』

 

箒は泣いているのが恥ずかしくなったのか、袖でゴシゴシと目元を拭った。

 

『ふぅ、もう大丈夫だ。これ以上ここに居ると別れづらくなってしまうからな。私は行くぞ』

『おう、気をつけてな』

『じゃあな、篠ノ之』

『ああ、お前たちも達者でな!』

 

こうして、俺たちは箒を見送った。

 

『さて、私らも帰るか』

 

佐々木は少し寂しそうにそう言いながら俺にそう言う。

その時、俺の中で、急に佐々木まで居なくなってしまうのではないかという不安が募る。

俺はたまらず、佐々木に尋ねた。

 

『……なぁ、これからも友達でいてくれるか?』

『何を今更。当然だろ?私たちダチじゃねえか!』

 

そう言うと、佐々木は俺の肩に腕を回してきた。

 

『へへ、ありがとな』

『気にすんなって!』

 

その日から、俺は佐々木と一緒に過ごすことが多くなった。

 

 

5年生になると、俺のクラスに中国からやって来たという女の子が居た。名前を凰鈴音と言うらしい。

しかしこの子は佐々木とは別方向に気性が荒く、初対面で顔面にグーパンをされるとは思わなかった。ちなみにその光景を見た佐々木は大笑いしながら俺のことを指差していた。解せん。

 

そして俺は佐々木と違う意味で、この子と仲良くなるきっかけを作った。

 

それはその子が中国人だからと言う理由でイジメられ、リンリンとパンダに付けられていたような名前で呼ばれていた。

いくら気性が荒いと言っても、集団でそんな風に言われれば流石に辛い。その子は泣きそうになるのを必死に堪えていた。

俺は居ても立っても居られなくなり、イジメっ子たちとその子の間に立ち、やめろよと言葉で抵抗した。箒の時のように直ぐに手を出すのはマズいと思ったからだ。

しかしそれがイジメっ子たちの神経を逆撫でたのか、いきなり俺の胸倉を掴むと殴りかかってきた。

それでも俺は殴り返さず、じっと耐えてその子の盾となっていた。

 

『とぅ♪』

 

突然聞こえたその声と共に、佐々木が何処からともなく現れ俺を殴っていたイジメっ子にドロップキックを喰らわせていた。

 

『一方的にぶん殴って楽しかったか?んじゃ、今度は殴れっぱなしの痛さを教えてやるよ!』

 

佐々木はそう言うとイジメっ子たちを次々と倒していく。途中やめてくれと叫ぶイジメっ子が居たが佐々木は、

 

『ん?お前はそう言われてイジメをやめたんか?』

 

と問い詰めてグーパンを顔面に入れていた。滅茶苦茶痛そうだった。

その後は佐々木とイジメっ子グループは滅茶苦茶怖い先生に呼び出され、俺と凰さんは別の先生に事情聴取を受けることになった。

その後、俺と凰さんはこってり怒られた佐々木と合流する。流石に堪えたのか佐々木はヘロヘロだった。

 

『あのさ、二人とも、ありがと……』

 

凰さんはおずおずとした様子でお礼を言う。

 

『気にすんな、凰。困ってたら助けるのが当たり前だ』

『まぁ、佐々木の言う通りだな』

『あ、あたしの事は鈴でいいわ。名字で呼ばれるの好きじゃないの』

『わかった。俺は一夏、織斑一夏だ。』

『私は佐々木。佐々木春奈だ。』

『よろしくね、二人とも』

『ああ』

『おう』

 

これが切っ掛けとなって、俺と佐々木は鈴と仲良くなった。まぁ、どちらかと言うと鈴は佐々木とばかりつるんでいたけどな。

鈴は箒とは全く違う性格っていうこともあり、俺と佐々木は新鮮な気分で一緒に遊んだりした。

俺と佐々木でバカやって、先生に怒られる俺たちを鈴が呆れながら見ているという構図が俺の日常になっていた。

 

俺は、そんな日常がずっと続くと思っていた。

 

 

卒業が近づいた頃、佐々木は親の都合で卒業と同時に海外へ引っ越すことが決まったらしい。

その話を聞いた時、俺は思わず立ち上がってしまった。

だってそうだろ?

俺と佐々木は毎日のように一緒に過ごしていたんだ。

そんな大事なことを黙っているなんて酷いじゃないか……。

 

『……おい、どういうことだ?』

『私何も言わなかったっけ?』

『聞いてねぇぞ!なんだよそれ!?』

『えぇ……』

 

俺の反応を見て、佐々木は困惑する。

 

『えぇ……じゃねぇよ!なんで教えてくれねぇんだよ!』

『あー……まぁ、私とお前の付き合いだ。察しろ』

『無理だ!』

『……まぁ、そういうわけでだ。私はもうすぐ外国に行くんだよ』

『そんな……』

 

俺は頭が真っ白になる。

 

『まぁ、そう悲観するな。いずれまた会えるさ』

『本当に?』

『おう。だからお前はお前の道を歩んで行け』

『……分かった。絶対だぞ』

『ああ、約束だ』

 

そして卒業式が終わると佐々木は荷物を持って空港へ向かった。俺と鈴はそれを見送るため、一緒にいた。

 

『んじゃ、またな』

『おう、元気でな』

『鈴、お前もな』

『春奈!次会う時まで絶対に忘れないでよね!』

『わかってらい。いつかきっと、またどこかで会うさ。それまで楽しみに待っていろ!』

 

そう言う佐々木は、必死に笑いながら涙を堪えていた。

そして佐々木は飛行機に乗り込んで行った。

俺たちは見えなくなるまで手を振った後、家に帰った。

 

 

中学生になった俺は、佐々木がいない生活に凄い違和感を覚えていた。

気が付けば隣に佐々木がいた。

気が付けば佐々木は俺に突っかかってきていた。

気が付けば、俺と佐々木は、肩を組んで笑い合っていた。

それが、俺にとっての当たり前だった。

俺は、その時初めて知ったんだ。

 

俺にとって、佐々木がどれだけ大切な存在だったかを。

俺は、佐々木のことが──春奈のことが好きだったのかを……。

 

俺はその日、初めて春奈が居なくなった悲しさに大泣きした。久しぶりに、千冬姉に泣きついて、迷惑をかけてしまった。だけど千冬姉は全く迷惑だと思わずに優しく俺を慰めてくれた。

でも、俺は決めたんだ。

俺は春奈が好きだ。

だから、もう一度会えるように頑張ろうって。

俺はそう決意した。

 

 

それから俺は、一時期やめていた剣道を再びやり始めた。理由は一つだけ。

俺は春奈と再会した時に誇れる男になりたい。

それだけの理由。

以前剣道をやり始めたのは千冬姉に憧れていたからだったけど、それと比べるとえらい俗っぽい理由だと我ながら思った。

だけど、春奈とまた会った時に恥をかかないようにするにはこれしかないと思ったから。

俺の頑張りに触発されたのか、今度開催されるモンド・グロッソに日本代表として出場する千冬姉も連覇を目指してより一層努力するようになった。

そして千冬姉がモンド・グロッソ出場のため海外へ行ってしまい、俺は一人で家を仕切っていた。偶に鈴の実家の中華屋や、中学校で仲良くなった五反田弾の家の食堂に行ったりもした。

 

 

そうこうしながら俺はその日も剣道部の練習を終えて家路に着いていた。そしたら、目の前に大きめの車が停まったかと思うと、その中から何人かの男たちが降りてきて俺を取り押さえた。俺は抵抗したけど、注射器で何かを打たれてしまい意識を失った。

次に目が覚めた時には、俺は知らない部屋に閉じ込められていて、両手足を拘束されていた。

何が起こったのか理解出来ていなかったが、少し冷静になると誘拐されたのだと分かった。

誰が何のためにやったのか、それは俺には全然分からない。

暗闇に包まれた部屋の中、俺は身動き一つとれず椅子に拘束され続けた。

……どれぐらい時間が経ったのだろう、部屋の扉が無理矢理こじ開けられると、そこにはモンド・グロッソに参加している筈の千冬姉が助けに来ていた。

聞けば、俺が誘拐されたことを知って、モンド・グロッソの決勝戦を放棄してまで助けに来たのだと言う。

俺は嬉しかった。

だけど、同時に申し訳なく感じていた。

俺は千冬姉の足手纏いにしかなっていない。

俺のせいで、千冬姉は世界大会で二年連続優勝を逃した。

俺は千冬姉が大好きだし尊敬している。

だから、これ以上俺のことで迷惑をかけたくなかった。

だから俺は言ったんだ。

「大丈夫だよ、千冬姉」って。

すると、千冬姉は涙を流しながら怒った。なんで怒られたのか分からなかった。

千冬姉は俺を叱ると、泣きそうな顔をしながら抱きしめてきた。俺は、この時改めて自分の無力さを実感した。

 

その日から、俺はもっと強くなるために剣道に打ち込んだ。

春奈に胸を張って会いに行けるようになる為に。

ちなみに千冬姉は、俺を捜索するために協力したドイツ軍への借りを返すために一年間ドイツ軍のIS部隊の教官を務めた。

ついでに俺が誘拐されたことを知っている鈴に弾と数馬は、俺が無事だったことを知って泣きながら喜んでいた。ついでに鈴に引っ叩かれた。こればっかりは仕方ないと思う。だけど、春奈の方が痛かったと思う。

 

 

その後、今度は鈴が中国へ帰ることになった。理由は教えては貰えなかった。

俺はまた旧知の友達が居なくなることに寂しさを覚えながら、鈴を見送ることにする。

 

『ねぇ、一夏。仮に今あたしが一夏のことを好きだから付き合ってって言ったらどうする?』

 

別れる前に鈴は突然そんなことを訊いてきた。俺はすっごく驚いたけど、答えは決まっていた。

 

『……ごめん。俺は、春奈のことが好きだ。だから、たとえ鈴がそう言っても、その想いには応えられない』

『そっか。まぁ、確かにアンタと春奈、仲良かったもんね』

 

そう言う鈴は一抹の悲しさもなく、腑に落ちたような顔をしていた。

 

『ああ。それに、春奈とはまた会える気がするしな』

『なんでよ?根拠でもあるの?』

『勘』

『……ぷっ。なにそれ!』

 

鈴は吹き出す。

 

『鈴、またいつか会おうぜ。その時は春奈も一緒にな!』

『ええ、約束よ!』

 

こうして鈴は去っていった。

今思えば、鈴は俺と春奈の仲の良さを理解していた。だから、鈴は俺の返事を聞いて納得してくれたんだと思う。

 

 

鈴が去り、俺は中学三年生になった。

中学三年になった俺は、相変わらず剣道に没頭していた。気が付けば、俺は剣道部の部長を任されるようになり、全国でも有名な実力選手になっていた。

あと、女子に告白されることが多くなった。だけど春奈への想いを捨てられない俺は、その全部を断らせてもらった。申し訳ないとは思っている。だけどこればっかりは譲れなかった。

その夏、俺は剣道部の全国大会に出場することになった。そこで俺は偶然にも箒と再会することが出来た。

箒は俺に気が付くと、駆け寄ってきた。

 

『久しぶりだな、一夏』

『箒!お前も大会に出ているのか!』

『ああ。私は篠ノ之流剣術道場の跡取り娘だぞ?当然だ』

『そうだったな!お前ならきっと優勝出来るさ!』

『ありがとう。箒こそ、絶対優勝しろよな!』

 

そして全国大会が始まる。

ふと観客席を見れば弾に数馬、それに、本当に何で居るのか分からなかったが、ばれない様に変装している千冬姉が居た。俺は千冬姉の姿を見つけると、驚きと同時に思わず笑ってしまった。千冬姉はそんな俺を見て不思議がっていたが、ゆっくりと頷く。まるで「お前ならやれる」とエールを送っているように。

これじゃあ負けられないな。俺はそう思いながら試合に挑んだ。

俺は順調に勝ち進んでいき、ついに決勝戦に駒を進めた。相手は、去年の大会で優勝した猛者だ。何回か遠征で試合したことあるけど、その時の俺は手も足も出なかったぐらいに強かったのを今でも覚えている。

だけど、今の俺は違う。

この数ヶ月の間、ずっと剣道漬けの日々を送ってきた。そのお陰で、俺は以前よりも遥かに強くなっていた。

そして、いよいよ試合開始の時間になる。

俺は竹刀を構える。

相手も同じく構えていた。

そして審判が開始の合図をする。

俺は、全神経を集中させた。

そして──

カンッ!

小気味よい音が鳴り響く。

それと同時に、俺と相手の選手が一気に距離を詰める。

お互いに雄叫びを上げながら鍔迫り合いを繰り広げる。

俺は渾身の力を込める。

だけど、向こうも同じように全力を込めていたので中々押し切れない。

俺は今までに無いくらい集中して竹刀を握った。

お互い一歩も引かない激しい打ち合いが続く。

だけど、俺が先に仕掛けた。

相手の隙を突いて胴を抜く。そして――

 

『勝負あり!勝者、織斑一夏!』

 

審判の宣言と共に会場は大きな歓声に包まれた。

勝った。

俺はその事実に歓喜した。

決して表には出さなかったけど、内心ではガッツポーズをしていた。俺は面を外し、対戦相手に礼をして握手を求める。

すると、その選手は笑顔を浮かべて俺の手を握ってくれた。

 

『いい試合をありがとう』

『こちらこそ』

 

俺と彼は固い握手を交わす。

 

それから表彰式が行われ、俺は優勝トロフィーを受け取った。あと、女子の個人戦で優勝した箒も同じように表彰された。

その後、俺と箒は会場近くの公園ベンチに座って話をすることにした。お互いの近況報告をしたり、昔話に花を咲かせたりした。

その中で箒が引っ越ししたのは、箒の姉であるISの生みの親である束さんが失踪したことが原因だということを知った。そのせいで箒の家族は『重要人物保護プログラム』の一環で離散、自由に連絡すら取ることが出来ず、俺や春奈に手紙を出そうとしたけど許されなかったということも知った。

 

『そういえば、佐々木は応援に来ていないのか?あいつなら、お前の応援の一つでもしそうなのだが』

 

箒はそう尋ねてくるが、連絡を取り合えていないのであれば春奈が海外に引っ越したことは知る由もなかったことに気付く。俺は箒に春奈が家族の仕事の都合で海外に引っ越したことを教えた。

 

『……そうか』

 

それを聞いた箒は、少し落ち込んだ様子を見せる。

当然かもしれない。箒にとって春奈は恩人である以上に、初めて出来た友達なのだから。

 

『……一夏、一つ訊きたいことがある』

 

すると、箒は真剣な表情で俺の顔を見る。俺は思わず背筋を伸ばしてしまう。

 

『お前は、佐々木のことをどう思っているのだ?好き、なのか……?』

 

その問いに俺は即答する。

 

『ああ。好きだよ。春奈のことが、俺は大好きなんだ。これから先も、ずっと変わらないと思う。例え何があっても、俺は春奈のことが好きだと思う』

『そうか……。だが、それは私も同じだ』

 

箒は俺の答えを聞くと、静かに立ち上がる。

 

『一夏、私はお前のことが好きだ。異性として、一人の男としても、お前の事が大好きだ!』

 

突然の告白に俺は驚く。まさか、箒がそんなことを言うなんて思ってもいなかったからだ。

箒は顔を真っ赤にして真剣な眼差しで俺を見てくる。今の告白が冗談じゃないということと、精一杯の勇気で告白しているんだと分かった。

俺は立ち上がると、箒に向かって頭を下げる。

 

『ごめん。俺は、春奈のことが好きなんだ』

『……そうだろうな。お前の様子を見ていれば分かる』

 

箒は、悲しそうな顔をしながら微笑む。

 

『謝らなくていい。これは私の一方的な想いだ。だから、気にするな。それに、私はもうお前に想いを伝えることが出来た。それだけで十分だ』

 

俺はその言葉を聞いて何も言えなくなる。

箒の気持ちは、痛いほど伝わったから。

 

『私は、佐々木が羨ましいよ。こんなにも一途に想ってくれている人が居て。だけど、同時に悔しいな……佐々木には敵わないって解っていたはずなのに、やっぱり胸が苦しい……これが、失恋というものなのだろうか?』

 

胸元を抑えながら苦しそうに呟く。

泣きそうになるのを必死に堪える箒を見て、俺は思わず抱き締めてしまった。

 

『……箒、ありがとう。想いを伝えてくれて。そして、ごめんな。その想いに応えてやれなくて』

『うっ、ひぐっ、ぅぁぁぁっ……』

 

俺の胸にしがみ付きながら箒は声を上げて泣き出した。そんな箒を抱き留めながら頭を撫でる。

この時、俺は自分が如何に好意を持ってくれた女子たちを悲しませてきたかを実感すると同時に、箒の想いに応えられないことを心の底から後悔した。

しばらくして、箒は落ち着きを取り戻すと、俺から離れた。目元は涙で腫らしていたものの、スッキリとした顔をしていた。

 

『一夏、改めて訊かせてもらう』

『なんだ?』

 

俺は首を傾げる。

 

『一夏はこれからも変わらずに佐々木のことが好きだと言ったな?』

『ああ、もちろんだ!』

 

俺は力強く答える。

そんな俺を見て箒は満足そうに笑みを浮かべると、俺の両肩に手を置いてくる。

 

『ならば、必ず佐々木と再会しろ。そして、お前のその気持ちを伝えるんだ。絶対だぞ!さもなくば──』

 

さもなくば何だよ? 俺は箒の言葉の続きが知りたくて、思わず訊く。

すると、ただ一言だけ。箒はこう言っただけだった。

 

『──ただじゃ済まさないぞ?』

 

……怖いわ! でも、それでこそ篠ノ之流の後継者だと言わざるを得ない。

箒はスッキリしたような清々しい表情を見せながら俺の肩から手を離した。

 

『一夏。偶然とは言え、またこうしてお前と会えて本当によかった。フラれたしまったとはいえ、想いを伝えることが出来た。悔いは無い』

『俺もだよ。こうして箒と話せて嬉しかった』

 

俺たちは笑い合う。

 

『また会おう、一夏』

『ああ、絶対また会おうぜ。箒』

 

俺が手を上げると、箒はその手を握る。

 

『じゃあな!』

『ああ!』

 

最後に別れを告げると、俺はベンチに置いていた荷物を手に取って帰路に就く。こうして剣道の全国大会と、俺と箒の偶然の再会が終わった。

 

 

全国大会を終えて部活を引退した俺は、進路の面で非常に悩んでいた。

これ以上千冬姉の世話になるのには申し訳ないという点では就職も視野に入れていたが、千冬姉からは「お前が気にすることはない。するとしてもせめて高校には進学しろ」と言われてしまい、進学する方向で考えるようになった。

そのことを担任の先生に話して進路を決めていく。

幸いというか、剣道に没頭していて全国大会で優勝したおかげで推薦入試も充分狙えるとのことだった。

悩むに悩んだ俺は、卒業後の就職と大学進学双方のサポートに充実している藍越学園を受験することにした。そのことを千冬姉に電話越しに伝えると、安堵の溜息を吐かれたのはちょっとショックだった。

 

 

進路も決まり、本格的な受験シーズンを迎えると、俺はそのための勉強や面接の練習で忙しくなった。推薦入試を受けることになったとはいえ、部活に精を出しすぎていた分、勉学がおざなりになっていたため、俺は空いた時間を見つけては図書館や自室で勉強に励み、担任の先生や他の先生たちに面接の練習をしてもらう日々を送る。弾と数馬、それに同じ剣道部の仲間たちも四苦八苦していた。

そして迎えた受験日。

どうやら去年カンニングがあったため、その対策として街でも有名な会館で試験が行われることになり、俺はそこに訪れていた。

あろうことか俺はその会場となる会館で迷ってしまい、正直かなり焦っていた。というか誘導員が絶対的に足りていないだろ、と思わざるを得なかった。

早め早めにと思い会館入りしたのに肝心の会場に辿り着けず焦っていた俺は、やけくそ気味に目の前にあった扉を開いた。

そこは俺が待ち望んでいた受験会場――ではなく、暗い部屋に何かが鎮座していた。

一体何なんだろうと思って部屋に入ると、その鎮座している物体が「打鉄」と呼ばれるISだった。

受験開始時間まであまり時間がないというのに、気が付くと俺は打鉄に引き寄せられるように手を伸ばしていた。

そして打鉄に触れると、冷たい感覚と同時に手を通して何かが伝わってくる。見れば打鉄も光っており、俺に反応しているようだった。

何人かの女性が現れると、この光景を見て驚き混乱していた。どうやら俺は、男性では扱えない筈のISを動かしてしまったらしい。

こうして俺の受験は終わり、藍越学園ではなく、IS学園へと進学することが強制的に決まってしまった。そのことを先生たちに電話越しに土下座しながら謝り、千冬姉にも事のあらましを話すと「何をやっているんだ馬鹿者」とお叱りをいただいた。

弾と数馬は女の花園であるIS学園に入学できることをえらく羨ましがっていたけど、別に俺はそんなに嬉しいとは思わなかった。

そのことを二人に言うと「初恋拗らせるといつまでたっても恋人出来ねえぞ」なんて言われた。うるさいわい。

 

 

中学を卒業し、俺はIS学園に入学した。本当に自分以外の生徒は女子ばかりなせいで肩身が狭い思いをすることになった。

意外なことに同じクラスに箒が居て、しかも担任は千冬姉だったのだ。これには心底驚いた。ただ、箒は剣道の全国大会の時に再会したころと変わって、見覚えのある長い黒髪のポニーテールからショートヘアになっていた。理由は何となく分かる。だけどショートヘアの箒も似合ってて可愛いと思った。

四方八方から好奇心の眼差しを向けられる中、箒が気を利かせて俺と話したいことがあると言って屋上へ連れ出してくれた。

そこでISを動かせることが分かった経緯を話し呆れられ、ショートヘアになった箒の髪型を似合っていると褒めると「だから貴様は女たらしなのだ」と言われてしまった。本当に申し訳ない。

その後、ISに関する授業に四苦八苦したり、セシリア・オルコットというイギリスの代表候補性と口論になりかけたりと、IS学園での初日は目まぐるしく終わっていく。

授業が終わり、色々訳あっていきなり寮住まいとなった俺は、自室の鍵を渡され学生寮へと向かっていた。ちょうど夕暮れ時で空が暗くなりつつあるタイミングだった。

俺は鍵と一緒に手渡された地図をみながら寮へと足を運ぶ。すると、ちょうど俺の前に他の女子生徒が歩いていた。

 

その女子生徒の後ろ姿と歩き方を見て、俺は強烈な既視感を覚える。

 

まさか……そんなわけが……。

 

だけど俺は期待せざるを得ない。

 

だけど、あの子は……。

 

俺はその子の背中を追うように駆け出す。

 

間違いない。あれは……!

 

『佐々木!』

 

俺が声をかけるとその子は反応してこちらを振り返る。その子の顔を見て驚いた。昔の面影は少し残しているけど、あの破天荒で嵐のような女の子だとは思えないほど、綺麗な女性に成長していた。

 

『え……?』

 

春奈は目を丸くして驚く。

一瞬見惚れてしまったけど、俺は急いで春奈に歩み寄る。

 

『久しぶりだな!元気にしてたか!?』

 

 

だけど帰ってきた返事は予想外なもので――

 

 

 

『え、えっと……ごめんなさい。どちら様でしょうか……?』

 

 

 

――その言葉に、俺は頭が真っ白になるほどのショックを受けてしまったんだ。

俺はその場に崩れ落ちそうになった。

 

どうして、俺のことを覚えていないんだ?

 

毎日のように一緒に遊んでいた仲じゃないか。

 

いつも俺に突っかかってきていたじゃないか。

 

肩組んでゲラゲラ笑いながら「ダチだからな!」って言ってくれたじゃないか。

 

いつかまた会おうって、その日まで楽しみにしていろって言っていたじゃないか。

 

それなのに、なんで?なんでだよ?

 

頭の中で疑問符が乱舞する。

 

『……すみません、人違いでした』

 

俺はそう言ってその場を去ろうとした。

俺の心の中にぽっかりと穴が開いた気がした。足元が崩れ落ちて、奈落に落ちていくような感覚を覚えた。今までの頑張りが、まるで無駄だったと言われているような気がした。

それでも俺は必死に堪えて佐々木に背を向ける。

 

 

 

すると何かに背中を思いっきり叩かれてしまい、俺は前のめりに倒れてしまう。

 

『うおっ!』

 

何事かと振り返ると――

 

 

 

「なーんて冗談だよ!」

 

 

折角の美人が台無しになる程の――

 

 

「ずいぶん格好良くなりやがってよ!」

 

 

――小学生の時と変わらない悪戯心いっぱいの笑顔を浮かべる春奈が居た。

 

 

「久しぶりだな、織斑ァ!」

 

 

その一言を聞いた瞬間、俺の目から自然と涙が溢れてきた。

 

「あっ……」

 

やっと……やっと会えた。

 

この日をずっと待っていた。

 

本当にまた会えるのか不安だった。

 

だけど、絶対にまた会えるって信じて、その時に恥ずかしくない様にって頑張って……。

 

 

それが、こんな形で叶った。

 

「うわっ!ちょ、ちょっと待った!泣くなってば!私が泣かせたみたいじゃん!」

 

慌てる佐々木の声を聞いて我に返った俺は袖口で慌てて拭いながら、なんとか立ち上がる。

 

「ば……馬鹿野郎……!お前のせいだろ!」

「はぁ!?なんで私が悪いんだよ!」

「うっさい!とにかくお前のせいだ!」

「意味わかんねぇ!」

 

俺達は互いに睨み合う。小学校の頃、事あるごとに張り合っていた様に。そして同時に噴き出した。張り合った後は必ずこうやって仲直りをしていた様に。

 

ひとしきり笑った後、俺は改めて春奈に向き直る。

ずっとこの時を待ち望んでいた。

ようやく、約束を果たすことが出来た。

やっと、君に会うことが出来た。

 

「また会えたな、佐々木!」

 

俺の春奈への想いがどうなるかは、俺次第。

そう思いながら、俺は再びIS学園という地で共に過ごす日々に思いを馳せるのであった。




TSオリ主モノを書こうとしていたら、一夏視点の物語が出来ていた。続きを書くにはモチベが保てず、導入にするには結末が分かり切った物語でもある。

(以下蛇足なのでスルーしても構いません)
原作と変わった点
一夏:
オリヒロインの春奈と再会した際にだらしない姿を見せたくないと思い剣道を再開。全国大会に出場し優勝をもぎ取る。
春奈に一途。そのため他の女子たちの告白を「恋愛」としての告白と自覚した上で断り続ける。ある意味、初恋に拗れている。

箒:
イジメられていたところを一夏と春奈に助けてもらい、春奈という同性の友達を得る。
一家離散後も剣道を続け全国大会に出場し、一夏と偶然の再会をする。そこで自身の想いを告げるも玉砕。ある意味吹っ切れる。
失恋を機にお馴染みの黒髪ロングのポニーテールをショートヘアーにした。
因みに、仮に一夏がフラれたとしたらもう一度アタックしようかとも考えている。

鈴:
原作ではセカンド幼馴染だが、春奈がいるせいでサード幼馴染。よく絡んでくる春奈との方が仲が良い。
一夏が春奈のことを好きなのを漠然とだが察しており、結果、女友達というポジションに落ち着いている。


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