敗残兵の荒野 Tin Soldiers 0079 作:霧島 碧
「危ないから近づくなよ」
周囲を確認しながら俺は右手5メートルほどにいるサミとナオに声をかけた。フォーク上に小型エレカを乗せたフォークリフトをバックさせる。そしてフォークを下降させると、そのままサミとナオのネグラにしているコンテナハウスに向かう。サハドの家に近いほうが各種の設備、工具を使用できるので便利だったが、おおっぴらに作業して目立つのを避けるためにエレカの修理はそこで行なうつもりだった。
一昨日の夜に来たときはよくわからなかったが、サミとナオが寝泊まりしているコンテナハウスは、工事現場などで使う仮事務所、あるいは物置用として作られたもののようだった。そのコンテナハウスの前に、ウマ代わりのコンクリートブロックを4箇所置き、その上にエレカを降ろすとオレはフォークリフトを後退させる。
屋根のないオープンタイプの作業車。座席は前後2列あるが、後部座席を外すこともできるようだ。
近づいてきたサミとナオが運転席をのぞきこむ。
「こいつのボディが一番まともそうだったんでな。」
「ボク達は何をすればいい?」とサミ。
フォークリフトを降りたオレは、エレカを見渡し2人に言う。
「少し待て、一通り確認してから掃除を頼む。
たまった砂を掃きだして、雑巾で磨き上ろ」
「「了解!」」
元気な声で敬礼するナオとサミ。
「まずバッテリーの確認だな。
電気が通じないとモーターや各部がまともかどうかもわからん。
バッテリーが壊れてたら、違うボディを探す」
バッテリーは、シャーシとほぼ一体化されている。他のエレカから使えるバッテリーを外すのは面倒だった。
運転席に座り周辺を確認すると、コンソールにカードスロットがある。もともとは作業員のIDカードを差し込んでキー代わりにしていたようだ。
コンソールのパネルを外し、IDカードを認識するユニットの配線を確認する。もともと施設の作業員が使用することしか考えていなかったらしく、厳しいセキュリティをかけているわけではなかった。オレはカード認識をパスできるように配線を直結する。
「これでいいか───」
外に出ると、ボディサイドにある充電用プラグのパネルを開く。どの程度効果があるか分からないが、感電防止のために作業用手袋をつけ、フォークリフトのバッテリーから充電用ケーブルを引く。
「おい、バッテリーをつなぐからすこし離れていろ。」
「「お~!」」2人が顔を上げて叫ぶ、元気がいい。
ケーブルをつなぐとそのまま運転席のメインスイッチをオンにする。
コンソールに光がともり、メーターをはじめ各種の表示が生き返った。
「とりあえず電装系は無事らしいな」
まあ地上戦の開始により閉鎖された施設のエレカなら、まだ放棄されて半年かそこらだ。そう簡単に壊れはしないだろう。
バッテリーメーターもほんの少しだが上昇している。
「とりあえずバッテリーも生きてるか───」
使い物になるかどうかはこれからの判断だが。オレはシフトレバーをドライブに入れる、だが反応は無い。アクセルを踏みこむが、地面から浮いた状態のタイヤが回ることはなかった。モーターのうなりもない。
オレは運転席から降り、念のため充電ケーブルを外した。
後部座席を上げ、モーターが収納されている場所のパネルを開く。ここから見る限り、特にトラブルがあるようには見えなかった。
問題点を探す為、車体の下に潜り込むと新発見があった。
「変わったレイアウトのエレカだと思ったが、4駆だったか」
後部フロア下に配置されたモーターから、フロントに向かいシャフトが通っている。4輪駆動車だ。サハドが、農業試験施設で使われていた作業車だと言っていたのを思い出す。
モーターを確認すると、問題が発覚した。
「あ~、モーターは交換しなけりゃならんな」
モーターは本体下部に穴が空き、周囲に錆が浮いている。見た瞬間に死んでいることが分かった。
「まず生きてるモーターを探すか」
オレはエレカの下から這い出すと、工具をまとめて再びフォークリフトに乗る。
「オレは使えるモーターとタイヤを外してくるから、その間に掃除だ。
それが終わったら、こっちを手伝ってくれ」
動き出したフォークリフト上から声をかけるとサミとナオが
「「がんばれ~!」」と手を振った。
つられてオレも笑いながら小さく手を振りかえす。
そんなこんなで1日目はエレカの再生に必要なパーツをそろえること、充電用の太陽電池パネルを外すことに費やした。
2日目、モーターを交換し、まともなタイヤを取り付けた。フォークリフトのバッテリーから充電を行い、タイヤが回るのは確認した。その後は適当な鋼材をあさってきて、太陽電池パネルを固定するフレームを溶接することで終わった。
3日目の午後。
「いいか、上げるぞ!」
フォークリフトのフォーク上にはフレームに固定された太陽電池パネルが乗っている。それをサジとナオの暮らすコンテナ上に上昇させると、ゆっくりフォークリフトを前進させる。
「オーライ、オーライ───」
コンテナの上にいるサジが手をふりながら声を上げる。
「ストップ!」
フォークリフトを止め、コンテナ上を見上げ、叫ぶ。
「位置はいいか? 下ろすぞ!」
「少し前、少し前・・・ストップ、ストップ!」
あらかじめコンテナの上面にはフレームを置く位置をマーキングしておいた。2人の声を聞きながらオレはレバーを操作しフォークを慎重に下ろす。
太陽電池パネルの重みがフォークからコンテナに移っていく────
どうやら完全にコンテナ側に載ったようだ。
「下げるぞ」
オレは確認の声をかけると、シフトレバーをバックに入れ、ゆっくりとフォークリフトを後退させた。
サミとナオの暮らしているコンテナの上、オレはポータブル溶接機でフレームをコンテナに溶接していく。
この溶接だけでは不安なので、フレームにはワイヤーを貼って補強するつもりだった。
フレーム上には太陽電池パネルが陽光を反射している。さらにコンテナの横には直したエレカとは別にもう1台、タイヤの無いエレカが停まっている。
「なあ、クロウにーちゃん。
太陽電池は分かるけど、そっちのエレカはどうするんだ?」
「ああ、あれか───
せっかくの太陽電池だ、エレカを充電するだけじゃもったいない。
そのエレカは修理できそうにないが、バッテリーは生きてる。
お前達のコンテナに電気を引けるぞ。
部屋につける照明もあとで探してやる。
エアコンはすぐには無理かもしれんがな」
「「おお!」」2人が目を見開く。
「「やった~!!」」手のひらをハイタッチして大喜びだ。
「はしゃぐな、落ちるぞ」
オレは苦笑して汗をぬぐうと空を仰ぐ。
目に沁みる蒼穹が地平線まで広がっている───
「それにしても高くて広い空だな───」
「え?いつもと同じだよ」
けげんそうな顔でナオが空を見上げる。
「オレはコロニー育ちだからな。」
ナオの言葉にオレは苦笑した。
「ジオンは密閉型コロニーだ、せりあがっていく地面は遠くになるほどかすんでいく。
それが空と言えば言えるかな?
頭上には、棒状の人工太陽が通っている。
『空き缶』の中で暮らしているようなものだ。
だから地平線もない、一番遠くに見えるのは『缶のフタ』か『缶の底』───つまり圧力隔壁だ」
『空き缶』───オレ達スペースノイド、特に密閉型コロニーに住むジオンの住民は、自分たちの住むスペースコロニーのことを自嘲してそう呼ぶことがあった。円筒形のコロニーの両端の圧力隔壁はスペースポート側が『缶のフタ』 反対側が『缶の底』だ。
「展望フロアに行けば宇宙空間は見ることができるが、
あれはあくまで宇宙空間だからな。
地球の空とはまるで違うものだ」
「へえ~、スペースコロニーってそうなんだ」
ナオが言った。妙に感心した声なのがおかしかった。
オレ達は三人三様の面持ちでしばらく空を見上げていた───
「────ん!?」
その時だった、オレは遠方の土煙に気づき、目を細めた。ゴーストタウン化した集落の方から近づいてくる1台の車だった。
「隠れろ!」
サミとナオに指示しつつ、オレは身を低くし太陽電池パネルの影に入る。
遠目には判断できなかったが、近づくにつれそれがサンドブラウンの小型車両であることが認識できるまでになった。
あとで知ったことだが、その車はラコタと呼ばれている連邦軍の車輌だった。
「連邦軍!
なんでここに・・・・・」
つぶやきながら、真っ先に頭に浮かんだのは『サハドが裏切ったか────』という思いだった。
クロウ達が直しているエレカは、初代ホンダ・バモスをイメージモデルとしています。
古い車ですが、中々カッコいいんですよ。
小説中では4輪駆動ということにしてありますが、バモスは4輪駆動ではありません。
実車のバモスは、エンジンがミッドシップ、後輪駆動のMRレイアウトという面白いクルマです。
ホンダはこういうの好きだよな。