Viva Saboia!!   作:ペニーボイス

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中立地帯

 

 

 

 

 

 

 重桜

 海軍部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍部の喫煙所では2人の将官が周囲に気を配りながら話をしている。

 それはついこの前に起こったある事件のことで、2人は互いに同じ側に立っていることを知っているからこそ、それを話の種にできた。

 

 

「………長官は皇室派に殺された、それは間違いない。白昼堂々長官を暗殺した下手人は"天誅"と言っていたそうだ。…皇室派が好んで使う言葉さ。」

 

「俺はまだわからんと思うよ。」

 

「なぜ?」

 

「皇室派連中がああいったやり方をするとは思えない。凶器はユニオン製の安物拳銃で、つまりは誰が関与したか分からんような代物だ。皇室派がやったら、あの若手達は自ら名乗りを挙げただろう。あんな…闇討ちのような、汚い真似はせん。」

 

「どうだか。我々が連中を追い詰めすぎたのかもしれん。手段を選ばなくなったとか…どちらにせよ尻尾は掴んだ。」

 

「武器の出所が割れたのか?」

 

「ああ。陸軍の下士官が銃砲店から購入した。酒癖の悪い男で、居酒屋に入り浸っていた時に無くしたらしい。」

 

「もしそれが本当だとしたら、相当にだらしない奴だ。陸軍の下士官なら管轄はもちろん陸軍憲兵だな…我々は手を出せん。」

 

「つまり…こちらは打つ手なしかい?」

 

「どうだろう………賭けてみるかい、ヤマウチ君?俺は皇室派以外の人間に賭けるよ。」

 

「後悔するなよ、モウリ君。それじゃ、私は皇室派に賭ける。…結果はどうせ見え透いてるがね。」

 

 

 海軍統帥派の重鎮、モウリ海軍准将は友と別れて自分の職場へと向かう。

 長官は統帥派のなかでも人望の厚い軍人で、故にこの暗殺には憤怒と落胆の両方の声が上がっていた。

 

 彼ら統帥派は重桜の現状を顧みて、国力の全体的な増強をその主眼として設定していた。

 セイレーンとの戦いの終焉が見え始めている現在、大洋を隔てるユニオンと覇権争いに至ることは火を見るより明らかだ。

 だから彼らはその衝突に備える準備を行うべきだと考えている。

 対して皇室派が掲げるのは長引くセイレーンとの戦争で疲弊した国民の救済であり、彼個人とて同情はすれど指示できるものではない。

 国民あっての国家か、国家あっての国民か。

 情熱激る青年が前者に走るのは若気の至りとて、後者を重視すべき中堅が許して良いものではない。

 これが現在、陸海問わず重桜軍部を2分している問題である。

 

 さて、事は何事にも例外というものがあろう。

 この派閥争いにおいても勿論例外はいる。

 統帥派のモウリとしては、最早回避不能となった皇室派との直接対立の前にできる限り味方を増やしておきたい。

 故にそのための工作を行うべく、彼は様々なチャンネルを用意していた。

 早速自身の職場に戻った彼は、そのために弱身を握っておいた部下は連絡を回す。

 

 

 

「………ああ、ヤツメ大佐。例の奴はまだ落ちないか?…言い訳を聞いてるんじゃない。私達は先に地歩を固めておく必要がある。…ああ、そうだ。急ぎたまえ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、私…あなたのことがとても気になっていました。」

 

「気持ちはありがたいが、そこまでしておけ。」

 

 

 私は目の前で1人のKANSENが上衣をはだけさせた時、とてつもない嫌悪感を覚えた。

 彼女の名前は『愛宕』

 私の上官から直接派遣された"応援要員"である。

 

 美人なのは否定しないし、スタイルも良い。

 だが私には心に決めた妻がいる。

 それにこのKANSENがどうしてこんな真似をするのかもよく理解していた。

 だから目線を彼女の方へは向けずに書類に没頭する。

 心の内でザラに早く戻るように念じながら。

 

 

「お願いします、指揮官…あなたに尽くす機会をお与えください。」

 

「十分尽くしてもらってる。ご苦労、黙って退出したまえ。」

 

「そんな…私はただあなたを喜ばせたくて」

 

 

 完全に上衣をはだけて、魅惑的な足取りでこちらに向かう愛宕。

 しかし彼女は私の机の下から聞こえた"チャキッ"という金属音によって足を止める。

 そんな彼女の方に初めて向き直りながら、私は机の下に隠していたM92拳銃を腰だめに構えて見せた。

 

 

「君の感想なんてどうでも良いし、私は決して不貞はせん。それに…失礼なんだが猫アレルギーなんでね。さっさと帰ってくれないか?」

 

 

 9ミリ口径の自動拳銃なんて、KANSENからすれば豆鉄砲に過ぎないことくらい重々に知っている。

 それでもこのサディア製の拳銃は私の意志を表示するには十分に効果のある代物だろう。

 愛宕は上官による評定通り優秀なKANSENのようだった。

 一瞬キッとした表情になると、すぐにそれを隠して上衣を直して部屋から出ていく。

 入れ違いに入ってきた秘書艦のザラは、既に何事が起きたのかを察していた。

 

 

 

「…まさかとは思うけど、あなた彼女の誘いに乗ったわけじゃないでしょう?」

 

「言うまでもない。私は君一筋さ。…彼女への返事はコレ。」

 

 

 装填した9ミリの拳銃を机の上に置いてみせる。

 ザラは安心したような表情を浮かべながらも謝意を口にした。

 

 

「疑ってごめんなさい。ただ…何というか」

 

「あの女が魅力的?…彼女には悪いが、私の好みからは外れるよ。私は君のようなよく笑う女性が好きだし、愛宕の笑顔は見たことがない。」

 

「うふふふ…そう………それなら安心できそうね。」

 

「悪いんだがドアを閉めて鍵を掛けてくれ。例の件について話し合わねばならない。」

 

 

 ザラが執務室の大きなドアを閉じて、その鍵をかける。

 執務室と言っても、ここは鎮守府のような艦艇拠点ではないが。

 ここは海軍部の中にある部屋の一室で、私はここで海軍の後方関連に関して携わる立場にいる。

 

 無論のこと、この執務室に入る前には十二分に調査を行なって盗聴器の類がないことを確認しているが、念のためにユニオン製の巨大なスピーカーから環境雑音を流してザラとの会話に移った。

 

 

「…叔母様の兵隊は何人入国できた?」

 

「あなたの協力があったおかげで、最初の30名が円滑に入国できたわ。軍事研修名目だったから、武器装備もちゃんと持ち込めた。」

 

「それは大変結構。何か問題はなかったかな?」

 

「問題がないこと自体が問題じゃないかしら?」

 

「というと?」

 

「あなたの上官。ヤツメ大佐はあまりに協力的過ぎる。何か代償を求めているのではなくて?」

 

 

 ザラの言いたい事は十分に分かった。

 ヤツメ大佐…私の直接の上官にして、あの愛宕の指揮官でもある。

 青年将校どころか年端もいかない少年に過ぎない人間が、高級将校の階級章をつけてKANSENを率いているのには理由がある。

 重桜海軍の人材不足は未成年者を強力な兵器の指揮に充てねばならぬほど深刻なのだ。

 最もこの手の問題は重桜に限った問題でもない。

 諸外国においてもKANSEN指揮に才能のある少年少女が高級将校の位を授かる事は今時珍しくもないのだ。

 しかしながら私のような人間からすると彼らのような天才の指揮下に入るのはあまりにも面白くない事実だし、更には愛宕で色仕掛けを仕込んでくる辺りは嫌悪感すら催してくる。

 

 たしかに、私が叔母様の注文に円滑に応えるためにはあの少年の協力が不可欠になってくるのは認めざるを得ない。

 私の階級と役職では何らかの行動の主体になる事はできても認可を与える立場にはないからだ。

 認可にはヤツメ大佐のような立場の認可が必要になる。

 サディア海軍将校数名の重桜留学とその随伴員達の用立ては、ヤツメのあまり深い思慮のない、軽はずみとも取れるような賛同がなければ難易度を増していた事だろう。

 しかしながら、だからこそ注意しなければならない。

 ここまで奴が私を全面的に支援するのに、何か腹つもりが無い方がおかしいのだから。

 そして、私にはその心当たりが有り余るほどある。

 

 

「大佐は統帥派だ。きっと…私のことを統帥派閥に加えたくて仕方がないんだろう。」

 

「あなたは現時点で統帥派でも皇室派でもない、そうよね?」

 

「ああ。そして、今時そんな奴は希少人種だ。

 私は表向きにはどちらでもないし、本心でもどちらでもない。統帥派のファシストも皇室派のポピュリストもクソ喰らえ。ただ…渋り続けるのもよろしくなかろう。あのクソガキにも見返りをやらねばならん。」

 

「それじゃ…"表向き"の路線を変えるわけね。統帥派に擦り寄って、何か引き出せないか探ってみるとか。」

 

「うん、だけど最初から何もかも与えるつもりはない。……"考えてみる"と言うだけでも、この時期なら関心を買えるだろう。どのみち私が本腰を入れることもない。統帥派も皇室派も仲良く喧嘩して潰しあってくれれば良い。それが…私の、そして叔母様の最大の望みだよ。」

 

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